電脳天使外伝

幻のユナ
 

 俺とユナの物語が始まったのは森での偶然の出会いからだった。
 そのころ俺はある雑誌社のオカルト部門でカメラマンをしていた。
 そしてその日は人型のUFOが多数目撃されたらしい山へ取材に来ていた。
 俺自身はUFOやその他オカルトの類は信じておらず、仕事のため仕方なく来ていたのだが。
 

山林

園田「だいたい人型のUFOなんていままで聞いたこともないけどな・・・」
 俺は乗り気ではなかったので登山気分でぶらぶらと歩き回っていたのだが、
園田「ん・・・」
 ふと気になるものが目に飛び込んできた。
 まず目に入ったのが白くて膨らんだ布状のもの、そしてそこから伸びている2本の肌色の長いもの・・・
園田「・・・って、あれ人じゃないのか!?」
 遠くからつぶさに観察していた俺はその事実を確認しに大急ぎで近づいた。
園田「おぉぉぉーーーー!!」
 そこで俺が見たものは頭から血を流して倒れている女の子だった。
園田「し、死体がーーー」
 が、良く見ると違うようだ。
園田「ん、まだ生きてる・・・か・・・」
 触れてみると暖かいし、息もしているようだ。
園田「た、大変だ、は、早く病院に・・・」
 俺は急いでその子を背負い山を駆け下りた。
 ホントは頭を打った者を激しく動かしてはいけなかったのだが、その時の俺にはそんなことを考える余裕はなかった。
 そして彼女の倒れていた場所の近くの木の枝が激しく折れ、地面には大きな足跡が2個ついていたことにも気づきはしなかった。
 

病院

 彼女は今、病院のベットで眠っている。
 頭の包帯が痛々しいがケガは見た目ほどたいしたことはなかったようだ。
 医者の話ではしばらくすれば目も覚めるだろうし、その後で精密検査を行うとのことだ。
 しかし困ったことに彼女は着ていた変わった服以外身元が解かるような物はなに1つ持ってはいなかったことだ。
 まあこれは彼女が起きてから聞けばいいことだが。
 しかし彼女は本当にかわいい顔をしている。
 かなりの美少女だ。
 これを期に仲良くできたりなんかして・・・。
少女「うっ・・・、んん・・・」
 と、そんなことを考えている内に彼女が目を覚ましそうだ。
少女「ん・・・・・・」
 少女はうっすらと目を開けた。
 そしてこっちを見て
少女「・・・ユー・・・ナ・・・・・・」
 と言った。
園田「ユナ?」
 そう言ったように聞こえた。
 しばらくして彼女の目の焦点が合ってきて
少女「え・・・・・・だれ・・・?」
 と聞いてきた。
園田「あ、気がついたかい、俺の名前は園田。気分はどうだい、どこか痛いとことかないかい」
 おれは勢いこんで聞いてみる。
少女「頭が痛い・・・」
 そう言って少女は身を起こした。
園田「そりゃそうだよね、頭にでっかいたんこぶ出来てておまけにそこを切ってるんだもんな・・・」
少女「ねぇ、ここはどこ・・・」
園田「ここは病院だよ」
少女「ねぇ、なんであたしこんなところにいるの?」
園田「君は山で頭から血を流して倒れていたんだよ。それを見つけた俺が病院まで連れて来たってわけ」
少女「・・・・・・」
園田「ねぇ、いったい山でなにがあったんだい良かったら俺に話してくれないか」
少女「・・・・・・わからないの・・・」
園田「わからないって、覚えてないってこと、それとも話したくないってこと・・・」
少女「・・・・・・」
園田「そうだよな、いきなり初対面の人に話せるわけないよな・・・」
 俺は自分が信用されていないようで正直がっかりしていたのだが、彼女は
少女「そうじゃないの、本当に何もわからないの!」
園田「それってどういうことなの・・・」
少女「自分の名前も・・・わからないの・・・」
 と言った。
園田「それってひょっとして記憶喪失ってやつ・・・・・・」
 少女はこくんとうなずいた。

・・・・・・・・・・・・

 しばらく沈黙が病室を支配していたが俺は途方に暮れていている場合ではないと改めて少女に聞いた。
園田「名前も?」
こくん
園田「年も?」
こくん
園田「住んでいた場所も?」
こくん
園田「どうして山で倒れていたかも?」
こくん
園田「うーーーーん」
 俺は困りはてたあげく一つ思いついたことを聞いてみた。
園田「じゃあユナって言葉に聞き覚えはある?」
少女「ユナ?」
園田「そう、君が目を覚ます時に俺に向かって言ったんだけど・・・」
少女「うーーん、聞き覚えがあるような気もするんだけど、なんかちょっと違う気がする・・・」
園田「そうか・・・」
少女「ねぇ、ひょっとしたらそれがあたしの名前なんじゃないかな」
 少し表情を明るくして彼女は言ってきた。
園田「うーーーん、でも、自分で自分の名前を言ったりするかな」
 俺は頭をひねった。
少女「そんなのわかんないじゃない、自分の一人称を自分の名前で言ったりする人もいるじゃない」
園田「うーーん、たしかにそうだけど・・・」
少女「それに今のところあたしに関する手がかりはそれしかないんだしいいじゃない」
園田「そうだな、じゃ、今から君の名前はユナだ」
 彼女の言うことにも一理あり俺は彼女の名前をユナとした。
ユナ「うん、あたしの名前はユナ、よろしくね園田」
 そう言ってユナは手を差し出してきた。
園田「うん、こちらこそよろしくユナ」
 そして俺達は握手をかわした。
 ユナの手をとても小さくて暖かかった。
ユナ「ところで園田、あたしって倒れてた時なにか持ってなかったの?」
園田「君が着ていた服以外なにもなかったよ」
ユナ「そうか・・・」
 ユナの顔が沈み、それから申し訳なさそうにこちらを見てきた。
ユナ「ねぇ園田お願いがあるんだけど・・・」
園田「なに?」
ユナ「記憶が戻るまででいいからあたしを園田の家に泊めてくれない」
園田「えーーーーーー」
 はっきりいって驚いた。というより驚かない奴のほうがおかしいだろう。
ユナ「お願い!今のあたしにはあなたしか頼れる人がいないの・・・」
園田「うっ!」
 そう言って胸の前で手を組み、悲しげな美少女に見上げられて断れる男が世の中にいるであろうか・・・。
園田「う、うんわかった・・・家に来てもいいよ・・・」
ユナ「ありがとう園田」
 そう言って笑ったユナの笑顔を俺は一生忘れないだろうな、と思った。
ユナ「じゃあ、さっそく準備しなきゃ」
 そう言ってベットを降りるユナ。
園田「準備って?」
ユナ「病院を抜け出す準備よ」
 俺は驚いてユナを止めた。
園田「だめだよ。この後精密検査を受けることになってるんだから」
ユナ「だってあたし無一文だもん。治療費払えないから・・・。それとも園田が払ってくれるの?」
園田「うっ!」
 はっきり言って保険のきかないユナの治療費を貧乏人の俺が払えるとは思わなかった。
ユナ「だから今のうちに病院を抜け出すのよ」
 そう言ってユナは服を脱ぎ出した。
園田「うわぁ!」
 正直意表をつかれた。
ユナ「着替えるから見ないでね」
園田「う、うん」
 慌てて後ろを向く俺。
 しばらく衣擦れの音が部屋に響く。
ユナ「いいわよ。じゃ、行きましょうか」
園田「はぁ、わかったよ・・・」
 こうして俺とユナは病院を抜け出した。
 

園田のマンション

 俺達は病院を抜け出した後、真っ直ぐ俺の家に向かった。
 はっきり言ってユナの服装はめちゃくちゃ目立つため一刻も早く家に着きたかったのだ。
園田「ここだよ」
 俺はズボンから部屋の鍵を取りドアを開けた。
ガチャ
園田「はい、どうぞ」
 そしてユナを部屋に招き入れる。
 そういえばこの部屋に女の子が入るのは初めてだ。
ユナ「おじゃましまーす。あ、けっこう綺麗にしてあるんだね。彼女が掃除してくれているの?」
園田「ぶっ、ち、違うよ。自分で掃除してるんだ。それに彼女なんかいないよ・・・」
 まったくいきなり何を言い出すのだろう。
 俺は結構綺麗好きで散らかった部屋にいることがガマンできない性質だったのだ。
ユナ「ふーーん、そうなんだ、綺麗好きなんだね。良かった、これなら2人でも暮らせるね」
 そう言って笑顔を向けてくるユナの顔を見て、俺はドキドキしてきた。
 なんせこんな美少女と同居(同棲と考えるともっとやばいので)するのだから緊張するなというほうが無理だろう。
 俺は緊張のあまり言葉が出なくなってしまった。
 ユナは珍しそうに部屋の中を見回している。
 なにか話さなければいけないと思えば思うほど頭が真っ白になっていく。
ユナ「ん、どうしたの園田?」
 そんな俺をいぶかしんだユナが俺に声をかけてくる。
園田「え、あ、いやっ、その・・・」
 が、真っ白な俺の頭はまともな言葉すら返すことが出来なかった。
 しかしそこに
ぐーーー
 という、盛大なユナのお腹の音が響きわたった。
ユナ「あ、あはは、お腹すいちゃった・・・」
 顔を赤らめるユナを見て俺は
園田「あはははははははははは」
 おもいっきり笑ってしまった。
ユナ「もう、そんなに笑わなくてもいいじゃない!」
 膨れっ面で睨むユナ。
園田「ははは、ごめん、ごめん。じゃあご飯にしようか」
ユナ「うん」
 これがきっかけでなんとなくふっきれてしまった。
 

台所

園田「で、ユナって料理とかできるの?」
ユナ「わからない記憶喪失だから・・・」
園田「あ、ごめん・・・」
 俺は自分の迂闊さを呪った。
ユナ「ううん。でもやってみようかな、なにか思い出すかもしれないし・・・」
園田「そう、じゃあお願いしてもいいかな」
ユナ「うん、まかせて」
 その笑顔を信じたがために後であれほど後悔することになるとはこの時には思いもしなかった。
 そう、ユナは料理がからっきしダメだった。
 出された料理は原型がなんだったのか解かる物が一つも無く得体の知れないモノだった。
 味のほうもその見た目に比例してすごいモノだったが。
ユナ「ごめんなさい・・・」
 うなだれるユナをなんとかなだめ、俺は2人分のチャーハンを作った。
 俺の腕もそれほどたいしたものではないのだが、ユナはおいしいと言って食べてくれた。
 料理人が料理をつくる訳が少し解かった気がした。
 

リビング

 なんとなくご飯の時から見ていたテレビを見ながらすごしていると結構いい時間になっていた。
ユナ「ねぇ、お風呂借りていいかな?」
園田「え、あ、いいよ」
 お風呂という言葉に少しドキリとした。
ユナ「あとパジャマとかもあったら貸して欲しいんだけど・・・」
園田「わかった、出しておくよ」
ユナ「ありがとう、じゃあお風呂借りるね」
 ユナは鼻歌を歌いながら風呂場に行った。
 俺はタンスからパジャマを取り出し、頃合をみて脱衣所まで持っていった。
 

脱衣所

 すりガラスの向こうではユナのシルエットが浮かんでいた。
 どうやらシャワーを浴びている最中らしい。
 籠にはユナの脱いだ服があったが無理矢理見ないようにして内心の動揺をなんとか押さえ込みユナに声をかけた。
園田「ユナ、パジャマここに置いておくよ」
ユナ「ありがとう」
 ガラスの向こうから声が返ってきた。
 ガラスの向こうに全裸のユナがいるという事実をどうにか振り払いリビングに戻った。
 がリビングに戻った後もなんとなく落ち着かなかった。
 

リビング

がちゃ
 風呂場のドアが開きユナが出てくる。
ユナ「お風呂ありがとう、とっても気持ち良かった」
園田「うっ!」
 風呂上りで少し大き目のパジャマを着ているユナはかわいさ20%増しで思わず見とれてしまった。
ユナ「やっぱり園田のパジャマじゃ少し大きかったね」
 パジャマをつまみながら聞いてくる。
園田「そ、そうだな」
 内心は動揺しまくりなのだがどうにか声には出さずに答えた。
ユナ「園田もお風呂にはいったら、気持ちいいよ」
園田「あ、ああ、そうするよ」
 なぜか今のユナを見ているのが恥ずかしくてその申し出を受け風呂場へ行った。
 

風呂場

園田「ふぅ・・・」
 俺は風呂に入りながら大きく息を吐いた。
 脱衣所の籠にはユナの服が残っていたがやはり見ないようにして風呂に入った。
 俺はユナの入った後の風呂だと意識しないようにしながらこれからのことを考えていた。
園田(こんな調子でこれから一緒に暮らしていけるのかな・・・あんなかわいい子と暮らせるのはうれしいけど・・・)
悪魔園田(こんなチャンスめったにないぜ、一気にモノにしろ)
天使園田(いいえ、あの子は他に頼るものがないからここにいるのです。そんなことをしてはいけません)
悪魔園田(あの子だってまんざらじゃないからここに来たんだろ、迷うこと無いって)
天使園田(いいえ、あの子はあなたの優しさに心をゆるしているだけです)
悪魔園田(だったらだまくらかして一気に押し倒しちまえ)
天使園田(いけません!)
悪魔園田(一人暮しの男の部屋に来たんだから覚悟ぐらいしてるさ)
天使園田(いいえ、あの子は人を疑う事を知らない純真な子なのです)
悪魔園田(これを逃したら次は無いぞ、ばーっといっちまえー)
天使園田(それは人として恥ずべき行為です)
園田「って、俺は何を考えてるんだーーー」
 何時の間にかヤバイ事を考えていた。
くらっ
 目がくらんだ。
園田「いかん、このままだとのぼせてしまう・・・」
 とりあえずのぼせる前に風呂を出ることにした。
 

リビング

 風呂から出てリビングに戻るとユナがソファでうつらうつらしていた。
園田「ユナ」
 声をかけるとはっと顔をあげこちらを見た。
ユナ「あっ、園田。お風呂からあがったんだ」
園田「ユナ眠いの」
ユナ「うん、ごめんね・・・」
園田「いいよ、今日は色々あって疲れてるだろうし。もう寝ようか」
ユナ「うん」
園田「じゃあベットに案内するよ」
 

園田の部屋

園田「ユナはこの部屋のベットで寝て。俺はリビングのソファで寝るから」
ユナ「えっ、あたし別に一緒に寝ても構わないよ」
 なんでそんなことを言うのだろうという顔をしながら言ってきた。
園田「えっ!」
 俺はこの時どんな顔をしていただろう?
悪魔園田(チャンスだーーー!)
天使園田(ちがうでしょうが!!)ばきっ
園田「ダメ!別々に寝るの!」
 心の中でなにか葛藤があったが押さえ込んだ。
ユナ「はーい。じゃあ、おやすみなさい」
 ユナは少し残念そうだった。
園田「うん、おやすみ」
 そう言ってユナはドアを閉めた。
園田「はぁ・・・(こっちの気も知らないで・・・)」
 盛大にため息をついた。
 

リビング
 
 部屋の電気を消しソファに寝転び毛布をかぶった。
 きちんと眠れるかどうか心配ではあったがやはり疲れていたのかすぐに寝ついてしまった。
 こうして俺とユナとの生活の1日目は終わった。
 
 

翌日
商店街

 次の日俺達は町に買い物に出かけた。
 主にユナのための生活用品を買うためだ。
 なにせ彼女は自分の服一着以外なにももっていないのだから。
 それと町を歩けばなにか記憶の手がかりになるものがあるかもしれない。
 今日のユナは俺のジーパンとTシャツを着ている。
 さすがに彼女の最初に着ていた服では目立ちすぎるからだ。
 しかし彼女はそんな姿でも十分に目立っていたが・・・。

 そして買い物の最中ユナがあるショーウインドウの前で足を止めた。
園田「どうしたの?」
ユナ「えっ、ううんなんでもない」
 ユナは否定したがどうたらショーウインドウのワンピースを見ていたようだった。
園田「これが気に入ったの?」
 指差すとユナはこくんとうなずいた。
 ユナに似合いそうなピンクのワンピースだった。
園田「じゃあ買ってあげるよ」
ユナ「えっ、だめだよ、あたし居候だし。それにお金だってそんなにないんでしょ」
 慌てて断るユナを楽しそうに見つめながら俺は言った。
園田「2人が出会った記念ってことでプレゼントするよ。それでもダメかな?」
ユナ「ホントにいいの?」
 上目づかいで聞いてくるユナ。
園田「いいよ」
ユナ「ありがとう園田」
 本当にうれしそうな笑顔を返してくれた。
 俺はこの笑顔を見るためならなんでも出来そうな気がした。

 ユナはワンピースの入った袋を胸に抱き上機嫌で歩いている。
園田「ユナ、そんなにうれしかったのか」
ユナ「うん。だって誰かからプレゼントもらったのって初めての気がするんだもん」
園田「そっか・・・」
ユナ「だから園田、ほんとうにありがとう。大切にするからね」

 その日一日中ユナはその袋を放さなかった。
 
 
 

 そして幾日たち、ユナが電子ジャーでご飯くらいは炊けるようになり、俺の料理の腕が少しづつ上がったいった。
 しかしユナの記憶は一向に戻らなかった。
 そして俺はユナの記憶が戻る日を恐れるようになっていった。
 そして一週間がすぎたある日、俺たちは彼女と出会った。
 
 

街中

 その時俺とユナは買い物帰りの途中だった。
 そこに一人の少女が立ちはだかった。
 年の頃はユナとそう変わらないように見えた。
 そして顔立ちもどこと無くユナに似ていた。
 そしてなによりユナが最初に着ていた服と似たような服を着ていた。
少女「フレイ!探したわよ。いままでいったい何やってたの?連絡の一つもよこさないで・・・」
園田(フレイ?なんのことだ?)
 ユナを見ると青ざめた顔で少女を見ていた。
少女「それに隣の人間はなんなの?ん、ねぇフレイあなた様子が変よ、どうしたの?」
 少女はいぶかしんだ様子でユナに尋ねた。
園田「君はユナのことを何か知ってるの?」
 俺は我慢できなくなり少女に尋ねた。
少女「ユナってのはアタシのことかしら?アタシの名前はユーナ・サブロマリン。そしてその子の名前はフレイ・サブロマリン」
ユナ「!!」
 ユナが息を飲むのが解かった。
ユーナ「そしてアタシ達は人間ではなくべスティアリ−ダー、人間の言うところの堕天使なの」
園田「えっ・・・」
 俺はこの展開について行けず言葉を失った。
ユーナ「さてそこの人、どういうことなのか説明してくれないかしら。どうしてあなたがフレイと一緒にいるの?」
 詰問口調でユーナと名乗った少女はこちらに聞いてきた。
ユナ「っ・・・」
 そのときユナが踵を返して走り出した。
園田「ユナ!」
ユーナ「フレイ!」
 俺は慌ててユナを追いかけた。
ユーナ「待ちなさい!」
 後ろでユーナが何か叫んでいたがユナを追うほうが先決だ。かまってはいられない。

 だが俺はユナを見失ってしまった。
 あちこちを探しまわったが見つからず一旦家に戻ってみるとユナは先に帰ってきていた。
 

リビング

園田「ユナ、先に帰ってたのか。心配であちこち探しちゃったよ」
 ソファに顔を伏せるユナに話しかけた。
 だがユナはこっちを向いてはくれなかった。

・・・・・・・・・

 しばらく沈黙と重苦しい雰囲気が部屋をただよった。
 そしてユナが口を開いた。
ユナ「ねぇ園田、あたしって誰なんだろう・・・」
園田「えっ・・・」
 俺には質問の意味が解からなかった。
ユナ「あたしは園田のユナ。それともべスティアリーダーのフレイ・サブロマリン。どっちなの、教えてよ!」
 そう言って泣き出したユナに俺は何の言葉もかけてあげることが出来なかった。
 
 

 次の日ユナは俺の部屋から出てこなかった。
 しかたなく俺は部屋の外から声だけかけて仕事に出た。
 その途中あの少女に会った。
ユーナ「説明してくれるわよね」
 俺はうなずくしかなかった。
 

公園

 俺は近くの公園までユーナを伴ってやって来た。
 そして山で記憶喪失となったユナを見つけてそれからずっと一緒に暮らしていることを話した。
ユーナ「なるほどね・・・」
 俺の話を聞き終えたユーナは納得したという顔で頷いた。
園田「君はユナをどうするつもりなんだ・・・」
ユーナ「ユナ・・・ね」
 ふっ、とユーナは口だけで笑った。
ユーナ「もちろん連れて帰るわ。あの子には大事なお役目があるんだから」
 ユーナはきっぱり言いきった。
園田「お役目ってなんなんだ?」
ユーナ「それはタダの人間であるあなたに教えるわけにはいかないわ。まぁいずれ時が来れば解かることだけど・・・」
 俺には彼女の言っていることが理解出来なかった。
園田「君達は本当に人間じゃないのか?」
ユーナ「そうよ」
園田「俺には君達は人間にしか見えないけど・・・」
 だがユーナは俺の問いには答えず立ち上がった。
ユーナ「これ以上あなたと議論するつもりはないの。近い内にフレイは返してもらいに行くから」
 そう言ってユーナは公園から出て行った。
 俺はそんな彼女をタダ見過ごすしかなかった。
 
 

園田のマンション(夜中)

 その夜俺の頭に声が響いてきた。
ユーナ『フレイ、それと人間、起きなさい。そしてベランダに出てきなさい』
園田「な、なんだ?」
 俺はその頭に響く奇妙な声に驚き目を覚ました。
 そして言われるままにベランダに出てみるとそこには
園田「な、なんなんだこれは!?」
 巨大な人影があった。
ユナ「アルラウネ」
 後ろからユナの声がした。
園田「ユナ、君はこれがなにか知ってるの?」
ユナ「はい、これはユーナの獣機のアルラウネです」
園田「獣機?」
 俺はユナに問い掛けたがその問いはユーナによって阻まれた。
ユーナ『フレイ、人間、手に乗りなさい』
 巨人がベランダに手を差し伸べてきた。
ユナ「行きましょう園田」
 ユナが俺の手を引いた。
 しかし俺は躊躇した。
ユナ「おねがいですから来て下さい」
園田「わかった・・・」
 悲しそうな顔をするユナに頼まれ、俺は従うしかなかった。
 

 俺達を乗せた巨人は物凄い速さで空を翔けた。
 俺の脳裏に人型のUFOの文字が浮かんだ。
 そして彼女達が本当に人間でないことを認識してしまった。
 

山林

 巨人は俺がユナを見つけた山で俺達を降ろした。
 そして巨人からユーナが降りてきた。
ユーナ「フレイ、獣機を呼びなさい。本当はもうほとんど記憶が戻っているんでしょう」
園田「えっ!本当なのかユナ」
 俺はユナに聞いたがユナは悲しそうな顔をしているだけで答えなかった。
ユーナ「フレイ、お役目のことを忘れたわけではないでしょう。獣機を呼びなさい!」
園田「ユナ」
 俺とユーナはユナを見つめた。
 そしてユナは小さく
ユナ「ごめんなさい園田」
 とだけつぶやいた。
園田「えっ」
 俺はそのつぶやきを聞き漏らさなかった。
ユナ「来たれ、我ら御使いが主より賜りし鳳駕、我を守護する獣機フラウディア」
 ユナの言葉を森に響きユナの目の前にもう一人の巨人が姿を現した。
 そしてユナの服が最初に会ったものに変わっていた。
ユーナ「行きましょうフレイ。みんなが待ってるわ」
こくん
 ユナが頷き巨人に歩み寄る。
園田「ユナ!」
 俺はユナを呼び止めた。
 ここで止めなければもう2度とユナに会えないと解かっていたから。
園田「行かないで欲しい。ずっと俺のそばにいてほしいんだユナ・・・」
 ありったけの気持ちを込めて言った。
 俺はユナからの答えを待った。
 しかし
フレイ「あたしはユナではありません。あたしはフレイ・サブロマリン。べスティアリーダーなんです」
 このとき俺のユナはどこにもいなくなった。

 そして2人の巨人が飛び立つのを見送った時
 俺とユナの物語は終わったのだった。

<END>





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