ドラゴンアイズ ノベル


   第10話 : ドラゴンアイズ


 その後、アイネスたちはバラバラに引き離され、アイネスは1人軟禁室へと閉じ込められた。

アイネス(エヌベルユの巫女様が、私の・・・私たちの祖先、谷の族長に処分を託したもの、それが・・・ドラゴンアイ!)
 
 アイネスは備え付けてあるベットに腰掛けると、うつむき、膝の上でぎゅっと手を握り締めた。

アイネス(私はジェリスに、結局は負けてしまったみたいね。私には、何も止めることが出来なかったのだもの。
      でもジェリス・・・あなたが、最終的にしようとしていることは、いったいどういうことなの?
      ψ太陽系を、銀河系を混沌とさせることだけが、あなたの目的なの?私には分からない・・・。
      とにかく、今は義兄様の安否だけでも確認しなくては・・・)

 アイネスは目を閉じるとクレヴォヤンスを発動させる。

アイネス(どこにおいでなのかしら・・・義兄様は?)

 すると、アイネスの目に椅子に縛られてうなだれているクリンドの姿が浮かび上がる。

アイネス(義兄様、辛かったでしょうね。ご自分の開発したものが、こんなふうに悪用されてしまうなんて・・・。
      ‘見る’ことは出来るというのに・・・それ以上のことは、望んでも叶わないのね)

 アイネスはこれ以上クリンドの姿を見ているのが辛くて、クレヴォヤンスを止めた。

アイネス(ジエアはどうしているかしら・・・?)

 そして今度はジエアの姿を求めてクレヴォヤンスを発動させる。

(・・・ジエア!)

 しかしアイネスの目に‘見えた’のは何故か、壁に大穴の空いた倉庫のような部屋だった。

アイネス(・・・ジエア、どこなの?あなたが一緒にいてくれなければ、私・・・また泣いてしまいそうよ)

 アイネスは目をこらしてジエアの姿を探す。
 しかし部屋のどこにもジエアの姿は見当たらない。
 そして次第にアイネスの瞳の奥が熱くなってきた。

アイネス(いけない!もうすぐクレヴォヤンスが使えなくなるわ・・・。ジエア、どこ?ダメ・・・意識を集中できないわ)

 そう思って集中が切れた途端目の前の映像が消えた。

アイネス(ジエア・・・ジエア、この心の声を聞いて。私はここにいるわ!)

 代わりにアイネスはそう強く念じ続ける。
 すると、

ドカン!!

 という轟音とともに目の前の壁が吹き飛んだ。

ジエア『・・・アイネス!!』

 そしてその土煙の中からジエアが姿を現した。

アイネス「ジエア・・・!?」

ジエア『・・・アイネス、会いたかったよう!』

 そう言うと、ジエアはアイネスに飛びつく。

アイネス「いったい・・・どういうことなの、ジエア?」

ジエア『ボク、いろいろと、‘力’が使えるよ。コツが分かったんだ・・・。使おうと思って意識しすぎでダメだったんだよ。
     1人で部屋に閉じ込められた時に、フッと思ったら出来ちゃった』

アイネス「どんな‘力’が発現したの?」

ジエア『ショックとね、レヴィテイションが出来るよ!
     ショックはね、ムルクでジェリスと出会った時に使ったヤツ。
     レヴィテイションは・・・出来るんだけど、ボクに見えている場所にしか行けないの。
     それに、ボクの二倍くらいの重さしか、一緒にレヴィテイション出来ないんだよ』

アイネス「それでもすごいわよ、ジエア!」

ジエア『えへへ・・・』

アイネス(でも、レヴィテイションが出来たとしても、ジエアの視界内だけの移動だと、あまり有効な‘力’とは言えないわよね)

 アイネスはそこで少し考えこむ。
 すると、ふとアイデアが浮かんだ。

アイネス「ジエア・・・いいこと思いついたの。ジエアがテレパシィを使って、私のクレヴォヤンスと同調するのよ。
      私・・・どこまで‘見る’ことができるか分からないけれど、ジエアの視界よりも遠くへ行くことが出来るわ!」

ジエア『アイネスって、あったまいい〜!!』

アイネス「これで義兄様やフリッカを助けにいけるわ。ジエア、今からフリッカの部屋を‘見る’わ。準備して」

ジエア『了解』

アイネス(フリッカ・・・!)

 アイネスは目を閉じてクレヴォヤンスを発動させる。
 そして‘見えた’ものはクリンドと同じように椅子に縛られたフリッカと彼女を見張る兵士の姿だった。

アイネス「ジエア、フリッカを見つけたわ。でも兵士もいるから気をつけてね!」

ジエア『まっかせなさ〜い!じゃ、いくよ』

 ジエアが掛け声をかけるのと同時にアイネスは軽いめまいのようなものを感じた。
 でもそれは一瞬だけで、目を開くと、そこには驚いた表情のフリッカと兵士がいた。

兵士「な、なんだぁ!?」

フリッカ「アイネス様!?」

ジエア『・・・攻撃するよ!』

 ジエアは兵士が驚いている隙にショックを放つ。

兵士「ぐわっ!!」

 兵士はジエアの一撃を受けて壁まで吹き飛ばされて気を失う。

アイネス「大丈夫、フリッカ?」

 それを見届けたアイネスはすぐにフリッカに駆け寄って、椅子の拘束からフリッカを解放した。

フリッカ「ありがとうございます、アイネス様。あたしは平気です。ジエアもありがとう・・・」

ジエア『どういたしまして』

フリッカ「でも、どうやってここに来たのですか?突然目の前に現れたように見えましたけど」

アイネス「それはね。ジエアがショックとレヴィテイションを使えこなせるようになって、私を助けに来てくれたの。
      それから私のクレヴォヤンスとジエアのレヴィテイションを同調させてここまで来たの」

フリッカ「そうだったのですか。ジエア、あなた・・・‘力’を使いこなせるようになったのね」

ジエア『うん。意外と簡単だったよ』

アイネス「さあ、次は義兄様をお助けしなくては」

フリッカ「では、またレヴィテイションでクリンド様の所まで行くのですか?」

アイネス「ううん。ジエアのレヴィテイションはジエアともう1人くらいしか運べないから、ここからは足で探さないと」

フリッカ「そうですか。では、あたしが先を行きますので、後からついて来て下さい」

 一行はフリッカを先頭にして用心しながら通路へと出た。



 幸い通路には人影はなかった。
 だが、通路の壁には同じような扉が、いくつも、いくつも並んでおり、何処にクリンドがいるのか分からない。

ジエア『どの部屋にいるのかな?クリンドさん』

フリッカ「どうします?虱潰しに当たってみますか?」

アイネス「そうね。ひとつずつ扉の中を‘見る’には、意識を集中している時間が惜しいし。近くの扉から、順に開けてみましょう。
             このフロアの何処かにいるのは、クレヴォヤンスで‘見て’いるから確かなはずだから」

ジエア『じゃあ適当に・・・・・・この部屋から』

 ジエアはうれしそうにしながら適当な部屋の前まで行くとショックを使って鍵を壊す。
 そしてフリッカがドアを開けて中に飛び込む。



 しかしその部屋には人の姿はなかった。

アイネス「誰もいないのかしら?」

フリッカ「いいえ、水の流れる音がします。どうやらお風呂にでも入っているのでしょう。ちょっと見てきます」

アイネス「えっ!?ちょっとフリッカ」

 アイネスはフリッカを止めようとした。

ガラッ

 しかしフリッカはすでに浴槽の戸を開けている。

パルシア「ゲッ・・・・・・!」

 そこには目を丸くしながら湯につかっているパルシアの姿が。

アイネス「・・・パルシア!?」

フリッカ「こいつがパルシア・・・」

 フリッカはパルシアに襲いかかると、腕をねじ上げて床に平伏させる。

パルシア「いたた・・・ちょ、ちょっと待ってよ!」

 そして手早く後ろ手に縛り上げて床に転がす。

パルシア「フンッ、このバーザが稼動した今となってはアンタたちが何をどうしたって無駄なのさ。
      このバーザは‘XLD-Pea’というコンピュータが制御しているんだ。アンタたちにはとめられないさ!」

 パルシアは裸で床に転がった格好ながらも不敵に笑ってみせる。

フリッカ「アイネス様。これ以上このような者に関わっていても時間の無駄です」

 フリッカはパルシアを無視して部屋を物色し始める。
 そしてライトサーベルと短針銃を見つけたフリッカは短針銃だけアイネスに手渡して自分はサーベルを持った。

フリッカ「さて、必要な物も手に入れましたし、もう行きましょう」

アイネス「そうね・・・」

パルシア「フンッ!どこに行こうと、このバーザからは逃げられないさ」



 再び通路に戻ってきたアイネスたちは、また適当な部屋を選ぶと、ジエアのショック鍵を破り、フリッカを先頭に飛び込んだ。

アイネス「メーディ・・・メーディ・レギムス!?」

 その部屋では、ちょうど船内服に着替えているとこらしいメーディがいた。

メーディ「ヴァレドープ様!?」

フリッカ「動くな!!」

 フリッカはメーディが動くよりも先に彼女の咽元にライトサーベルを突き付けた。

メーディ「ヴァレドゥープ様・・・そうですか、うまく部屋からお逃げ出来たのですね」

 しかしメーディはライトサーベルのことなど目に入っていないかのようにアイネスに話しかける。
 しかもその目には微塵も敵意が感じられなかった。

メーディ「あたしは、ヴァレドゥープ様に、お詫びなければなりません。・・・クリンド様のことです。
      ロゴナでは、ヴァレドゥープ様を疑ったりしました・・・。
      でも!!クリンド様は、ロゴナが・・・そして、このバーザにいらっしゃるのですから。お許し下さい、ヴァレドゥープ様・・・!」

 今のメーディの顔からは誰の目にもはっきり見て取れるほどの苦悩と後悔が滲み出ていた。

メーディ「クリンド様は・・・このフロアの1番奥のお部屋にいらっしゃいます」

アイネス「メーディ・・・?」

メーディ「あたしには出来ないわ・・・だから、ヴァレドゥープ様。どうかクリンド様を連れて逃げてください!
      こんなことで罪滅ぼしなるとは思ってはいません。ですが、今のあたしにはこれぐらいの事しか出来ないのです・・・」

アイネス「・・・ありがとう、メーディ」

フリッカ「行きましょう、アイネス様」

 フリッカはアイネスをうながして部屋を出てゆく。

メーディ「あたしったら・・・ひとりで、何を・・・なんのために、気負っていたのかしら」

 そして部屋の扉が閉まりきる前にそんな言葉がアイネスたちの耳に届いた。



 一行はメーディに言われたとおり1番奥の部屋を目指して駆け出した。

ジエア『クリンドさんがいるのはこの部屋だよね。じゃ、いくよ』

 ジエアは3度ショックを使って鍵を壊す。
 そしてフリッカがドアを開ける。
 そこには椅子に拘束されているクリンドの姿があった。

アイネス「・・・義兄様!」

 それを見たアイネスは誰よりも早く部屋に飛び込んだ。

兵士「何者!!」

 それを見た兵士がアイネスに銃を向ける。
 しかしアイネスにはクリンドしか見えていない。

兵士「ぐわっ!!」×2

 しかし兵士がアイネスに気を取られている隙に、ジエアがショックで、フリッカが当身で兵士を昏倒させる。
 そんな周りの様子を一切気にせず、アイネスはクリンドを椅子の拘束から解放させた。

アイネス「義兄様!!」

 そして自由になったクリンドに抱きつく。

クリンド「・・・アイネス!!」

 クリンドはそんなアイネスを優しく抱き返す。

アイネス「ああ・・・私、やっと義兄様のもとへやって来れました!」

フリッカ「さあ、急ぎましょう・・・アイネス様、クリンド様!」

 フリッカはそんな2人の様子に少し声をかけるのをためらったが、何時までもこうしているわけにもいかず、声に出す。

クリンド「そうだね、フリッカ。さあアイネス、再会を喜び合うのは後でも出来る。今は早くここから脱出するのを優先しよう」

 クリンドはそう言ってアイネスを放した。

アイネス「はい、義兄様」

 アイネスは少し潤んだ目で頷き返した。



フリッカ「あと、どのぐらいでガールドリア本星への攻撃が始まるのでしょうか?はやく、バーザから脱出しなければ・・・」

クリンド「アイネスのジランドルも格納庫にあるはずだ。まずそこに向かおう。こっちだ」

 一行はクリンドの案内の元、格納庫を目指した。



アイネス「ここが、バーザ艦載機の格納庫・・・!」

 格納庫には艦載機群に混じって、ジランドル−Vも係留されていた。
 そして幸いなことにアイネスたち以外の人影はどこにも見られない。

アイネス(まだ・・・私たちの軟禁室脱走を、知られていないのかしら?そんなこと、有り得ないと思うのだけれど・・・。
      ・・・まさか私たち、ここに追い詰められたのではないわよね)

クリンド「さて・・・どうしたものか?ゲートを開放した途端に、居場所がバレてしまう。
     待機中でもない艦載機を、無事に発進させる時間もないだろうし・・・困ったな」

ジエア『ボクは、このまま宇宙空間に出ても大丈夫だけれど、アイネスたちは、そうはいかないものね』

フリッカ「アイネス様、ジランドルは発進可能なのでしょうか?」

クリンド「アイネスは、ジランドルの様子を調べておいで・・・。
     フリッカ、キミは管制室の様子を、僕はこの格納庫の入り口を見張っている」

アイネス「はい、義兄様。それでは、私はジランドルを調べてきます」

ジエア『ねぇ、ボクは?』

クリンド「ジエアはアイネスの護衛だ」

ジエア『りょうか〜い』

 ジエアはうれしそうにアイネスの後を追いかけて行く。

クリンド「しかし・・・ジエアが言葉を話せるようになっているなんて驚きだな・・・」

 クリンドはそんなジエアを複雑な表情で見送った。

フリッカ「ふふっ、そうでしょうね」

 フリッカはそんなクリンドの顔が可笑しくて小さく笑みを浮かべた。



 アイネスはジランドルにたどり着くと、ジエアと共にコクピットに乗り込む。

アイネス(うふ・・・なんだかここが懐かしく感じるわね。
      私の誕生日ごとに、システムのバージョンが上がったり、機関が増えたり、改造船作業が行われたり・・・。
      ジランドルは私と一緒に成長して来たんだわ)

ジエア『アイネス、時間がないよ!はやく、システムチェックをして』

 ふと感慨にふけるアイネスにジエアから催促の声がかかる。

アイネス「あっ、ごめんなさい」

 ジエアに言われて、アイネスは手早く各部のチェックを開始する。

アイネス(ジランドルが無事発進出来たらいいのだけれど・・・)

アイネス「操縦パネル、スロットル・フェーダ、アフターバーナ・フェーダからステアリング関係まで、異常なし。
      レーダー、センサー類、ミウィ方向探知器など、異常なし。
      通常通信の送信銃及び受信アンテナ、全方向性亜光速通信、跳躍通信データ変換器まで、すべて異常なし。
      製酸素システム、環境システム・・・異常なし。
      射出分離装置にも異常はないけれど、太陽系内宇宙空間をジランドル−Tで航行するなんて、絶対出来ないものね。
      でもジランドル−Tは、外損もなく丸まる無事だわ。
      Vタイプ機関は・・・上部外装板が、開けられているわ!」

ジエア『外装板をはずしたりして・・・ジランドルを解体するつもりなのかな?』

アイネス「あそこには、まだ公開されていない改良された跳躍機関、そのためのシステム・・・それらが、すべて集約されていたはず。
      機関制御装置に異常・・・!?これは・・・エネルギーチューブが断線している?
      ・・・違うわ!これはV機関から、跳躍系機関が取り外されているんだわ!
      Vタイプ機関以外は、いじられている箇所はないみたいだけど・・・。
      でも生きているのは、ジランドル−Tだけ・・・Vタイプ機関は死んでしまっているわ」

 アイネスは表情を暗くして頭を垂らした。

ジエア『ヒドイことされて・・・ジランドルが可哀想だよね』

 ジエアはアイネスに慰めの言葉をかけたが、アイネスは何の反応も返さない。
 アイネスはしばらくそのままの姿勢で固まっていたが、しばらくすると顔を上げ、

アイネス「・・・義兄様に報告に行きましょう」

 ジエアを促しジランドルを降りた。



クリンド「そうか・・・ジランドル−Tだけか、無事だったのは・・・」

アイネス「はい・・・。ジランドルがあの状態では、ここの艦載機で脱出するしかありません。義兄様のほうはどうでした?」

クリンド「ここの艦載機は、バーザのコンピュータ‘XLD−Pea’のサポートなしには起動できないんだ。
      だから艦載機でここから脱出することは、不可能だよ」」

アイネス「では・・・これから、いったいどうしたらよいのでしょう?」

フリッカ「あたしのほうは、とりあえずカタパルト・ゲートの開閉方法が分かりましたけれど・・・」

ジエア『Vタイプ機関が、あんなことになっていなかったら、いまごろは宇宙なんだけどね』

アイネス(ゲートを開閉したら、その途端に宇宙空間に吸収されてしまうもの・・・うかつにはゲートを開閉できないわ)

フリッカ「それと管制室のレーダーで知ったのですが、バーザはあとわずかでムルクの惑星軌道を通過するところでした」

アイネス(もし、私にバーザの外を‘見る’ことが可能であれば、ジエアとあとひとりだけはレヴィテイションすることが出来るけど・・・)

 しかし、この方法では誰かがバーザに取り残されてしまう。
 そんな方法をアイネスが選択できるわけがなかった。

アイネス「どうやら、ここから脱出するのはムリみたいね。他をあたりましょう」

クリンド「そうだな。よし・・・別の場所へ行ってみよう!」

 一行は他のルートを探すべく、通路に繋がる扉を開いた。

ドキュン

 すると扉が開いた途端、一発の銃声が鳴り響く。

クリンド「ウワッ・・・ッ!!」

 そしてアイネスの隣に立っていたクリンドの体がのけぞった。

アイネス「義兄様!?」

 それは一瞬の出来事であったためアイネスには何が起こったのか分からない。

ジェリス「誰が撃てと言ったか、バカモノ・・・!!」

 扉の向こうではジェリスが2人の兵士を従えて立っており、兵士の1人が持つ銃の銃口からは白い煙が上がっている。

アイネス「・・・ジェリス!?」

フリッカ「アイネス様!!」

 フリッカは呆然としているアイネスの肩を掴むと無理矢理後ろへ引っ張った。

アイネス「えっ!?」

クリンド「くっ!」

 そしてアイネスが扉の内側に入ったのを見計らってクリンドが扉を閉める。

ジェリス「アタシ、せっかちはキライだけれど・・・ぐずはもっとキライ!」

 扉の向こうからは不機嫌そうなジェリスの声が聞こえてくる。

兵士「・・・ジェリス様、裏切り者メーディの処刑が終わりました」

 そして、さらに兵士の声が聞こえきて、衝撃的な事実をアイネスたちに伝えた。

ジェリス「ふうん・・・ラクにしてあげるのが、早すぎるわよ。ドルジオも、せっかちだわねぇ・・・アタシなら、そんなことしてあげないな」

アイネス「ジェリス!なんてことを・・・」

 アイネスはジェリスたちの非道な行いと、メーディを巻きこんでしまった事への後悔で唇を噛んだ。

ジェリス「さあ・・・でていらっしゃい!袋小路のネズミさんたち!!」

 そんなアイネスたちの気持ちを知ってか知らずか、ジェリスの声はどこか楽しそうだった。

クリンド「・・・おいで、アイネス」

 クリンドはそんなジェリスの声を無視してアイネスの肩を掴むと自分に振り向かせる。

アイネス「・・・義兄様!血が!!」

 振り向いたアイネスが見たものは頬から血を流しているクリンドの姿だった。

クリンド「ただのかすり傷だ、心配ないよ。それより・・・。いいかいアイネス・・・よくお聞き。
     ・・・このバーザの外壁はメタ・チルテニウムで造られている。
     そのため、この銀河系に現存しているどのような兵器も、バーザに損傷を与えることは出来ないだろう。
     でも・・・1箇所だけ、メタ・チルテニウムが使われていない場所がある。
     ・・・それは、ドラゴンアイだ!
     過去の制御システムが解析できなかったので、その部分だけはメタ・チルテニウムによる改装が行われていないんだ。
     そこを攻撃すれば・・・バーザを破壊することが出来る!」

アイネス「・・・でも、ガールドリアの艦隊は、ドラゴンアイの攻撃で全滅してしまいました!
      銀河系連邦に、援軍を要請することも出来ないというのに・・・いったい、どうすれば良いのでしょう?」

クリンド「・・・ミウィを覚醒させるんだ。あれの防衛システムは、まだ生きているはずだからね。それで・・・バーザを破壊できる!」

アイネス「でも・・・いったい誰が、ミウィに?」

クリンド「・・・お前だよ。アイネス・・・」

アイネス「えぇ!?」

フリッカ「一瞬だけ、カタパルト・ゲートを開きます。
     その時に、ジエアがアイネス様のクレヴォヤンスに同調すれば、ミウィに‘行く’ことが出来るのではないですか?」

アイネス「でも・・・私、どうしたらいいのか分からないわ!」

 アイネスは困惑顔で2人の顔を交互に見た。

クリンド「ミウィには、機械仕掛けさんがいる。そして、アイネスには‘世継ぎの証’のバロッキーがある。
     きっと、ミウィを覚醒させることが出来る」

アイネス「・・・でも、でも私とジエアだけ、ミウィにレヴィテイションすることは出来ません!
      義兄様やフリッカを残して、私たちだけで・・・!」

 アイネスにとっては自分の身よりもクリンドの事の方が大切であったため頑なにそれを拒んだ。

フリッカ「クリンド様は、あたしが必ずお守りいたします!それとも・・・あたしを信じていただけないのですか?
      あぁ・・・なんということでしょう!!」

 フリッカはそんなアイネスをなだめるため、わざと大袈裟に嘆いて見せる。

アイネス「フリッカ・・・そうじゃないの」

フリッカ「アイネス様、あたしは必ずクリンド様をお守りして、このバーザから脱出してみせます!ですから、どうぞ‘行って’下さい。
     ・・・こんな状況では、どうなるかは分かりませんが、
     あたしはアイネス様が、太陽系国家の改革宣言をなさるお姿を拝見することを、楽しみにしておりますわ」

 フリッカはなおも食い下がろうとするアイネスを制して、今度は強い口調で促す。

クリンド「アイネス・・・」

アイネス「・・・義兄様」

クリンド「アイネス・・・これはね、遠く過ぎ去った時代に、すでに清算しておかなければならなかったことなんだ」

アイネス「・・・谷の族長が、エヌベルユの巫女様に託されたことですか?」

クリンド「知っていたのかい、アイネス?
     ドラゴンアイが、僕たち人類の基星―地球を、惑星間戦争で崩壊させてしまった兵器であることを・・・」

アイネス「・・・義兄様」

 アイネスはそれには答えなかったが心は決まった。
 しかしそうするとアイネスの瞳が潤みだし、今にも涙があふれそうになる。

クリンド「ほらっ、アイネス・・・いい顔をして。永遠の別れじゃないんだ」

 クリンドはそう言って、今までで一番優しい笑顔をアイネスに向ける。

アイネス「義兄様、私・・・私、いっしょにいたい」

 その笑顔を見た瞬間、アイネスは堪えきれなくなってクリンドに抱きつく。
 そんなアイネスをクリンドは柔らかく抱き止めてあげた。
 そして耳元に語り掛ける。

クリンド「アイネス・・・ほらっ、アイネス!アイネスは、国皇の名代をつとめて、改革の宣言をおこなう役目・・・。
     そろそろ、そのリハーサルだって始まるころだからね。みんなの前で父様の代わりに、立派に宣言できるようになるんだよ」

 そう言い終えるとクリンドはアイネスを自分の身から放した。

アイネス「・・・義兄様」

フリッカ「アイネス様・・・準備はよろしいですか?」

 フリッカは少し遠慮がちにアイネスに尋ねる。

ジエア『ボクは・・・いいけどね』

アイネス「お願い、フリッカ・・・」

フリッカ「・・・それでは、ゲートを開けます!」

 フリッカはゲート開閉用のレバーに手をかけると一気に引いた。
 すると空気が一気にゲートの外へと流れ出してゆく。
 アイネスはその突風のような空気の流れに逆らいながらも意識を集中させる。

アイネス(義兄様、フリッカ・・・私、お別れは申しませんから!)

 アイネスは心の中でそう叫びながらクレヴォヤンスを発動させた。

アイネス「ジエア・・・!!」

 そして脳裏にミウィが見えた瞬間、ジエアに呼びかける。



 その次の瞬間には空気の流れは身体に感じなくなっていた。
 その事を感じてアイネスが目を開くと、辺りは見慣れたミウィの風景になっている。
 そして目の前にはガールドリアの衛士の格好をしている少女が倒れており、驚いた表情でこちらを見ていた。

ジエア『この人・・・フリッカと同じ‘オペレーター’だね』

アイネス「あなたは、いったい・・・!?」

コリンヌ「・・・ガールドリアの衛士、コリンヌ・フォーゲルです」

 コリンヌの身体はドラゴンアイの砲撃のアオリを食らったのか、傷だらけになっている。
 しかし、コリンヌはその事は気にかけず、気丈に立ち上がった。

コリンヌ「あたしは、バーザからのドラゴンアイの砲撃前に、国皇様の命を受けてガールドリア艦隊から離脱したのです。
      ‘生命ある宝石’様に国皇様のお言葉を伝えるために・・・」

アイネス「お父様から!?それでお父様は何と?」

コリンヌ「その命というのは・・・。このミウィを防衛々星として復活させよ、とのことです!」

アイネス(私が生まれるまでは、ミウィは防衛々星だったものね。
      でも、どうすれば、ミウィを防衛々星として復活させることが出来るのかしら・・・?)

ジエア『アイネスは、ミウィを復活させる方法を知っているの?』

コリンヌ「‘生命ある宝石’様、どうか・・・あたしの代わりにミウィを復活させてください!
      このミウィの‘XLD2’は、あたしではコア・ゲートを開放してはくれないのです。
      ですから、あたしはここでガールドリアからの処理班を待っていたのですが・・・でも、もぅその時間がありませんわ!!
      行ってください・・・コア・ゲートは、東ウィングのはずれにあります!
      コア・ルームに入ってから、あるパスワードを入力すると、
      このミウィには‘緊急行動指令’が発令されて、迎撃準備が行われます。
      そのパスワードは、‘11101001111111111001110’です。
      それさえ入力すれば、きっとあのバーザを攻撃することが出来ます!」

アイネス(なんて長いパスワードなの・・・。機械仕掛けさんの、頑固者・・・!)

ジエア『アイネス、パスワード・・・ちゃんと、覚えられた?』

アイネス「うん、大丈夫。(でも、それで本当にあのバーザを破壊できるのかしら?)」

ジエア『じゃあアイネス、そこを‘見て’!時間がないから、レヴィテイションで行くよ・・・!!』

アイネス「・・・はい!」

 アイネスが目を閉じると一瞬後にはコリンヌの前からは2人の姿が消えていた。
 その光景にコリンヌは目を丸くして驚いたが、

コリンヌ「‘生命ある宝石’様・・・・どうか、どうかお願いいたします・・・」

 すぐに東ゲートの方を向いて祈りをささげ始めた。



 次にアイネスが目を開いた時、目の前には重厚な扉があった。
 そこは長い間閉ざされ続けていたためか突起部には塵が厚く積もっている。

アイネス「ここが、コア・ゲート・・・コア・ルームの入り口だったのね?」

ジエア『小さい頃には、ボクたち・・・この辺で遊んでいたよね』

アイネス「機械仕掛けさん!!」

 アイネスが呼びかけると、どこからともなく球たちがやって来る。

アイネス「球たち・・・機械仕掛けさん、お願いします!どうか、この扉を開けて下さいな!!」

機械仕掛けさん「・・・・・・後悔しないのであれば」

アイネス「はい・・・?」

機械仕掛けさん「ワシの復活を望み・・・その復活を後悔しないのであれば、この扉を開放してもよいぞ。
           ワシは・・・その瞬間からアイネスの‘機械仕掛けさん’ではなく・・・。
           ‘緊急行動指令’防衛システムを総轄する‘XLD2’となるであろう。」

アイネス「・・・・・・」

 アイネスはしばらく、悩み、考えこむ。

アイネス「・・・後悔しません!」

 そして、はっきりと答え出した。

XLD2「了解した・・・ゲートを開放する」

 目の前で今までずっと開かずの扉であったゲートが軋みを上げながら開いてゆく。

アイネス「さぁ・・・ジエア、行きましょう!」

 アイネスはジエアを伴って中へと入って行く。
 残された球たちはその無機質なレンズでその後ろ姿をただ映していた。



アイネス「ここが、コア・ルーム・・・!?」

 そこは、スクリーンと中央にコントロールパネルがあるだけの無機質な空間だった。
 アイネスはコントロールパネルに歩み寄ると、右手のバロッキーをそれにかざす。

XLD2「システムの制御コランダムを確認します・・・バロッキーの第4コランダムに、シルク・インクルージョンを認識、照合します。
     ・・・・・・第4コランダムを、システムの制御コランダムとして承認しました」

Password:?

 無機質な機械仕掛けさんの声が部屋に響いた後、コントロールパネルにそう表示がされる。

アイネス(ここで、パスワードを入力するのね・・・!?)

 アイネスはコリンヌに教わったパスワードを入力していった。

アイネス「覚醒して・・・ミウィ!」

=OK=

 そうコントロールパネルに表示されると同時に、部屋全体が細かく振動し始める。
 そして正面のスクリーンに映像が浮かび上がった。
 そこには、もう間近に迫ったバーザの威容が映し出されている。

アイネス(義兄様が教えてくださった、バーザの弱点・・・それは、唯一メタ・チルテニウムが使われていない場所
      ドラゴンアイ・・・!!)

 アイネスはミウィ迎撃システムを起動させると、バーザのドラゴンアイに照準を合わせた。

アイネス(早く・・・早く、バーザから脱出して!)

 そして祈るような気持ちでスクリーンのバーザを凝視する。

アイネス(・・・義兄様! フリッカ・・・!! もう、時間がないわ!)

 しかしバーザからは何も出てくる気配がない。

アイネス(早く、逃げて・・・もう、バーザのドラゴンアイが!)

 焦るアイネスを尻目に、バーザはドラゴンアイを開き、その瞳のような砲門の姿をあらわにする。

アイネス(もぅ間に合わないわ・・・義兄様、フリッカ・・・!!)

XLD2「・・・迎撃準備、完了」

 コントロールパネルにグリーンランプが点り、後はボタン一つで迎撃できる準備が整ったことを知らせてくる。

アイネス(まだ・・・早く、脱出して義兄様、フリッカ!)

 しかしアイネスはそのボタンを押さずにスクリーンを凝視し続けた。

XLD2「・・・迎撃準備、完了」

アイネス(早く・・・早く、脱出して!)

 再度の報告もアイネスは無視する。

アイネス(いったい、何をしているの・・・もしかしたら・・・)

XLD2「ターゲットが安全保障星域に進入し次第、ファイアリングの権限は迎撃システムに移行されます」

アイネス「えっ!?」

ジエア『アイネス・・・いったい、どうするのさ!?』

アイネス(このままでいれば、バーザはψ太陽系どころか、銀河系にまで進行して行くわ!)

 焦り、悩むアイネスの目の前でバーザはどんどん迫ってくる。

アイネス(・・・もぅ、時間がないわ!)

XLD2「ターゲット、安全保障星域に進入」

アイネス(!!)

XLD2「ファイヤリングの権限は、迎撃システムに移行されました
     セーフティ・シャッター開放・・・ドラゴンアイ発射します」

アイネス「待って!!まだ義兄様とフリッカが!!」

 しかし、アイネスの叫びも虚しく、スクリーンには真っ白な閃光がバーザに向かってほとばしる光景が映し出される。

アイネス「あぁ・・・・・・」

 そして閃光がおさまった後には外殻だけを残して火を噴きながら四散するバーザの姿が映っていた。

アイネス「・・・竜の瞳はふたつ。
      あのバーザと・・・。
      ・・・このミウィに。
      ・・・・・・。
      これから私・・・どうすればいいの?
      機械仕掛けさん・・・?」

 アイネスは涙の筋を何本も頬に刻みながら、機械仕掛けさんに問い掛ける。

XLD2「・・・・・・」

 しかし、その問いに答える者はもぅいなかった。

アイネス「・・・私は、あなたまでも失ったのね」

 そして、コア・ルームには泣き声だけが何時までも響きつづけた。


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