ドラゴンアイズ ノベル
 

 第8話 : エヌベルユの巫女
 

レリア「・・・やっと、謁見が終わったのね」

 一行が官邸から出てくると、そこにはレリアが待っていた。

レリア「・・・アナタたちが、羨ましいわ」

 そして寂しそうな顔でそう呟いた。
 しかし一行の誰もその表情の意味が分からなかった。

レリア「アナタたちは謁見を申しこんで、閣下にお時間がありさえすれば、閣下にお会いすることが出来るのだものね・・・」

アイネス「・・・衛師さん?」

レリア「あたしなんか、閣下のお側にいたいがためだけに、ここの衛師となったのよ!
     そのためだけに、学科だって実技だって、μ―ミュウ―太陽系で一番にもなったというのに!
     こんなにお側にいるのに・・・閣下にお会いするには、一番遠くにいるんだわ」

 今のレリアは初対面の時の厳しさが見えず、まるで別人にようだった。
 そして一行にもようやくレリアの気持ちが分かった。

ジエア『レリアさんは、元首のことが好きなんだ・・・ボクが、アイネスのことを好きなのと一緒だね』

 本当は一緒ではなく、レリアのものはもっと深いのだが、今のジエアではそこまで理解はできない。

アイネス(私も、衛師さんのように出来るかしら?報われることがないのが分かっていても、それでもなお思いつづけるなんて・・・。
      でも、出来なければ、出来るようにならなければいけないのだわ)

レリア「・・・これから、閣下は銀河系の連邦国家を巡察に行かれるのだけれど、あたしもその護衛としてお供するの。
     だから・・・しばらくこのユアラナス星は、閉鎖することになるわよ」

 そう言うレリアの顔は初めて会った時のものに戻りつつあった。

フリッカ「閣下がお出かけになるのであれば、もう中央に来ることができませんね」

アイネス「そうね。それでは衛師さん、私たちはそろそろ参ります。旅の御武運をお祈りいたします」

レリア「ありがとう、そちらもね」

 レリアはこの時初めて笑顔を見せてくれた。

アイネス「はい」
 
 
 
 

 一行はジランドル−Vに戻ると、ユアラナス星から離脱し、一路聖地エヌベルユを目指した。

アイネス(義兄様・・・どうか、ご無事でいてください。
      ψ太陽連邦での内紛を治めるのも太陽系国家への改革にも儀兄様の存在が必要なんですから・・・。
      それに、何より私が義兄様必要としているのですもの)

フリッカ「あたしたち、聖地エヌベルユを訪れることが出来るのですね!
     なんだか、うれしいような・・・それでいて、恐いような気がしますね」

アイネス「そうね・・・。先見師様が修行なさっていたという、聖地エヌベルユ・・・私はそこへ行くことができるのだわ!」

ジエア『どんなところなのかな?わくわくするね』

 一行はその間様々な思いを胸に抱いていた。
 
 

 そして聖地エヌベルユの衛星軌道上に到着すると、簡単に惑星を調査をしてみた。
 すると、聖地エヌベルユは赤道半径が3397kmの惑星であることが判明した。
 そして聖殿のような建物が発見された。
 一行はまずそこを目指して降下することにした。
 
 
 
 

 その場所は、いくら見渡しても建造物は目の間の聖殿しか見えなかった。

フリッカ「ここが、聖地なのですね。あたしたちの信仰の発祥の地・・・。でも・・・どういう訳なのでしょう。
     空気だって美味しいし、空だってガールドリアとは比べられないほど澄んでいるのですけどね・・・。
     なんだか、終わってしまった星みたいな気がするのは、あたしだけでしょうか?」

ジエア『アイネス・・・とうとうボクたち、聖地へやって来たんだね!でも・・・なんだか、ここの空気は悲しいんだ。なんでだろ?』

 フリッカとジエアは不思議そうにあたりをきょろきょろと見渡していた。
 アイネスも二人とは別に不思議な気持ちになっていた。

アイネス(なぜかしら・・・なんだか‘帰って来た’っていう気がするわ)

 そんな時、聖殿から1人の女性が出て来た。
 聖地エヌベルユの司祭の格好をした
 きっと、こいう女性は、物を食べたりなんかしないし、トイレに行ったりしなくても生きていける
 と、思わせるような美麗な女性であった。

アイネス「ア、アナタがエヌベルユの巫女様ですか?」

シャヌレット「いいえ、違います。私はこの聖地エヌベルユの司祭でシャヌレット・ヨムフルと申します。
        スヴェティ様のすべてのお世話をして差し上げている者です」

アイネス「あっ、すみません」

 アイネスは彼女の持つ雰囲気からてっきりエヌベルユの巫女だと勘違いしてしまっていた。
 早とちりをした恥ずかしさで思わず頬が赤くなってくる。

アイネス「初めまして、私はψ太陽系第二惑星ガールドリアの皇女、アイネス・ヴァレドゥープと申します」

 気を取り直してアイネスがそう自己紹介をすると、シャヌレットは少しうれしそうな顔になった。

シャヌレット「エテルナから呪文を教えてもらったのは、あなたなのでしょう?
        あなたが唱えた呪文をお聞きになったスヴェティ様は、声を立ててお笑いになって・・・そんなことは、何十年ぶりかぐらいですよ。
        そんなスヴェティ様をお見かけしたのは」

フリッカ「それではエヌベルユの巫女様はここにいらっしゃるのですか?」

シャヌレット「はい、この聖星殿の中にいらっしゃいますよ。
        この惑星に暮らしているのは・・・いまでは、わたくしと巫女スヴェティ様だけですからね」

アイネス(こんな場所に、シャヌレット様とお二人で暮らしていらっしゃるなんて、お寂しくないのかしらね?
      ・・・でも、私もジエアとミウィで暮らしていたけれど、そんなには寂しくなかったわね)

 シャヌレットの話を聞いて、少し昔を思い出したアイネスだった。

アイネス「あの・・・でしたら少しエヌベルユの巫女様のことをお教え願えませんでしょうか?」

 アイネスは本人に会う前の心積もりもため、シャヌレットに尋ねた。

シャヌレット「よろしいですよ。まずは・・・スヴェティ様のお生まれから・・・。スヴェティ様はこの地でお誕生になされました」

フリッカ「えっ?地球生まれではないのですか?」

シャヌレット「はい、違います。この聖地エヌベルユでお誕生されております。
        今、聖地と言いましたが、ここは正確には聖地に一番近い場所なのですけれど。
        スヴェティ様は、巫女となった瞬間に1つの未来を知ってしまったそうです。
        はたして、それは変えられるものなのか、不変のものなのか・・・つねに、そのことを模索なさっているのです。
        そして スヴェティ様は、この世で最も十全に近いお方です」

アイネス「シャヌレット様も何か特別な力を持っているのですか?」

シャヌレット「いいえ。わたくしには、スヴェティ様のように特別なお力はありませんよ」

アイネス(と、いうことは、やはりジェリスにPsi能力は授けたのは巫女様なのかしら。
      巫女様は・・・ジェリスが、ネオミック閣下のもとから逃げ出して、Psi能力を悪用することだって、ご存知だったはずでしょうに・・・。
      なのになぜ、ジェリスにPsi能力をお与えになったのかしら?)

シャヌレット「質問はそろそろよろしいですか?」

アイネス「はい、ありがとうございました」

シャヌレット「では、どうぞ・・・スヴェティ様がお待ちかねですわ」

 一行はシャヌレットの案内のもと、いよいよエヌベルユの巫女と対面することとなった。
 
 
 
 

 一行が案内されたのは石灰岩の結晶岩石造りの立派な謁告の間と呼ばれる場所だった。
 そこには巫女装束に身を包んだ、長くて美しい青髪の、見た感じでは、年齢が十六歳前後の女性が立っていた。
 見た目だけならアイネスよりも年下に見える。
 しかし今までの経験上、見た目程度では皆驚かなくなっていた。

アイネス「・・・巫女様?聖地エヌベルユの巫女様・・・!?」

スヴェティ「いかにも・・・わたしが、スヴェティ・ドゥープです」

アイネス「お初にお目にかかります。私は、ψ太陽系第二惑星ガールドリアの第一皇女、アイネス・ヴァレドゥープと申します」

フリッカ「同じく、ガールドリアの衛士、フリッカ・ヴェイクと申します」

ジエア『巫女様、ジエアだよ』

スヴェティ「・・・ようこそ、このエヌベルユへいらっしゃいました」

アイネス「あ・・・あのう、ネオミック閣下からのご伝言です。‘わたしを、早く逝かせて欲しい’とのことでした」

スヴェティ「まぁ・・・いつまでもわがままで、困った方ですねぇ」

アイネス(巫女様と、ネオミック閣下はどんな関係なのかしら?閣下の‘早く逝かせて欲しい’という伝言・・・あれは、御戯れなのかしらね?)

 アイネスはスヴェティの反応がやわらかなものであったため、そう思った。

アイネス(でも、あの閣下が、巫女様には子供扱いされているみたいで、おかしいわね)

ジエア『アイネス‥‥巫女様は元首と同じで、ボクには良く判らないんだけれど、ちっとも恐い感じがしないよ』

フリッカ「このお方が、あたしたちの信仰の対象になっている、エヌベルユの巫女様なのですね」

 ジエアとフリッカもスヴェティのおだやかな雰囲気に少し緊張を解いていた。

スヴェティ「さて、どのようなご用件でわたしに会いに来てくださったのでしょうか?
       わたしの‘意識’は、いまはここにはありません。
       ですから、どうしたのかを話して下さらなくては、わたしには判りませんわ」

 アイネスは少し考えた後、口を開いた。

アイネス「はい・・・では、始めに‥‥私の義兄様が、消息不明になってしまったのです。
      義兄様の消息不明、それはガールドリアとロゴナの国家間に亀裂をつくり、
      いまではψ太陽系‥‥この銀河系の危機にまで発展してしまったのです。
      それには‥‥すべて、巫女様が‘力’をお与えになったという、ジェリスが関係しているのです!
      巫女様‥‥私に、どうぞ‘力’を授けて下さいな」

 アイネスはそこで一端口を閉ざしてスヴェティの反応を待った。

スヴェティ「・・・」

 しかしスヴェティは何も語らず、ただアイネスを見つめているだけだった。 

アイネス「私は、ジェリスのしようとしていることを、やめさせなければなりません!
      ‥‥それとも、ジェリスのしていることも、巫女様がお考えになられた、未来を変えるための事変のひとつなのですか!?」

スヴェティ「わたしが知った未来というのは、時空を超えて知った未来なのか、時空の延長線上の未来を知ったのか判りません。
       ささいな事変などでは、未来に与えている影響は、無いも等しいのですからね」

アイネス「いま‥‥近い将来に、この銀河系が滅びようとしているのに、かまわないのですか? とっても遠い未来のために‥‥!?」

 スヴェティの物言いに納得のいかなかったアイネスは声を荒げた。

フリッカ「アイネス様‥‥そこまで言っては、口が過ぎますよ」

 そんなアイネスをフリッカがなだめようと声をかけた。

アイネス「だって、フリッカ‥‥!」

 しかしアイネスの気は静まらなかった。

スヴェティ「‥‥かまいませんわ。
       あなたに‘呪付’して差し上げましょう。
       ヴァレドゥープ、バロッキーを外してついていらっしゃい」

 そう言うとスヴェティは皆に背を向け歩き出した。

アイネス「はい・・・」

 アイネスは気を削がれたように、スヴェティの後ろについて行った。

フリッカ「アイネス様」

スヴェティ「‥‥ほかの者たちは、テラスでお待ちなさい」

 フリッカもアイネスについて行こうとしたのだが、スヴェティにそれを止められた。
 そしてスヴェティはアイネスを連れて部屋を出て行く。
 ジエアとフリッカはそれを少し不安げに見送っていた。
 
 
 
 

 アイネスが連れていかれたのはとても広い沐浴場であった。
 身を清めなくては‘呪付’の対象物に拒まれてしまうと言われたため、ここでまず沐浴をしなければいけないのである。

アイネス(私にも、ジェリスのように潜在な素質があればよいのだけれど‥‥なんにも無かったら、いったいどうしましょう?
      それに巫女様が、変えようとしていらっしゃる未来というのは‥‥いったい未来には、何があったのでしょう?)

 アイネスが服を脱いで泉に身を浸していると、スヴェティもシャヌレットを伴って泉に入ってきた。

アイネス「巫女様‥‥先ほどは、私‥‥本当にご無礼をいたしました」

 アイネスは慌ててさっきのことを謝った。

スヴェティ「うふふ‥‥かまわないって言ったでしょう?」

 しかしアイネスの心配をよそに、スヴェティは優しく微笑んだ。
 そこからは怒っている様子は微塵もうかがえなかった。
 そして自らも泉に身を浸す。
 その後ろではシャヌレットが甲斐甲斐しく沐浴の世話をしていた。

アイネス「あのう‥‥」

スヴェティ「まずは、この星の泉で身を清めなさい。その間‥‥あなたの聞きたいことに答えましょう」

 アイネスが泉から立ち上がろうとしたため、スヴェティはそれを制した。

アイネス「はい・・・。それではお聞きします。ジェリスのしようとしていることは巫女様のお考えの内のことなのでしょうか?」

 アイネスは少し緊張しながらも尋ねた。

スヴェティ「わたしが企て行っていることというのは、わたしがネオミックにさせていることのことです。
       ジェリスのことは、思惑にはありません」

アイネス「そうですか・・・」

 それを聞いてアイネスは正直安心した。

スヴェティ「確かに‥‥このままでいれば、わたしは2度目の過ちを犯すことになってしまいますものね。
       ‥‥あの時もそうでした。心のどこかで、そうなることを期待してしまうのです。
       止められる可能性があったのに、そうしようとはしませんでした」

アイネス「あのう、巫女様とネオミック閣下とは、どのようなご関係なのでしょうか?」

スヴェティ「ネオミックは‘地球’が崩壊した後で、人類を初めて銀河系へ導いた若き指導者でした。
       彼が疲れ、老い‥‥そして、この地を訪れた時に、わたしたちは出会ったのです。
       わたしは、ネオミックのための先見師となって‥‥この銀河系連邦国家を設立するに至ったのです。
       いままでも‥‥そしてこれからも、共に歩んで行くパートナーなのです」

アイネス「次の質問をしてもよろしいでしょうか?‘呪付’とはどのようなモノなのでしょうか?」

スヴェティ「‘呪付’というのは、潜在しているPsi能力を開放するための媒体を作ることです。
       あなたのも‥‥そしてあの娘のも、‘呪付’を行うのはバロッキーになるわけですが、
       リングであったり、ピアスであったりすることもあります。
       ‥‥その効力はわたしが死ぬまで持続します。
       あの娘の‘呪付’も、わたしから受けさせました。
       わたしは、あの娘の中にある素質に気がついていたので、
       ネオミックが中央で計画している‘フリーランサ’のメンバーにするつもりだったのです。
       素直で、いつも三眼猫を抱いて泣いていたあの娘‥‥
       でも、大き過ぎた‘力’は、あの娘を変えてしまったようですね」

 そう言い終えるとスヴェティは憂いの表情を見せた。

アイネス「どうして巫女様はジェリスに‘力’をお与えになったのですか?」

スヴェティ「‥‥あの娘がこのエヌベルユに着くことが出来たのは、
       太陽を挟んでエヌベルユのちょうど反対側で、ジュピターから前衛惑星までが‘食’に入っていたからなのです。
       しかし、このエヌベルユの引力に捉えられたシャトルの中で、あの娘を発見した時には、
       もうわずかな細胞の一部だけが生き残り、あとの細胞はみな死んでいました。
       生き残っていたのは、あの娘の髪の毛です。
       三眼猫が、主人の死を認めずに、自分の前足を喰い破って、主人の口元に自分の血を与えていたのです。
       それが流れて頭皮を濡らして、頭髪が乾燥せずにすんだようです。
       その‥‥あの娘の髪の毛を使って、わたしがあの娘を再生したのです。
       その細胞に教えてもらったことが‥‥あまりにも悲しそうで、可哀想だったから。
       きっと‥‥こんなところも、わたしが十全にまでなりきれないところなのでしょう」

アイネス「・・・・・・」

 アイネスはあまりに衝撃の事実に言葉を失っていた。

スヴェティ「わたしが、十全となることが出来ないのは、すべて‘意識’をしなければならないからです。
       どんな未来をわたしが知ったのか‥‥それを言葉で現すことは出来ません。
       わたしの‘意識’は常に未来にあって、わたしが企てた出来事によって、未来に大きな変化が起こることを待っているのですが、
       今だそれは確認できていません。
       未来は、わたしが初めて知った時から現在に至るまで、何ら変化がないということです。
       ですが、わたしは、未来というものは、変えられるものだと信じています。
       永い時をかけて、行いを積み重ねれば、必ず変えられるはずです。
       そして・・・わたしは、未来を変えるつもりです。
       わたしは、未来を変えられることが出来るまで‥‥ネオミックと共に生きていくつもりです」

アイネス「最後にもう一つだけよろしいですか・・・。私の‘ヴァレドゥープ’という名前の由来をご存知でしょうか?
      ネオミック閣下は巫女様にお聞きすれば、きっと分かるとおっしゃっておられましたが」

スヴェティ「‘дочь’というのは、まだ‘地球’があったころ‥‥まだこの地がエヌベルユとは呼ばれていなかったころ、
       この地の族長だけが名乗ることが許されていた族称です。
       わたし自身は、この地の総族長の娘だったので所称はありませんが、あなたの‘ヴァレ’には‘谷’の意味があるのです。
       つまり、ヴァレドゥープ‥‥あなたは、この地の谷の族長の末裔なのですよ」

アイネス(私が・・・この聖地エヌベルユの族長の末裔?)

スヴェティ「ヴァレドープ‥‥わたしは、谷の族長に託したことがあったのですが、それがどうなったか知りませんか?」

アイネス「いいえ、知りません。それに何のことなのかさえ分かりません」

 族長の事さえ知らなかったアイネスには、それは見当すらつかない事だった。

スヴェティ「そうですか。それなら良いのですけど」

アイネス(巫女様に託されたことって、いったい何?)

 スヴェティはそう言ってくれたが、アイネスには気になって仕方なかった。

スヴェティ「もういいでしょう‥‥どうしました、ヴァレドゥープ?」

 スヴェティは泉から立ち上がってアイネスを促したが、アイネスは動かない。

シャヌレット「きっと、いろいろと‥‥ショックだったのですわ」

 不思議そうにしているスヴェティにシャヌレットが語りかけた。

スヴェティ「ヴァレドゥープ。ヴァレドゥープ、終わりましたよ」

 もう1度スヴェティに呼びかけられる事で、ようやくアイネスは深い思考の中から呼び戻された。

アイネス「はっ、はい・・・!」

 そしてアイネスは慌てて泉から立ち上がった。
 
 
 

 
 泉から上がって身支度を整えると、スヴェティはアイネスにバロッキーを手渡してくれた。

スヴェティ「このバロッキーに‘呪符’しておきましたわ。これが、あなたの潜在している‘力’を解き放ってくれるはずです」

アイネス「ありがとうございます、巫女様・・・!」

 アイネスはバロッキーを受け取ると早速着けてみた。
 しかしその感触は以前のものとまったく変りは無かった。
 身体にも何も変化はないように思われる。

スヴェティ「・・・ただし、これは‘力’を作り出すわけではありません。どのようなPsi能力が、あなたに発現するかは分かりません。
       それが・・・あなたの役に立つと良いのですけれど。
       さあ、あの者たちがテラスで待っています。参りましょう」
 
 
 
 

 テラスではフリッカとジエアが並んで、日暮れの景色を眺めていた。

フリッカ「・・・ねぇ、ジエア」

ジエア『なに。フリッカ?』

フリッカ「・・・きれいな夕焼けね」

ジエア『うん』

フリッカ「・・・アイネス様、どうしたでしょうか?」

ジエア『大丈夫だよ、何かあったらボクに分かるもの』

フリッカ「そうね・・・」

ジエア『・・・フリッカこそ、どうしたのさ?』

フリッカ「どうもしないわよ。ただね・・・ちょっと」

ジエア『・・・・・・?』

フリッカ「正義の味方って、スゴイな〜と思ったの・・・。
     ・・・倒す相手を、完全な悪だと割り切れるから」

ジエア『なに、それ・・・テレビの戦隊モノの話?』

フリッカ「・・・うん」

アイネス「どうしたの?」

 そんな二人の耳にずっと聞きたかった声が飛び込んできた。
 振り返ると、そこにはアイネスとスヴェティの姿があった。

ジエア『わぁい、アイネスだぁ!』

 ジエアはうれしそうにアイネスに駆け寄った。

アイネス「あぁ‥‥キレイな夕焼けね」

 アイネスはジエアは抱き止めながら、目の前の景色に目を奪われていた。

スヴェティ「うふふ‥‥ネオミックは、‘地球’で見る夕焼けの方が美しかったと自慢していますよ。同じ太陽なのに、全然違うって‥‥」

アイネス「‥‥同じ太陽って? それでは、ここは‥‥!?」

 アイネスは驚きの表情でスヴェティを見た。
 するとスヴェティは優しい微笑を浮かべた。

スヴェティ「‥‥‘火星’です。
       西暦2731年‥‥地球管理局から独立するために、‘地球’を崩壊させてしまった惑星です。
       さぁ‥‥もうお行きなさい。そして、自分のするべきことをなさい。手遅れで後悔するほど、悔やまれることはありませんよ」

アイネス「はい、どうもありがとうございました。それでは、お暇させていただきます‥‥巫女様」

 アイネスは深く頭を下げてお礼を言った。
 フリッカとジエアもそれぞれにお礼を言うと、シャヌレットに案内されながら部屋を出ていった。

スヴェティ「ヴァレドゥープ‥‥あなたとは、いつか再会する気がします」

 アイネスの姿が見えなくなると、スヴェティはそう呟いた。
 

<つづく>





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