ドラゴンアイズ ノベル
 

 第4話 : キルティの王女
 
 

 フリッカを加えて2人と1匹になった一行が城から出てくると、表ではピアンが待っていた。

ピアン「アイネス様、お話は終わったんですか。あれ、フリッカさん。どうしてアイネス様と一緒にいるんですか?」

 ピアンはフリッカがアイネスの隣を歩いているのが気になったのか聞いてきた。

フリッカ「あたしは皇王様より、アイネス様護衛の任務を仰せつかったのですよ」

ピアン「えぇー、いいなぁ・・・。あたし、本当はフリッカさんみたいな衛士志望だったんですよ。
    でも、身長が足りなくって、皇城の侍女に志望したんです。
    でも、いまはあたし、超ラッキーにアイネス様付きになれたんで、これからも侍女としてお仕えしていこうと思っています」
 
 そう語るピアンの目は誇らしげだった。

ピアン「ところでアイネス様。一つお聞きしていいですか?」

アイネス「え、なぁに?」

ピアン「アイネス様は正統なガールドリアの王位継承者ですのに・・・。
     なのに、世継ぎを辞退なさり続けていらっしゃるのは、やっぱり皇子様がいらっしゃるからなのですか?」

アイネス「・・・そうよ。だって本来は義兄様が世継ぎになるはずだったんですもの・・・」

ピアン「アイネス様は・・・お義兄様思いなのですね。
     それにしてもアイネス様がψ太陽系国家の改革宣言の時にお召しになられる衣装を、仮縫いの時に拝見いたしましたけれど・・・、
     もう、とってもおキレイでした!あのお姿で皆の前に立たれる姿を想像するだけで、あたし、もう・・・」

 またもピアンはうっとりとした目でアイネスを見た。

フリッカ「アイネス様。そろそろ行きませんと・・・」

 フリッカもピアンのおしゃべりに付き合うと長くなることを知っているため、頃合を見てアイネスを促した。

アイネス「ええ、そうね。あの・・・ピアン、今急いでるの、だからその話もまた今度ね」

ピアン「えぇーー。またですか・・・。あたし、アイネス様付きの侍女なのに・・・  
     アイネス様は普段はミウィにいらっしゃるので、あんまりお会いすることが出来ませんのに・・・。
     それなのに・・・。
     ピアンは、つまりません!」

 さすがに何度も話を反故にしているため、ピアンはふくれてしまった。

アイネス「ゴメンね、ピアン。今度の事が解決したら、ゆっくり付き合ってあげるから・・・」

ピアン「もー。今度こそ、絶対ですよ!約束ですよ!!」

アイネス「うん、今度こそ絶対に・・・。じゃ、行ってくるわね」

ピアン「はい、いってらっしゃいませ」

 一行は笑顔の戻ったピアンの明るい見送りを受けて出発した。
 
 
 
 

フリッカ「ところでアイネス様。これからどちらに行くつもりなのですか?」

 ジランドル−Tがガールドリアの衛星軌道に乗ったあたりでフリッカが聞いてきた。

アイネス「私・・・ロゴナに行こうと思ってるの」

フリッカ「えっ!?まさか・・・」

 フリッカはてっきりクリンドの捜索をするものと思っていたため、正直驚いていた。

アイネス「説得は無理かもしれないけど、キチンとした説明はして誤解はといておかなくてはならないと思うの・・・」

フリッカ「そうですか・・・」

アイネス「やっぱり・・・ダメ?」

 アイネスは少し不安そうな目をフリッカに向けてきた。

フリッカ「いいえ。アイネス様がお決めになられたことでしたら、どんなことでもあたしは従いますよ」

アイネス「ありがとう、フリッカ。でも私があんまり無茶をするようなら、その時はちゃんと止めてね」

 そう言うアイネスの顔は明るい笑顔になっていた。

フリッカ「はい。そういたします」

アイネス「じゃ、まずミウィに行ってジランドル−TをUに改装しないと」

 アイネスはジランドル−Tの針路をミウィに向けた。
 
 
 
 

 ミウィでジランドル−Uへの改装をすませた一行は、ロゴナへ針路を向けた。
一旦針路を入力してしまえば後は自動操縦でロゴナへ到着するため、今2人と1匹はリビングルームでくつろいでいる。
アイネスは余所行きの格好から普段着になった。
フリッカもボディアーマーを脱いで軽装になっている。
そして棚から1本の酒ビンを取り出し、お互いにグラスを持って注ぎあった。

アイネス「それでは、あらためて・・・。ようこそフリッカ、このジランドルへ!あなたを歓迎します!」

フリッカ「それでは、アイネス様のお望みが、早く叶いますように・・・!」

アイネス&フリッカ「「かんぱぁ〜いっ!!」」

チン

 2人はお酒の入ったグラスを合わせた。

ジエア「ウォォォン、アゥゥルルルルル・・・ウァン、ウォン!」

 その隣ではジエアもお菓子とジュースを貰ってうれしそうにしている。

アイネス「うふふ・・・このジランドルに私以外で乗ったのは、フリッカが3人目なのよ。義兄様とジエア・・・身内以外では、あなたが初めてよ」

フリッカ「光栄です。それで、このお船、アイネス様がご自分で設計なさったと伺っておりますけど・・・?」

アイネス「そう・・・でも、実作業は義兄様にしていただいたの。最新の航宙機関などの情報が、ミウィにいる私にはわからなかったから・・・」

 ここでアイネスはグラスに残っていたお酒の飲み干した。
ちなみにフリッカはこの時点で3杯目を飲んでいる。
彼女は実は酒好きなのだ。
今回も護衛の任務の最中は公費で酒が買えると喜んでいたくらいだ。

フリッカ「最新の・・・って。まだ市場には、‘対慣性機関’が出たばかりで、
     それを応用して宇宙船を飛行機のように扱えるようにした‘自由航法システム’なんて、一般には出回っておりませんよ!」

アイネス「んぅ・・・私ね、ダメなの。
      ミウィから離れても良いという許可がおりてからは、なるべく外へ出かけるようにしているのだけれど、
      その度にカルチャーショックを受けるばかりで・・・。
      ピアンにも、流行っている服装とかは聞いているのだけれど・・・。フリッカも、私にいろいろなことを教えてもらえるかしら?」

 アイネスは少し酔っているのか頬が少し赤くなっている。

フリッカ「はい・・・教えてさしあげます!アイネス様が、ご存知ないことはすべて、このフリッカにお任せください」

 フリッカも酔っているのか気が大きくなっていた。

アイネス「じゃあまず、フリッカ自身のことから教えて」

 アイネスはフリッカの方に身を乗り出して聞いてきた。

フリッカ「えっ、あたしのことですか!?そうですね・・・」

 彼女は少し考えてから話し始めた。

フリッカ「あたしの‘フリッカ’って名前ですけど、このψ太陽系の人々の古代の言語で‘少女’ていう意味なんですよ。
     でも想像してみてください、オバサンになっても、オバ〜サンになっても‘少女’なんですよ!
     だから・・・あたしは、歳を取るのが怖いんです。ウラシマ効果のある時代がうらやましい・・・」

アイネス「そういえば、私のヴァレドープと言う名前は、エヌベルユの巫女様の名前のセカンド・ネームに似ているらしいの。
      先見師様にそう教わったわ。
      それじゃ、私の護衛をする前はどういう仕事をしていたの」

フリッカ「いままでは、コリンヌという相棒と情報の収集と状況の収拾をする‘オペレータ’をやっておりました。
     その頃はあたしたち2人は‘エインデのマリア’と呼ばれていました」

アイネス「‘終末の聖母’たち、という意味?ステキね・・・!」

フリッカ「・・・まあ、そいう事ですね。あはは・・・」

 こうしてアイネスとフリッカはロゴナ到着までの間にすっかり打ち解けていた。
 
 
 
 

 そしてロゴナに到着したアイネス達が王城を訪れると、衛士のメーディ・レギムスがすぐさまやって来た。

メーディ「アイネス・ヴァレドゥープ!よくものこのことやって来れたものですね・・・!!」

 そしてアイネスを睨みつけてきた。
 どうやら彼女はクリンドの失踪をガールドリアの仕業だと思っているようだ。

メーディ「さっさと立ち去らないと・・・どうなっても、知りませんよ。
     ロゴナの国民たちは、ガールドリアに対して反感を抱いておりますからね・・・不意に暴徒が現れても、責任は負えませんから・・・」

 そのためか脅しのような言葉までかけてきた。

アイネス「それは重々承知しております。しかし、どうかドルジオ殿下とお取次ぎ願えないでしょうか?」

 しかしアイネスはそんな脅しには屈せずに頼み込んだ。

メーディ「・・・はぁ。殿下からは、もしヴァレドゥープ様がお越しになったらお通しするように仰せつかっております。付いていらして下さい」

 深く溜息をついたあと、メーディはそれだけ言うと、さっさと後ろを向いて歩き出した。
そのためアイネス達は慌てて彼女の後を追った。

フリッカ「ドルジオ王子はどういうつもりなのでしょうか?まるであたしたちが来ることを見越していたみたいです。
     きっと何か企んでいるに違いありません。アイネス様、十分に注意してください」

 フリッカが道すがら小声で忠告してきた。

アイネス「分かっているわ・・・」

 アイネスも小声で返し、気を引き締めた。
 
 
 
 

 そして案内された会見室にはドルジオ王子と摂政のディアブロがいた。

ドルジオ「これはアイネス様。ようやく従兄殿を解放する準備が出来たのですか?」

 そしてアイネスが口を開くよりも先にこう言ってきた。

アイネス「そんな・・・!聞いてください!それは誤解なのです!」

 しかしそんなアイネスの言葉をかき消すようにディアブロが口を挟んできた。

ディアブロ「とっくに、調べはついておりますよ!
      中央よりの帰国途中に養嗣子様の航宙船を大型航宙艦が捕獲して、そのままガールドリアへ帰還したことは・・・」

アイネス「え・・・」

 それはアイネスには初耳のことだった。
というよりガールドリアにはそんな事実は存在しない。

ディアブロ「挙句のはてに、陽動のためにか衛視たちを走らせて・・・それは、わざとらしいほど秘密裡に、でしたよ。
      消息不明の捜査を装っておりましたが、それであれば、なぜこのロゴナに一報もないのか・・・答えは簡単です。
      偽装誘拐を演じておられるのでしょう?」

フリッカ「な・・・」

 フリッカはディアブロの物言いに言葉を失った。
クリンドの失踪を隠したことが裏目に出てしまったのだ。

ドルジオ「あなたがたのヘタな偽装誘拐を見破ったのも、このディアブロのお手柄です」

 ドルジオはまるで自分のことのように誇らしげに言ってきた。

ディアブロ「しかし、ドルジオ様は温厚なお方ですから・・・今すぐ、養嗣子様を解放なされば、悪いようにはいたしません」

ドルジオ「そうです。さぁ、隠した従兄殿を解放して、その安全を保障するのであれば、ガールドリアとの断交も解除してもいいですよ」

 そう言ってドルジオはアイネスを値踏みするように見てきた。

アイネス(それはすべて誤解なのに・・・。でも誤解は解きたくても、こちらにはソールさんの証言があるだけ・・・どうすれば・・・)

 アイネスはこの危機を乗り切るために頭はフルに働かせたが、妙案は浮かんではこなかった。

フリッカ(ロゴナ側が証拠をつかんでいるとは思えない。しかしあたしたちには不利な状況であることには変らない。ならば!)

 意を決して、フリッカは相手を突ついてみることとした。

フリッカ「そこまで言われるのでしたら何か証拠を掴んでおられるのでしょうね?」

アイネス「フリッカ!?」

ディアブロ「わたしどもが、ハッタリを申しておると言われるのですか?くくくっ・・・それは心外ですね。・・・証人をここへ!」

 ディアブロは薄く笑い、隣の控え室に声をかけた。

カチャ

 控え室の扉が開き、一人の女性が姿を現した。

アイネス「・・・・・・!?」

 その人物を見たアイネスは驚いた。

ディアブロ「ロゴナが探し出した、今回の事件の証人。旧キルティ惑星国家、王女のジェリス・セフィード様です」

 そこにはあのジェリスが三眼猫のネルを抱いて立っていた。

アイネス「ジェリスがキルティの・・・王女!?」

 しかもな意外ことまで聞かされてアイネスは混乱してしまう。

 キルティは、スタリィという二連惑星を伴っているψ太陽系の最外周惑星である。
その二連惑星には豊富にチルテニウムが含まれていることが判明しため、現在ではその2つの惑星は資源星として凍結させられている。

ジエア「ウォン、ウォン、ウオン・・・ガウルル!」

 ジェリスの姿を見た途端、ジエアは唸り声を上げながら、今にも飛びかかりそうに身構えた。

アイネス「ダメよ!ジエア」

ジエア「グルルル・・・」

 アイネスはすぐさまジエアをたしなめたが唸ることだけは止めなかった。

ジェリス「フフン・・・このψ太陽系の主星ガールドリアの皇女様に、こんな場所で出会えるとは光栄ですわね」

ドルジオ「おやおや・・・皇女たちは、顔見知りですか?」

 ドルジオは2人の雰囲気からそう聞いてきたが、

ジェリス「いいえ。初対面ですわ」

 ジェリスはヌケヌケとそう答えた。

アイネス「・・・」

 アイネスは二の句が付けなかった。

フリッカ(おそらくこの者がアイネス様がおっしゃっていたジェリス)

 そんな様子を見ていたフリッカはそう察し、いつでも飛び出せるよう身構えた。

ジェリス「キルティが凍結されて以来、このψ太陽系からは離れておりましたけれど・・・。
     どうにも故郷への懐かしさを拭い切れずにやってきたのです・・・。
     そして偶然に、今回の事件に遭遇したんですわ」

アイネス「そんな・・・、そんなの嘘です!」

 思わずアイネスは声を荒げた。

ジェリス「アハハ・・・まだ、アタシのことを疑っているみたいね。キルティの王女だったということを・・・。。
     でもこれを見ても、まだ信用できないかしら・・・?このψ太陽系の王位継承者に代々受け継がれている、
     この‘世継ぎの証’のバロッキーを見ても・・・」

 そう言って上げたジェリスの右手にはバロッキーが光っていた。

アイネス「・・・まさか!そんなことって・・・」

 アイネスの視線はジェリスの右手のバロッキーに釘付けになった。

ジェリス「どう、アタシがキルティの王女であったことを信じてもらえたかしら?それとも、この‘世継ぎの証’は偽者だと、お思いかしら・・・?」

 バロッキーの装飾に使われているコランダムは、酸化アルミニウムと結合している酸化クロムの割合が絶妙で、
人為的な製造は不可能なモノである。
ジェリスのバロッキーは、そのコランダムの蛍光反応からみて、本物であることに間違いはなかった。

ジェリス「アタシたちの家族は、大地の上では死ねなかったわ。みな心労と病で、宇宙空間で亡くなったのよ!
     アタシは、キルティの第二王女・・・姉姫様が亡くなるときに、このバロッキーを譲り受けたのよ!
     これでアタシが、まぎれもなくキルティの王女であると、分かったでしょう?それともまだ疑っているの?
     それともアタシが、どこかでこのバロッキーを手に入れたとでも・・・?素直じゃない天使って、アタシ嫌いよ」

 そう言うジェリスの目は真剣で、このことに関しては嘘をついている様には思えなかった。

ディアブロ「ジェリス様は、ロゴナへの帰化申請をされたのですが、ドルジオ様は、国賓としての待遇をお与えになられたのです」

ドルジオ「わたしは近い将来にキルティを惑星国家として再建して、ジェリス王女に返してあげるつもりですからね」

 そしてドルジオはとんでもないことを言い出した。

フリッカ「ロゴナの独断で、資源星を解凍することなどできません!
     二連惑星の凍結はψ太陽系連邦の最高議会で決定したことなのですよ!!」

ドルジオ「今はそうですね。でもこの先はどうでしょかね・・・」

フリッカ「それはどういう意味です?」

 しかしドルジオはそれには答えず、アイネスの方に話しかけてきた。

ドルジオ「それより・・・アイネス皇女、アナタはこのψ太陽系にひとつの悲しい物語があったのをご存知ですか?」

アイネス「いいえ・・・それはいったい・・・」

 突然話を変えられてしまい、戸惑いながらも聞き返した。

ドルジオ「それはψ太陽系最外周の二連惑星スタリィとキルティ・・・そのキルティの王女の身に起こった悲劇!
      それを耳にするものたちは、きっと涙するような悲劇の物語・・・。
      この物語を聞けば誰もが私の行動を当然だと思うでしょう」

ジェリス「ψ太陽系連邦の最高議会は、キルティの歴史や文化を無視して、二連惑星の凍結を決定したのよ!
     スタリィだけならば納得できるわよ・・・キルティの領地国ですからね。ψ太陽系連邦の存続のために喜んで提供したわ!
     でも決定は、二連惑星とも・・これが国辱ではなくて、何なのよ!
     父王は、国民たちの前で権威を失い、零落したアタシたちの家族は、受け入れ先であるムルクへの移住も叶わなかった。
     このψ太陽系連に留まることが出来なかったアタシたちは、行き先もなく、このψ太陽系を離れたのよ!
     その時のアタシたちの気持ちがアナタに分かる?温室で育ったアナタに!」

アイネス「・・・」

 アイネスはショックのあまり声を出すことが出来なかった。

フリッカ「二連惑星の凍結は議会で決定したことです。あたしたちが、アナタに恨まれるおぼえなどありません!」

 そんなアイネスの代わりにフリッカが抗議の声を上げた。

ジェリス「何を言っているの!決定を下したのは主星のガールドリアでしょう!
     アタシは憎い!決定を下したガールドリアが・・・」

 そう言うジェリスの瞳には憎悪が渦巻いていた。

ディアブロ「ともかく、ジェリス様が証言してくれた以上、あとは何らかの物的証拠が・・・
      養嗣子様の屍か、その航宙船の残骸でも確認できれば、ガールドリアも罪過を言い逃れできぬでしょう。
      ロゴナとしては、その捜索のためには軍の武力をも行使するつもりです」

アイネス「私が必ず、義兄様を見つけ出します!そして、ガールドリアへの疑いを晴らします!!」

 それを聞いた途端、アイネスは声を張り上げていた。

ディアブロ「やれるものであれば、やってごらんなさい!どうせ、見つかりはしないでしょうけどね」

ドルジオ「そう・・・絶対に、見つけられるハズがない!」

ジェリス「ソルダートの帝王は、いままでアタシを領事として受け入れてくれたわ。
     これもお疑いならば、ソルダートへ言ってごらんなさいな・・・まだ、こことは国交が樹立していないから、連絡しておいてあげるわよ」

 ジェリスたちの笑い声を背に受けながら、アイネスたちは会見室を後にした。
 
 
 
 

フリッカ「ガールドリアから、皇子様が発見されることなどが決してありませんから、ロゴナの疑いもいつかは必ず晴れますよ。
     それにしても、あの摂政や王子の態度が気になります・・・きっと何かを知ってて隠してますよ」

アイネス「・・・」

 城を出た後、フリッカはアイネスに話かけたが、アイネスは何も答えてはくれなかった。

フリッカ(アイネス様・・・)

 2人はそのまま一言も話さずにジランドル−Uに乗って発進した。
 
 
 
 

アイネス「ねぇ、フリッカ・・・」

 ジランドル−Uがロゴナの衛星軌道を離れてからしばらく経ったあたりで、ようやくアイネスが話し掛けてきた。

フリッカ「そんなに沈んだ顔なさって・・・どうなされたのです?」

 ようやくアイネスが話をしてくれたのはうれしかったが、その顔を見ると素直には喜べなかった。

アイネス「もう、義兄様が消息を絶ってから、ずいぶんになるわね・・・。もし、宙空事故だったとしたら・・・生存の可能性は?
      ねぇ、フリッカ・・・正直に言って。あると思う?」

フリッカ「最近の航宙船は、救・生命維持設備が充実しています。
     アイネス様、そんな心配をなさっているのならば、次に巡る場所でも考えていた方がよろしいですよ」

アイネス「でも、このψ太陽系の中で、一隻の快速艇も見つけられないなんて・・・。
      そんなことで、義兄様一人を発見することなど出来るのかしら?」

フリッカ「だって、ソールさんがおっしゃっていた快速艇は、このψ太陽系を訪れているとは限らないのでしょう?
     それに、いまのψ太陽系連邦では、太陽系全域を監視することは不可能ですもの。
     それぞれの惑星が、自星の防宙星域を監視することしか出来ませんからね。まだ希望はありますよ」

アイネス「そうね・・・」

 そしてまた沈黙が訪れる。

アイネス「フリッカは、恋を・・・恋に焦がれたことがある?愛ではないと思うの・・・お父様やお母様を、ジエアを愛しているのとは違うのよ」

 フリッカは少しの間、目を瞑り、そしてしばらくそうした後に話し出した。
      
フリッカ「・・・それは、ある夏の暑い日でした。あたしは、麦藁帽子を被って自転車をこいでいました。
     丘の上までやってくると、あたしの街を一望することが出来て、それは見事な眺めなのです。
     ・・・と突然、風のイタズラによって、あたしの帽子は飛ばされてしまいました。
     あたしは、自転車を降りてそれを追いかけて行くと、誰かの手がそれを拾い上げてくれました。
     それは、ステキな笑顔の男性で、白い歯であたしに微笑むと、帽子をあたしに返してくれました・・・。
     ・・・これが、あたしが9つの時の初恋ですよ」

アイネス「そうなんだ・・・ステキな初恋ね」

フリッカ「それほどのものでもありませんよ」

アイネス「フリッカはそれが恋だと分かったのね。うらやましいわ。私はまだ、はっきりとは分からないんだもの・・・」

フリッカ「アイネス様・・・」

アイネス「私・・・ジェリスに恨まれても、仕方が無いと思うの。二連惑星の凍結を宣言したのは、私のお父様なのだもの」

フリッカ「そんなことはないですよ!凍結は、連邦の議会の採決で決定したことなのですから!!」

アイネス「ねぇ・・・キルティだけでも、解凍するわけにはいかないの?」

フリッカ「そうして・・・どうするのです?いまでは、環境惑星としての機能を停止させた星なのですよ。
     あのジェリス王女に、返還して差し上げるつもりですか?
     ・・・アイネス様、環境惑星というのは、人間が住めるだけではないのですよ。
     清浄な大気があり、自然があって初めて人間が移住することができるのです。
     環境を崩壊させるのは一瞬で出来ても、キルティを再び環境惑星とするためには、また数世紀かかってしまうのですよ」

アイネス「・・・」

 アイネスはフリッカから目をそらして、うつむいてしまう。

フリッカ「アイネス様はおやさし過ぎますよ」

アイネス「そんなこと・・・ない。私だって同じ立場ならば、きっと復讐したいと思うもの。
      そして復讐が済んでから・・・きっと泣くわ。復讐したからといっても、何も戻ってはこないのだもの。何も、救われないのだもの!
      どうしたらいいのか・・・私には分からないわ!」

 アイネスは今にも泣き出しそうな顔で声をあげた。

フリッカ「・・・だから、おやさしいのですよ、アイネス様は。いつまでもそんな風に悩む方でいらっしゃて下さいね」

 フリッカはそんなアイネスを優しく抱きしめて、頭をなでた。

アイネス「フリッカ・・・!?」

フリッカ「あたしだったら、ガールドリアに地殻振動弾でも撃ち込めば、それでおしまい!
     あとは、ステキな彼でも見つければ、すべてを忘れてしまうでしょう。
     そして、あたしがポンポン子供を産んで幸せでいると、ガールドリアの生き残った誰かに復讐されて・・・。
     また、あたしの子供たちが復讐して・・・きっと、そんなところですよ」

アイネス「フリッカったら・・・!」

フリッカ「あたしは、今のアイネス様が大好きですよ」

アイネス「・・・ありがとう、フリッカ」

ジエア「ウォン」

アイネス「ジエアもなの、ありがとう」

 そう言うアイネスの顔には何時しか笑顔が戻っていた。

フリッカ「さぁ・・・グズグしてはいられませんわ。クリンド様の捜索を続行しましょう!」

 フリッカはコブシを振り上げた。

アイネス「はい!・・・でも・・・いったい、いつになったら‘渡り星’の方とも出会えるのかしら?
      ・・・‘Επιβραδυνω’こんな呪文で、本当に‘渡り星’と出会えるのかしら?」

フリッカ「先身師様がおっしゃっていたものですもの・・・必ず出会えますわよ。それとも、聖地エヌベルユの巫女様のこともお疑いですか?」

 その時ジランドル−Uのレーダーが高速で接近する物体を捕らえた。

アイネス「何かしら?」

 レーダーの観測結果を見てみるとそこには、

フリッカ「前長170メートル!!、最大幅160メートルですって!!これって・・・」

 巨大な物体が光速に近い速度で近づいてきていることが表示されていた。

アイネス「もしかして・・・‘渡り星’!?」
 

つづく





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