第6話 : アイネスの決意
フリッカ「さて、ジエア。これから何処へ行けばいいの?」
ジエア『え?何のこと?』
ジエアは不思議そうな顔をしながら聞き返した。
フリッカ「クリンド様の居場所よ。何処にいるの?」
ジエア『そんなの知らないよ。どうしてそんなこと聞くのさ?』
フリッカ「知らないって・・・。アナタ、アイネス様の望みを叶える手助けが出来るようになったんでしょ。
だったら、クリンド様の行方も分かるようになったんじゃないの?」
ジエア『そんなのわかんないよ。だって今はまだ自分のPsi能力をすべて把握していないんだもん』
フリッカ「もぉ・・・それじゃあ何の役にもたたないじゃない・・・」
フリッカはそう言ったが、実際はジエアにそれほど期待はしていなかった。
ジエア『悪かったね。役立たずで・・・』
ジエアはむくれてソッポをむいてしまった。
フリッカ「ふぅ・・・。アイネス様、これからどうします?」
フリッカは溜息を一つついた後、アイネスに問い掛けた。
アイネス「そうね・・・。ソルダートへ行ってみるのはどうかしら」
アイネスは少し思案した後、そう答えた。
フリッカ「ソルダートですか?しかしψ太陽系外のあの国が、今回のことに関わっているとは考えにくいのですが」
フリッカにはアイネスの意図が分からず聞き返した。
アイネス「そうね。でも、私たちがロゴナを訪れた時にジェリスが言ったわ。
‘ソルダートの帝王は、アタシを領事として受け入れてくれた。
これもお疑いならば、ソルダートへ言ってごらんなさいな’って」
フリッカ「たしかに、そんなことも言っていましたね。でもそんなことを確かめるためだけにψ太陽系外まで行くのですか?」
アイネス「そうなんだけど・・・。でも気になってたことがあるの。
なぜジェリスは私たちの去りぎわにそんな言ったのかしら?
もしかしたらジェリスは私たちにソルダートで何か見せたいもの、
もしくは何か知らせたいことがあって、あんなこと言ったんじゃないかしら。
と、私はそう思ったんだけど・・・」
アイネスのセリフの最後のほうは、自信なさげに小さくなっていた。
ジエア『そうかな?アイネスの考えすぎじゃないの』
ジエアはあっさりと否定してきた。
アイネス「ダメ・・・かな?」
アイネスは上目づかいで2人に聞いた。
フリッカ「いいえ。アイネス様がそこまで考えて言われたことですから、反対する理由なんてありませんよ」
ジエア『ボクもかまわないよ』
さっきはあっさり否定していたのに、今ではすでに肯定派なジエアだった。
アイネス「ありがとう、2人とも」
自信なさげだったアイネスの顔に笑顔が戻ってきた。
フリッカ「では、ひとまずミウィに戻りましょう。ψ太陽系外にはジランドル−Uでは行けませんからね」
こうして一行はソルダートへ向かうため、ミウィに戻ることとなった。
機械仕掛けさん「おかえり、アイネス」
ミウィに戻った一行を機械仕掛けさんと球が出迎えに来てくれた。
アイネス「ただいま、機械仕掛けさん。でもまたすぐに出かけるの。だからジランドルをVに改装してくれない?」
機械仕掛けさん「なんじゃ、今度はψ太陽系外まで行くのか」
アイネス「うん。ソルダートまで行くの」
機械仕掛けさん「あそこは軍事国家だぞ。そんな危険なとこにまで・・・。あまり無茶はするでないぞ」
アイネス「うん。分かってるわ」
機械仕掛けさん「ならいい。ではジランドルをVに改装してやろう」
アイネス「ありがとう、機械仕掛けさん」
機械仕掛けさん「それとフリッカ。頼まれていたこと、調べておいたぞ」
フリッカ「そうか、ありがとう。さっそく聞かせてちょうだい」
アイネス「フリッカ。機械仕掛けさんに何を頼んでいたの?」
フリッカ「キルティの凍結の件です。アイネス様がずいぶん気にしておられましたからね」
アイネス「そうなの・・・。ありがとうフリッカ」
アイネスはフリッカのそうした気遣いがうれしかった。
と、同時にそんなに心配をかけてしまっていた事が恥ずかしかった。
機械仕掛けさん「確かにキルティを資材星として凍結させるという宣言は、ガールドリアのケイゼルの国皇様が行ったことではあるが、
その案を議会に提出したのは、ドルジオ王子の父、クリンド様の叔父上のしたことなのだ」
アイネス「えっ!」
意外な事実にアイネスは驚きの声をあげた。
ジエア『それじゃあ、なんでジェリスはロゴナにいるんだろ?』
アイネス「このことを知らないのかしら・・・?」
アイネスとジエアは同時に首をひねった。
フリッカ「それは分かりませんけど・・・」
アイネス「このことを知らせれてあげれば・・・。少なくともガールドリアへの復讐心は和らげることが出来るかもしれないわ!」
アイネスはうれしそうな顔をして手を打った。
ジエア『なぁんだ、ジェリスの勘違いだったのか』
ジエアもアイネスと同様に浮かれた声をあげている。
フリッカ(そう、うまくゆけば良いのだが・・・)
しかしフリッカは2人のような気楽な考えは出来なかった。
フリッカ「ともかく、そのあたりの事もソルダートで何か分かるかもしれませんね」
ジエア『そうだとすると、アイネスの考えたソルダート行きって、案外、的外れでもないのかもしれないね』
機械仕掛けさん「ジランドルの改装が終わったぞ」
機械仕掛けさんから声がかけられ、そして目をジランドルに向けてみると、
ジランドルは改装を終えて、ψ太陽系外航行用のジランドル−Vになっていた。
アイネス「ありがとう機械仕掛けさん」
機械仕掛けさん「なぁに、これぐらい、どおってことないわい。
ところでアイネス、さっきからジエアが言葉をしゃべっとるようだが、こりゃどういうことだ?」
ジエア『えっへん!スゴイだろ!』
ジエアは胸を張って、反り返ってみせた。
アイネス「実は私たち、‘渡り星’と出会ったの」
アイネスは少し興奮気味に事情を説明しだした。
機械仕掛けさん「ほぅ、ついに出会えたのか」
アイネス「そうしたら‘渡り星’にはジエアと同じ一角狼がいて、あっ、名前はユオンっていうんだけど。
そのユオンがジエアを話せるようにしてくれたの」
機械仕掛けさん「そうだったのか。で、クリンド様の行方の方はどうだった」
アイネス「それは・・・まだ・・・」
さっきまで楽しそうに話していたアイネスの顔が途端に曇ってしまった。
機械仕掛けさん「そうか・・・。でも気を落とすでないぞ、きっとアイネスなら見つけだせるわい」
そんなアイネスを機械仕掛けさんは優しく励ました。
アイネス「うん・・・」
フリッカ「アイネス様、そろそろ出発いたしましょうか?」
アイネス「そうね。じゃ、機械仕掛けさん、行ってきます」
機械仕掛けさん「ああ、気をつけるんじゃぞ」
ジエア『ボクがついているから大丈夫だよ』
ジエアは自信満々な顔をして言ってきた。
機械仕掛けさん「ホントにそうだといいんじゃがな。フリッカ、アイネスのこと頼んだぞ」
しかしジエアは機械仕掛けさんに、いまいち信用されていなかった。
フリッカ「アイネス様はアタシの命にかけてお守りますから大丈夫ですよ」
ジエア『ボクだって命がけで守るよ!』
アイネス「ありがとう、2人とも。でも命は大事にしてね」
そして一行はジランドル−Vに乗り込み、ソルダートを目指してψ太陽系を後にした。
外宇宙の空間を渡り、一行は無事ソルダートに到着した。
ソルダートは銀河系連邦の中でも、もっとも勢力のある軍事国家である。
不定期に開かれるブラック・マーケッットでは、禁制軍需品を売りさばいていたりもしているとか、色々ウワサが絶えない国でもある。
一行は、さっそくソルダートの宮殿を訪れると、
何故か不自然に露出度の高いボディアーマーを着けた、色気漂う美女が出迎えに出てきた。
ナイーダ「初めまして、アイネス様。ワタシはナイーダ・ローザ。この宮殿で近衛士を務めてるの。
ジェリスからは連絡を受けているから、帝王様の所へ案内してあげますね」
そう軽い口調で言うと、一行を宮殿内に案内してくれた。
その歩く姿も色気たっぷりで、紹介を受けずに、ただその姿を見ただけではとても近衛士だと分からなかったであろう。
アイネス(ひょっとして、色気が武器の生体兵器!・・・ってことはないわよね)
ナイーダの後ろ姿を見ていると、そんなことを考えてしまうアイネスだった。
それからしばらく宮殿の中を歩くと、一行は控え室に案内された。
ナイーダ「それじゃあ、この部屋でしばらくお待ちになってね。隣室が謁見室だから・・・ワタシは、ご様子を伺ってくるわね」
そして部屋に一行を残してナイーダは出ていった。
ジエア『アイネス、この部屋の空気はボクたちを威圧しているみたいだ!注意しておいた方がいいよ』
アイネスが部屋にある椅子に座ると、すぐにジエアが寄ってきて、そう忠告してきた。
アイネス「ジエア!アナタそんなことが分かるようになったの?」
ジエア『うん。人が考えていることも、少しなら読めるようになってきたし』
アイネス「すごーい、ジエア!」
ジエア『えっへん』
アイネスに誉められて、ジエアは得意そうに胸をはった。
フリッカ「げっ(考えてることが読まれるのか・・・)」
しかしフリッカはイヤそうな顔をした。
ジエア『なんだよ、その‘げっ’っていうのは』
フリッカ「いや・・・、だって変なこと考えられないし、あんまりいい気はしないかなって・・・」
ジエア『時と場所はわきまえて使ってるから、普段は読んだりしてないよ。失礼だなぁ』
ジエアは不機嫌そうな顔でフリッカを睨んだ。
アイネス「フリッカ・・・」
アイネスもフリッカを非難の目で見ている。
フリッカ「うっ・・・ゴメンなさい・・・」
フリッカは2人の視線に耐えられなくなり、ジエアに素直に誤った。
ジエア『うん』
ジエアは満足そうにうなずいた。
アイネス「ところでナイーダさんって綺麗な人よね」
アイネスは場の雰囲気を変えるため、違う話題をふってみた。
アイネス「以前会ったパルシアさんも綺麗な人だったし、ソルダートの女性って何か綺麗になる秘訣でも持っているのかしら」
フリッカ「パルシアって誰ですか?」
聞きなれない名前がでてきて気になったフリッカはアイネスに尋ねた。
アイネス「あっ、フリッカは知らなかったわね。ソールさんの所へ話を聞きに行く時に宇宙港で会った人なんだけど、
ソルダートからシャトル港の案内嬢の実技研修来ていたらしいの。その人もとっても綺麗な人だったの」
フリッカ「えっ、おかしくはないですか。ソルダートがスペース・ターミナル・サービスを受け入れたなんて話、アタシは知りませんよ」
アイネス「まだソルダートは加入したばかりだからフリッカが知らないだけじゃないの」
フリッカ「オペレータをしていたアタシの耳に、その手の情報が入ってこないはずがありませんよ。
・・・怪しいですね、そのパルシアって女」
フリッカは顎に手をあてて、考えるポーズをとった。
アイネス「そうかしら?私たちにずいぶん親切にしてくれたけど・・・」
フリッカ「甘いですよ、アイネス様!その手の怪しい人間ってのは最初は優しく顔で接触してくるんです!」
フリッカはアイネスにビシッっと指を突きつけて言った。
アイネス「そうなの・・・でもあんまり人を疑うのもどうかと思うけど・・・」
アイネスはフリッカの勢いに少したじろいだ。
ジエア『ねぇ、それよりずいぶん待たされてない?』
そんな2人にジエアは退屈そうに声をかけてきた。
アイネス「そう言えば、そうね。この部屋に来てから結構時間が経っているわ」
アイネスは部屋に備え付けてある時計を見ながら言った。
ジエア『お茶菓子も出さずに客を待たせるなんて、どういうつもりだろ!』
フリッカ「いや、そこは問題ではないぞ」
アイネス「ねぇ、ジエア・・・あなたに、謁見室の様子を知ることは出来ないのかしら?」
ジエア『ボクには、どうやらクレヴォヤンスは発現しないみたい。
それにテレパシィで‘心声’を聞くには、見えるところにいる人じゃなければダメなんだよ。
だってボク、エスパーじゃないもん!』
アイネス「そうなんだ。残念・・・」
フリッカ「それにしてもいつまで待たせるつもりでしょう。ちょっと謁見室を覗いてみましょうか?」
アイネス「ダメよフリッカ。それに私たちは、辺境のψ太陽系から来たのだもの。待たされたとしても、仕方がないわよ・・・」
アイネスは寂しそうな、悔しそうな、ちょっと複雑な表情をしていた。
フリッカ「何をイジケていらっしゃるのです、アイネス様!そんなアイネス様はアタシは嫌いですよ」
アイネス「ごめんなさいフリッカ。でも、もう少し待ってみましょうよ。ねっ」
フリッカ「分かりました。アイネス様がそうおっしゃるなら、もう少しだけ待つことにいたします」
しかしいつまで待っても、お呼びの声はかからなかった。
フリッカ「もう我慢出来ません!アタシ抗議に行ってきます!!」
我慢の限界にきたのか、フリッカが椅子から立ち上がり、謁見室への扉に手をかけた。
アイネス「あっ、フリッカ!?」
アイネスはすぐさまフリッカを止めようとした。
しかしそれより早くフリッカは扉を開けていた。
フリッカ「ガールドリアの第一王女様を、いつまで待たせるおつもりか!?」
フリッカは扉を開けると同時に抗議の声を張り上げた。
しかしそこには意外な光景がひろがっていた。
アイネス「あっ・・・ナ、ナイーダさん?」
そこには玉座の左右に裸の女性をはべらせている、禿頭で口髭と顎髭をはやした老人の姿があった。
しかもその女性の内の一人は、先ほど一行を案内してきたナイーダだった。
アイネスはその光景に戸惑いの色を隠せない。
フリッカ「この有様は、いったい・・・?」
困惑したのはフリッカも同じであったが、さすがに動揺を表に出すようなことはなかった。
老人「このソルダートは、わしの国・・・何をしようが、構わぬであろう」
老人はナイーダを抱き寄せながら、そう言ってきた。
アイネス「あなたが、この国の帝王・・・!?」
そう言われてもアイネスには俄かには信じられなかった。
どうしても帝王という肩書きと目の前の老人が繋がらなかったからだ。
オゼロ「そう・・・わしが、このソルダートの帝王、オゼロ・ハボルトだ」
アイネス「初めましてソルダート帝王。私はψ太陽系第二惑星ガールドリア皇国第一王女アイネス・ヴァレドゥープです」
アイネスは礼儀に従い、オゼロの前で片膝をついた。
フリッカもその斜め後ろで同様に膝をつく。内心ではこんな男の前では膝など折りたくはなかったが。
ジエアもおとなしくアイネスの横で座る。
オゼロ「ほう・・・。お前が‘生命ある宝石’か。噂は辺境の地からこの地まで届いておる。
どうだな、わしだけの宝石箱におさまる気はないかね?大切に扱ってやるぞ」
オゼロは好色そうな目で、アイネスを嘗め回すように見た。
アイネス「そんな御戯れを・・・。それに今日はそのような用件で参ったのではありませんので」
アイネスは身に悪寒を感じながらも丁重に断り、早く本題をきりだそうとした。
オゼロ「ふむ。別に戯れで言ったわけではないのだがな・・・。まぁよい。で、何用で来たのだ」
アイネス「はい、実はキルティの王女、ジェリス・セフィードが以前、この国の領事として受け入れられていたとお聞きました。
それで、どうか彼女のことについてお教え頂く事は出来ませんでしょうか?」
オゼロ「・・・ジェリス?チッ・・・あんな小娘のことなど知らんね。
Psi能力を身につけてから、急に態度をでかくしおって・・・まったくもって、忌々しい小娘だ!!」
オゼロはジェリスの名を聞くと、途端に不機嫌になり、吐き捨てるように言った。
アイネス「あの・・・ジェリスはここでどのように暮らしていたのですか?」
オゼロ「ふん!あんな小娘の話よりもどうだ・・・。悪いようにはせんから・・・2人ともわしのモノになってみる気はないかね?
そうだな特別に、惑星をひとつ買って上げよう・・・そこに住めばよいだろう。わしがそこへ寄るのは、1週間に1度程度だ。
分かれる時には、その惑星の権利をお前たちのものにしてもよいぞ・・・。
プシーだかプッシーだかの辺境の太陽系連邦の一国の皇女よりも、贅沢させてやるぞ」
オゼロが再び好色そうな目を、今度はアイネスとフリッカの2人に向けて来た。
フリッカ(このエロジジイ!)
オゼロのあまりに無礼な物言いに、おもわずフリッカは立ちあがって抗議の声を上げようとした。
しかしそれより先に、その場に良く通る声がこだました。
ジェリス「帝王、アナタは骨董品でも集めていればいいのよ。
それに・・・その娘たちは、アタシのお客様なのよ。手をつけないで頂戴!」
見ると何時の間にか謁見の間の入り口にネルを抱いたジェリスが立っていた。
オゼロ「クッ・・・ジェ、ジェリス!」
オゼロはジェリスの顔を見ると、苦々しそうな顔をした。
ジエア『えっ、何で?』
アイネス「ジェリス・・・どうして、ここに!?」
アイネスは意外な人物の出現に驚愕の表情を浮かべている。
ジェリス「あらっ、いけない?ここは・・・アタシの国なのよ」
アイネス「ここが、あなたの・・・国?」
ジェリス「ねえ・・・帝王オゼロ、そうでしょう?」
オゼロ「・・・ジェリス!貴様・・・!!」
オゼロは目をむいてジェリスを睨みつけた。
ジェリス「クスクス・・・そんな怖い顔をしなくても大丈夫よ。アタシは国家なんてモノを欲しいわけではないもの。
アタシが、欲しいのはこの国の力・・・この国の軍事力だけだもの」
オゼロ「クッ・・・貴様の勝手には、させんぞ!」
ジェリス「フンッ・・・もとはといえば、アナタが仕掛けたことでしょう!
なにが・・・領事の資格を与えてやるよ!幼かったアタシの身体を自由に弄ぶことと引き換えだったじゃない!!
・・・アタシは、死ぬつもりだったわ。アタシは、あの後すぐに衛星間シャトルに乗り込んで、この国を離れたの。
そして、そのまま外宇宙まで行って燃料の続くかぎり加速したわ。
あとは慣性航行で無限に漂っているか、宇宙塵に衝突するか、引力に引き寄せられて恒星で蒸発するか・・・そうなるはずだった。
でも・・・アタシは死ななかった。そして、死ぬ代わりにPsi能力を身につけたのよ!
アナタは、忘れたのではないでしょうね?なんなら、もう一度誰かさんを使って、実演して上げてもいいのよ・・・。
頭を、砕けた果実みたいにバラバラにしてあげてもね」
オゼロ「う・・・うむ」
今度はオゼロがジェリスに睨まれて、顔中に脂汗をかいた。
ジェリス「アナタには、ちゃんと後でご褒美を上げるのだから、約束通りにアタシの言うことを聞いていればいいのよ」
オゼロ「わっ・・・わかった」
オゼロはカクカクと首を縦に振った。
フリッカ「分かりませんね・・・!それと・・・アイネス様と、どんな関係がある!?」
フリッカは腰からライトサーベルを引き抜き、1歩前に出てアイネスを後ろにかばった。
そしてジェリスにライトサーベル向けながら問いただした。
ジェリス「あらあら、アナタもおバカさんねぇ・・・分からないの?
ψ太陽系の主星ガールドリアが、従星キルティを凍結しなければ、こんな風にはならなかったんじゃない!」
フリッカ「それでは、言わせていただく!あの最外周二連惑星凍結の提案をしたのは、ロゴナのドルジオ王子の父君であり、
ガールドリアは連邦議会の議長として、採決しただけのこと・・・アイネス様を恨むのは、筋違いだ!」
ジェリス「・・・だから、どうだっていうの?勇ましい衛士さんは、どうやらアタシのしていることが、分かっていないみたいね。
凍結を提案したロゴナも憎ければ、それを採決したガールドリアも憎い・・・。
アタシたちの家族を迫害した、キルティですら憎んでいるわよ!
アナタには、この男がアタシにおびえているのが、分からない?
アタシが、そこにお姫様だけを恨んでいるのならば、七年前に殺しているわ」
フリッカ「それでは、いったい何をたくらんでいる?」
ジェリス「まぁ・・・人聞きの悪いこと。あたしは、ここにいるでしょう。
一生懸命に何かをたくらんでいるのは、あのオマヌな王子の方じゃないの?」
アタシ・・・アナタに、決めさせて上げようと思ってね。
アタシみたいにひとり残されるか、それとも、皆と一緒に逝きたいのか。
こんなことが、選択できるなんて・・・・アナタは幸せだわよ。
フフフ・・・この間は、そっちの一角狼クンに油断したからね。こんどはちゃんと気をつけるわ」
アイネス「あなたは・・・可哀想なひとだわ。
・・・私は、どちらも選ばない。
きっとあなたのしようとしている事をやめさせてみせる!」
アイネスはまっすぐジェリスの目を見て宣言した。
ジェリス「クスクス・・・大きくなったのね。もう、アタシの知っている天使さんではないみたいだわ。
それじゃあ、結果がどうなっても怒らないでね・・・約束よ。
・・・そのかわりに、この場では何もしないのを、アタシも約束する。
さぁ、行っていいわよ・・・先にお行きなさい」
そう言ってジェリスは3人のために入り口の前から身をどかした。
アイネス「・・・行きましょうフリッカ、ジエア」
アイネスは2人を促して真っ直ぐ入り口に向かった。
フリッカ「はい・・・」
ジエア『うん』
フリッカはライトサーベルを腰に戻し、ジエアはジェリスから注意をそらさず、謁見室を出ていった。
謁見室を出ると、何時の間に外に出ていたのか、ボディアーマーをキチンと着こんだナイーダがいた。
アイネス「ナイーダさん!?」
フリッカ「何時の間に外に・・・」
ジエア『服もちゃんと着てるし・・・』
ナイーダ「宮殿の外まで送りますね」
アイネス「あっ、はい・・・ありがとうございます」
一行はナイーダの案内で宮殿から外へ出た。
ナイーダ「ごめんなさいね。あんな腰抜けの好色ジジイでもこの国の帝王なのよ。気を悪くしないでね」
アイネス「えっ、あっ、はいっ」
あまりに近衛士らしくないセリフを聞き、一瞬言葉を失ってしまうアイネス。
ナイーダ「それにしてもジェリスの奴・・・。あの娘にPsi能力がなけりゃあ、あんなにデカイ顔させないんだけどな!」
ナイーダは悔しそうに呟いた。
呟いたわりには、その声は大きくて、3人にもはっきり聞こえていたが。
フリッカ「ところでナイーダさん。お聞きしたいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」
ナイーダ「えっ、なぁに?」
ナイーダは思考を止めて、フリッカに向き直った。
フリッカ「このソルダートがスペース・ターミナル・サービスを受け入れたという話を聞いたのですが、本当でしょうか?」
ナイーダ「ううん。そんなことしてないわよ。何処でそんな話聞いたの?」
アイネス「えっ、どういうことだろう・・・。やっぱりパルシアさんは嘘をついていたのかしら・・・でも何のために?」
ナイーダ「あれっ!アナタたちパルシアと会ったの?彼女元気してた?あの娘はワタシと違って監査官だから、めったに会えないのよね。
また誰かのお目付け役でも、やっているのかしら?」
フリッカ「監査官?お目付け役!?」
ナイーダ「えっ・・・あっ・・・ひょっとして、ワタシ・・・今余計なこと言っちゃった?
あはははは・・・、今言ったことは聞かなかったことにしておいて、お願い!
それじゃあワタシはこれで!またねーーー」
そう言うとナイーダは宮殿の中へ全速力で戻って行った。
ジエア『おもしろい人だね、あのナイーダって人』
アイネス「そうね」
フリッカ「それよりも、パルシアって女のことですよ。アイネス様、他に何か彼女について思い出せることはありませんか?」
アイネス「そうね・・・・・・。あっ、そういえば、彼女の友だちの名前がたしかジェリスって!」
フリッカ「ええっ!!」
意外なところから意外な事実が飛び出してきた。
ジエア『あっ、そう言えば、そんなこと言ってたかな?』
アイネス「しかも、その友だちのジェリスの快速艇に乗って港まで来たって・・・」
フリッカ「これでほぼ決まりましたね。パルシアはジェリスの仲間です。
しかも、どうやらクリンド様の失踪にはジェリスが深く関わっていますね」
アイネス「クリンド兄様がジェリスに・・・」
ジエア『アイネス・・・』
ジエアは心配そうにアイネスに擦り寄った。
アイネス「ジエア・・・心配しないで、わたしは大丈夫。
それにジェリスがクリンド兄様を使って何かを企んでいたとしても、彼女の思い通りになんて絶対にさせないから!」
つづく