ジゼルの人魚姫?

 
ジゼル(ナレーション役)【むかしむかし、深い深ーい海の底に人魚の王様のお城がありました】
 
 舞台にライトが灯り、人魚のお城のセットが浮かび上がる。
 舞台の上ではクレア、メル、フォル、ベル、リアの5人がソファーに座ってくつろいでいる(本当は緊張している)。

ジゼル【そこには6人の美しい人魚のお姫様も住んでいました。
     中でも一番下のお姫様の末姫が一番きれいな姫でした。
     おまけに末姫は一番うつくしい声の持ち主でもありました。
     そんな末姫は人魚のお城で誰にでも愛されながら暮らしていました】

クレア(長女役)「ちょっと末姫。お茶を入れてちょうだーい」

メル(次女役)「ついでお菓子も持ってきてー」

 ソファーに大きな態度で座っているクレアとメルが舞台の袖に呼びかける。

セフィ(末姫役)「は〜い、ただいま」

 セフィ、お盆にお茶菓子を乗せた手にしながら舞台袖より登場。
 ‘あーーセフィ先生だ!セフィせんせーい!’と子供たちが歓声を上げる。
 セフィ、子供たちに向かって小さく手を振る。
 すると、子供たちは大喜びしてくれた。

セフィ「あっ!」

ゴン

 しかし、よそ見したのが悪かったのか、セフィは床につまずいてしまい、顔から床に倒れこむ。

ガッチャン

 その拍子に持っていたお盆が飛び、お菓子は散乱、お茶の入ったティーカップは割れてしまう。

ベル(四女役)「あっ・・・」

リア(五女役)「あっ・・・」

 いきなり台本にない事態が起こり、皆、動きが止まってしまう。

クレア「・・・」

メル「・・・」

ジゼル【・・・】

 なんとも嫌〜な空気が舞台の上に漂った。

フォル(三女役)「あ、あの・・・大丈夫ですか、末姫?」

 そんな空気の中、フォルが真っ先に倒れたセフィの元に駆け寄った。

セフィ「うぅ・・・鼻が痛いですぅ・・・」

 セフィ、むっくりと起き上がると少し赤くなった鼻をおさえる。

フォル「あらあら大変」

 フォル、セフィを優しく介抱する。
 そんな2人の様子を見て、他のみんなも少し余裕を取り戻す。

メル「こ、この役立たず!!お茶菓子も満足に運べないの!!?」

クレア「そうよ、このドジっ!!いきなり台本にない事するんじゃないわよ!!焦っちゃったじゃない!!」

メル「そうよそうよ!!ドジなくせに主役なんて生意気よ!!」

クレア「そうよ!!ホントは一番年上のくせに末姫の役なんてやってるんじゃないわよ!!」

 クレアとメルはセフィの元へ駆け寄るとポカポカと叩き出す。

セフィ「うわぁぁん!ご、ごめんなさいですぅ〜!!」

 セフィ、頭を抱えながら涙目で謝る。

リア(ねぇ、末姫って誰にでも愛されてる役じゃなかったっけ?)

ベル(なんか、これじゃあ、シンデレラよね)

フォル「もう、お姉様方。末姫も悪気があったわけではないのですから、そのぐらいで許してあげて下さいな」

クレア「・・・しょうがないわね」

メル「次はドジっちゃダメよ」

セフィ「はい・・・ぐすぐす・・・」

 クレアとメル、呆れ顔をしながらソファーへと戻ってゆく。

フォル「ほら、末姫。涙を拭いて」

セフィ「はい・・・。チーーーン」

 セフィ、フォルからハンカチを受け取ると涙を拭いて鼻をかんだ。

ジゼル【え、え〜と・・・。こ、このように末姫は、え〜・・・、
     姉達に・・・た、多少私情の混じったイジメを受けながらも、あ、愛されながら暮らしておりました】

ベル(うわぁ〜、ジゼルも焦ってるわ)

リア(ギリギリのアドリブね)

クレア「じゃあ、ワタシたちは海の上まで出かけてくるから。末姫、留守番と片付けはお願いね」

メル「姉様、アタシも一緒に行ってもいいかしら?1人でも行ってもつまんないの」

クレア「・・・まぁ、いいわよ」

メル「やった!」

フォル「じゃあ、行ってきますね、末姫」

ベル「いい子で待ってるのよ」

リア「お土産、楽しみにしていてね」

 クレア、メル、フォル、ベル、リア、舞台より退場。

セフィ「お姉様たちは海の上に行けていいですねぇ〜。アタシも早く行ってみたいですぅ〜・・・」

 セフィはほうきとチリトリを持ってくると割れたティーカップを片付けながら、ぶつぶつと呟く。


 舞台の照明が徐々に暗くなってゆき完全に消える。


ジゼル【姉たちが出かけてしまうと末姫はいつも1人でお留守番です。
     なぜなら人魚は15歳以上でなければ海の上に出てはいけないからです。
     そして末姫は今はまだ14歳、海の上に行ける歳ではないのです。
     けれど海の上の世界にとっても興味をもっている末姫はいつも姉達に海の上での話を聞きたがります】


 舞台にスポットライトが灯り、クレア、メル、フォル、ベル、リアの順に一人ずつ照らし出す。


長女の証言     
クレア「ちょっと色目を使うだけで人間の男達はアレコレしてくれたけど、すぐに飽きたわね」


次女の証言       
メル「アタシは姉様一筋だから、姉様のいない所に行ったってつまんないだけだったわ」


三女の証言
フォル「人間たちはとっても優しい人たちばかりですよ。
     わたしが行ったときにはたまたま人間の船がいて、海にはないおいしいものをたーくさん頂きましたから。
     チョコレート、ショートケーキ、シュークリーム、あぁ〜、また食べたいわ〜」


四女の証言
ベル「人間の作るお洋服ってすっごく可愛いのよ。
    中でもお気に入りはコレ。
    このヒラヒラとか、ここのラインとか可愛いでしょ。
    あぁ〜、また難破船が通りかかったりしないかしら・・・」


五女の証言
リア「せっかく完全にベスティアじゃない人間を見つけたのに・・・。
   アタシ・・・振られちゃった。
   アタシ・・・もう二度と恋なんてしない!!」


 姉達の証言終了。


 真っ暗な舞台で今度はセフィがスポットライトで照らし出される。


セフィ「はぁ〜・・・。海の上って楽しそうですねぇ・・・。アタシも早く行ってみたいですぅ」

ジゼル【末姫は姉達に聞いた話をどう解釈したのか分かりませんが、日々海の上への想いを募らせるのでした】



 舞台の照明が落ちて真っ暗になる。



ジゼル【そうしてお日様とお月様が何度も交互にお空に上り、遂に末姫も15歳の誕生日を迎えました。
     そして念願の海の上へ出る許しも貰えたのです】



 再び舞台に照明が点灯。舞台中央にセフィ1人が登場する。



セフィ「あぁ〜、これでやっとアタシも海の上へ行けますぅ。楽しみですぅ」

ジゼル【末姫は期待で胸を一杯にしながらヒレを動かし、海面を目指します】



 舞台の照明が徐々に暗くなってゆき完全に消える。
 そして舞台セットが海面に切り替わる。



セフィ「ぷはっ」

ジゼル【そして遂に末姫は念願の海面へとやって来ました】

セフィ「あれ?なんかお空が曇ってます。うぅ〜、せっかくお月様やお星様が直接見れると思ってたのに・・・。残念ですぅ」

ジゼル【末姫は少しがっかりしながらも水面をアチコチ泳ぎ周ります。
     しかし、どこまで行っても曇った空と暗い海面が続くだけで目立った変化はありません】

セフィ「うぅ〜、お姉様の言うとおり、海の上ってつまんないところですねぇ・・・」

ジゼル【そんな風に末姫がしょげていると、ふと水平線の先に光が見えました】

セフィ「なんでしょう?」

ジゼル【ようやく訪れた変化に好奇心を膨らませながら末姫は光に向かって泳ぎだします。
     そうして近づいて行くと、その光は人間の船から漏れる光だと分かりました】

セフィ「船ですぅ!!何かおいしいものが貰えるでしょうか?」

ジゼル【末姫は姉の聞いた話を思い出しながら泳ぐスピードを上げました。
      そして船のすぐそばまでやってきます】

セフィ「うわぁーおっきいですぅ・・・。人魚のお城とおんなじくらいおっきいですぅ・・・」

ジゼル【そして末姫は初めて見る人間の船の大きさに目を丸くして驚きます。
     でも、この船が大きいのは当たり前の事なのです。
     なぜなら、この船はこの辺りの土地を治める王様の船なのですから】

セフィ「あのー、誰かいませんかぁー・・・」

ジゼル【末姫は船の上に呼びかけましたが返事がありません。
     どうやら船が大きすぎて声が船の上にまで届いていないようです】

セフィ「うぅ〜ん。どうしましょう・・・?」

ジゼル【末姫が悩んでいる間にも船の上からは微かに人々の笑い声や楽しげな音楽などが聞こえてきます】

セフィ「うぅ〜、なんだか上の方はとっても楽しそうですぅ」

ジゼル【末姫は少し寂しい気持ちになったので、聞こえてくる音楽に合わせて歌ってみる事にしました。
     今まで聴いたこともない音楽に合わせて歌うだけでも楽しい気分になれるかもしれないと思ったからです。
     そして思ったとおり歌っているうちに末姫は楽しい気持ちになってきました。
     しかし、そんな楽しい時間も長くは続きませんでした。
     なぜなら、ずっと流れていた音楽が不意に止まってしまったからです】

セフィ「あれ?もう終わりですかぁ?」

ジゼル【末姫が残念に思っていると】

 ギギギギーーーーーーー

ジゼル【音楽の代わりにとても大きな軋み音が辺りに響きました】

セフィ「な、なんですかぁ?」

 ギギギギギーーーーーーーーーーーーーー

ジゼル【末姫には分かりませんでしたが、それは船の船体が軋む音でした。
     そう、海の上には何時の間にか嵐がやってきていたのです】

 ギギギギギギギギーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ジゼル【そして嵐が大きくなるにつれ、船も大きく揺れ始めます】

セフィ「わわわっ!!」

ジゼル【末姫は大きく揺れだした船のぶつからないように海の中に潜って避難しました】



 舞台の照明が徐々に暗くなってゆき完全に消える。
 そして舞台セットが海中に切り替わる。



セフィ「船ってあんなに揺れるんですねぇ。でも、あんなに揺れて引っくり返ったりしないんでしょうか?」

ジゼル【末姫がそう思ったとき】

 ダッパーーーーーーーーーーーーーーーーン

ジゼル【船が大波に乗り上げ引っくり返ってしまいました】

セフィ「きゃあああああああああーーーーーーーー」

ジゼル【そして悲鳴をあげる末姫めがけて船から色々な物が沈んできます】

セフィ「わっ!うわわっ!!あいたっ!!」

ジゼル【末姫は沈んでくる色々な物をかわすため海中を縦横無尽に泳ぎ回ります。
     時にはかわしそこねて頭に物をぶつけたりもしましたが、だんだんと沈んでくる物も少なくなってきました。
     そうしてほとんど物が沈んでこなくなったなく頃、末姫の瞳にあるものが映りました】
    
セフィ「あれは・・・人?」

ジゼル【そうです。今度は人間が沈んできたのです。
     しかも、その人はこの土地を治める王様の息子。
     つまり、この土地の王子様だったのです】

セフィ「確か、人間って水の中では息ができないんですよねぇ・・・。
    じゃあ、やっぱり助けた方がいいですよね」

ジゼル【末姫はそう決断すると沈んでくる王子様に向かって泳ぎだします】

 王子(ラム)、ヒラリと身をひるがえす。
 そして見事なドルフィンキックを使って海面に向かって泳ぎだす。

ジゼル【しかし、王子様はとっても泳ぎが得意だったので、末姫に助けられる事なく水面へと上がって行きました】

セフィ「はぁ〜・・・。人間にも泳ぎがうまい人がいるんですねぇ〜・・・」

ジゼル【そんな風に末姫が感心していると、再び船から人が沈んできました。
     それは顔に髭を生やし、筋肉質な身体に豪華な衣装をまとった男性。
     そう、今度は沈んできたのはこの土地の王様なのでした】

セフィ「あっ、また来ました。あの人も泳ぐのが上手なんでしょうか?」

ジゼル【末姫は今度はどんな泳ぎを披露してくれるのかと、わくわくしながら沈んでくる王様に注目していました。     
     しかし王様は王子様ほど泳ぎがうまくなかったので、本当に溺れていました。
     だから、王様はわくわくして見守る末姫の目の前でどんどん沈んでゆきます】

セフィ「あれ?」

ジゼル【王様が目の前を通過してから、ようやく末姫は変だと思いました。
     そして本当に溺れているのだと気づき、王様を助けようとします】

セフィ「うんしょ」

 セフィ、王様(馨)の背後に廻って抱きつく。

馨(うっ!?)

 その瞬間、馨は背中に何か柔らかい感触を感じ、緊張と興奮で身体をカチーンと硬直させ、顔も真っ赤になる。

ジゼル【末姫は王様は抱きかかえ、海面まで運ぼうとします】

セフィ「うんしょ、うんしょ」

ジゼル【しかし、王様はとっても重たかったので、非力な末姫の力ではちっとも浮き上がってくれません】

セフィ「う〜ん、どうしましょう?」

ジゼル【そうして末姫が頭を悩ませると、末姫は王様がずいぶんと重そうな服を着ている事に気が付きます】

セフィ「そうです!この服を脱がせば運べるかもです」

 セフィ、馨の装飾品がじゃらじゃらと付いた服を脱がせ始める。
 その間、馨の身体は緊張で硬直しっぱなし。

セフィ「これでどうでしょうか?うんしょ、うんしょ」

ジゼル【末姫がもう一度王様を抱えて泳ぎだすと、今度は少しずつですが海面に向かって進んで行きました】



 舞台の照明が徐々に暗くなってゆき完全に消える。
 そして舞台セットが海面に切り替わる。



 海面に馨を抱えたセフィが顔を出す。

セフィ「ぷはっ」

ジゼル【そして、どうにか王様を海面まで引っ張り上げる事に成功しました】

セフィ「うぅ〜・・・。重かったですぅ・・・。でも、これからどうしましょう・・・?」

 セフィ、馨を抱えながら、しばらく波間に揺られながら考えるフリをする。
 そして顔を引っくり返った船に向ける。

セフィ「そうです。とりあえずあそこに・・・」

ジゼル【末姫は船に向かう事を決めると王様を引っ張りながら泳ぎだしました】



 舞台の照明が徐々に暗くなってゆき完全に消える。
 そして舞台セットが船の上に切り替わる。



セフィ「うんしょ、うんしょ。ふーー、重かったぁ〜・・・」

 セフィ、海面から馨を船の上まで引っ張り上げる。

セフィ「もしもーし、もしもーし」

 そして声をかけながら馨の頬をペチペチと叩く。
 馨はその感触がくすぐったくて、声が漏れそうになるのを必死にこらえる。

セフィ「起きないですぅ〜・・・。もしかたら水を飲みすぎたのかもしれないですねぇ」

 セフィ、馨の胸に手を置くと、ぐいっと押さえる。

セフィ「えいっ!」

ブーー

 それと同時に馨は口に含んでいた水をブーっと吐き出す。
 そして‘わーー、きったな〜い’という声が子供たちの笑い声が聞こえてくる。

馨(王様役)「ごほっ!ごほっ!!」

 馨は数回咳き込んだ後、うっすらと目を開ける。

セフィ「あっ、気づきましたかぁ?」

 馨、薄目でチラリとセフィを見てからすぐに目を閉じる。

セフィ「あれ、ダメですかぁ?でも、まぁ、息はしてるみたいですしぃ・・・。きっと大丈夫ですよね。
    それじゃあ、え〜と、これからどうしましょ?
    う〜ん・・・・・・。そうです!さっき脱がしたこの人の服を持ってきておいて上げましょう」

 セフィ、舞台から退場、馨1人が残される。
 そしてすぐにラム、貴也、ラオールがボート(ハリボテ)に乗って舞台に登場。

ラム(王子役)『おおっ!!父上!こんな所におられたのですか?捜しましたよ』

 ラム、馨のもとにひざまずく。

ラム『父上、どうされたのですか、父上?これはいけない、気を失っておられる。
    おそらく、ここに泳ぎ着いたところで力尽きてしまったのだろう。
    兵士達よ!急いで王を城へ』

貴也&ラオール(兵士役)「はっ!」

 貴也とラオールは馨を抱えてボートまで運ぶとラムと共に退場。

ジゼル【こうして王様は末姫が帰ってくる前に城へと連れて行かれてしまいました】

 王様の服を抱えたセフィ登場。

セフィ「お待たせしました・・・・・・・って、アレ?あの人どこに行ったんでしょう?
    元気になったから1人で帰っちゃったんでしょうか?」

 セフィ、辺りをきょろきょろと見回した後、手の中にある服に目を落とす。

セフィ「このお洋服、どうしましょう・・・」

 そして、しばらく服を見つめていると、突然何かに気づいたような表情になる。

セフィ「はっ!これって、もしかして泥棒になっちゃうんじゃないでしょうか!?
    うわわ!!どうしましょ!?どうしましょ!?アタシ泥棒さんになっちゃいましたぁ!!」

ジゼル【末姫は産まれて初めて悪い事をしてしまった事で慌て、頭をかかえて悩みこみます】

セフィ「そうです!!海に底に住む魔女のおばあさんに相談してみましょう。
    魔女のおばあさんは何でも知っている物知りさんですから良い知恵を貸してくれるかも知れないです」

 セフィ、王様の服を抱えて舞台から退場。

ジゼル【末姫は魔女のもとを訪ねるべく、王様の服を持って海の底へと帰って行きました】



 舞台の照明が徐々に暗くなってゆき完全に消える。
 そして舞台セットが魔女の屋敷に切り替わる。



セフィ「ここが魔女の住むお屋敷ですかぁ・・・。コンコ〜ン。あの〜魔女様、いらっしゃいますかぁ?」

 セフィがコンコ〜ンとドアを叩くとドアが開き、リリアナが顔を出す。

リリアナ(魔女役)『はいは〜い。どなたですかぁ?』

セフィ「あっ、こんにちは。アナタが魔女のおばあさ・・」

リリアナ『お姉さんです』

 リリアナ、にっこりと笑いながら、すかさず訂正する。

セフィ「えっ?」

リリアナ『魔女の‘お姉さん’です!』

セフィ「でも、台本にはおば・・」

リリアナ『お姉さんです!!

セフィ「あの・・・でも・・・」

リリアナ『お姉さん!!!

セフィ「わ、分かりました・・・。魔女のお、お姉さん」

 セフィはリリアナの顔は笑っているけど、全然笑っていない目と口調が怖くて、怯えながら言い直した。

リリアナ『はい。それじゃあ、お入りなさい。人魚のお城の末姫』

ジゼル【魔女は満足気に微笑むと末姫を自分の屋敷の中に招き入れます】 

リリアナ『それで、今日はどういった御用なのかしら?』

セフィ「はい。実はかくかくしかじかなんです」

 セフィは王様の服をリリアナに見せながら説明する。

セフィ「やっぱり、これって泥棒になるんでしょうか?」

リリアナ『ええ、気絶している人から服を剥ぎ取ったのですから、立派に窃盗罪が適用されますよ』

セフィ「やっぱりぃぃーーーー!!やっぱりアタシ泥棒さんになっちゃったんですねぇ〜〜・・・」

 セフィ、頭を抱えながら大げさにのけぞる。

セフィ「アタシそんなのイヤですぅ!!なにか良い方法はありませんかぁ?」

リリアナ『ありますよ』

セフィ「あるんですか?」

リリアナ『ええ』

セフィ「ど、どうすればいいんですか!?教えてください!!」

リリアナ『盗んだ物を持ち主に返せばよいのです。それで万事OKです』

セフィ「でもアタシ、あの人がどこの誰なのか全然知らないんですぅ」

リリアナ『この服の持ち主は地上の国の王様ですよ』

セフィ「えっ、どうしてそんな事が分かるんですか?」

リリアナ『簡単な事です。この服には地上の国の紋章が入っていますし、
     こんなにじゃらじゃらとした装飾品のついた服を日常的に着ている人などそうはいませんから』

セフィ「はぁ〜、なるほどー・・・」

リリアナ『なにより、服の裏に名前が書いてありますよ。ほらっ』

 リリアナは服を裏返すとセフィに見せる。

セフィ「えっと・・・。アタシ、人間の国の文字は読めないです・・・」

リリアナ『そうなのですか。ともかく、この服の持ち主は地上の国の王様です』

セフィ「王様ですか・・・。だったらやっぱりお城に住んでるんですよね」

リリアナ『そうですよ』

セフィ「そこって泳いでいけますか?」

リリアナ『無理ですね』

セフィ「じゃあ、アタシ行けないじゃないですか」

リリアナ『そんな事はないですよ』

 そう言うとリリアナは何かの液体の入ったビンを取り出す。

リリアナ『コレを飲めばアナタは人間になれますので歩いてゆく事が出来るようになりますから』

セフィ「へ〜・・・」

 セフィはビンを手に取ってしげしげと眺める。

リリアナ『ただし、それを飲むと声が出なくなるようになりますけど』

セフィ「ええぇーー!!そんなのイヤですっ!!」

リリアナ『でも、他に方法はありませんよ。いいんですか、一生犯罪者としての汚名を着ながら生きる事になっても』

セフィ「うぅ・・・それはイヤですけど・・・」

リリアナ『それに、元に戻る方法もありますから大丈夫ですよ』

セフィ「どうするんですかぁ?」

リリアナ『聖母になればいんです。聖母になれば、そのとき元の姿に戻れます』

セフィ「聖母って、どうすればなれるんですか?」

リリアナ『誰かの事を愛し、その人からも愛された時、アナタは聖母となります』

セフィ「な〜んだ。そんな事でいいんですか」

ジゼル【今まで誰にでも愛され、誰でも愛する事ができた末姫はいともあっさりと納得してしまいました】

セフィ「じゃあ、このお薬もらえますか」

リリアナ『ええ、どうぞ。それと人間の服もサービスしておきますね』

 リリアナは村娘の服を取り出してセフィに渡した。

セフィ「わぁ〜。ありがとうございます」

リリアナ『それと、これが城までの地図と城の見取り図です』

 リリアナは2枚の地図をセフィに渡した。

セフィ「ありがとうございます」
    
リリアナ『後は、今回の作戦に関する計画書を作成しておきましたので、以後の行動はこれに従って下さい』

 リリアナは一枚の計画書をセフィに手渡した。

セフィ「あ、ありがとうございます」

ジゼル【受け取った計画書には裏口から城に侵入する方法と宝物庫まで行く手順が書かれていました】

セフィ「・・・・・・・お姉さんって昔は何をしていた人なんですか?」

リリアナ『レディが女の過去を詮索するものではありませんよ』

 リリアナはにっこりと、しかし反論は許さない鋭い視線で笑った。

セフィ「はぁ・・・そうですか・・・」

リリアナ『それじゃあ、いってらっしゃ〜い』

セフィ「は、はい。じゃあ、いってきますぅ」

 セフィ、リリアナに見送られながら魔女の屋敷を出てゆく。



 舞台の照明が徐々に暗くなってゆき完全に消える。



ジゼル【こうして末姫は一抹の不安を感じながらも、人間のお城を目指して旅をする事になりました】



 そして舞台セットが海岸に切り替わる。



ジゼル【そして末姫は深い海の底の魔女の屋敷から人間の世界の海岸までやってきました】

セフィ「よいしょ、よいしょ」

 セフィ、足ヒレを引きずりながら舞台に登場。

セフィ「ふぅ、やっと地上についたですぅ。でも、やっぱりこの姿だと地上では動き辛いですね。早く人間にならないと」

 セフィは魔女に貰ったビンを取り出すとフタをあけ、中身を飲み始める。

セフィ「ごっくん、ごっくん。うえぇ、苦いですぅ・・・。良薬口に苦しってホントですね」


デンデロデンデロデンデロデンデロデーロン


     [末姫は呪われた]

      力が1上がった

      体力が1上がった

      知力が1下がった

      魔力が10下がった

      運が30下がった

      声が出せなくなります

      2足歩行が可能になります


セフィ「えっ、?な、なんですかぁ!?」

ジゼル【末姫は呪われてしまいました。魔女から貰ったモノは人魚を人間にする呪いのアイテムだったのです】

セフィ「えぇぇーーー!!そんな話きいてないですっ!!」

リリアナ『うふふっ。わたしは魔女ですからね。魔法使いのように優しくはないんですよ』

セフィ「そんなぁ〜・・・」

ジゼル【末姫はどこからともなく聞こえてきた魔女の幻聴を聞きながらへこみました】

セフィ「痛っ!!」

 セフィ、足ヒレを押さえながら顔をしかめる。

ジゼル【突然、末姫のヒレに鋭い痛みが走りました。
     その痛みはまるで、爪をペンチで無理矢理剥がされたような激痛でした】

セフィ「こ、今度はなんなんですかぁ!?」

ジゼル【末姫は痛んだところを見てみると、そこには一枚の鱗が落ちていました】

 セフィの後ろに黒子(貴也)が現れフリップを出す。

セフィ(鱗が剥がれたんですか?)

ジゼル【その時、末姫は自分ではしゃべっているつもりでしたが声が出ていない事に気づきます】

セフィ(アタシ、声が出てないですっ!?)

 以後、セフィのセリフは黒子(貴也)の出すフリップで表示される。

ジゼル【末姫が声が出ない事に驚いている間にも鱗がどんどんと取れてゆき、同時に激痛が末姫を襲い続けます】

セフィ(痛っ!!痛い痛い痛い痛い、いたあぁーーーーーーーーーーーーーーい!!!)

ジゼル【しかし、末姫は悲鳴をあげる事さえできず、ただ砂浜で身をよじる事しかできません。
     そして末姫はそのあまりにも激しすぎる痛みに耐え切れず意識を失ってしまいました】



 舞台の照明が徐々に暗くなってゆき完全に消える。



ジゼル【そして末姫は一晩中、痛みで覚醒し、痛みで気絶するという悪循環を繰り返しました】



 舞台に照明が灯り、人魚のヒレを取ったセフィが舞台中央に倒れている。



ジゼル【そして夜が明けたとき、末姫の姿は完全に人間の姿になっていました】

セフィ(うぅ・・・ひどい目にあったですぅ・・・。魔女のお姉さん、こんなに痛いだなんて一言も言ってなかったですっ!!)

ジゼル【しかし、目の覚めた末姫は人間になれた喜びよりも先に魔女に対する怒りを覚えました。
     そう、末姫はこの時産まれて初めて怒りという感情を覚えたのです。
     おめでとう、末姫】

セフィ(そんな事で祝われても、うれしくないですっ!!)

ジゼル【そして末姫は慣れない2本の足を使い、健気に城に向かって旅立って行きます】

セフィ(もう、なんか色々あって行きたくなくなってきたですぅ・・・)

ジゼル【旅立って行きます

セフィ(・・・)

ジゼル【旅立って行きます!!

セフィ(うぅ・・・・・・行かなきゃダメですかぁ?)

ジゼル【ダメです。でないとお話が続きませんから】

セフィ(うぅ・・・強引ですぅ・・・)

 セフィ、嫌々ながらも立ち上がって歩き出す。



 舞台の照明が徐々に暗くなってゆき完全に消える。



ジゼル【その後、末姫は魔女に貰った計画書どおり、通りかがる馬車に潜り込み、城を目指します。
     そして数日間馬車に揺られ、ようやく末姫はお城へとたどり着きました】



 照明が灯り、舞台がお城の周辺の風景に変わる。



セフィ(ふわぁ〜・・・人間のお城っておっきいんですねぇ〜・・・。人魚のお城よりずっと大きいですぅ・・・)

ジゼル【末姫は魔女から貰った計画書を取り出し辺りを見渡します。
     すると、そこには計画書に書かれてある通り、確かに古井戸がありました】

 セフィ、古井戸の蓋を外して中を覗き込む。
     
ジゼル【井戸の中には階段がかかっており、降りられるようになっていました。
     なぜなら、ここはいざという時に王族が逃げるための隠し通路だからです】

セフィ(なんで魔女さんはこんな道を知ってるんでしょう?)

ジゼル【末姫は不思議に思いながらも井戸の中に入り、下に降りてゆきます】



 舞台の照明が徐々に暗くなってゆき完全に消える。



ジゼル【その頃、お城の中では盛大な舞踏会が開かれていました。
     そして、その舞踏会で王子様は1人の少女を見初めます。
     しかし、その少女は12時の鐘が鳴ると同時にガラスの靴だけを残して去ってしまったりするのですが・・・。
     それらの事は末姫にはな〜んの関係もない出来事でした】  

ミリ(シンデレラ役)「えっ!ちょっと、アタシの出番ってコレだけ?」

 真っ暗な舞台にミリの声だけが虚しく響く。



 そして照明が灯り、舞台がお城の傍の風景に変わる。



ジゼル【井戸を抜け、末姫が出てきた所は城の城壁の内側、裏門近くの物置小屋でした。
     末姫はもう一度計画書を開くと、そこに書いてある通りフードを深くかぶって裏門まで近寄ってゆきます】

 コン コンコンコン ココンコン

ジゼル【そして末姫は一定のパターンで裏門の脇にある通用門を叩きます。すると】

 コンコン ココン コンコン

ジゼル【向こうからも一定のパターンの音が返ってきました】

 コン ココン コンコン ココン

 ギーーーー

ジゼル【そして、末姫がもう一度、一定のパターンで門を叩くと、門は内側から開きました】

 セフィ、フードを目深にかぶりながら門の中に身体を滑り込ませる。



 舞台の照明が徐々に暗くなってゆき完全に消える。
 照明が灯り、舞台がお城の中の風景に変わる。



ジゼル【末姫は門の中に入ると、そこにいた門番の手のひらに2枚の金貨を握らせます。
     門番はそれを受け取ると、何事もなかったかのような顔をして末姫の事を無視しました。
     そして末姫は門番の前を素早く通って角を曲がると城の見取り図を取り出し、侍女の部屋へ向かいます】

 セフィ、侍女の部屋に入る。
 そして出てきたときにはメイド服になっている。

セフィ(あとは宝物庫って所へ行ってお洋服を返すだけ。な〜んだ、簡単ですぅ)

ジゼル【ここまであまりにも順調にいっているため、気の緩んだ末姫は最近慣れてきた足でスキップし始めます。
     しかし、そんな目立つ行動をして誰かに見つからない訳がありません】

ラオール(衛兵役)「おい!そこの侍女」

ジゼル【案の定、末姫は城の衛兵に見つかってしまいます】

セフィ(えっ?)

ラオール「いったいこんな所で何をしている。ん?お前、いったい何を持っている」

セフィ(こ、これは・・・その・・・)

 セフィ、王様の服を自分の身体の後ろに隠す。

ラオール「なぜ隠す?怪しい奴め!見せてみろ!!」

 ラオール、無理矢理セフィの腕を摑むと王様の服を取り上げる。

セフィ(あぁ・・・)

ラオール「なんだこれは。貴様!いったいこれを何処から持ってきた!?」

セフィ(あの、それは王様の忘れ物でアタシはそれを届けにきただけなんです)

 セフィ、ラオールに向かって口をパクパクさせる。

ラオール「なんだ?お前、口が利けないのか?」

ジゼル【末姫は声を失っているため、衛兵に説明する事ができませんでした】

セフィ(ガーーン)

 セフィ、今度は紙とペンを取り出し何かを書き出す。

カキカキ

 そして書いた物をラオールに渡した。

ラオール「なんだこれは?何が書いてあるのかさっぱり分からんぞ」

ジゼル【城の衛兵には人魚の世界の文字は読めませんでした】

セフィ(ガガーーーン!)

バッ ババッ バッ さささっ さっ ババッ

 セフィ、今度はジェスチャーとボディランゲージで意志を伝えようとする。

ラオール「なんだぁ!?突然奇妙な踊りを踊りだしおって!!」

ジゼル【衛兵は末姫のジェスチャーとボディランゲージを理解してくれませんでした】

セフィ(ガガガーーーーン!!)

ラオール「ますます怪しい奴だ。ちょっとこっちへ来い!!」

セフィ(えぇ〜〜!!そんなぁ・・・)

 セフィ、ラオールに腕を摑まれ何処かへと連れて行かれる。



 舞台の照明が徐々に暗くなってゆき完全に消える。



ジゼル【哀れ、末姫は衛兵に捕らえられ、地下の牢屋に閉じ込められてしまいました。
     そして、月が沈み、陽が昇った翌朝の事です】



 照明が灯り、舞台がお城の謁見室の風景に変わる。



馨「なに?昨夜、城に賊が忍び込んでいたと?」

ラオール「はい。賊は金目の物を盗むため、城に潜り込んだものと思われます。
      それが証拠に賊はこのような物を所持しておりました」

 ラオール、恭しく頭を下げたまま進み出て、馨に王様の服を手渡す。

馨「これは!?」

ラオール「それは、確か王のお召し物でございますよね?名前も書いてありますし」

馨「確かにそうだが・・・。しかし、これは先日ワシが船の転覆事故の時に失くした物だぞ」

ラオール「は?」

馨「海で失くした物を、どうやって賊が城から盗み出せるというのか?」

ラオール「そ、それは・・・」

 ラオール、予期せぬ展開に少しうろたえだす。

馨「・・・・・・一度、これを持っていた者と話してみよう。その者は今どこにおるか?」

ラオール「はっ、今は地下の牢屋に閉じ込めております」

馨「連れてまいれ」

ラオール「はっ!」

 ラオール、舞台の袖に消え、セフィと共に再び現れる。

ラオール「この者でございます」

 ラオール、セフィを馨の前に突き出す。

馨(!!)

 馨、セフィを見た途端、頬を赤らめて固まってしまう。

ジゼル【王様は末姫のあまりの美しさに声を失って見とれてしまいました。
     そう、王様は末姫に一目惚れしてしまったのです】
 
馨「・・・」

ラム『父上、どうされました?』

馨「あっ、いや・・・なんでもない。んっ、あ〜、その者、名は何と申すか?」

ジゼル【王様に名を聞かれると、末姫は困った顔になりました。
     末姫は答えたくても今は言葉を話す事ができないからです】

馨「どうした?そなたの名は?」

ラオール「王。実はこの者は口が利けないようなのです」

馨「むっ。そうなのか?」

 セフィ、コクンとうなずく。

馨「むむっ・・・。困ったのぉ。これでは、これをどうやって手に入れたのか聞く事ができぬではないか」

 馨は王様の服を取り出し、困った顔をする。

セフィ(!!)

バッ ババッ バッ さささっ さっ ババッ

 セフィは王様の服を見た途端、ジェスチャーとボディランゲージとパントマイムを使って事情を説明しようとした。

ラオール「こらっ!!止めないか!!王の御前であるぞ!!」

 それを見たラオールは慌ててセフィを取り押さえる。

馨「待て!その者は何か言葉の代わりに身体を使って説明しようとしているのではないか?」

 セフィは馨の言葉を聞き、パッっと笑顔を浮かべてコクコクとうなずいた。

馨「そのようだな。よいからその者を放せ」

ラオール「はっ」

 ラオール、セフィを解放してすごすごと後ろに退がる。

馨「さぁ、もう一度やってみるといい」

 セフィはコクンとうなずくと、さっきのジェスチャーとボディランゲージとパントマイムをして見せる。

バッ ババッ バッ さささっ さっ ババッ

ラム『・・・・・・う〜ん。これでは何を言いたいのかさっぱり・・』

馨「ふむふむ・・・。つまり、そなたは海でコレを拾ったので城まで届けに来てくれた、という事か?」

 セフィ、満面の笑顔を浮かべながら何度も何度もコクコクとうなずく。

ラム(えぇぇ!!なんでさっきのアレでそこまで分かるの!?)

ジゼル【王子には理解不能な末姫のジェスチャーも何故か王様には理解できていました】

馨「なのに牢に閉じ込めるなど、大変失礼な事をしてしまった。何かお詫びをせねばならないな」

バッ ババッ ささっ

馨「ふむ・・・。ここ数日なにも食べていないのか何か食べさせて欲しいとな」
 
 セフィ、笑顔を浮かべてコクコクうなずく。

ラム(なんであの短いジェスチャーでそこまで分かるんだ?)

馨「そんな事でよいのか?では、今から用意させよう。おい!誰か、この者のために食事を用意せよ!」

フォル(侍女役)「はーい。ただいまお持ちします」

 舞台の袖からメイド服姿のフォルが料理の乗ったカートを押して現れる。
 その食事を見た途端、セフィの顔にパァーーっと笑みが広がってゆく。

フォル「どうぞ、召し上がってくださいな」

セフィ(いただきます)

 セフィはパンと手を合わせると、用意された食事を食べ始める。

セフィ(ううぅぅぅ・・・、お、おいしいですぅぅぅぅ!!!
    この世にこんなにおいしい食べ物があったなんて初めて知りましたぁーーー!!。
    やっぱりお姉さまが言ってた事は本当だったですぅ!!
    人間の世界はおいしいものがたくさんあるですぅ!!)

 セフィは感涙でむせび泣きながら、もしゃもしゃと食べ続ける。

セフィ(あぁ・・・。それにしても王様って優しい人ですぅ。
    アタシの言いたい事を分かってくれて、そのうえ、こんなご馳走まで食べさせてくれるなんて・・・。
    なんて素敵な人なんでしょう・・・)

ジゼル【末姫が食事をしながらそんな事を思って王様を熱い視線で見た時】

ボンッ     

ジゼル【突然、末姫の足が元の人魚のヒレに戻ってしまいました】

セフィ「あれ?」

ジゼル【末姫もいきなり戻った自分の足ヒレに驚き、呆然とします】

フォル「キャ、キャーーーーーーーーーー!!!」

ラム『な、なんと!!』

ラオール「ば、化け物!!」

ジゼル【そして、末姫の正体を知った周りの人々は驚き、慌てふためきます】

セフィ「ア、アタシ、化け物なんかじゃないですぅ!!」

ラム『何を言う!そんな足をした人間がいるものか!!
    化け物め!人間のフリをして城に忍び込み、何を企んでいた!?』

ジゼル【王子は剣を抜くと、衛兵と共に末姫に詰め寄ります】

セフィ「そんな・・・。アタシ・・・なにも企んでなんて・・・」

馨「待て!!

ジゼル【そんな王子の行動を王様は一喝して押さえ込みます】

 馨、セフィの前まで進み出て柔らかい笑みを向ける。

馨「そなた、あの時、溺れていたワシを助けてくれた者だな」

セフィ「は、はい!覚えててくれたんですねぇ。うれしいですぅ」

馨「いや、本当は人魚に助けられたなどとは半信半疑で夢だと思っておったのだが・・・。
  まさか本当の事だったとは・・・」

 馨、ラムとラオールの方を向く。

馨「この者は化け物などでは決してない!ワシの命の恩人だ!!
  ワシの名においてこの者を傷つける事も誹謗する事もいっさい許さん!!」

ラム『・・・・・・・・・・はっ、承知しました』

 ラムとラオール、不承不承ながらも馨の前で跪く。

馨「息子が失礼をはたらき申し訳ない。許して欲しい」

セフィ「いえ、アタシ、全然気にしてませんから」

馨「ところで、どうしていきなり人魚に戻ったりしたのだ?それに、さっきから口も利けているようだが・・・」

セフィ「はい。実はアタシ、王様に服を返すために魔女に人間にしてもらってたんです。
    でも、人間になる代わりに声が出なくなる呪いがかけられてて・・・。
    でも、アタシが聖母になったんで、その呪いが解けて、体も元に戻ったんだと思いますぅ」

馨「聖母、とはなんだね?」

セフィ「あっ、聖母っていうのはですね。
    アタシが誰かを愛し、その人からも愛された時になるんだって魔女は言ってました」

馨「愛し・・・愛される・・・」

 馨の顔が湯気が出そうなくらい真っ赤になる。

馨(そ、それでは、こ、この者は、ワ、ワシの事をあ、愛しているという事かぁ!!?)

ジゼル【そう。王様は末姫に一目惚れし、末姫は王様の優しいところを好きになったため、末姫は聖母となったのです】

馨(き、決めた!)

 馨、真剣な顔でラムの方に振り返る。

馨「王子よっ!」

ラム『はっ』

馨「今より王位をそなたに譲る」

ラム『はっ。・・・・・・・・はぁ?』

 ラムは訝しげな顔で馨を見る。

馨「そしてワシはこの者を妻に娶り、第二の人生を歩む事とする!!」

ラム『ち、父上!!な、なにをいきなり言われるのですか!?』

馨「止めるな息子よ!もう決めたことなのだ!!」

ラム『しかし・・・』

 ラムはそこで言葉を止め、しばらく何か考え込む。

ラム『分かりました。今より私がこの国を治めましょう。父上は自由にご自分の人生を歩んでくださいませ』

馨「おぉ!!息子よ、分かってくれたか」

ラム『はい』

 ラム、馨に頭を下げながら口元だけでニヤリと笑う。

ジゼル【その後、王子はさっそく手に入れた権力をフルに使って国中の女性にガラスの靴を履かせるのですが・・・。
     それはまた別のお話です】 

 馨、くるりとセフィの方に向き直る。

馨「そういう訳で、そなた、ワシとその・・・け、け、け、結婚してくれまいか!?」

 セフィ、きょとんとした顔で馨を見つめ返す。
 そして馨は顔を真っ赤にし、緊張で汗をだらだらとかきながらセフィを見つめ返す。
 まるで本当にプロポーズをしたかのような迫真の演技だ。

セフィ「あの〜、一つ聞いてもいいですかぁ?」

馨「な、なんなりと」

セフィ「結婚ってなんですか?」

一同(セフィを除く)「「「『へっ?」」」』

 一同、固まる



 そして舞台の照明が徐々に暗くなってゆき完全に消える。



ジゼル【世間知らずで人間社会の事を何も知らない末姫は結婚という言葉も意味も何も知らなかったのです。
     その後、末姫は人間社会の事を一から教え込まれ、結婚の意味を理解します。
     そして、王様は改めて末姫にプロポーズしました。そして】

セフィ「いいですよ、アタシも王様のこと好きですから」

ジゼル【末姫はあっさりとそのプロポーズを受けました。
     こうして2人は幸せな結婚生活をおくる・・・はずだったのですが。
     周りの諸侯たちが王と人魚の婚姻を認めようとはしませんでした。
     そのため、王様と末姫は末姫を完全に人間にする方法を求めて旅に出る事になるのですが・・・。
     それはまた別のお話】

セフィ「まぁ、それでも好きな人と一緒にいられるんですから、めでたしめでたし、ですよね」


<おしまい>





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