ミリの初恋物語 (後編)
 
 

 そして数日経った朝のこと。
 いつものようにいつもの声が玄関に響いた。

新聞配達「おはようございます。朝刊です」
フォル「はい、ご苦労様です。お茶をどうぞ」
新聞配達「あ、いつもありがとうございます」

 実は今日の新聞配達はある野望を胸に秘めていた。

新聞配達(よし!言うぞ!!)

 新聞配達は自分に気合を入れてきり出した。

新聞配達「フォルさん。じ、じ、実は、え、え、映画の券が2枚あるのですが、あ、あ、あっしと一緒にいってくれないでしょうか!」

 差し出された新聞配達の手には2枚のチケットが握られていた。

新聞配達(言えたーー!)
フォル「え、今日ですか?」
新聞配達「はい!このチケットの期限が今日までですので・・・」
フォル「すみません。今日はどうしても外せない用がありますので・・・」

がーーーん

新聞配達「そ、そうなんですか・・・。いや、いいんですよ。そんな、はは・・・。じゃあこのチケットは誰かにあげてください」
フォル「よろしいのですか?」
新聞配達「はい。あっしにはもう必要のないものですから・・・」
フォル「はい、ありがとうございます。では頂いておきますね」
新聞配達「じゃ、あっしはこれで」
フォル「はい。今日もごくろうさまでした」
 
 

 そして今日も新聞配達は土煙をあげながら坂を下っていった。

新聞配達(くっそーー!!。もっと期限のあるチケットをもってくればよかったぜーーー!!)

 心の中で涙を流しながら。
 
 

フォル「新聞配達屋さんってホントにいい人ですね。でもこれどうしましょうか・・・」

 そう思いながら英荘の中に戻るとちょうどリアがいた。
 
 

リア「あ、おはよう。フォル姉様」
フォル「おはよう、リア。あ、ちょうど良かったわ。リア、アナタ今日はお休みでしたよね?」
リア「うん。そうだけど」
フォル「映画の券が2枚ありますから誰かと行ってきてはどうですか?」

 そう言ってフォルはチケットをリアに差し出した。

リア「これどうしたの?」
フォル「新聞配達屋さんに頂いたのですよ」
リア「そうなんだ・・・。うん、ありがとうフォル姉様。使わせてもらうね」
フォル「はい。楽しんでらっしゃい」
リア「うん」
 
 

 そしてフォルと別れた後、リアはミリを探し始めた。
 そして2階の廊下で見つけたリアはミリを呼び止めた。

リア「ミリ!」
ミリ「ん、なぁにリア姉ちゃん?」
リア「あのね、実は映画の券が2枚あるの・・・」

 リアはフォルから貰ったチケットをミリに見せた。

ミリ「うん。それで?」
リア「だから・・・ミリ、貴也さんと映画に行ってきたらどう?」
ミリ「・・・リア姉ちゃん・・・どういうつもり?」

 途端ミリの表情が険しくなった。

リア「どうって・・・?フォル姉様に貰ったから、どうかなって・・・」
ミリ「そうじゃなくて!リア姉ちゃんはアタシに気を使うなって言ってたくせに。リア姉ちゃんの方がアタシに気を使ってどうするのよ!!」
リア「で、でも・・・」
ミリ「リア姉ちゃんが貴也を誘って行けばいいじゃない!」
リア「ダメよ、そんなの!それじゃあアタシがミリに抜け駆けするみたいじゃない!」
ミリ「べつに抜け駆けなんかじゃないよ!アタシのことは気にしなくていいから」
リア「ダメよ。ミリが行きなさい!」
ミリ「もう、ホントは自分が行きたいくせに、この意地っ張り!」
リア「ミリの方こそホントは行きたいくせに!!」

 2人は廊下で睨み合いになった。

貴也「なにしてるんだい2人とも?」
リア&ミリ「「えっ!?」」

 そこへ丁度貴也が通りかかった。

貴也「ひょっとして喧嘩してるのかい?ダメだよ喧嘩なんかしたら。何が原因なんだい?」
ミリ「貴也!リア姉ちゃんが貴也と映画に行きたいんだって」

 そしてこれ幸いとミリが先手を打ってきた。

貴也「えっ!?」
リア「違うわよ!貴也さん、ミリと映画に行ってあげて!」
貴也「えっ!?」
ミリ「違う!リア姉ちゃんが行きたいんでしょ!」
リア「ミリが行きたいんでしょ!」

 そして再び睨み合いになった。

貴也「ちょ、ちょっと待ってよ2人とも。映画に行きたいのかい?」

 2人の勢いに困惑した貴也が何とか事態を理解しようと聞いてきた。

リア「ミリが行きたいのよね」
ミリ「リア姉ちゃんがでしょ」
貴也「オレと行きたいの?」
リア&ミリ「「うん」」
貴也「分かったよ。それじゃあ3人で行こう。それでいいだろ」
リア&ミリ「「えっ!」」
リア「でもチケットは2枚しかないんだけど・・・」
貴也「オレの分は自分で買うからいいよ」
ミリ「でも・・・」
貴也「じゃ、2人とも準備してきて、準備が出来たら玄関に集合。分かった?」
リア&ミリ「「はーい」」
貴也「じゃ、またあとでね」

 そして貴也は自分の部屋に入って行った。

リア「仕方ないわね。今日のところは3人で行きましょうか」
ミリ「そうだね」

 こうして3人でデートすることとなった。
 
 
 
 

 そして映画館についた3人は貴也を間に挟む形で席についた。
 映画の内容は感動のラブロマンスだったが、ミリは内容をよく覚えてはいなかった。
 ミリにとってはあまり興味のある内容ではなかったし、至近距離で貴也がいるため、ドキドキして映画に集中出来なかったからだ。

ミリ(!)

 そして映画が中盤にさしかかったころ、貴也の手がミリの手に触れてきた。

ドキドキドキドキ

 途端ミリの心拍数が上昇してゆく。

ミリ(これは・・・どういうこと・・・?握ってもいいってことなのかな・・・。リア姉ちゃんがいるのに・・・貴也って意外と大胆・・・)

 ミリは意を決して握り返してみようとした。
 しかし身体が強張っていて動かない。

ミリ(せっかく貴也がしてくれてるのよ!勇気をだすのよ!!)

 そしてなけなしの勇気を振り絞って握り返した。

ミリ(やった!!)

・・・

 しかし貴也からはなんの反応もなかった。

ミリ(?)

 さすがに何も反応がないのはおかしく思いミリは貴也の顔を覗き見てみることにした。
 すると、

ミリ(寝てるーー!!)

 貴也はすっかり熟睡していた。
 手が触れたのはただ単に貴也が眠ってしまったゆえの偶然であった。

ミリ(なーんだ・・・。もう期待させないでよ・・・。でも・・・)

 それでもミリは映画が終わるまで貴也の手を握っていた。
 
 
 

 そして映画が終わり、3人が映画館から出てくる。

貴也「ふあぁーーあ・・・」

 そして出てくるなり貴也は盛大な欠伸をした。

ミリ「貴也ってば、ずっと寝てたでしょ」
貴也「はは、ゴメン。途中までは起きてたんだけど・・・」
リア「熟睡してたよね」
貴也「えっ!そんなにぐっすり寝てた?」
リア&ミリ「「うん」」
貴也「疲れてるのかな?最近大学の課題で忙しかったし・・・」
リア「えっ!どうするの、今日はもう帰る?」
ミリ「えーー!もう少し遊んでいこうよ」
貴也「ぐっすり寝たから大丈夫だよ。さ、お昼でも食べに行こうか」
リア&ミリ「「うん」」
リア「で、どこで食べるの?」
ミリ「当然、貴也のおごりだよね」
貴也「えっ、うん・・・ファーストフードでいい?」

 貴也は財布の中身を確認しつつ言ってきた。

ミリ「ま、貴也の懐具合じゃ、そんなもんだろうね」
貴也「ゴメン・・・」
リア「そんなことであやまらなくてもいいわよ。さ、行きましょ」
 
 

 こうして3人はファーストフードで食事をし、その後2人は貴也をウィンドウショッピングに連れまわした。
 そしてそうしているうちに陽が落ちてきた。
 そして遊び疲れた3人は今公園で一休みしている。
 
 

リア「2人とものど渇かない?アタシジュース買ってくるわね」
貴也「それならオレが」
リア「大丈夫。貴也はそこでミリと待ってて」

 リアは2人を残して走っていった。

ミリ「・・・」
貴也「・・・」

 そして2人っきりになった途端ミリは急に緊張してきた。

ミリ(な、何か話さないと・・・)

 しかし頭は空回りを続けるだけでなかなか言葉が出てこない。

貴也「ミリ、今日はありがとう」

 そんなミリに貴也の方が声をかけてきた。

ミリ「えっ、なにが?」
貴也「今日映画に誘ってくれたことだよ」
ミリ「えっ、そんな・・・誘ったのはリア姉ちゃんだよ」
貴也「リアとミリの2人だろ」
ミリ「うん・・・」
貴也「オレ、ずっと1人っ子だったから兄弟って欲しかったんだ」
ミリ「えっ!?」
貴也「特に妹が欲しかったんだ」
ミリ(!!)

 貴也はそう言ってミリに笑顔を向けてくれたが、ミリにとっては衝撃であった。

貴也「だから今日はホントに楽しかった。妹がいたらこんな感じなのかなぁって」
ミリ「・・・」
貴也「だから今日はホントにありがとう」

 しかしミリは貴也に何も応えなかった。

貴也「ミリ、どうしたの?」

 貴也もミリの様子がおかしいことに気がついた。
 見るとミリは顔をうつむかせて肩を震わせていた。

ミリ「どうして・・・」
貴也「えっ?」
ミリ「どうしてそんなこと言うの!!」
貴也「どうしてって?あっ・・・」

 顔をあげたミリの瞳からは涙がこぼれていた。

ミリ「なんで妹だなんて言うの!アタシが・・・アタシが貴也のこと・・・こんなに想ってるのに・・・」
貴也「ミリ・・・?」
ミリ「貴也のバカーーー!!!」

 ミリは貴也に背を向け、全力で走り去った。

貴也「ミリ!!」

 背中から制止の声が届いたが止まれなかった。
 悲しかった、貴也に妹としか思われていなかったことが。
 悔しかった、貴也を振り向かせることが出来なかった自分が。
 だから走ることしか出来なかった。

ミリ(バカ、バカ、貴也のバカ!!)

タタタッ

 そしてしばらく走っていたミリの耳にある音が響いてきた。

タタタッ

 それは後ろから響いてきていた。

ダダダッ

 気になって振り返ってみると、

ミリ「ええっ!!」

 貴也が全力で追いかけてきていた。

貴也「ミリーー!!」

 それを見たミリはさらに加速をかけた。

貴也「待ってよミリ!!」
ミリ「な、何で追いかけてくるのよ!!」
貴也「理由はよく分からないけど、オレのせいで泣かせちゃったんだろ。ほっとけないよ!!」
ミリ「いいから、ほっといて!!」
貴也「ダメだよ!ちゃんと訳を説明してよ!!」
ミリ「言えないわよ!!」

 走りながらお互いに怒鳴りあった。
 そしてだんだんお互いの距離が縮まってくる。

ミリ(このままじゃ捕まる!こうなったらレヴィテイションで!!)

 しかしレヴィテイションを使う前に貴也に追いつかれて腕を捕まれてしまった。

ミリ「あっ!」

 そしてミリはバランスを崩してしまう。

貴也「ミリ!」

 倒れそうになるミリを貴也は胸に引き寄せ庇った。

ザザザー

 そして勢いのついていた2人の身体は数メートル滑ってから止まった。

貴也「いててて・・・。ミリ、大丈夫?どこも怪我してない?」
ミリ「・・・」

 貴也はミリを抱きしめたまま身体を起こして聞いたが、ミリは貴也の胸に顔をうずめたまま何も言ってこない。

貴也「ミリ?」
ミリ「・・・どうして追いかけてきたのよ。貴也なんかリア姉ちゃんと一緒にいればいいじゃない!」

 ミリはやっぱり顔を貴也の胸に押し付けたまま言ってきた。

貴也「なんでここでマリアが出てくるんだよ?関係ないだろ」
ミリ「あるのよ!もぉ・・・」
貴也「よく分からないな・・・」
ミリ「なんでそんなに鈍いのよ・・・」
貴也「ゴメン・・・。だから理由を教えてくれないかな」
ミリ「言ってもいいの?」
貴也「言ってくれなきゃ分からないよ」
ミリ「本当にいいの?」
貴也「うん・・・」

 貴也にはミリが何をもったいつけているのか分からなかった。
 ミリはべつにもったいつけている訳ではなく、自分の中で激しい葛藤と戦っていたのだ。

ミリ「アタシ・・・アタシね・・・」
貴也「うん・・・」
ミリ「ホントはアタシ・・・貴也のことが好きなの・・・」
貴也「知ってるよ。それにオレもミリのこと好きだよ」
ミリ「貴也は妹として好きなんでしょ・・・。でもアタシは・・・一人の男性として好きなの・・・」
貴也「えっ・・・」
ミリ「だからアタシのこと、妹として見てほしくはなかった!!」

 ここでミリは顔をあげて貴也を見て、その瞳は涙で潤んでいた。

貴也「・・・ミリ・・・ごめんね・・・気づいてあげられなくて・・・」

 そう言って貴也はミリの頭をなでてきた。
 ミリの好きな微笑みを浮かべながら。

ミリ「貴也・・・」

 ミリの瞳から涙があふれてきた。

ミリ「貴也ーー!!」

 そして貴也の胸に顔を押し付けて泣いた。
 
 

 そして涙が止まるとミリは顔を上げずに貴也に問い掛けた。

ミリ「ねぇ貴也」
貴也「なに?」
ミリ「リア姉ちゃんのこと、どう思ってる?」
貴也「えっ、どうって?」
ミリ「好き、それとも嫌い?」
貴也「好きだよ」

ピクツ

 それを聞いたミリは身体を少し震わせてしまった。

ミリ「じゃあフォル姉ちゃんは?」
貴也「好きだよ」
ミリ「メル姉ちゃんは?」
貴也「好きだよ」
ミリ「・・・じゃあ・・・アタシのことは・・・」
貴也「もちろん好きだよ」
ミリ「・・・・・・みんな好きなんだね・・・。じゃあ、誰が1番好きなの?」
貴也「それは・・・」
ミリ「答えられない?」
貴也「・・・オレにとって英荘のみんなは家族なんだよ。だから誰が1番なのかなんて決められないよ」
ミリ「・・・そっか・・・」
貴也「ゴメンね、ミリ・・・」
ミリ「ううん、いいよ。でも・・・いつかは決めてあげてね。でないと悲しむ人がいっぱいいると思うから・・・」
貴也「うん、分かったよ」
ミリ「約束だよ」

 ここでミリは顔を上げて、小指を差し出した。
 まだ目は赤かったけど涙は出てはいなかった。

貴也「うん。約束するよ」

 そう言って貴也はミリと小指を絡めた。

ミリ「じゃ、リア姉ちゃんのところに戻ろうか。きっとリア姉ちゃん待ちくたびれてるよ」
貴也「そうだね」

 2人は並んで歩き始めた。

ミリ「・・・えい!」

 ミリは思い切って貴也と腕をくんだ。

貴也「ミリ」
ミリ「いいじゃない。リア姉ちゃんのところまででいいからさ」
貴也「ふぅ・・・分かったよ」
ミリ「ふふ、じゃ行こ」
 
 
 
 

   貴也はああ言っていたけどアタシは知っている
   貴也が誰を1番大切に想っているかを・・・
   貴也の胸で泣いたとき、貴也の心に触れてしまったから・・・
   だからアタシ決めたんだ
   いつか貴也よりもずっといい人を見つけて、ずっとその人に付いて行くんだって・・・
 

 おしまい





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