第6話 そして新生へ・・・
ベルは戦い続けた。
たとえ守るべき相手が自らの手で自らの未来を打ち砕いたとしても・・・。
マリアは捜し続けた。
たとえ愛する人がもういないと分かっていても・・・。
そしてついに最後の審判がくだされる時がやってきた。
ハルマゲドン
ベル『ひ、百・・・七つ目・・・』
ベルの百七つ目の鐘は獣機ではなく、人類の放った核ミサイルを消し去った。
そしてレオニスの周りにはまだ10体以上の獣機が残っている。
ベル「う、んぅ・・・まだ、獣機たちは・・・こんなに、ワラワラいるのね?」
操縦桿を握る手にももうほとんで力が入らなくて震えていた。
ベル『うふ、ふ・・・さぁ・・・.早く、ハルマゲドンに・・・この丘に、集まっていらっしゃいなっ。獣機たち・・・』
そして残った獣機がレオニスの周りを取り囲み始める。
ベル「んっ。う、うぅ・・・」
痛む身体をどうにか動かし、操縦桿を握りしめる。
額からは新たな鮮血が伝い落ちた。
ベル「・・・ごめんねっ、マリア。もぅ、獣機たちも・・・べスティアたちも、あたしには防げないわ。
あたしも、恋をしたかったな。一度ぐらいは‘聖母’の様に、ね。
せっかく・・・‘時’を刻んで、娘になったんだもの。あたしも、誰かに恋をして・・・愛され・・・たかった・・・。
そろそろ・・・あたしの・・・最後の‘お役目’を・・・果たさなくちゃ。・・・ごめんねっ、マリア・・・最後の‘鐘’・・・鳴らすわよ・・・」
モニターに映る獣機の姿が霞んできていた。
そして最後の鐘の発射装置を引いた瞬間、ベルの脳裏には一人の人間の姿が浮かんだ。
ベル(あれっ・・・、変だな・・・なんでこんな時にラオールくんの顔が浮かんだんだろ・・・)
そしてベルの目からは涙がこぼれた。
ベル(あれっ!へ、変だよ。涙まで流れるなんて・・・あたし・・・おかしいよ・・・どうして・・・)
辺りはレオニスを中心に最後の鐘の光に包まれていった。
リリアナは最後の鐘の光が辺りを覆ってゆく様を遠くから見通していた。
リリアナ『・・・最後の鐘が鳴ってしまいましたね・・・。
でもフォルシーニアは本当に人類を滅ぼすことが出来るでしょうか・・・。
とにかくフォルシーニアがなにか始める前にラムリュアとマリアローダの子をなんとかしておかないと・・・』
そして次の瞬間にはリリアナの姿はその場から消えていた。
高森市・郊外
ラムの前にリリアナがレヴィテイションしてくる。
リリアナ『捜しましたよラムリュア。こんなところにいたのですか』
ラム『・・・リリアナ』
突然現れたリリアナの姿を見ても、ラムは特に驚いたような感じは見受けられなかった。
リリアナ『エインデベルが最後の鐘を鳴らしました・・・』
ラム『そうか・・・、やっぱり人類は・・・』
リリアナ『はい・・・べスティアと審判されました』
ラム『じゃあボクがこの時代に来たことは、やっぱり無意味だったのかな・・・』
ラムは自虐的に言った。
リリアナ『でもフォルシーニアは人類を滅ぼすつもりはないようです』
ラム『・・・この星を新生させるんだね。ボクがいた未来でもそうだったからね』
リリアナ『はい。ともかく一度地球が崩壊してしまうことには変わりありません。
ラムリュア、アナタは本来この時空とは関わりの無い者です。この地球の崩壊にまで付き合う必要はありません』
そう言ってリリアナはラムの肩に手を置いた。
リリアナ『アナタはアナタが本来いる場所で、アナタ自身が成さねばならない事を成し遂げてきなさい・・・』
ラム『リリアナ?何を言っているんだい・・・?』
ラムは困惑げにリリアナを見つめた。
リリアナ『さようなら。ラムリュア・・・』
リリアナはラムに微笑みかけた。
ラム『リリアナ!』
次の瞬間ラムの姿は掻き消えた。
そしてラムの姿を見届けた後、
リリアナ『・・・後はマリアローダの子のことだけですね・・・』
再び姿を消した。
衛星軌道上
衛星軌道上でベルの最後の鐘の光を確認するフォルとクレア。
クレア『ベル! マリア・・・』
フォル『・・・クレア姉様っ。エインデベルの最後の‘鐘’が鳴ってしまいました・・・。クレア姉様・・・わたし、参ります』
クレア『フォルシーニア・・・』
フォル『でも・・・その前に・・・わたしのワガママを、ひとぉつだけ叶えてくださいますか?』
クレア『なぁに、フォル?どんなことでも、姉さんが叶えてあげるわ』
フォル『・・・お約束ですよ』
クレア『いいわよ。何が、望み?いってごらん、フォル・・・』
フォル『・・・わたしの身体を‘基’にして・・・地球を‘新生’してくださいなっ』
クレア『な』
フォル『クレア姉様には‘そぅ’することが、できるんですものっ。お願いします、クレア姉さま!』
クレア『ダメよ! フォル・・・そんなこと・・・そんなことをしたら、アナタは・・・』
フォル『・・・わたし、かまいません』
クレア『フォルシーニア・・・』
フォル『・・・‘お役目’は、果たさなければなりません。それが、わたしたち・・・‘Lalka’が生み出された目的であり・・・使命なんですもの』
クレア『‘そぅ’よ。だから――』
フォル『‘それ’でも!‘Ember’に・・・‘人類’・・・にもう一度だけ、よい機会を与えてあげてくださいな。
クレア姉様には・・・‘それ’ができるんですもの』
クレア『でも・・・ね、フォル・・・ここで、終わらせてしまえば・・・ワタシたちは、‘未来’を変えたことになるのよっ。
リガルード‘人’だって・・・きっと、‘そう’なることを望んでいるハズだわっ。だから‘超未来’から、ワタシたちを・・・』
フォル『・・・わたし、参ります。双子たちのことも・・・よろしくお願いしますね、クレア姉様・・・』
そう言い残しフォルはアクエリュースを真っ直ぐ地球へと降下させた。
クレア『フォルシーニア!』
グラフィアスの中でクレアの絶叫が響く。
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今、クレアの眼下には新生された地球がある。
メル『クレアさん・・・』
メルのネガレイファントルがゆっくりとクレアのグラフィアスの前に漂ってきた。
クレア『メル・・・。ベスティアリーダー達の再生は終わったわ。ただ記憶の再生まではしてはいない。でもこれでいいんでしょ』
メル『ええ、ありがとう、クレアさん。アタシはこれからあの子達を連れて天界に戻るわ。そして冷凍冬眠の準備をするわ』
クレア『ええ、お願い・・・』
メル『・・・じゃ、クレアさん・・・。またあとでね』
メルはネガレイファントルを操り、針路を天界に向けた。
クレア『メル!』
その時突然メルはくレアにを呼びとめられた。
メル『なぁに、クレアさん?』
メルは今一度ネガレイファントルを振りかえらせた。
クレア『・・・・・・ごめんなさい。何でもないわ・・・』
しかし結局クレアは何も言わなかった。
メル『そぉ・・・じゃ、行くわね・・・』
メルも追求したりはしなかった。
クレア『ええ・・・』
今度は黙ってネガレイファントルを見送った。
クレア(本当にワタシのしたことは正しかったのかしら・・・ねぇメル・・・)
そしてクレアの前には一枚のプラチナディスクだけが残された。
クレア「ワタシ・・・アナタの望み通りにしたわよ。
フォルシーニア・・・いいの?これで・・・本当にいいの、フォル?。
ワタシには、分からない・・・。‘Ember’は、‘人類’は・・・運命を変えることが、できるかしら?
それとも、これは・・・ワタシたち‘Lalka’を生み出した、リガルード‘人’の・・・創造主の、思惑通りのことをしたに過ぎないの?
ワタシには、分からないっ」
いつしかクレアの目からは涙がこぼれ落ちていた。
クレア「どちらにしても・・・‘それ’が分かるのは、いまから数十億年先のことになるわね?
フォルシーニア・・・。クッ・・・うっ、うぅ・・・ごめんねっ。
ごめんね・・・姉さんが、非力だから・・・アナタたちを、しあわせにしてあげられなかった・・・」
リリアナ『クレアリデル・・・』
クレア『リリアナ!!』
何時からかグラフィアスの前にリリアナの姿が浮かんでいた。
そしてその手には光の繭のようなものが抱かれている。
リリアナ『これがフォルシーニアの出した‘答え’なのですか・・・』
プラチナディスクを見ながら問い掛けてくるリリアナ。
クレア『えぇ‘そぅ’よ、リリアナ――。ところで‘それ’はひょっとして・・・』
クレアは信じられないような目で、リリアナの腕の中にある光の繭のことを問いただした。
リリアナ『マリアローダの子ですよ』
やはり想像どおりの答えが返ってきた。
クレア『その子をどうするつもりなの!』
リリアナ『この子はネオミックにはなれませんでしたが・・・
こことは‘違う時代’・・・‘違う場所’で新たな‘生’を与えてあげたいと思っています・・・。
ですからこの子のことはワタシにまかせては下さいませんかクレアリデル・・・』
クレア『・・・・・・分かったわ。その子のことはアナタに預けるのが一番いいみたいね・・・』
長い思索の末、クレアは‘そう’決定した。
リリアナ『ありがとうクレアリデル・・・。それでは他のワタシの‘娘’たちのことはアナタとメルキュールにお願いしますね・・・』
クレア『分かったわ・・・』
リリアナ『次に会うのはおそらく数十億年後になりますね・・・。それではそれまでお元気で・・・ワタシの可愛い娘達・・・』
そう言い残し、リリアナはクレアの前から姿を消した。
クレア「・・・エインデベル」
その呼びかけに応えたかの様にクレアの右腕にベルがレヴィテイションしてくる。
クレア「マリアローダ・・・うぅん。まだ・・・リアムローダ、ね」
そして次に左腕にリアが姿を現す。
クレア「可愛い、双子たち・・・。アナタたちは、ベルが‘時’を刻み始める前の姿に戻してあげる・・・。さぁ・・・ワタシたちは、しばらく眠ることにしましょう」
両腕に双子を抱き、そっと目を閉じるクレア。
クレア「おやすみなさい・・・フォルシーニア。いま、生まれたばかりの・・・地球よ」
そして新たな地球が時を刻み始めた。
ベル「昔・・・ひとりの天使が、泣きました。終末の時を、知らせなくてはいけなくて・・・」
リア「昔・・・ひとりの天使が、泣きました。新たな生命の産声を、聞くことができなくて・・・」
フォル「昔・・・ひとりの天使が、泣きました。愛する者たちを、滅ぼす‘お役目’を担っていたので・・・。
でも・・・そのひとりの天使は、自らの生命と引き換えに、母に・・・聖母となり、星をひとつ生んだのです。愛する者たちのタメに・・・」
クレア「昔・・・ひとりの天使が、泣きました。大好きな者たちすべてを、しあわせにできなくて・・・」
フォル「昔・・・それは、昔のこと・・・」
<THE END>
ラムは本来この時空の者でないため最後の審判に巻き込まれて生き終わるのは理不尽な気がしていたため、
リリアナに助けてやってもらうことにしました。
マリアの子
マリアの子がどうなったのかが前からの気がかりでした。
ここで産まれずに終わってしまうだけの子ではあまりに哀しいので、これもリリアナによって救ってもらうこととしました。
この子のその後の話も考えてはあるのですが、あまりに私のオリジナル色の強い話になるためお目見えさせる事はないでしょう。
ラスト
最後の審判のラストはフォルが「愛は、武器や兵器などではありません・・・」と言うパターンと
今回の4人の天使のセリフのものと2通りあるのですが話の流れ上、こちらの方を採用しました。