この毎日をアナタと共に
 

 フォルが第3天使の力を完全に取り戻し、そして貴也とフォルが恋人同士となった日から幾日か経ったある日のこと。

コンコン

フォル「貴也さん、いらっしゃいますか」

 自室でくつろいでいた貴也の元にフォルが訪ねて来た。

貴也「いるよ。フォルかい?入っておいでよ」

 貴也はドア越しの声に返事を返した。

フォル「しつれいします」

 するとドアが開いてフォルが中に入ってくる。

貴也「それで、なんの用かな?」

 入ってきたフォルの表情はとても真剣なものであった。
 それにどういう訳か身体がずいぶん強張っているようにも見えた。
 そのため自然と貴也の声にも堅いものが混じった。

フォル「はい。あのー・・・。今度のお休みなんですけど・・・何か用事がありますでしょうか?」

 なのに質問の内容は何でもない普通のものだった。

貴也「ううん、何もないよ。どうして?」

 だから貴也は声を和らげ気軽にそう答えた。

フォル「あの・・・それでしたら・・・・・・。わたし、お弁当もつくりますし・・・あの、わたしと、その・・・公園までお出かけしませんか?」

 すると、フォルは真剣な表情を崩さないながらも、不安と期待が混じったような複雑な表情になって聞いてきた。

貴也「えっ!?」

 それなのに貴也はフォルのセリフがあまりに突然だったため、すぐには返事を返すことが出来なかった。

フォル「あの・・・わたしとお出かけするのは、お嫌ですか?」

 そのためフォルはすごく不安そうな顔をしながら聞いてくる。

貴也「ブル、ブル、ブル。そんなことないよ。今度の休みだよね。ぜんぜんOK,大丈夫だよ」

 貴也は慌てて首を振って否定し、全力で肯定した。

フォル「あぁ・・・よかった・・・」

 すると、フォルは安堵と歓喜の表情を浮かべた。

貴也「でも、これってもしかして・・・デート?」

 その表情に安心した貴也は1つ気になったことを尋ねてみた。

フォル「あっ・・・はい、デート・・・です」

 フォルは少し頬を赤く染めながら肯定してくれた。

貴也「そうかぁ・・・デートか・・・」

 今まで貴也とフォルは、2人っきりで出かけたことがまったく無かったわけではないのだが、
 こうして、改めてデートという形で出かけたことはなかったのだ。
 だから貴也は思わず‘デート’と言う言葉を反芻していた。

フォル「あの・・・そんなしみじみ言わないでくださいな。恥ずかしくなってしまいますから・・・」

 見ると、フォルの顔はさっきよりもさらに赤味が増していた。

貴也「あっ、ごめん。でも2人っきりのデートって・・・もしかしたら初めてなんじゃないかな?」

フォル「はい、そうなんです。ですからわたし、ずっと前から、その・・・してみたかったんです・・・貴也さんと・・・デート」

 フォルは照れたようにちょっとうつむきながら答えてた。

貴也「あはは・・・。うん、ボクもだよ・・・。じゃあ今度のお休み、楽しみにしてるからね」

 貴也はそんなフォルの様子にうれしくなって有頂天になっていた。

フォル「はい!!」

 フォルは満面の笑顔で返事をかえした。
 
 
 
 

 そしてデート当日の日が訪れた。

 この日、フォルは朝から早起きして、今日のためのお弁当を作っていた。

フォル「フフ、フンフン、ラララー・・・ルルル、ルンル、ルー・・・」

 鼻歌交じりにステップでも踏みそうな足取りで。
 そんなフォルを扉の影から見ている者たちがいた。

ベル「あんなフォル姉様って、あたし初めて見るかも・・・」

メル「まさに‘地に足がついていない’って感じね」

ミリ「浮かれまくってるよね・・・まるでフォル姉ちゃんじゃないみたい・・・」

クレア「何してるのよ、あんたたち?」

 そんな怪しい3人にクレアが突然後ろから声をかけた。

ベル&メル&ミリ「「「うわっ!」」」

 それに驚いた3人は思わず奇声を上げる。

フォル「?」

 その声に気づいたフォルが振り向いてこちらを見た。

フォル「あっ。みんな、おはようございます」

ベル&メル&ミリ「「「お、おはようございます!」」」

 そして朝の挨拶をしてきたので、慌てて3人も挨拶を返した。

クレア「おはよう、フォル。今日はずいぶん楽しそうね」

 クレアだけは平然と、いつものように挨拶を交わした。

フォル「はい。今日のお弁当は特に念入りにつくりましたから」

クレア「ふふっ・・・。今日は貴也とデートだものね」

フォル「あっ・・・・・・はい・・・」

 そう言われて、フォルはちょっとだけ恥ずかしそうに返事をした。

クレア「恥ずかしがることなんてないわ。とってもいいことよ」

フォル「はい」

 そう答えるフォルの顔は満面の笑みであった。
 
 
 
 

 そして準備が整った2人をクレアが玄関で見送っていた。

フォル「それではクレア姉様、お留守番の方はお願いしますね」

クレア「英荘のことは気にしなくてもいいから、存分に楽しんでらっしゃい」

貴也「はい。それでは行ってきます」

フォル「行ってきます」

クレア「はい、いってらっしゃい」

 こうして2人のデートは始まった。
 
 
 
 

 2人が向かったのは、電車に乗って数駅先にある国立の記念公園だった。
 入るためには入場料を取られてしまうのだが、有料というだけあって、中は一目見ただけでは見渡せないほど広い。
 どこまでも続くような遊歩道
 点在する広葉樹の林
 池とそこに浮かぶボート
 噴水やベンチ
 家族連れやカップルも多く、皆が穏やかな時間を寛いでいる。
 公園を形成するための要素がすべて詰まっているような場所であった。

貴也「こんなところがあったんだ・・・今まで知らなかったよ。 フォルはよくこんな所を知っていたね?」

 貴也は公園の広さに目を丸くしながら尋ねてきた。

フォル「ふふっ・・・。わたしもたまたま雑誌を見て知ったんですよ。
    その時から、いつかは貴也さんと2人でここに来ようって決めていたんです」

 フォルは微笑みながらそう答えた。
 貴也はその答えを聞いただけで、なんだか気恥ずかしくなって少し赤くなってしまう。

貴也「じゃ、とりあえず公園の中をぐるっと回ってみようか?」

フォル「はい。でもその前に、1つお願いがあるのですがよろしいですか?」

貴也「なんだい?」

フォル「あの・・・手をつないでくださいませんか・・・」

 そう言ってフォルは頬を赤く染めながら手を差し出してきた。

貴也「あっ、うん、いいよ」

 貴也はそっと差し出されたフォルの手を握った。
 そしてフォルも握り返す。

フォル「ありがとうございます、うれしいです」

貴也「はは・・・じゃ、行こうか」

フォル「はい」

 そしてお互いに少し照れたように微笑みあった後、歩き出した。
 
 
 
 

 それから2人は並木道を歩きながら鳥のさえずりを聞き、池のほとりで鴨の親子が泳ぐ姿を眺めたりした。
 フォルはその度、鳥の声に耳を傾けたり、小鴨が可愛いと微笑んだりしていた。
 貴也はそんなフォルの姿を見ているだけで、十分に楽しく、しあわせだった。
 そしてそんな2人が公園の3分の2ぐらいを周ったあたりで、それは起こった。

フォル「あぶない貴也さん!!」

 突然2人に向けて、何かが飛んで来たのだ。

貴也「!」

バシッ

 貴也は咄嗟に右手で顔を庇うように出すと、運良く掴みとることが出来た。
 見るとそれは軟式の野球ボールだった。

フォル「大丈夫ですか?貴也さん!」

 フォルは心配そうな顔を貴也に向けて来た。

貴也「あ、ああ、平気だよ。ありがとう」

 実際にはボールを取った手はジンジンしていたし、心臓はバクバクと鼓動をあげていたが、それは言わなかった。

貴也「でも、驚いたよ。自分でもよく取れたと思うし。ホント、ビックリだ」

フォル「わたしも驚きました。ちょっと心臓がドキドキしましたし」

 フォルは胸に手をあてながらも、安堵の表情を貴也に向けてくれた。

子供A「すみませーーん」

 そんな2人に3人子供たちが、声をかけてきた。

子供B「こっちにボールが飛んできませんでしたか?」

 そんな子供たちに貴也は微笑みを向けて

貴也「これだろ」

 ボールを投げ返してあげた。

子供C「ありがとう、おじさん」

 子供たちはボールを受け取ると、そう言って元いた場所に戻って行った。

貴也「お・・・おじさん・・・」

 しかし貴也はショックのあまり動けないでした。

フォル「どうしました貴也さん?」

 フォルは突然動かなくなった貴也を心配して声をかけてきた。

貴也「フォル・・・ボクの顔ってそんなに老けてるのかな・・・」

 貴也はずいぶんと沈んだ声で問い掛けてきた。

フォル「いいえ。そんなことはないですよ」

貴也「でも、さっきの子がおじさんって・・・」

フォル「うーん・・・。でもさっきの子供たちの言葉には悪意は感じられませんでしたから、気にしなくても大丈夫ですよ」

 フォルはフォローになっていないようなフォローをしてくれた。

貴也「あ、ありがとうフォル」

 そう言われても問題の解決にはならなかったが、少しだけ気は落ち着いた貴也だった。

フォル「それより貴也さん。そろそろお昼にしませんか?わたし張りきってお弁当つくってきたんですよ」

貴也「そうだね。そうしようか」
 
 
 
 

 公園にはベンチもあったのだが、2人はあえてベンチではなく芝生の上にレジャーシートを敷いて、そこでお昼にすることにした。
 
フォル「どうぞ、めしあがってくださいな」

 貴也がさっきまで持ち歩いていたバスケットを開けると、中には色々な具の挟まった数種類のサンドイッチが入っていた。
 
フォル「お外で食べるのでしたら食べやすいサンドイッチが良いかと思ってつくッたんですけど・・・」

貴也「ああ、おいしそうだよ。ありがとう、フォル」

フォル「いいえ、どういたしまして。ではさっそく食べてみてくださいな」

貴也「じゃ、いただきます」

 貴也はさっそくサンドイッチを1つつまんでかぶりついた。

貴也「もぐもぐ・・・。ん、うまい!これは・・・ツナかな?」

フォル「はい。たぶんそれは、ツナとトマトとローストビーフのサンドだと思います」

貴也「とってもおいしいよ。他にはどんなのがあるの?」

フォル「他には、ハムときゅうりと卵のサンド、アスパラときゅうりのサンド、ベーコンエッグレタスサンド、
     後、これは初めてつくったのですが、カレーホットサンドが入っているはずですよ」

貴也「へぇー、色々つくったんだね。どれもおいしそうだ」

フォル「今日は貴也さんとデートだと思うと、なんだかはりきってしまって・・・」

 フォルは少し頬を染めながら、照れたように言った。

貴也「はは、うれしいよ。ありがとうフォル」

 そんな顔をしてそんなことを言われては貴也の方も気恥ずかしくなってしまう。

フォル「・・・あっ、貴也さん。お茶いれましょうか?」

 フォルの方も恥ずかしかったのか、少し慌てた様子でポットを取り出した。

貴也「ああ、ありがとう。頂くよ」

フォル「はい。今日はレモンティーにしてみたんですよ」

 そうやってお茶を入れてもらっていると、さっきの微妙にぎこちない雰囲気が和らいでいった。
 それからは、和やかな昼食を2人でとった。
 
 
 
 

貴也「ごちそうさま。とってもおいしかったよ」

 バスケットの中のものをすべてたいらげてから、お茶を飲んで一息ついた貴也は満足そうな顔をしていた。

フォル「お粗末様でした。そう言って頂けると、とってもうれしいです。
     料理を作る人にとっては、おいしいと言う言葉と、食べている人の笑顔が最高のご褒美ですからね」

 フォルの方もうれしそうな顔で貴也を見ていた。

貴也「でも困ったな。さすがに満腹で、しばらく動けそうにないよ」

フォル「それでしたら、もう少しここでくつろいでいきましょうか」

貴也「いいのかいフォル?」

フォル「はい。何でしたら、横になっていてくださっても構いませんよ」

貴也「うーん・・・。じゃあ悪いけど、そうさせてもらうね」

 貴也は少し悩んだあと、やはりフォルの言葉に甘えることにした。
 そして身を横たえようとすると。

フォル「あの・・・よろしければですけど。その・・・膝枕・・・してさしあげましょうか?」

 フォルが唐突にそう提案してきた。

貴也「えっ・・・・・・?」

 それを聞いた貴也は思わず固まってしまった。

フォル「ですから、こう・・・貴也さんの頭を、わたしの膝に、こんな感じで乗せていただければよろしいんですけど・・・」

 フォルは貴也の態度を膝枕の意味が分からないととったのか、今度は身振り手振りを加えて説明しだした。

貴也「あの・・・ホントにいいのかな?」

 貴也はフォルの一生懸命な姿の中に、少しだけ照れと恥ずかしさを感じとってしまったので聞き直してみた。

フォル「はい。遠慮なさらずに・・・どうぞ」

 フォルは居住まいを正して、自分の膝を差し出した。

貴也「・・・・・・・・・・・・・・・じゃ、お願いします」

 貴也は長い葛藤の後、結局フォルに従うことにした。

フォル「はい、どうぞ」

 貴也はカクカクとしたぎこちない動きをしながらも、どうにか自分の頭をフォルの膝の上に乗せた。
 しかし貴也の身体はカチコチに力が入ったままで、顔は真っ赤にしており、どう見てもリラックスしているようには見えなかった。

フォル「貴也さん。どうかもう少し身体の力を抜いてくださいな。でないとわたしの方まで緊張してきてしまいますから」

 フォルは少し頬が赤くなった顔で貴也を見下ろしながら言ってきた。

貴也「う、うん・・・」

 と、言われてもすぐにそう出来るわけではなかったが、どうにか肩の力だけは抜いてみるようにした。
 すると思いの他、頭の居心地がいいのが分かった。

貴也(あっ、なんだか良い感じかも・・・)

 そう思うと、しだいに身体の方もだんだんと力が抜けていった。

フォル「どうですか、貴也さん?」

貴也「うん。気持ち良いよ」

 実際、フォルの膝枕はすごく心地が良く、貴也の身体はすっかりリラックスしていた。

フォル「そうですか、よかったです。では貴也さん、今度は目を閉じてもらえますか」

貴也「え、うん・・・」

 貴也はフォルの意図が分からなかったが、素直に目を閉じた。

フォル「ララララー、ラララー・・・ラン、ラン、ララン、ラン、ラー、ラン、ララー・・・」

 すると、貴也の耳にフォルの歌声が響いてきた。

貴也(フォルの歌声って、とっても耳に心地いいな・・・)

 そして今度は髪を優しくなでられた。

貴也(少し恥ずかしいけど気持ちいい・・・。ずっとこのままでいたいような・・・。そんな気分になってくる・・・)

 貴也はフォルの歌声と暖かさに包まれたまま、まどろみの中へと落ちていった。
 
 
 
 

フォル「・・・ラン・・・ラン、ラン、ララー・・・」

 そしてフォルが歌い終わるころには貴也はすっかり眠りについていた。

フォル「貴也さん・・・眠ってしまったんですね・・・」

 フォルはそんな貴也の髪を優しくなでていた。
 そこへ木々の間抜けてきた風が吹き、フォルの髪を揺らした。
 フォルは髪を手で押さえ、視線を少し上げてみた。

 そこには蒼く茂った木々が見えた
 その木々の合間には鳥たちの姿と声がする
 視線をまた少し下げると、ベンチには2人の老夫婦が仲睦まじそうにしている
 池のほとりには若いカップルが楽しそうにおしゃべりに興じている
 遠くには子供たちの楽しげな声も聞こえる
 そしてまた視線を下げると、愛しい人の寝顔がそこにある

フォル(リガルード神
    この地はとても良い所です
    わたしのまわりはとてもいい人ばかりです
    特に大変な事も起こりません
    特別苦労することなどもありません
    毎日しあわせな日々をおくれています
    でもいつも不安でした
    何故わたしはそんな日常を一瞬で消してしまえる力を持っているのかと
    そんな自分がイヤでした
    ・・・・・・
    でもこんなわたしでも好きだと言ってくれる人がいました
    わたしもその人が大好きです
    ですから
    せめてあの日が来るまでで結構です
    わたしの好きな人とその周りの全てを
    守ってください
    この毎日を
    壊さないで下さい
    お願いします・・・・・・リガルード神)
  
 
 
 

 貴也が目を開けた時、まず目に入ったのは赤くなりかけた空だった。

貴也「あれ・・・」

 そのため貴也は今の自分の状況を正確に判断することが出来なかった。

フォル「目が覚めましたか?貴也さん」

貴也「えっ?」

 フォルの声が聞こえたのでそちらに目を向けてみると、こちらを覗きこんでいるようなフォルの顔だけが見えた。

貴也「はっ!」

 そこでやっと自分がフォルに膝枕をされている事を思い出して飛び起きた。

貴也「ごめんフォル。寝るつもりはなかったんだけど・・・」

 そして貴也はバツが悪そうな顔をしながらフォルに謝った。

フォル「いいえ。わたしは貴也さんの寝顔がじっくり見れて楽しかったですから」 

 貴也は自分の顔がだんだん赤くなってゆくのを熱くなってゆく頬の熱で知覚した。

貴也「あの・・・ボク寝ている間に何か変なことしなかった?」

 それでも貴也はどうしても聞いておかなくてはならないことは聞いた。

フォル「いいえ、何も。ただ寝返りをうつ時、少しくすぐったかったですけど」

貴也(うわぁぁぁーーー・・・・・・・)

 フォルは片手を頬にあてながら笑顔でそう言ってくれたが、貴也は顔から火が出そうなほど恥ずかしかった。

フォル「では、そろそろ他の所にも行ってみましょうか」

 フォルはそんな貴也の様子を気にせず、レジャーシートを片付けていた。

貴也「そ、そうだね」

 貴也もフォルが何も気にしてはいない様子なので、気を取りなおして出発することにした。
 
 
 
 

 再び手を繋ぎ、散歩を続ける2人。
 しばらく公園を歩いていた2人が広葉樹の並木道を抜けるとそこには、朱の世界が広がっていた。

貴也「うわぁー・・・すごいな・・・」

フォル「綺麗ですね・・・」

 そこには夕日に染まる空と、その夕日が池に映って反射する光で、辺りを朱く染め上げていた。
 2人でしばらくその光景を見ていると、フォルが貴也の肩に頭をもたれかけてきた。

貴也「フォル?」

 そのことにドキリとした貴也は少し身を堅くした。

フォル「貴也さん・・・わたし、今とてもしあわせです。アナタのことを好きになってホントによかった」

 フォルは繋いだ手をしっかり握り直した。

貴也「うん、ボクもだよ・・・」

 貴也の方もフォルの手が離れないよう、しっかりと握り返した。

フォル「でも、しあわせすぎて時々怖くなる時があるんです」

貴也「えっ!?」

フォル「貴也さんがわたしの前からいなくなったら・・・そう考えると・・・わたし・・・ダメなんです・・・」

貴也「フォル・・・ボクは」

 フォルは貴也が何か言いかけるよりも早く貴也に抱きついた。

フォル「貴也さん。わたしのことずっと離さないでいてくださいね。わたし、貴也さんがいないと、もう生きていけませんから・・・」

貴也「フォル。ボクはどこにも行かないよ。ずっとフォルのそばにいるよ。フォルのこと誰よりも愛しているから」

 貴也はフォルを抱き返し、耳元で囁いた。

フォル「貴也さん・・・うぅ・・・ありが・・・とぉ・・・ございます・・・」

 フォルは貴也の胸に顔をうずめ、静かに涙をこぼした。
 貴也はフォルが泣き止むまでずっとフォルの髪をなでてあげていた。
 
 
 
 

 そしてフォルは泣き止むと貴也からは顔をそらしつつ、身を離した。

フォル「ごめんなさい。服、濡らしちゃいました」

 見ると、たしかに貴也の服はフォルの涙で少し濡れていた。

貴也「これぐらい構わないよ。それよりフォル、どうしてこっちを見てくれないの?」

 そんな事よりも貴也はフォルの態度が気になったので、顔を覗き込もうとした。

フォル「あっ、見ないで下さい。きっと涙で酷い顔になっていますから」

 フォルは覗き込もうととした貴也からさらに顔をそらした。

貴也「そんなの大丈夫だよ。ほら、顔見せて」

 しかし貴也はフォルを捕まえて、少し強引に振り向かせた。

フォル「あっ、ヤダ・・・見ちゃダメです」

 見ると、フォルは目許が少し赤くなってはいたが、恥ずかしそうにしている顔がとても可愛く見えた。

貴也「大丈夫。ぜんぜん酷くないよ。それどころかとても可愛いよ」

 そう言うとフォルの顔は見る見るうちに赤くなってゆき、

フォル「もう・・・ダメだって言いましたのに・・・」

 そして恥ずかしそうな表情をした。

貴也「ごめん、フォル。さ、日も落ちてきたし、そろそろ帰ろうか」

 そんなフォルを見て、貴也は少しだけ罪悪感にかられてしまい、すぐに手を放した。

フォル「はい。でも、さっきのお詫びに1つだけお願いを聞いてくださいませんか?」

 するとフォルは少しだけいたずらっぽい目をしながら言ってきた。

貴也「なんだいフォル。いいよ、言ってみて」

フォル「帰りは、腕を組んで帰りたいです」

 フォルは期待をこめた目で貴也を見つめた。

貴也「・・・うん、いいよ」

 貴也が腕を差し出すと、フォルはうれしそうに自分の腕をからめた。

貴也「じゃ、行こうか」

フォル「はい」

 少し照れた感じの貴也が促すとフォルも足並みをそろえて歩き出した。

フォル「でも貴也さん、さっきはひどいです。泣き顔が可愛いだなんて・・・」

貴也「ごめん、でもホントに可愛かったから」

フォル「もぉ・・・」

 そして夕日に照らされた2人の影は、いつまでも離れる事はなかった。
 

<おしまい>





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