その日の朝はいつもと変わらぬ朝だった。
玄関を開けるまでは・・・。
英荘・玄関
貴也「行ってきます」
ラム『行っています』
フォル「いってらっしゃい」
貴也は大学に行くため、ラムはバイトに行くために玄関でフォルの見送りを受けていた。
ガラガラ
そしてラムが玄関を開けると、
?「ただいま貴也!!元気にしてた!!」
何者かがラムにいきなり抱きついてきた。
ラム『えっ!えっ?ちょっと・・・何?、誰?』
突然のことにラムは困惑し、隣にいる貴也に目で助けを求めた。
貴也「母さん!」
ラム『えっ?』
母「えっ?」
ラムに抱きついているのは貴也の母であった。
母は聞こえるはずのない方向からの息子の声に顔を向けた。
母「貴也?じゃ、これは・・・?」
母はラムを放してからその顔を見て、ようやく貴也でないことに気づいた。
ラム「はぁー・・・」
そして解放されたラムはひと息をついた。
母「ほほほ・・・。ごめんなさいね、勘違いしちゃって。もしかしてアナタ貴也のお嫁さん?まあ、良かったわね貴也、こんな可愛い子で・・・」
ラム『お、お嫁さん!!。ボ、ボクが!!、貴也の・・・』
母のセリフに真っ赤になるラム。
貴也「違うよ。何勘違いしてるんだよ。彼女は・・・」
貴也はラムのことを説明しようとしたがその途中で玄関が開きフォルが顔を出した。
フォル「どうなさったんですか貴也さん。あらっ、この方はどなたですか?」
そんなフォルを見た母は、
母「貴也・・・。あんた二股かけてるのかい?」
新たな勘違いをした。
貴也「違うって!!。とにかく説明するから中に入ってよ!」
貴也は母を引きずる様に英荘の中に連れこんだ。
英荘・共同リビング
母はフォルがいれてくれたお茶を飲みながら貴也から説明を受けていた。
もちろん天使のことやベスティアリーダーのことなどは隠しながらの説明だったが。
貴也「と、いう訳なんだ。分かってくれた?」
母「つまりお前は、ひの、ふの・・・、十股かけてるってことかい?」
貴也「どう聞いたら、そうなるんだよ!!」
母「冗談だよ。つまりアンタはここの子とは誰とも結婚してないし、その約束もしてないってことだろ」
貴也「うん。まぁ・・・そうだよ・・・」
母「じゃ、なんにも問題はないね」
貴也「問題って?」
母「実はね貴也。アンタには許嫁がいるんだよ」
貴也「えっ?」
貴也は何を言われたのか分からなかった。
一同(一部除く)「ええっーーーー!!!」
周りの方が貴也より先にその意味を理解した。
リア「貴也に・・・許嫁・・・」
リアが一切の動きを止めて固まってしまった。
ベル「リア!しっかりして!気をしっかり持って!!」
ジゼル「お兄ちゃん、許嫁ってなに?」
ラオール「さぁ・・・」
メル「許嫁っていうのは、将来結婚する事を誓い合った人のことをいうのよ」
セフィ「えっ!貴也さん、結婚するんですか!!」
ぴく
リア「結婚・・・」
ミリ「あっ、リア姉ちゃんが動いた」
貴也「母さん!オレそんなの聞いてないよ」
母「そりゃそうだよ。アタシだって最近まで知らなかったんだから」
貴也「へっ・・・?」
リリアナ『それはどういうことですか?』
母「こないだ父さんが話してくれたんだよ。実は幼馴染の友人と子供ができたら許嫁同士にしようって約束していたって」
貴也「父さん・・・何考えてるんだよ・・・」
貴也は額を押さえてうめいた。
母「というわけで、これが相手の写真だよ」
クレア「どれどれ」
母が貴也に差し出した写真を横から取るクレア。
そしてクレアの周りに集まる一同。
フォル「可愛らしい方ですね」
母「名前は岡田馨子さんといって歳はお前と同じはずだよ。可愛い子だろ。悪い話じゃないと思うけどねぇ・・・」
クレア「たしかに悪い話じゃないかもね」
ミリ「クレア!何言ってんのよ」
メル「そうよねぇ・・・こんな可愛い子ですもんねぇ・・・」
ミリ「メル姉ちゃんまで・・・」
母「そういうわけだから貴也。今度の日曜日は開けておいてちょうだい。相手と引き合わせてあげるから」
貴也「ちょっと待ってよ母さん」
母「なんだい。今好きな相手はいないんだろう。だったら会うぐらいいいじゃないか。先方は乗り気になってるんだよ」
貴也「オレ・・・」
母「ん。なんだい?」
貴也「オレ・・・ホントは好きな人がいるんだ・・・」
母「・・・それはここにいる誰かかい?」
貴也「・・・・・・うん・・・」
貴也は静かに頷いた。
リア「貴也・・・」
リアの瞳に生気が戻ってきた。
母「それは誰なの?」
貴也「それは・・・・・・」
一同固唾を飲んで貴也を見守っている。
貴也「オレが好きなのは・・・」
そしていよいよ貴也の口が真実を告げようとした。
が、
母「ぷっ!」
母がいきなり吹き出し笑いをした。
母「あははははっ。冗談だよ。だからそんな顔しないで頂戴。笑いが止まらないじゃないか・・・」
一同「はぁ・・・?」
一同間の抜けた顔になる。
母「けど、許嫁がいたってのは本当なんだよ。けどその馨子さんは別に好きな人ができてその人と結婚したいと言い出したらしいんだ。
で、父さんの友人の岡田さんは娘の願いを聞き入れてその結婚を認めてあげたんだそうだ。
そして父さんに謝りの電話がかかって来たってわけ。だけど父さんは許嫁のことなんてきれいさっぱり忘れていたんだよ。
で、貴也が許嫁の事を知っているかどうか確かめるために、今日アタシがここに来たってわけ。
ま、案の定アンタは許嫁のことなんて知らなかったんだけどね」
貴也「じゃあ嘘なんてついたんだよ?」
母「アンタがここの誰かに気があるってのはアンタの態度からすぐに分かったからね。ちょっとからかってみたくなったんだよ」
貴也「はーー・・・まったく・・・」
母「だからさっきのセリフの続きはその子に直接言ってあげなさい。その方がその子も喜ぶだろうからね」
貴也「・・・」
そう言われて貴也は真っ赤になった。
母「さて、それじゃあアタシはそろそろお暇させてもらうわね」
フォル「もう帰られるんですか?」
貴也「どうして?もっとゆっくりしていけばいいじゃないか?」
母「もう用事はすんだからね。貴也の元気な顔も見れたし、それに・・・ここなら貴也も寂しい思いもしていなさそうだしね。母さん安心したよ」
貴也「母さん・・・」
母「それに何時までも父さん1人にしてちゃ大変だろうし。それに・・・」
貴也「それに?」
母「母さん、父さんのこと愛してるんですもの。こんなに長く離れているのは絶えられないの!」
貴也「・・・」
母「だからもう帰るわね。健康には気をつけて・・・元気でいるのよ」
貴也「うん。分かったよ」
母「それと、孫が出来たら連絡いれるのよ。その時は父さんと一緒に帰ってくるから」
貴也「・・・」
母「それでは皆さん。あまり出来がいいとはいえない息子ですけど、よろしくお願いしますね」
そうみんなにあいさつした後、母さんは父さんの元に帰っていった。
<おしまい>