英荘・玄関(昼)
新聞屋「それじゃ来週からもお届けしますのでお願いします」
フォル「はい。よろしくお願いします」
 共同リビングに戻るフォル。
 手には何枚かのチケットを持っている。

英荘・共同リビング
 共同リビングにはベル、リア、ミリがいる。
ベル「誰だったの?フォル姉様」
フォル「新聞屋さんでしたよ。新聞の契約の継続の件でいらしたそうです」
リア「ねぇアネキ、その手に持っているものは何?」
フォル「あっ、これは新聞屋さんにいただいたものです。遊園地のチケットだそうですよ」
ミリ「どれっ、ちょっと見せて」
フォル「はい、どうぞ」
 チケットを受け取るミリ。
 それを横から覗きこむベルとリア。
ミリ「うん、たしかに遊園地のチケットだね。でもこれ期限が明日までだよ」
リア「あっ、ほんとだ」
ベル「じゃあ、明日みんなで行きましょうか」
リア「だめだよ。明日はアタイ用事があるからさ・・・」
フォル「わたしも明日は貴也さんと一緒に大学へ行かなくてはなりませんから行けませんし・・・」
ミリ「えー、そんなぁ・・・」
SE:ガラガラッ
 玄関の開く音がする。
貴也「ただいま」
ラオール「あー疲れたぜ」
 2人の声が聞こえる。
フォル「あっ、貴也さん達が帰ってきたみたいですね」

英荘・玄関
  バイトから帰ってきた2人を迎えに出るフォル。
フォル「おかえりなさい。いつもごくろうさまです」
貴也「ただいまフォル」
ラオール「ただいま」

英荘・共同リビング
 共同リビングに入ってくる3人
ベル「ねえ、貴也さん、明日どうしても大学に行かなきゃダメ?」
貴也「えっ、どういうことだい?」
ベル「実は・・・」
 2人に説明するベル。
貴也「うーん、そうか・・・。でもごめん、やっぱり明日はどうしても行かなきゃだめなんだ」
ミリ「えー、やっぱりだめなんだ・・・」
貴也「ごめんねミリ。そうだクレアさんかメルさんについて行ってもらえばどうかな?」
フォル「クレア姉様は昨日からメルさんを連れて出て行ったきり帰っていらしてませんよ」
ミリ「きっとメル姉ちゃんを連れまわして飲み歩きにでも行ってるのよ」
フォル「もし帰ってきたとしてもきっとお疲れでお休みになると思いますけど」
貴也「うーん、そうか・・・」
ラオール「なぁ、もう行くのはもうあきらめたらどうだ」
フォル「あの、ラオールさん」
ラオール「ん、なんだ?」
フォル「2人と一緒に遊園地へ行ってあげてくださいませんか?」
ラオール「なにっ!俺がか?」
フォル「はい。さすがに2人だけでは心配ですし、ラオールさんが付いていてくださればわたしも安心なのですけれど・・・」
ミリ「べつにいいわよ、来てくれなくても」
貴也「俺からもたのむよラオール、一緒に行ってやってくれ」
ラオール「あっ、いやっ・・・俺は・・・」
フォル「お願いしますラオールさん」
 胸の前で手を合わせ、まっすぐな目で頼むフォル。
ラオール「わ、わかったよ・・・」
フォル「ありがとうございます、ラオールさん」
貴也「ありがとう、ラオール」
ラオール(くそっ、どうもフォルに頼まれると断りにくいな・・・)
ベル「じゃあラオールくん、明日9時に出発でいい?」
ラオール「ああ、別にかまわないぞ」
ミリ「寝坊しないでよ」
ラオール「わかってるよ!」
 

ベルとラオールの初デート?(後編)
 

翌日・英荘・玄関(朝)
 準備万端な3人とそれを見送る貴也、フォル、リア。
フォル「はいっ、お弁当ですよ」
ベル「ありがとうフォル姉様」
貴也「頼んだよ、ラオール」
ラオール「ああ、無事を祈っててくれ・・・」
ミリ「ねぇ、クレアとメル姉ちゃんは?」
貴也「あの2人なら昨日の夜帰ってきたところだから夕方まで寝てるんじゃないかな」
リア「しょうがないなぁ、あの2人は・・・」
ベル「じゃあ、行ってきます」
ミリ「行ってきまーす」
ラオール「行ってくる」
貴也・フォル・リア「行ってらっしゃーい」
リア「おみやげ買ってきてくれよー」
ベル「はーい」
 山を降りていく3人。
貴也「でも、本当にあの3人で行かせてよかったのかな?」
フォル「きっと大丈夫ですよ」
リア「そうかな?」

遊園地(昼前)
ミリ「やっと着いたね」
ラオール「けっこう遠かったな」
ベル「わりとすいてるのね・・・」
ミリ「ねぇ、あんたって遊園地に来たことってあるの?」
ラオール「いや、ないけど。そういうおまえらはどうなんだ?」
ミリ「アタシ達もないわよ」
 誰も遊園地には来たことがなかった。
ベル・ミリ・ラオール「・・・・・・」
 しばし沈黙する3人。
ミリ「どうすんのよ、これから・・・」
ベル「えーと・・・じゃあ、とりあえずジェトコースターに乗ってみましょうか・・・」
ラオール「そうだな・・・」

数十分後
ベル「大丈夫、ラオールくん?」
ラオール「へ、平気だ・・・。ちょっと目がまわっただけだ・・・」
 ベンチにへたりこむラオール。
ミリ「あれぐらいでへばるなんて情けない奴」
ラオール「なんだと!」
ベル「まあまあ2人とも落ち着いて。じゃあ、次はどこへいこっか?」
ミリ「パンフに載っているものを適当にまわってみるしかないんじゃない」
ベル「そうね、じゃあ目の前のこれから行ってみましょうか。ラオールくん、行ける?」
ラオール「平気だ。行くぞ!」

2時間後
ラオール「ゆ・・・遊園地ってのは拷問器具を集めた施設なのか・・・」
 地面にへたりこむラオール。
ミリ「もう、ほんと情けないわねぇ・・・」
ベル「まあまあ、とりあえず休憩もかねてお昼にしましょうか」
ミリ「そうね。お腹もすいたしそうしましょ」

昼食
 バスケットを開けるミリ。
ミリ「あっ、サンドイッチだ。いただきまーす」
ラオール「俺・・・食欲ない・・・」
ベル「大丈夫、ラオールくん・・・はい、お茶」
ラオール「さ、サンキュウ・・・」
ミリ「あっ、あたしにもお茶ちょうだい」
ベル「はい、ミリ」
 皆おもいおもいにサンドイッチをほおばる。

数十分後
 皆食べ終わりお茶を飲みながらくつろいでいる。
ミリ「ねぇ、午後からはどうする?」
ベル「そうねぇ・・・お昼を食べた後だから激しい乗り物はさけたほうがいいだろうし・・・」
ラオール「そ、そうだな、食後に激しい運動は体に毒だからな」
 ほっとした表情のラオール。
ミリ「じゃあ、お化け屋敷なんてどう?」
ラオール「お、お化け屋敷か?!」
ミリ「なに?ひょっとしてあんた怖いの?」
ラオール「そ、そんなわけないだろうが・・・」
ミリ「じゃあ、お化け屋敷に決定ね」
ラオール「い、いいぞお化け屋敷で・・・」
ベル「無理しなくてもいいのに・・・」
 そっとつぶやくベル。

お化け屋敷前
ミリ「じゃあさっそく入るわよ」
ラオール「お、おう」
 顔色の悪いラオール。
ベル「ラオールくん、顔色悪いよ、ほんとに大丈夫なの?」
ミリ「いまならまだひきかえせるわよ。どうする?」
ラオール「う、うるさい!大丈夫だ。さ、行くぞ・・・」

数分後
 係員に背負われて出てくるラオールと2人。
ミリ「まさか気絶するとは思わなかったな・・・」
ベル「もう、無理するから・・・」
 ラオールをベンチに寝かす係員。
係員「じゃあ私はこれで」
ベル「どうもお手数をおかけしました」
ミリ「で、どうするのこいつ・・・」
ベル「あたしが見てるからミリは楽しんできて」
ミリ「えっ、いいの?」
ベル「ええ、いいわよ」
ジゼル「じゃあ、ひととおりまわってきたら戻って来るから、そいつのことはお願い」
 ベルとラオールを残して走っていくミリ。
 ベル、ラオールの横に座る。
ラオール「ううっ、うーん・・・」
ベル「うなされてる・・・」
 ベル、ラオールに膝枕をする。
 ラオールの表情が幾分やわらいだ。
ラオール「ううっ・・・うー・・・」
 しかし、まだうなされているラオール。
ベル(どんな夢見てるんだろう・・・少しのぞいてみようかな・・・でもいけないことだし・・・)
 だんだんベルの顔がラオールに近づいてくる。
ベル(うーん、でもやっぱり気になるなー・・・ちょっとだけのぞいてみようか・・・)
 ベル、目を閉じて集中する。

ラオールの夢
 ラオールの故郷の家。
 ラオールの部屋にジゼルがやってくる。
ジゼル「ねぇお兄ちゃん、このあいだ産まれた子牛が迷子になっちゃったの。一緒に捜して」
ラオール「先週産まれたあいつか。あいつはお前が世話するって言いだしたんだぞ」
ジゼル「ごめんなさい」
 ジゼルの頭をなでるラオール。
ラオール「いいよ。一緒に捜してやるよ」
ジゼル「ありがとう、お兄ちゃん」

 子牛を捜してさまよう2人。
ラオール(たしか、もう少し先が地雷原だったな)
ラオール「ジゼル、この先は・・」
ジゼル「あっ!いた!」
ラオール「えっ」
 見ると少し先の開けた場所で子牛が草をはんでいる。
ジゼル「もう、こんなところまで来たらダメじゃない」
 子牛に向かって駆け出すジゼル。
ラオール「待て!ジゼル」 
 あわてて追いかけるラオール。
SE:ドカーン!!!
ラオール「ぐわぁ!!」
 目の前で爆発が起こり、弾き飛ばされるラオール。
ラオール「う、ううっ・・・」
 全身を強く打ち、首筋には裂傷を負うラオール。 
 目を開けると倒れているジゼルが見える。
ラオール「ジ、ジゼル」
 どうにか立ち上がりジゼルの元へ向かうラオール。
ラオール「うっ!!」
 そこにあったのは見るも無残なジゼルの姿だった。
ラオール「ジゼル!」
 それでもラオールはジゼルを抱き上げ呼びかける。
ラオール「ジゼル!、ジゼル!」
 しかし、ジゼルはもう何も答えなかった。
ラオール「ジゼルーーーーーーーーーーー!!!」

現実
ラオール「うっ、うーん・・・」
 顔に何かが当たる感触で目を覚ますラオール。
 目をつむったまま涙をながすベルの顔が目に飛び込んでくる。
ラオール(なんでこいつ泣いてんだ?)
 目を開けるベル。
ベル「あっ、目、覚めたんだ」
ラオール「ベル・・・お前、何で泣いてんだ?」
ベル「えっ?あっ!な、なんでもないの」
 慌てて目をこするベル。
ラオール「もしかして、見たのか・・・」
ベル「えっ!」
ラオール「俺の夢」
ベル「ご、ごめんなさい・・・」
ラオール「別にかまわないさ、全部ほんとにあったことだったしな・・・」
 体を起こすラオール。
ベル「・・・」
ラオール「これでわかっただろ。俺の不注意のせいでジゼルは死んだんだ・・・」
ベル「そんなこと・・」
ラオール「同情はよしてくれ!俺があのときちゃんと注意していればジゼルは死なずにすんだんだ!俺のこの傷は先生たちが治してくれたけどジゼルは手遅れだったよ、即死だったんだ・・・。」
 何も言ってあげられないベル。
ラオール「俺の国は政府軍と反政府軍とに分かれてもう何年も争っているようなところで、誰がいつどこで死んでもおかしくない、いやっ、それがあたりまえだって国で、俺もずっとそう思ってたよ・・・。でもジゼルが死んで、先生たちに命をすくわれてから解かったんだ。こんな国はまちがってるって!変えなきゃならないって!」
ベル「ラオールくん・・・」
ラオール「先生たちはすごいよ・・・。自分たちの国のことでもないのにあんなに一生懸命に自分たちの身をなげうってまで人を救えるんだもんな・・・。だから俺は少しでも先生たちの力になりたくって、日本語も勉強も先生たちに教わったんだ。そしてようやく先生たちの役に立てるって思ったときに先生たちから言われたんだ「日本に行ってみろ」って・・・。先生たちに言われたからしかたなく来たけど、でも日本に来て何をしろっていうんだ。俺はこんなところに来てお前らみたいに浮かれて遊んでる場合じゃあないんだよ!こんな平和な国でヌクヌク暮らしてるヒマなんてないんだ!早く一人前になって先生たちの力になれるようにならなきゃだめなんだ!」
ベル「ラオールくん!」
 ラオールを抱きしめるベル。
ラオール「なっ!」
 突然のことに固まってしまうラオール。
ベル「ラオールくん、今のあなたって危なっかしくて見てらんない、気持ちだけが先走りすぎなんだよ。もっと肩の力を抜いてもいいんだよ。あせったってすぐに一人前になれるわけじゃあないんだから。そのために先生たちはラオールくんを日本に来させたんじゃないのかな・・・」
ラオール「俺があせってる・・・。先生たちはそのために・・・」
 ラオールの体から力が抜けていく。
 しばらくそのままラオールを抱きしめ続けるベル。
ベル「落ち着いた?ラオールくん」
 ラオールを放すベル。
ラオール「あ、ああ・・・」
 正面から見つめられて少し顔を赤らめるラオール。
ベル「とりあえずビザが切れるまで英荘で肩の力を抜いて暮らしてみたら。ラオールくんももう英荘の家族なんだから」
ラオール「家族・・・なのか?」
ベル「そ、英荘で暮らす人達はみんな家族なんだって。貴也さんはそう言ってたわよ」
ラオール「家族・・・か・・・。わかったよベル」
 微笑むラオール。
ベル「よかった」
 微笑みかえすベル。
ミリ「ねぇ、話は終わった」
ベル「きゃ!」
ラオール「うわぁ!」
 見るとそばにミリが立っている。
ベル「ミリ!いつからそこにいたの?」
ミリ「2人が抱き合ってるところからだけど・・・」
ラオール「なっ!」
ベル「なっ、なんで声かけてくれなかったのよー」
 真っ赤になる2人。
ミリ「だって声かけられるような雰囲気じゃなかったんだもん。でも2人っきりになった途端に何やってんだか・・・」
ラオール「お、俺は何もしてないぞ!ほんとだぞ!ベルのほうから抱きついてきたんだからな!」
ミリ「へー」
ベル「ちっ、違うわよ!あ、あれは・・・」
ミリ「ま、どうでもいいけどね。とりあえずもう全部まわっちゃったから、そろそろ帰ろうよ。夕飯にも間に合わなくなっちゃうし」
ベル「そ、そうね・・・。どうでもよくはないけど・・・」

遊園地外
 ミリを先頭に微妙な距離を取りつつ歩くベルとラオール。
ミリ「アトラクションも制覇したし、ラオールの無様な姿やベルとのアツアツなところも見れたし、なかなか楽しかったな」
ラオール「なっ!」
ベル「ね、ねぇミリ。そのことはみんなには黙っててくれない」
ミリ「えー、どうしよっかなー」
ベル「ねー、そんなこと言わずにおねがい!」
 顔の前で手を合わせて頼むベル。
ミリ「しょうがないなぁ、わかったよ。でも2人とも貸し一つだからね」
ラオール「しょうがねーな、わかったよ」
ベル「ありがとうミリ」
ミリ「でも別に2人が恋人同士だってばれてもかまわないと思うけど?」
ベル「べ、別に恋人同士じゃないわよ。ねぇ、ラオールくん」
ラオール「あ、ああ、そうだな・・・」
 少し残念そうなラオール。
ミリ「じゃあ何で抱き合ってたの?」
ベル「だ、だからあれは・・・」

-おしまい-





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