第1話 最初の審判
その日は朝から目も冴えるような青空だった。
前日にメルが朝にみんな共同リビングに集まるように伝えてあったため、皆それぞれ共同リビングに集まって来ていた。
みんな今日の意味が解かっているようで神妙な様子だ。
一部のものをのぞいては・・・。
1999年7月11日
英荘・共同リビング(朝)
共同リビングにはセフィとジゼル以外がそれぞれいつもの場所に座っている。
そこへセフィとジゼルがやってきた。
ジゼル「おはようございます。ところでメルさん、朝からみんなを集めて何するんですか?」
セフィ「アタシ朝は弱いから困りますぅ・・・。ふぅあーぁ・・・」
ジゼルの隣でセフィがあくびをした。
ぴくっ
それを聞いたメルのこめかみが震える。
メル「セフィ、今日が何月何日か解かってる?」
セフィ「えっ、えーと7月11日ですね」
セフィは訳がわからないという顔でカレンダーを見ながら答えた。
メル「そうよ。で、何の日?」
セフィ「えっ、えーーーと・・・。何の日でしたっけ」
えへへと笑うセフィ。
ぴくっ、ぴくっ
メルはますます激しくこめかみを震わせた。
メル「あんたホントにべスティアリーダーなの!今日は最後の審判を始める日でしょうが!」
ぐりぐり
メルはセフィの頭を両側からゲンコツでぐりぐりした。
セフィ「痛いですぅ、やめてくださーい」
メル「あんたが大事なことを忘れてるからでしょうが」
ぐりぐり
それを聞きメルはますます拳に力をこめた。
セフィ「す、す、すみませーん!」
フォル「まあまあ、メルさんもそのくらいにしてあげてくださいな。なにも悪気があったわけでは無いのですから」
そんなメルをフォルはやんわりなだめた。
メル「ほんとにもう・・・」
それでメルはようやくセフィを解放してあげた。。
セフィ「ううっ・・・。だって最近、保育園の仕事が忙しかったんだもん・・・シクシク・・・」
メルから解放されたセフィは部屋のスミで涙を浮かべながらいじけていたが、メルは気にも止めなかった。
メル「ふぅ・・・気が削がれちゃったけど、今から最後の審判を開始します」
皆神妙にうなずく。
貴也「でも審判ってどうやってするんですか?俺達はなにも聞かされていませんけど」
貴也は少し困惑顔で聞いた。
それはその横で頷くラオールとジゼルも同様の表情だった。
クレア「あなた達は何もしなくていいわよ。それに今日はまだ神託を告げるだけだから」
ジゼル「神託?」
メル「とにかく見てもらった方が早いわ。みんな外に出て」
皆メルに引き連れられるように、庭に出て行く。
英荘・庭
この日、みんなが見上げた空はどこまでも果てしなく続く青空だった。
ジゼル「わー、とってもいいお天気」
ジゼルはそんな空をまぶしそうに見上げる。
マリア「綺麗・・・」
目を細めて隣にいる貴也の手を握るマリア。
貴也「うん、ほんとに綺麗だね・・・」
そっと握り返す貴也。
メル「じゃ、始めるわよ」
そんなみんなの前に正装に着替えたメルが現れた。
メル「出でよ、ネガレイファントル!」
メルの呼びかけに応えてネガレイファントルがメルの前に出現する。
そしてメルは少しみんなを見渡し、そしてミリとセフィに目を向けてからネガレイファントルの中へと姿を消した。
そしてネガレイファントルの目に光が灯る。
メル『我が心と融合せよ、我が心と一つになりて、汝のワザを命ずるままに行使せよ!』
そして遥か上空へと舞い上がって行く。
皆、無言でその姿を見守っていた。
その姿が1センチほどの大きさになったあたりでネガレイファントルを中心に無数の光が周囲へと散らばってゆく。
貴也「あれは?」
フォル「護符(チャーム)ですね。おそらくあれを媒介にして人類に『声』を届けるのでしょう」
そして『それ』は始まった。
メル『人類のみなさん初めまして。ワタシはメルキュール・ティラス・サブロマリン、
べスティアリーダー、人類の言うところの堕天使の長のリーダー・オブ・リーダーズです。
我らが主、リガルード神に成り代わりご挨拶させていただきます』
ジゼル「な、なに?」
ラオール「な、なんだこの声は・・・」
貴也「頭に直接響いてくる」
頭に響く『声』の違和感に3人は頭を押さえた。
ラム(なんて強力なPsiなんだ)
その強すぎる念波にラムは顔をしかめた。
クレア「ネガレイファントルでメルのPsiを増幅して護符(チャーム)を媒介にして、『声』を全人類の脳に直接送っているのよ」
クレアは『声』の正体を3人に説明した。
ラオール「でもこの『声』って俺達の国の言葉だぞ」
貴也「えっ、俺には日本語で聞こえているけど」
ジゼル「えっ、そんなはずないよ」
クレア「自分達にとってもっともなじみのある言葉で聞こえるようにしてあるのよ」
実際に世界中の人々が今、この『声』を聞いているはずである。
メル『今日は我らが主、リガルード神からの神託をお告げいたします。
来月、8月11日、ちょうどグランドクロスの日に人類をべスティアであるかどうか審判いたします。
べスティアとは強欲で憎悪を抱き暴力を振るう懐疑的な獣の心を持つ人間のことです。
まず我々べスティアリーダーが人類を審査します。
そして我々べスティアリーダーとは対を成す存在である天使、その第1天使がそれを審議いたします。
そしてもし人類がべスティアと審議されたときには、人類は第3天使によって滅ぼされることとなります。
それでは人類のみなさん良い終末を・・・』
そこで『声』は止み、ネガレイファントルが降下してきた。
そしてネガレイファントルが地上に着地し、メルが降りてくる。
メル「これで最後の審判が開始されたわ。すぐに残りのべスティアリーダー達も地球に降りてくるでしょう」
貴也「メルさん、べスティアリーダーの人類の審査って?第1天使の審議ってどうするんですか?」
さっそく貴也はメルに疑問を投げかけた。
メル「・・・・・・」
しかしメルは悲しそうな顔をするだけで何も答えない。
貴也「メルさん?」
そんなメルに貴也は今までにない何かを感じ取った。
メル「貴也、今までありがとう。でも最後の審判が始まってしまった以上もうここにはいられないの」
貴也「えっ、メルさんそれってどういう・・」
驚いた貴也は勢い込んで聞くがメルはその言葉をさえぎった。
メル「ミリ、セフィ行くわよ・・・」
そして2人を促しメルは貴也に背を向けた。
ミリ「う、うん・・・ごめん、ジゼル姉ちゃん、ミュウのことお願い。さよなら」
ジゼル「えっ、待ってミリちゃん」
ミリはジゼルにミュウを託し、背を向け駆け出す。
セフィ「ラオールさんにもお世話になりました。保育園の皆さんにはよろしくお伝えください。それでは・・・」
ラオール「・・・・・・」
セフィはそう言った後、皆にお辞儀をして去っていった。
ラオールはそんなセフィに何も声をかけることが出来なかった。
ミリ「エルメスフェネック!」
セフィ「アンティータァ!」
そして2人はそれぞれの獣機に呼び出し、飛び立って行く。
メル「じゃ、またねクレアさん・・・さようなら・・・」
そう言い残してメルはこの地を離れた。
そしてまるで取り残された様な形になった貴也達は呆然とそれらを見送っていた。
クレア「さぁみんな、こんなところにいつまでも居てもしょうがないでしょう、英荘の中に戻りましょう」
クレアの号令で英荘に戻っていく天使達。
貴也「クレアさん!どういうことなんです。最後の審判っていったいなんなんですか?」
そんなクレアに貴也は激昂して食い入った。
こんな貴也を見るのは皆初めてだった。
突然こんなことになって貴也は納得がいかなかったのだ。
クレア「ちゃんと説明してあげるから、今はとりあえず英荘へ戻りましょう」
貴也「・・・はい・・・」
しかしクレアはそんな貴也の態度をほとんど気にも止めずにそう言った。
そしてそう言われては貴也もしぶしぶといった感で引き下がるしかなかった。
英荘・共同リビング
クレア「フォル、とりあえずお茶いれて」
共同リビングに入ってのクレアの第1声はコレだった。
フォル「はい、クレア姉様」
クレアの言われて台所へと行くフォル。
貴也「クレアさん!」
そんなクレアに貴也は声を荒げて詰め寄った。
クレア「わかってるわよ。でもとりあえずお茶でも飲んで気を落ち着かせて、話はそれからよ」
貴也「・・・・・・」
クレアはそれ以上何も言ってくれないようなので、貴也はしぶしぶながらも腰を落ち着かせた。
・・・・・・・・・・
しばらく部屋には無言の時が過ぎる。
フォル「お茶がはいりましたよ」
そしてしばらくした後フォルが人数分のお茶を持って台所から現れた。
ずずずー
しばしお茶をすする音だけが部屋に響く。
ことん
貴也が湯のみを置き、
貴也「じゃあ聞かせてもらいましょうかクレアさん」
険のこもった声で問い掛けた。
クレア「そうね、でもなにから説明したものかしら・・・」
貴也「なぜメルさん達は出ていったんですか?」
クレア「人類を審査するためよ」
貴也「審査って?」
クレア「その名のとおり人類がべスティアかどうか審査するの」
ラオール「それって最後の審判ですることじゃないのか?」
クレア「べスティアリーダーの審査っていうのはそれとは違うの」
ジゼル「どういうこと?」
クレア「べスティアリーダーの審査はべスティアリーダー自身が個々に自分の魂と同じくする、もしくは近しい人類を個別に審査するの」
貴也「それってどういう方法でですか?」
クレア「その人間と自分の獣機を融合させるのよ」
ジゼル「えぇーー!!」
ラオール「融合だって!」
貴也「なんでそんなことするんですか!」
3人はそれぞれに驚きの声を上げた。
クレア「それはベルが人類の審議する方法と関係があるの」
ジゼル「?」
そう言われてもジゼルにはさっぱり分からなかった。
ラオール「ベルの審議の方法?」
ラオールも同様だったらしく、ベルの方を見た。
しかしベルは視線をそらしうつむいてしまう。
貴也「その方法っていうのは・・・?」
クレア「ベルと獣機を戦わせて、ベルが108の鐘を鳴らしきる前に獣機をすべて倒せれば人類はべスティアでは無いと審議されるわ」
ラオール「なっ!」
ジゼル「ええぇ!」
貴也「そんな・・・」
クレアの言葉を受けて、3人に動揺が走る。
ラオール「じゃあ、ベルはミリやセフィと戦わなくちゃならないってことか!」
思わず立ちあがりクレアに詰め寄るラオール。
マリア「落ち着いてラオールくん。まだそうなると決まったわけでは無いのだから」
マリアはそんなラオールを慌てて引き止めた。
ラオール「えっ」
クレア「そうよ。まったく、話は最後まで聞きなさいって」
ラオール「・・・」
そう言われてラオールはすごすごと引き下がり座りなおし、
ラオール「すまん、マリア」
小声でマリアに詫びを入れた。
マリア「ううん、いいのよ。だってクレア姉さんの話し方が悪いんだから」
マリアも小声で返した。
クレア「なんですって!」
しかしクレアはそれを聞き逃してはおず、マリアを睨みつけた。
マリア「きゃ」
しかしマリアはすかさず貴也の後ろに隠れた。
貴也「それよりも‘そうと決まったわけでは無い’ってどういうことですか?」
クレア「ごほんっ」
咳払い一つ。
マリアが貴也の後ろで舌を出していたが、クレアは一睨みしただけで話を続けた。
クレア「ベルが戦うのはべスティアだった人類と融合した獣機とだけだからよ。
だからミリやセフィがべスティアで無い人類と融合していた場合は戦わなくてもいいってわけ。
ワタシ達が審議するのは人類がべスティアかどうかなんだから、そのままのべスティアリーダーと戦っても意味が無いでしょう。
どう、これで分かった」
貴也「はい・・・」
ラオール「なるほど。そのための融合か・・・」
2人は合点がいったという風に頷いた。
ジゼル「じゃあ融合した人が全員べスティアでなければベルさんは誰とも戦わなくてすむんだ」
ジゼルはさも名案が浮かんだかのように話したが、
クレア「そのとおりよ。でも・・・」
クレアは少し寂しそうに言葉を返した。
ラオール「そうだな。そんなことはまずありえないな・・・」
ジゼル「そうか・・・」
その意味を悟り、ジゼルは表情を暗くする。
フォル「みなさーん。朝ごはんができましたよー」
そんなところへフォルの声が響いてきた。
ラオール「なっ、こんなときに朝メシ」
ラオールはフォルの感性に呆れた。
ジゼル「フォルさんってマイペースなのねぇ」
ジゼルはそんなフォルに微笑んだ。
クレア(ちがうわ。きっと今までどうり過ごすことで現実から目をそらそうとしているのよ)
フォルの一言により共同リビングには和んだ雰囲気になったが、クレアだけはフォルのことを気遣わしげな目で見つめていた。
リリアナ『じゃあ、お話はとりあえずこのくらいにして朝ごはんにしましょうか』
そしてリリアナの声を受けて、一同は台所に移動を開始した。
ラオール「そうだな、たしかに起きてから何も食ってないから腹もへったしな」
ジゼル「でも、3人減っちゃったから少し寂しいな」
しかし台所に着いた一同が見たものは、12人と1匹分の朝食であった。
そしてこの日、世界各地に落下する無数の流星が観測された。
そして時は流れる。
最後の審判の開始をする上でリガルード神を人類の前に出すかどうか迷ったのですが、
メルのリーダー オブ リーダーズのお役目の一つということにして肩代わりで行ってもらうこととしました。
護符(チャーム)
護符(チャーム)はそれ自体がフィールド発生機関を持った小型の結界兵器
(これで発生させた結界で敵の結界を中和し、メタチルテニウム製の外郭で敵本体を攻撃する)
でもあり、Psiの増幅装置としての機能を持ち合わせた増幅器ということにしています。
ベスティアリーダーの審査及び最後の審判の方法
最後の審判でベルとベスティアリーダー全員を戦わせたくはなかったですし、
天使とベスティアリーダーは必ずしも敵ではないはずですので、
作中でクレアの語ったとおりベスティアリーダーの審査に合格しなかった者達だけベルと戦う形にしました。
審査の融合の案は漫画版の電脳天使のエルメスフェネックと青木先輩の融合から取っています。
日にち
最後の審判は7月に始まるはずなのですが、グランドクロスが起こるのは8月です。
この矛盾を解消するため1ヶ月間は審査の期間ということにして、始まるのは7月だが審判は8月ということにしました。