貴也とクレアのラブゲーム 第1話
その後、セフィネスが天界からやって来てメルと戦ったり、
帰りの電車で自室争奪ジャンケン大会などが開催されたりもしたが、
旅行の間、貴也からクレアへ何らかのアプローチがなされることはなかった。
そして旅行から帰ってきた翌日。
英荘の中はバタバタとしていた。
自室争奪ジャンケン大会の結果による引越しが行われていたからである。
部屋割りは
1号室 メル
2号室 フォル&セフィ
3号室 ベル&ラム
4号室 クレア
5号室 貴也
6号室 リア&ミリ
と、決まっていた。
とりあえず、クレアは貴也とは相部屋にならず、ほっとしていた。
もし相部屋であったなら、絶対絶命、逃げ回る事すら不可能になっていたところだから。
隣部屋ではあるが、それはまぁ問題はないだろうと思っていた。
貴也「1人部屋だ・・・。(よかった〜。もし女の子と相部屋になったらどうしようかと思ってたから)」
共同リビングに張り出された部屋割り表を見ながら安堵の吐息を漏らす貴也。
ラム(おばあさまと相部屋かぁ・・・)
その横ではラムが複雑そうな顔で張り紙を見ている。
ベル「どうしたの、ラム?もしかしてアタシと相部屋はイヤ?」.
そんなラムの様子を心配したのかベルが話しかけてくる。
ラム『ううん。そんなことないよ。ただ、貴也と相部屋になれなくて残念だなぁ〜って』
貴也&ベル「「ええっ!?」」
ラム『あはは。冗談だよ。でも、そんなに驚くなんて思わなかったよ』
2人の驚く様を楽しげに見るラム。
ベル「もう・・・」
そんなラムの事を呆れたような顔で見るベル。
ラム『まぁ、とにかく。これからよろしく、エインデベル』
ベル「うん。こちらこそ、よろしくね」
そして、2人は微笑み合って挨拶を交わした。
ラム『でも、ボクはホントに貴也となら相部屋でも構わなかったんだよ』
貴也「え!?」
ラムの一言でもう一度驚きの表情を浮かべる貴也。
ラム『だって同じEmberじゃないか。気にすることなんて何もないでしょ』
貴也「え?あ、うん・・・そうだよね(これも冗談だよな)」
ラムの表情を見る限りでは冗談のようには見えなかったけれど、貴也はそう思って自分を納得させた。
セフィ「あの・・・フォル。これからよろしくお願いします」
フォル「はい。こちらこそよろしくお願いします」
2人で向かい合ってぺこぺこと頭を下げるフォルとセフィ。
リア「ねぇー。靴下が落ちてるよーー。誰のーー?」
ミリ「あっ、ごめん。それアタシのー。リア姉ちゃん、持ってきて」
リア「もう、しょうがないなぁ」
意外と2人仲良く協力して引越ししているリアとミリ。
そんな風に、あちこちでみんなが引越しのために動き回っている。
そして2階のクレアの部屋の前では、
メル「クレアさん。1階と2階に分かれちゃったけど。前と変わらず遊びに行くからね」
クレア「来なくても結構よ。それよりも貴也との件、しっかりやって頂戴よ」
メル「大丈夫よ。任せといて」
メルとクレアの密談がされていた。
廊下での相談を果たして密談というのかはさておき、
後半、小声になったクレアに合わせて小声で応じて指でOKのわっかを作るメル。
貴也「クレアさん」
そんな2人の後ろから唐突に貴也の呼び声が。
ドッキン!!
完全な不意打ちに2人の心臓が跳ねあがる。
クレア「な、な、なぁに?貴也」
いきなりの事にちょっとドギマギしながらクレアは振り向いた。
無理に浮かべた笑顔がちょっと引きつっている。
貴也「他のみんなは引越しがほとんど終わったみたいなんですけど。クレアさんはどうですか?
まだ何か残ってるんだったら、オレも何か手伝いますけど」
クレア「ありがとう、貴也。でも、ワタシもほとんど終わってるから大丈夫よ」
貴也「そうですか」
その時、貴也の表情が一瞬だけ寂しそうにものになった。
本来なら誰も気づかないであろう程の一瞬であったのだが、
貴也の気持ちを知っている二人は気がついた。
貴也「じゃあ、メルさんの方はどうですか?」
メル「ううん、アタシも大丈夫。ありがとう貴也」
貴也「そうですか。
じゃあ2人とも、もう少ししたらフォルがお昼にするそうなので、後で食堂まで来てください」
クレア「分かったわ」
メル「ありがと、貴也」
貴也「じゃ」
貴也は軽く手を上げると階段を降りて行った。
メル「・・・ねぇ、クレアさん。今、貴也って一瞬寂しそうな残念そうな顔したわよね」
クレア「そうね」
メル「きっとアレよね。
引越しの最中、大きな荷物を2人で運ぶ。
その時、偶然触れ合う手と手。
「クレアさん」 「貴也」
見詰め合う2人。
「クレアさん・・・オレ・・・クレアさんのことを・・・」
「貴也・・・ワタシもアナタのことを・・・」
そして2人は手を取り合い・・・。
キャーーーー恥ずかしいぃぃぃーーーーーーーー。
って、シチュエーションを期待してたんでしょうね」
クレア「メル・・・アナタって妄想力豊かよねぇ・・・」
クレアはメルの1人芝をジト目で見守った後、呆れたように言ってくる。
メル「うぅ・・・せめて想像力って言ってよ・・・」
クレアに冷静につっこまれて、メルはちょっと哀しかった。
クレア「それに、貴也にはそんな下心はなかったと思うわよ。
本当にただ手が空いたから手伝いに来たんでしょうね。
その証拠にメルにも声かけてたし。
ま、ワタシに断られて残念だったのも本当でしょうけど」
メル「ふ〜ん・・・。貴也のこと避けてるわりには弁護してあげるんだ・・・」
クレア「ん?そりゃあ別に嫌ってるわけじゃないもの」
メル「・・・・・・ま、いいけど」
メルとしては貴也のことを気にしている様に見えるクレアの態度が気に入らなかったのである。
貴也に本当に気がないのであれば、貴也に少しでも気を許すような態度は取って欲しくはない。
ようするに、貴也にクレアを取られてしまうかもしれないという焦りと嫉妬ゆえの言動だった。
クレア(何を気にしてるのかしら?変な子ねぇ・・・)
しかし、そんなメルの想いを知らないクレアにはメルの態度は釈然としないものに映った。
クレア「そんな事よりもこれからの事よ。何か作戦は考えてくれた?」
メル「貴也にクレアさんの事を諦めさせるのよね」
クレア「そうよ」
クレアは即答した。
メル「と、いう事は、ようするに貴也にクレアさんの事を幻滅させればいいのよね?」
クレア「・・・・・・まぁ、そうね」
クレアは少し考えた後肯定した。
メル「じゃあ、貴也に千年の恋もさめるようなクレアさんの醜態を見せてあげればいいわけよ」
クレア「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そういう事に、なるかしら」
クレアは眉間にしわを寄せ、長い間熟考した後、嫌々ながら肯定する。
しかし、なにやら嫌な予感がしてくるクレアだった。
メル「だったら一つ案があるわ」
ジャジャーーン
【酔ってへべれけ大作戦】
メル「えー、この作戦は」
クレア「いいわ。説明しなくても分かるから」
クレアは作戦内容を説明しようとしたメルを片手を上げて制した。
頭痛でもしてきたのか、うんざりした顔で額を指で押さえながら。
クレア「ねぇメル。ここまでしなければいけないものなの?」
メル「当然よ!ねぇ、クレアさん。
もしかして自分がまったく傷つかずに済む、そんな甘々な方法で済まそうなんて考えてないでしょうね」
メルはそう言いつつクレアにむかってビシッと指を突き付ける。
クレア「うっ!」
図星だった。
突きつけられたメルの指先が心に突き刺さるようで痛い。
メル「いい、クレアさん。貴也も憧れの人の醜態を見せられて相当ショックを受けるはずよ。
クレアさんもそれ相応の覚悟をしてくれなくちゃ」
クレア「・・・・・・・・・はぁ、分かったわよ。やるわよ」
メルにそうまで諭されては嫌々ながらもやらないわけにはいかないクレアだった。
クレア「でも、メル。アナタも飲みに付き合うのよ」
メル「アタシも?」
クレア「当然じゃない。発案者はアナタなんだし。
それに酔っ払ったワタシを介抱して無事に英荘まで送り届けてもらわなくちゃいけないもの」
メル「え?ホントに酔っ払うまで飲むつもりなの?」
クレア「仕方ないでしょ。ワタシは酔っ払った振りなんて出来ないんだもの。
本当に前後不覚になるまで飲むしかないじゃない。
自分でもどんな状態になるか分からないんだからメルには居てもらわないと困るのよ」
メル「はいはい、分かりました。お供しますわ、クレアさん」
苦悩に歪んだ表情を見せているクレアとは対照的にどこかうれしそうなメルだった。
そしてその日の晩。
何軒もの店をハシゴした2人はふらふらになりながらも英荘まで帰ってきた。
ただ、ふらふらになっているのはクレアだけ。
メルは少し顔が赤い程度で足取りはしっかりしている。
一方クレアはかなりの量を飲んだらしくメルに支えられ千鳥足になっていた。
顔色もあまりよくなく、目の焦点も少しずれている。
ドンドンドン
クレア「こらーー開けなさぁ〜い!クレアお姉様のお帰りよぉ!!」
そして英荘に到着したクレアは大声を張り上げながら玄関を叩き出した。
メル「ちょっと、クレアさん。さすがに近所迷惑よ」
放っておくと玄関のドアを壊しかねない危険なクレアをメルは慌てて押さえる。
クレア「え〜〜。ここいらは山奥なんだから近所なんてないじゃな〜い」
クレアはおとなしくメルに押さえられたが、呂律がどこか怪しい。
完全な酔っぱらいだ。
メル「ん・・・それじゃあ家族迷惑よ」
クレア「家族ならいいじゃない、迷惑かけたって」
酔っぱらいに論理的な思考は存在しない。
なのに、へ理屈だけは達者なのはなぜだろう?
今のクレアを見て、ふと、そんなことを思うメルだった。
ともかく、この時点では今作戦は順調な成果を上げている。
後はこのクレアを貴也に見せつけるだけだ。
カチャ ガララ
フォル「2人ともおかえりなさい。ずいぶん遅かったんですね」
クレアの騒ぎを聞きつけたのかフォルが中から玄関の鍵を開けて顔を出してきた。
クレア「ただいまーフォルぅ」
メル「ただいまフォル。貴也はまだ起きてる?
(もし貴也が寝ていたら全ての苦労が水の泡ね。
その時は叩き起こしてでもクレアさんと会わせなくちゃ)」
フォル「はい、起きてらっしゃいますよ。今はリビングでテレビを見ています」
メル「そう、ちょうどよかったわ。ほら、クレアさん、行くわよ」
クレア「えーどこに〜・・・?」
メル「いいから来るの!」
イヤイヤしているクレアを半ば引きずるようにしてメルは共同リビングに入った。
共同リビングではフォルが言ったとおり貴也がソファに座ってテレビを見ていた。
貴也「あ、おかえり」
リア「おかえりなさい2人とも」
ベル「2人ともどれだけ飲んできたの?ちょっとお酒くさいわよ」
ただし、そこにはいたのは貴也だけじゃなく、ベルとリアも共にテレビを見ていた。
メル(あらら、リアちゃんとベルちゃんもいるのかぁ〜。
2人にまで醜態を見せることになっちゃうけど・・・。ま、いいか)
クレアが聞くとさぞ怒るであろう事をさらりと流すメルだった。
クレア「ただいま〜双子たち。元気にしてた?子供はもう寝る時間よぉ」
クレアはメルから身体を放すと双子たちの前にペタンと座り込む。
ベル「ご機嫌ね、クレア姉さん」
リア「ひょっとして、酔っ払ってるの?」
ちょっと支離滅裂なクレアのセリフに呆れ顔の双子たち。
クレア「そんなことよりも、2人ともちょっとこっちに来なさい」
クレアはへらへらと笑いながら、ひらひらと手招きする。
ベル「ん?」
リア「なぁに?クレア姉さん」
双子たちはちょっと警戒しながらもクレアの瞳が意外と優しかったので素直に近寄ってゆく。
クレア「ベル!リア!」
すると、クレアは訝しげな顔をしながらも近づいてきた双子たちをいきなり抱きしめた。
ベル「ええっ!あの・・・なに?」
リア「どうしたの?クレア姉さん」
いきなりのクレアの行動に双子たちは目を白黒させて驚く。
クレア「大きくなったわね・・・2人とも・・・」
しかし双子たちの動揺をよそにクレアは穏やかな表情で語り始める。
リア「なに言ってるの?クレア姉さん」
ベル「やっぱり酔ってるの?」
クレア「それに、フォル。ごめんね、こんなに頼りない姉さんで・・・」
クレアは双子たちを抱きしめたまま、今度はフォルへと視線を向けた。
フォル「いいえ。クレア姉様はわたしたちにとてもよくして下さいってますよ」
フォルは悲しみを帯びたクレアの瞳に優しく微笑み返した。
クレア「フォル・・・ベル・・・リア・・・。みんな・・・愛してるわ・・・」
クレアはそう呟くと、ぎゅっと双子たちを抱きしめる。
リア「く、くるしいよクレア姉さん・・・」
ベル「あの・・・クレア姉さん。う、うれしいいんだけど、ちょっと痛い」
幸せそうに抱きしめるクレアとは対称的に双子たちは苦しそうだ。
クレア「貴也!!」
クレアはいきなりバッっと双子たちを放すと貴也へと向き直る。
突き放された双子たちは‘きゃん’と可愛い声を上げながら床に転がった。
リア「いった〜ぁ〜〜い・・・。ひどいよ、クレア姉さん・・・」
ベル「いたた・・・。鼻打っちゃったぁ〜・・・」
双子たちにとっては迷惑な話である。
貴也「は?はい!」
なんとなくカヤの外に置かれてた貴也はいきなり矛先を向けられ思わず居住まいを正した。
クレア「ワタシの妹たちは、こんなにもイイ子ぞろいなのよ。
それなのに・・・。いったい何が不満なの!!」
貴也「え?」
クレア「フォルはこんなにも優しくて家事が万能。
リアはこんなにも一途で愛らしくて器量よし。おまけに安産型よ」
リア「キャ!」
クレアにお尻をつるりと撫でられて、リアは可愛らしい悲鳴を上げた。
クレア「ベルは・・・・・・・・・」
クレアは言葉を途切れさせ首をかしげた。
クレア「ともかく、何が不満なのよ!!」
ベル「ちょっと、クレア姉さん!!どうしてあたしだけ何にも言ってくれないのよぉ!!」
そんなクレアの態度にベルは不満の怒りを奮闘させる。
しかし、クレアは気がつかなかったのか、それとも無視したのか一向に取り合わなかった。
ベル「もーー!!クレア姉さん!!」
そんなクレアの態度にベルは怒りゲージをますますアップさせてゆく。
フォル「ベル、大丈夫ですよ。ベルにだって良いところはたくさんありますから」
そんな怒りMAXなベルをフォルはやんわりとたしなめた。
ベル「うん・・・たとえば?」
フォルが持つ穏やかオーラのおかげで怒りゲージを平常値まで戻せたベルが尋ねてくる。
フォル「まがった事が大嫌いな事とか、あまりくよくよしたり後悔したりしない所とか」
ベル「・・・・・・それって何だが女の子っぽくない」
ベルはとっても不満そうな顔で呟いた。
フォル「えっ!そ、そうですか。それじゃあ・・・ええと、ええ〜と・・・・・・」
フォルはなかなか次の言葉を思い浮かべず、うろたえてしまう。
ベル「フォル姉様ぁ〜・・・」
そんなフォルの態度に、ベルはなさけない声をあげながら涙目になった。
‘本当に自分は女の子っぽくないのかも’なんて事を考えて悲しくなったから。
リア「うふふ。ベルはどんな人にも優しくって世話好きじゃない」
そんな2人にリアから救いの手が入った。
ベル「ん・・・。フォル姉様だって、優しくってお世話は上手よ」
フォル「だって姉妹なんですもの。似ていても不思議ではないですよ」
ベル「うん、そうよね。でもうれしいな。フォル姉様に似てるだなんて」
そんな和やかな姉妹のやり取りから少し離れた所で、逆に険悪な雰囲気が漂っている所があった。
クレア「さぁ!!どこが不満なわけ言ってみなさいよ!!」
貴也「そ、それは・・・」
言わずと知れたクレアと貴也の2人の所である。
クレアは上から見下ろすような格好で貴也に詰め寄っている。
一方貴也はクレアの剣幕にちょっと尻込みしたような格好でソファに座り込んでいる。
ただ、貴也はもう少しで触れ合ってしまいそうな程近くにあるクレアの顔にドキドキもしていた。
メル(これは・・・ちょっとマズイ流れかも・・・)
そんなクレアたちの様子を部屋の隅から眺めていたメルはイヤな予感を覚え始めていた。
貴也「オレはべつに不満があるわけじゃなくて、ただ、その・・・」
クレア「なに?言いたい事があるならはっきりおっしゃい!!」
メル(ひぃーーーー!!!クレアさん、貴也にそんなこと言ったら!!)
メルの懸念通り、貴也はクレアの手を取ると熱い視線をクレアに送り出した。
しかし、酔っているクレアはそんな貴也の変貌に気がついていない。
貴也「クレアさん・・・。オレは」
メル(マズイ!!)
ガバッ
メルは慌てて飛び出すと貴也の手からクレアをもぎ取るように奪った。
メル「クレアさん!!ちょっと酔っぱらいすぎよ。ちょーっと外の空気を吸ったほういいわね」
そうして一気に捲くし立てると、クレアをガックンガックンと揺すって無理に頷かせる。
貴也「あの・・・メ」
メル「じゃ、行くわよ!!」
ダダダダッ
そして、何か言いたそうな貴也を無視しすると、クレアを抱えて共同リビングを飛び出した。
ヴン
そして部屋を出ると同時にレヴィテイションで屋根の上にまで移動する。
共同リビングには呆気に取られている貴也と、談笑を続けている姉妹たちが残された。
ヴン
レヴィアウトした屋根の上では空一面に星が瞬き、肌寒いくらいの風が吹いていた。
これなら本当に酔いもさめそうだ。
メル「ふぅー・・・」
部屋の中は暑くはなかったはずなのにメルに額には嫌な汗がにじんでいた。
それを拭うと、冷たい空気に晒されて冷えてゆくのがなんとも心地よい。
クレア「ちょっとメル〜。なーにするのよぉ〜」
しかし、当のクレアは相変わらず呂律も怪しく酔っ払っている。
メル「もぅ!!クレアさん。いい加減に目を醒ましなさいよ!!」
メルはポケットから予め用意しておいたアルコールとアセトアルデヒド分解酵素を取りだす。
そしてそれを無理矢理クレアに飲みこませた。
クレア「うぐ!ごほっ、ごほっ」
無理矢理飲まされたせいか数回咳き込むクレア。
しかし、その後はすぐに酵素が効いてきたのか顔色が良くなってゆく。
メル「どう?正気に戻った?」
クレア「・・・それってイヤな表現よね。でも頭ははっきりとしてきたわ」
クレアは軽く頭を振ると視線をメルに戻した。
その瞳にはいつものクレアの輝きが戻っている。
メル「そう、よかったわ」
クレア「で、首尾の方はどうだったの?ワタシは何も覚えてないんだけど」
クレアはまだ違和感があるのか頭を押さえながら尋ねてくる。
メル「覚えてないの?はぁ・・・。ま、覚えてるならあんな事言うわけないか」
クレア「どうしたの?何があったの?作戦は成功したの?失敗したの?」
メルの言葉に不安を覚えたクレアが勢いこんで聞いてくる。
メル「作戦は失敗。たぶん逆効果だったと思うわ」
クレア「どうして!?いったい何があったの?」
クレアの瞳の中で不安と疑念が渦巻いているのが見て取れた。
メル「う〜ん・・・。覚えてないなら聞かない方がいいと思うわ。
その方が貴也に何か言われた時に覚えていないって答えられるから」
でも、メルは教えなかった。
その方がクレアのためと思ったから。
そしてなによりその方がおもしろそうだから。
クレア「ん・・・うぅ・・・・・・。分かったわ。本当はすっごく気になるけど聞かないでおくわ」
少し長く悩んだ後、クレアは悔しそうに答えた。
本当は言葉通りにすっごく聞きたいのだけれど、普段は使わない忍耐を総動員して我慢した。
メル「うん、その方が懸命よ」
クレア「はぁ・・・・・・。それにしても、ワタシは何のために醜態を晒したんだか・・・」
クレアは屋根に腰を下ろすとがっくりと頭をたらす。
メル「べつに醜態は晒してなかったわよ。それどころか感動的ですらあったわ」
クレア「えっ?」
メルの言葉にクレアはぱっと顔を上げる。
メル「クレアさんって本当に妹思いなのね。ちょっと悔しいけど、惚れなおしちゃったかな」
メルの方を見ると彼女はいたずらっぽい目をしながらニヤニヤと笑っている。
クレア「ええっ!?ど、どういうことよ」
メル「言ったでしょ。教えないって」
クレア「う・・・うぅ・・・(ワタシはいったい何をしたのーーーーー!?)」
クレアが空を仰いで尋ねても、満天の星空はただキラキラと輝くだけで何も答えてはくれなかった。
【酔ってへべれけ大作戦】 失敗
<つづく>