Happy Birthday!
10月23日 26時
英荘・玄関前
‘観光’から帰ってきたクレアとメル。
珍しく、それほど酔ってはいない。
クレア「2時なんてまだ宵の口じゃない。
なんでこんなに早く切り上げて来なきゃいけないのよ。」
メル 「いいじゃない、たまには。中学も高校も試験の真っ最中だし、あんまり
遅くに帰ってミリやリアちゃんたちを起こすのも可哀想でしょう。
それに……」
と、不意に真剣な顔になるメル。
クレア「それに?」
メル 「最近ミリが寝付けないと、ミュウがアタシの布団の上に避難してくるのよ!」
クレア、握り拳を固めて力説するメルに脱力する。
クレア「アナタねえ、そんな馬鹿馬鹿しい理由で……」
メル 「アタシには大切なことよ。クレアさんだって、一度あの生暖かい重みにうなされて
飛び起きてみればきっとアタシの気持ちが分かるわ。」
なおも力説を続けようとするメルをなだめるクレア。
クレア「はいはい、分かったわメルキュール。
まあ今日はいいけど、明日は朝まで付き合ってもらうわよ。」
メル 「どうして?明日はクレアさんの……」
クレア「だからよ。もう‘誕生日’って歳でもないでしょう。」
メル 「そんなことないわよ。お祝い事は多い方が楽しいじゃない。」
クレア「と・に・か・く。遅くなるのが駄目だって言うなら、明日は
泊りがけにするわ。それなら文句無いでしょう。」
クレアの言葉にメル、小首をかしげて笑みを浮かべる。
メル 「まあ、クレアさんとずぅっと二人っきりでいられるのは嬉しいから、
アタシは別に構わないけれど。」
クレア「おバカなこと言ってないで、もう入るわよ。
(玄関に向き直って)こら〜っ!クレアお姉様のお帰りよ〜!
早く開けなさ〜い!」
いつものように、鍵を開けさせるために戸を叩こうとするクレア。
メル、何かを期待したような笑みを浮かべているが、クレアは背を向けているため
メルの表情は見えない。
と、叩かれるより先に中から戸が勢い良く開けられる。
そして中から、
フォル 「クレア姉様」
双子たち 「「クレア姉さん」」
ミリ 「……クレア」
ラム・ラオール 『「クレア」』
貴也・ジゼル・セフィ「「「クレアさん」」」
リリアナ 『クレアリデル』
一同 「「「「『「「「「『お誕生日おめでとう!」」」」』」」」」』
クレア「は?」
突然のことに、状況を理解できず呆けるクレア。
数瞬してやっと我に返る。
クレア「何、ですって?」
貴也 「だから、誕生日のお祝いですよ。クレアさんの。」
リア 「クレア姉さんの誕生日、10月の24日でしょう。だから……」
クレア「もう、何を言ってるのよ。今日はまだ……あぁっ!」
何かに気づいて時計を見るクレア。
メル、会心の笑みを浮かべて。
メル 「そういうこと。とっくに午前零時をまわってるんですもの、‘今日’はもう24日、
間違いなくクレアさんの誕生日よ。」
フォル「ごめんなさい、クレア姉様。驚かせてしまいましたか?」
ようやく平静を取り戻したクレア。呆れたように。
クレア「そりゃあ、ね。まさかこんな時間に誕生日をお祝いされるとは思わなかったもの。」
ベル 「こういうことって、内緒にしておいてびっくりさせたほうが、喜びも大きいでしょう。」
ラオール「まあ、もともとメルのアイディアだったんだけどな。
クレアのことだから、24日は‘観光’に行っちまって捕まえられないだろうって。」
ラム 『大成功、だね。こんなに驚いてもらえると、ボクたちも遅くまで待ってた甲斐があったよ。』
クレア「あんたたちねえ……」
嬉しそうに言うラムとラオールをジト目で睨んだクレア、後ろにいるミリとジゼルに気づく。
クレア「ミリやジゼルまで起きてたの?」
ミリ 「アタシは別に、クレアのために起きてたわけじゃないわよ。
試験勉強をしてたら、フォル姉ちゃんがお夜食を作ってくれたって言うから
降りてきただけで……」
ジゼル「もう、ミリちゃんたら……
うふふ……さっきまで一緒に勉強していたけど、ずぅっと、玄関の方を
気にしてたんですよ。お二人が、何時帰ってくるかって。」
ミリ 「ジゼル姉ちゃんっ。もう、違うったら。」
顔を紅潮させてむきになるミリ。一同、笑って聞いている。
と、クレアの脇に歩み寄るリリアナ。真剣な表情。
クレアにだけ聞こえるように。
リリアナ『‘観光’は楽しかったですか?』
クレア「う。」
リリアナ『仕方の無い子ね。メルキュールを連れ回して……』
睨まれているクレア、無言で固まっている。
と、不意に相貌を崩して微笑むリリアナ。
リリアナ『うふふ……安心なさい、クレアリデル。‘今日は’何にも言わないであげるから。』
クレア「……‘今日は’、ね。」
リリアナ『お誕生日には、プレゼントをあげるものでしょう。
(振り返って)ねえフォル――そろそろ、パーティの準備を始めませんか。』
フォル、胸の前で手を合わせて微笑む。
フォル「そうですね。では、わたしはお料理を温めてきますから、クレア姉様は
共同リビングでお待ちになっていてくださいな。」
ベル 「フォル姉様、あたし、並べるのを手伝うわっ。」
ミリ 「アタシも手伝うっ。」
一同、共同リビングに入っていくが、ラム、独り遅れている。
それに気づいた貴也。
貴也 「ラム?」
ラム 『ああ、何でもないよ。ただ、みんなよく入るなぁって。
ボクはとてもじゃないけど、食べられそうにないや。』
貴也 「こんな時間だしね。
オレもそんなには食べられないけど、飲み物くらいなら大丈夫じゃないかな。」
ラム 『そう、だね。ボクも、お茶くらいだったらもらおうかな。
(共同リビングに歩き出しながら)ねえっ、ボクも何か手伝おうか?』
クレアとメル、共同リビングに入る。
テーブルには既に飾り付けがされていて、キッチンから賑やかな声が聞こえてくる。
クレア「まったく、しょうがないわね。折角だから、お祝い‘させて’あげるけど。」
メル 「もう、クレアさんたら。素直じゃないんだから。」
仕方なさそうに言いながらも嬉しそうなクレアの様子に微笑するメル。
と、クレア、思い出したように。
クレア「そういえばメル……アナタの誕生日って、いつだったかしら?」
ガクッとなるメル。
メル(涙目)「クレアさ〜ん」
クレア「だって、聖地にいた時は誕生日のお祝いなんて一度もしたことなかったじゃない。」
メル 「そ、それはそうだけど……」
クレア「冗談よ。まあ、せいぜい驚かせてあげるから、楽しみにしてらっしゃい。」
メル 「クレアさん……」
クレア、悪魔のような(笑)笑みを浮かべて、
クレア「ふふっ、さあて、何をしてあげようかしら。楽しみね〜」
メル 「クレアさん、一応聞いておくけど……‘楽しみ’にしてて、いいのよね?」
クレア「さあ、どうかしら?」
クレア、意味ありげに微笑みながらキッチンに入っていく。
慌てて追いかけるメル。
クレア「さあみんな、そろそろ始めるわよ!」
メル 「ちょ、ちょっとクレアさん。クレアさんてば〜」
(Fin)
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