最後の審判

第3話 ベル対セフィ(前編)
 
 

1999年8月11日

天界 
 

『ようやくこの日が訪れた』
『この日、我らと人類の未来が決まる』
『しかし第3天使はいまだに不安定だ』
『しかし予定どうりの事が起こることが我々の望みではない』
『そうイレギュラーもまた我々が望んだこと』
『イレギュラーによる未来の変革も我らの望み』
『さあ、今こそ最後の審判を始めよう』
 
 
 
 

同日

英荘・庭
 

 この日の空も青く澄みきっていた。
 この空の下、ベル、マリア、貴也、ラオール、ジゼルがフォルとクレアの見送りに出ていた。
 フォルもクレア、そしてベルも正装姿だ。
 ラムも呼びに行ったのだがは部屋にはいなかった。
 そしてリリアナはもう英荘のどこにもいなかった。

フォル「それでは貴也さんしばしのお別れです。マリアのことをお願いします」

クレア「ワタシ達は審判が終わるまで衛星軌道上で待機しなくてはならないから・・・」

貴也「うん、フォルもクレアさんも気をつけて・・・」

フォル「はい・・・」

クレア「ワタシ達は心配いらないから大丈夫よ」

 フォルはベルの肩に手を置き、話しかけた。

フォル「ベル、がんばるのですよ。決して最後まで諦めてはいけませんよ」

ベル「大丈夫よフォル姉様、あたしは負けたりなんかしないから」

 ベルはフォルに笑顔で返した。 

フォル「マリア・・・、貴也さんのことはあなたにお願いしますね」

 マリアに優しく微笑みかけるフォル。

マリア「フォル姉様・・・」

 涙ぐみながらマリアはフォルに抱きついた。

フォル「マリア・・・幸せにおなりなさい・・・」

マリア「うん・・・」

 そしてマリアを放した後、今度はラオールとジゼルに向き合った。

フォル「ラオールさん、ジゼル、きっとまたお会いしましょうね」

ラオール「ああ、約束する」

ジゼル「きっとだよ。ちゃんと戻ってきてね・・・」

 そう言うジゼルの目にも涙が浮かんでいた。

フォル「はい・・・」

 フォルは笑顔で返した。

クレア「じゃあ行きましょうかフォル」

フォル「はい、クレア姉様」

 皆から背を向ける二人。

フォル「アクエリュース!」
クレア「グラフィアス!」

 そしてそれぞれの神機を呼び、飛び立って行く。

貴也「フォル・・・、クレアさん・・・」

 残された者達はいつまでもそれを見送っていた。

 しかし『声』はすぐに響いてきた。
 
 
 
 

メル『人類のみなさん、有意義な終末はおくれましたでしょうか?今から最後の審判を行いたいと思います』
 
 
 
 

ラオール「くっ、いよいよ始まったか・・・」

 耳を押さえつぶやくラオール。

メル『さてこの一ヶ月の審査により人類の66%がべスティア側の人間であることが解かりました。』

マリア「そんな・・・、そんなに大勢の人類がべスティアだったなんて・・・」

 マリアはその『声』を聞き青い顔をした。

貴也「マリア!」

 そんなマリアを支える貴也。

ベル「・・・・・・」

 ベルはこぶしを握り唇を噛んでいる。
 

メル『これにより第1天使には66人のべスティアリーダーと戦っていただきます。
   そしてこのすべてに打ち勝てば、晴れて人類はべスティアでは無いと審判されます』
 

 その時、上空に幾つもの光が煌いた。。

ドオォォーーーン

 そして66体の獣機が降下し、英荘の周り一面が獣機で囲まれた。

ジゼル「ひっ!」

 その衝撃にジゼルは思わずラオールにしがみついた。
 
 
 
 

メル『それでは、最後の審判を開始いたします』

 そしていよいよ最後の審判が開始された。
 
 
 
 

ベル「来たれ、我ら御使いが主より賜りし鳳駕、我を守護する獅子座の神機、レオニス!」

 ベルの呼びかけに応えレオニスが姿を現す。

ラオール「ベル!」

 レオニスに乗り込もうとするベルをラオールは呼び止めた。

ベル「心配しないでラオールくん。これがあたしの御役目なんだから・・・」

 心配そうに自分を見つめるラオールにそう言って、ベルはレオニスに乗り込んだ。

ベル『我が心と融合せよ、我が心と一つになりて、汝のワザを命ずるままに行使せよ!』

 レオニスの目に光が点る。
 そして皆に背を向け飛び立って行く。

ラオール「ベル・・・・・・」

 残された者はそれをただ黙って見送るしかなかった。
 
 
 
 


 

 英荘から少し離れた森の中で一体の獣機と一体の神機が向かい合っている。
 アンティータァとレオニスだ。

ベル『やっぱり最初の相手はセフィさんなんですね・・・』

セフィ『はい・・・、アタシと魂を近しくする人はべスティア側の人だったんです・・・』

ベル『できればあなたとは戦いたくなかった・・・』

セフィ『はい・・・でもこれがアタシの御役目なんです!』

 アンティータァがレオニスめがけて突っ込んで行く。

ガアァン

 アンティータァの拳がレオニスを捕らえた。
 吹き飛ばされるレオニス。

セフィ『どうしたんですかベルちゃん。本気を出してください』

ベル『分かってるけど、でも・・・』

 ベルはレオニスを立ちあがらせた。
 機体の損傷はほとんど無い。
 これぐらいのダメージなら簡単に自己修復できるのだ。

セフィ『いきます』

 再びアンティータァがレオニスに迫る。

ベル『くっ』

 今度は身を引かせてなんとか躱すベル。
 だがベルからは攻撃できないでいた。
 攻撃をしかけるアンティータァとそれを躱す、もしくは防ぐレオニスの攻防がしばらく続いた。
 そしてその攻防の後、アンティータァはレオニスから離れ距離をおいた。

セフィ『どうして攻撃をしかけてこないんですか』

ベル『・・・』

 セフィの問いかけにベルは答えることが出来なかった。

セフィ『それでは無理矢理にでも本気になってもらいます』

 アンティータァの手に赤い光を纏った剣が現れた。

ベル『!』

セフィ『ベルちゃんのように重力崩壊場は作れませんけれど、これでも神機の装甲ぐらいは軽く貫けます』

 その剣を振りかぶり迫るアンティータァ。

セフィ『このままなにもせず生き終わるつもりなんですか、ベルちゃん!』

 そしてレオニスの頭めがけて剣を振り下ろす。

バチィ

 ベルはレオニスの手に重力崩壊場の黒い剣を発生させ、アンティータァの剣を受け止めた。

セフィ『やっとその気になってくれたみたいですね・・・。それではいきますよ』

 セフィはさらなる斬撃を繰り出す。
 だがベルはそれらを受け止めるだけでやはり反撃できずにいた。
 そのためレオニスは幾つもの傷をその体に刻みつけられてゆく。
 
 
 
 

ネガレイファントル・コクピット
 

 メルはこの光景をネガレイファントルの中から見ていた。

メル(やっぱりこうなってしまったわね・・・。
   こうなることが・・・。ベルちゃんに辛い思いをさせる事が分かっていたから・・・、
   だからベスティアリーダーには誰1人としてこの日までは降りてきて欲しくなかったのに・・・。
   でも辛いのはセフィも同じ・・・。それに今の彼女には生き終われない理由が出来てしまったわ・・・。
   やはり昨日は行かせるべきではなかったのかも・・・。でもそれは彼女の最後の望みだったから・・・)

メル「ふぅ・・・」

 メルは重い溜息をついた。
 今のメルにはそれしか出来る事がなかったのだ。
 
 
 
 

森の戦場
 

ガキン

 数度の攻防の後に剣と剣が搗ち合い至近距離での睨み合いになる。

バチバチ

 搗ち合ったセフィの剣が赤い火花を飛ばしている。
 ベルの重力崩壊場はセフィの剣を侵食しようとするが、セフィは何とか剣の力場を強化して防いでいる。
 実際には剣質の力だけでもこれだけの差があるのだ。
 それなのにベルの方がセフィに一方的に押されていた。

セフィ『どうして本気になってくれないんですか!本当にこのまま生き終わるつもりなんですか!』

ベル『・・・だってセフィさんは家族だったんだもん・・・戦えるわけ・・・ない・・・』

 ベルは搾り出すようにしてやっとそれだけを言った。

セフィ『ではあなたはマリアちゃんもマリアちゃんの子供のネオミックも見捨てると言うんですね』

ベル『!』

 その言葉にベルは衝撃を受けた。

セフィ『あなたがここで生き終わるということはあの2人がリガルード神によって不必要と判断され消されることになるのですよ』

ベル『・・・』

セフィ『それにあなたは本来のお役目を忘れ人類をも見捨てるつもりなんですか』

 その言葉の後、しばらく静寂が辺りを支配した。

ベル『・・・ありがとうセフィさん。おかげで目が覚めたわ・・・』

 そう言うベルは声は先ほどまでのものとは違いはっきりしたものだった。

セフィ『ベルちゃん』

ベル『そう、あたしはマリアのためにもネオミックのためにも負けるわけにはいかない・・・』

セフィ『やっとその気になったんですね・・・』

ベル『ええ、ありがとうセフィさん。目を覚まさせてくれて・・・。ここからは本気でいくわ!』

 ベルは力まかせに剣ごとアンティータァを押しきった。
 そのためアンティータァはバランスをくずし後ろにさがる。
 そこへレオニスは重力崩壊場を繰り出してゆく。
 今度はアンティータァが防戦一方になった。

セフィ『くぅ!!』

ドオォーン

 そしてとうとう重量崩壊場に押し切られ地面に倒れこむアンティータァ。

バクン

 ベルは肩から鐘用の重力崩壊場安定機を露出させる。

ベル『ふたーーーつ!』

 そしてアンティータァに向け鐘を打ち出した。
 その光はアンティータァに向けて真っ直ぐ向かい、その体を貫いた。

セフィ『!!』

 そしてアンティータァの体が鐘の当たった場所を中心に縮み出す。

ベル『セフィさん!!脱出して!!』

 無理なこととは分かっていても、ベルはそう叫んでいた。

セフィ『いいんですベルちゃん。これがアタシ達のお役目なんですから』

ベル『セフィさん・・・』

 いつしかベルの目からは涙が流れていた。

セフィ『ベルちゃん・・・負けないでくださいね。そしてアタシの分も幸せになってね・・・』

 そしてアンティータァの体は原型がわからないくらい歪み。

セフィ「ごめんなさい、馨さん・・・」

どおぉぉん

 アンティータァはセフィもろとも圧壊し爆発した。
 爆発自体はアンティータァ自身が張っていた結界の力場に阻まれて外に影響を及ぼすことは無く、
 そしてその姿は虚空へと消えていった。

ベル「ごめんなさいセフィさん・・・そしてありがとう・・・」

 レオにスの中でそう呟くベルの目からは止めど無く涙が溢れた。

?「そんな出来そこないにてこずるなんて第1天使もたいしたことないわね」

ベル『誰!』

 そこに突然後ろから声をかけられた。
 そして咄嗟にレオニスを振り返らせてベルが見たものは、

ベル『!?』

 今倒したはずのセフィネスとアンティータァの姿だった。
 

<つづく>






解説




最初の会話

リガルード人の会話です。
 

66%

適当に考えた数字です。ホントのところはどの程度人数になるんでしょうかね?
 

重力崩壊場及び重力崩壊場安定機

レオニスやベル、ラムが手に持っている(様に見える)黒い剣を重力崩壊場、
レオニスの肩に内蔵されている機関を重力崩壊場安定機ということにしています。
重力崩壊場は触れたものをその高重力で圧懐させる武器としています。
 

重力崩壊場安定機より射出される超々重力の塊という事にしています。重力崩壊場も威力は断然上です。
鐘に当たったものは超重力により圧懐し、さらに超重力にそって空間を歪ませて相手を通常空間より追い出す機能をつけました。