貴也とクレアのラブゲーム 第2話
クレア「ふぅあぁ〜・・・・・・ん?」
朝、目を覚ましたクレアは部屋に妙な違和感を感じて首を傾げた。
その違和感を解消すべく、起き抜けの目で部屋を見渡してみる。
クレア「ん〜・・・?」
しかし、まだ寝ぼけているせいかよく分からない。
しっくりこないものを感じたまま今度は窓へと目を向けてみた。
そこには何時もと同じ、朝の日差しに照り返った木々の葉の煌きが見える。
今日もいい天気、清々しい朝の風景だ。
しかし、そこにも違和感がある。
どうも今まで見ていた風景と微妙なズレがある。
それらの原因について少し頭を悩ますと、
クレア「・・・・・・・ああ、そうか。引越したんだったわね」
意外な程あっさり解決した。
一昨日まで住んでいた6号室と昨日から暮らしている4号室。
同じ2階にあっても微妙に景色が変わっているのは当然だった。
よく見れば、部屋の家具の配置が今までと少し違う。
それらが違和感の原因だったらしい。
ともかく原因が分かってすっきりしたクレアはベッドから抜け出し着替えを始める。
クレア(そういえば、結局昨夜のワタシは何をしたのかしら?)
そして、着替えている最中に余計な事を思い出してしまった。
せっかくすっきりとした頭がまたもやもやしてくる。
クレアは昨日の寝る前に作戦中の事をどうにか思い出そうとしたのだが、
思い出せたのはほんの少しの断片的な記憶だけだった。
玄関を叩く自分の姿。
優しいフォルの微笑み。
床を転がる双子たち。
アップで映る困った顔の貴也。
メルに揺さぶられる自分。
たったこれだけ。
その中でも特に気になるのはアップの貴也の姿である。
しかも、その貴也の表情が困ったような、でもどこか照れたような微妙な表情だったので余計に不安がつのる。
なのに自分と貴也が何をしていたのかはまったく思い出せないのである。
クレア(やっぱり気になるわぁ〜・・・。でもメルは何も教えてくれないし・・・)
そう思って今一度頭を悩ませてみた。
クレア「う〜ん・・・」
しかし思い出せる事はやはり何もない。
クレア(はぁ・・・。なんにも何も思い出せないなら、これ以上気にしても仕方ないわよね・・・)
クレアはもう無駄な努力は放棄して、さっさと身支度を終える事にした。
ガチャ
身支度を終えたクレアは朝食のため食堂へ行こうと部屋を出た。
すると、部屋の目の前にはすぐに階段があって、ここでも違和感を覚える。
クレア(ま、すぐに慣れるでしょ)
ガチャ
その時、クレアの隣からドアの開く音が聞こえてきた。
クレア(ん?)
振り返って見ると、
貴也「あ、おはようございますクレアさん」
隣の部屋から貴也が出て来るところだった。
クレア(た、貴也!!)
貴也は普通に挨拶しただけなのにクレアは過剰に反応した。
昨日自分が何をしたのか分からないクレアにとっては一番会いたくない人物であったからだろう。
クレア(なんで隣の部屋から?・・・・・・。あ、そうか。隣に引っ越してきたんだったわね)
そして、普段ならすぐに気がつく事にもずいぶん悩まなければ分からない程に慌ててしまっている。
クレア「おはよう、貴也」
それでもクレアはそんな動揺を心の内だけにとどめて普段通りの挨拶を返した。
貴也「あの・・・昨夜はずいぶん飲んでいたみたいですけど体調は大丈夫ですか?二日酔いとかしてませんか?」
クレア(なっ!?)
しかし、貴也にそう問われ、いきなり気丈な態度が崩れそうになる。
まさか二日酔いの心配をされる程の醜態をさらしていたのかと激しく動揺をおこす。
クレア「大丈夫よ。二日酔いにはなっていないから」
しかし、その衝撃もなんとか心の内だけで留め、顔はどうにか平然を保ったまま答えた。
貴也「そうですか。昨日はその・・・あれでしたから、ちょっと気になってたんです」
クレアの言葉に貴也はほっと安堵の笑みを浮かべる。
クレア(‘あれ’って何?)
しかし、クレアの心中は穏やかでなく、激しい荒波を巻き起こしていた。
しかも貴也は少し照れたような顔をしているところがますます気になる。
クレア(どうしよう。気になるわぁ・・・。貴也に昨日ワタシが何をしたのか聞いてみようかしら?)
そう思ってはみても、内心では怖くて聞けないクレアである。
貴也「ところでクレアさん」
そんな風にクレアが思い悩んでいる間に貴也は表情を改め真剣な顔で話しかけてきた。
クレア「え、何?」
クレアは妙に真剣な貴也の顔に嫌な予感を覚えた。
貴也「あの・・・昨日の話の事なんですけど・・・」
クレア(昨日の話?・・・って、いったい何の事?ワタシ何したの?)
そしてその予感はどんどん膨れ上がってゆく。
貴也「オレはその・・・」
クレア「まった!!」
クレアは片手を広げ、大声で貴也の言葉を遮った。
貴也「えっ!?」
貴也はクレアの手の平で動きを封じられたかのように話す事どころか身動きまで止める。
クレア「・・・悪いけど、ワタシ昨日の事は何も覚えてないの。だから・・・」
クレアは呆然としている貴也に背を向けて階段の方を向く。
クレア「その話は忘れてちょうだい」
そして、そう言い放つと階段を駆け下りて行った。
貴也「あっ・・・・・・・・・・ん・・・」
貴也は一瞬クレアを追いかけようしたが、すぐに思いとどまった。
そして、ただ寂しそうにクレアの背中を見つめながら見送ったのだった。
一方、階段を駆け下りたクレアは
クレア(危なかったわぁ・・・。メルに話を聞いていなくて正解だったわね。
でも、ワタシはいったい貴也に何の話をしたのかしら?)
安堵、困惑、疑問と様々な感情を抱きながら食堂を目指した。
一同「『いただきまーす」』
英荘の一同が食堂に集まり、朝食が始まる。
今朝のメニューは和食。
フォル「二日酔いにはお味噌汁が良いそうなので和食にしましたけれど。どうですか?クレア姉様」
ブフッ
ちょうどその味噌汁を飲もうとしていたクレアはフォルの言葉にちょっと吹き出してしまう。
まさかこの味噌汁にそんな意味があったとは・・・。
そう思って今朝の献立をよく見てみると、そこには消化によさそうなあっさり系の料理がならんでいた。
なるほど、たしかにこれなら二日酔いの人にでも無理なく食べられるであろう。
フォルならではの優しい心遣いだ。
しかし、その心遣いが今のクレアには逆に痛かった。
昨日の自分はフォルにそこまで心配をかけてしまう程ひどく酔っ払っていたのだろうか?
クレア「あ、ありがとうフォル。でも二日酔いにはなってないから安心して」
そんなことを思いながらクレアはちょっと引きつった笑みを浮かべながら答えを返した。
ラム『二日酔いって何の事?』
ベル「昨日、クレア姉さんとメルさんは町に飲みに行ってたのよ。
そして、もうべろんべろんに酔っ払って帰ってきたの」
リア「それで、アタシたちなんかは抱き締められるは突き飛ばされるはで大変だったんだから」
双子たちは昨日の事を思い出したのか、うんざりした様子で言う。
そんな双子たちのセリフを聞いて、ミリはその場の光景を想像してみた。
すると、まずガハハと笑いながらベルにベアハッグをかけて締めあげるメルの図が浮かんでくる。
次いで、やはりガハハと笑いながら車輪投げの要領でリアを放り投げるメルの図が思い浮かんできた。
事実はこれほど酷くはないのだが、現場を見ていないミリにはこの想像を否定する要素が何もなく、
ミリ「もぉ〜〜メル姉ちゃん!そんな恥ずかしい事しないでよ!そんなだと本当に長失格になっちゃうわよ!」
ミリは呆れかえった顔で嘆息した。
メル「失礼ねぇ!アタシはそんなことしてないわ。全部クレアさんがやったことよ」
メルは、さも心外というような態度でミリに言い返す。
しかし、
クレア(メル・・・。この、裏切り者!!)
その態度はクレアの逆鱗に触れた。
しかし、そうと口に出せないクレアは代わりにゴゴゴと怒りのオーラを背中に纏わせる。
メル(ぞく!)
そんなオーラを感じたのかメルは背筋に寒いものを感じ、そちらをちらりと見ると、
メル「ひっ!」
クレアがスゴイ目で自分を睨んでいた。
その後メルはずっとその視線を受けながら食事を続ける事となり、緊張でご飯の味がさっぱり分からなくなった。
そんな穏やかな(?)朝食の時間が終わり、いつもの様に学生組が学校へと出かけて行く。
そして人がいなくなったのを見計らって、クレアは食後の運動と称してメルをいたぶるのであった。
その後はだらだらと過ごしている内にお昼となり、
フォルが作った昼食をフォル、クレア、メル、セフィ、ラムの5人で食べる。
そんな食事中
ラム(家事をしているフォルはともかく。
ボク達みたいな働きもせずだらだらとしている若者が暢気にお昼を食べてていいのかな?)
ふとそんな事を考えたラムだが、
クレア「フォル、おかわり頂戴」
フォル「はい」
メル「あ、フォル。アタシにも頂戴」
セフィ「あの・・・アタシも」
フォル「はいはい。ちょっと待ってくださいな」
どうやら、そんな疑問を抱えているのはラム一人だけらしい。
少なくともクレア、メル、セフィの3人は気にしていない様に思われた。
ラム(ああならないためにも、早くバイト探しをしないといけないな)
そして、そんな3人の姿を見て、決意を新たにするラムだった。
そしてお昼も過ぎて夕方というには少し早い中途半端な時間になった頃。
クレアが共同リビングのソファーでお昼寝と称する惰眠をむさぼっていると、
メル「クレアさん。ちょっと起きて、クレアさん」
クレア「ん〜。なぁにぃ〜」
何者かに肩を揺さぶられ、不機嫌そうに目を覚ますと、目の前に妙にうれしそうな顔をしたメルの姿があった。
メル「あのね。新しい作戦を思いついたんだけど聞いてくれない」
クレア「・・・後にして」
クレアはつまらなそうにメルの顔を一瞥すると、再び目を閉じて横になった。
メル「ああ〜ん。起きてよクレアさん。今じゃないとダメなのよぉー」
すると、メルはちょっと慌てた様子でゆっさゆっさとクレアを揺すり始める。
クレア「う〜・・・」
あまりに激しく揺さぶられ、おちおち寝ていられないクレアは嫌々ながらも身を起こす。
クレア「あーも〜・・・しょうがないわねぇ・・・。いったいどんな作戦なのよ?変なのだったら承知しないわよ」
そして不機嫌そうに髪をかきあげると横目でジロリとメルを見る。
メル「うっふっふ。大丈夫よ。前回の作戦から学んだ事を生かした絶妙な作戦なんだから」
メルはそんな視線など気にせず、自信満々で言ってきた。
クレア「・・・・・・ま、いいわ。言ってみなさい」
そんなメルの顔を見て、クレアはあまり期待をしないながらも、一応ソファーに座り直して聞く体勢を整える。
メル「うん。でもここじゃなんだから、クレアさんの部屋に行きましょ」
クレア「も〜、別にここでもいいじゃない」
メル「いいから、ほら早く」
メルは面倒臭そうにしているクレアの手を掴むと半ば無理矢理立たせて部屋まで連れて行った。
そして自分の部屋まで連行されたクレアはベットに腰をかけ、メルは椅子に座る。
クレア「で、どういった作戦なの」
クレアはまだ少し寝ぼけている頭を軽く振って覚ましながらジト目でメルを見やって話を促した。
メル「あのね。前回の作戦で、どうやら貴也にクレアさんの事を幻滅させるのは難しいみたいだから、
ここは逆転の発想。貴也の方がクレアさんに嫌われたと思わせればいいのよ」
クレア「ふむ・・・なるほど」
メルの説明を聞き、珍しくクレアも納得顔で頷いた。
クレア「で、具体的にはどうするつもりなの?」
メル「実はもう準備は終わってるの」
クレア「は?どういう事よ」
メル「さっき貴也に‘後でクレアさんの部屋に来て頂戴’ってお願いしておいたから、もうすぐ」
コンコン
貴也「メルさん。いますか?」
タイミング良く鳴ったノックの音に合わせて貴也の声がかかる。
メル「来たわね」
そのあまりのタイミングの良さにクスリと笑みを浮かべたメルは
メル「いるわよー」
椅子から立ち上がりながらドア越しに返事を返す。
クレア「メル!アナタ最初っからこうするつもりだったわね!」
メル「いいからいいから。ほら、クレアさんはドアの方を向いて立ってて」
メルは謀られたと思って憮然としているクレアの手を掴むとベットから立ち上がらせる。
こうして、済し崩し的に
【押してダメなら引いてみな、貴也に嫌われたと思いこませよう大作戦(メ
ル命名。やっぱり長くてそのまんま)】
が発動される事となった。
そして、メルがクレアの後ろに回り、肩に手を乗せてドアの方を向かせた所でカチャリとドアの開く音が鳴る。
メル「じゃ、健闘を祈るわクレアさん」
ヴン
メルはそう言うと、クレアを1人残し、レヴィテイションで姿を消した。
クレア「メル!?」
クレアは首だけ振り返ったが、既にメルの姿はない。
そして、そうこうしている内にドアが開き切り、貴也が姿を見せた。
貴也「失礼し・・・ま・・・・・・」
そして部屋に入ってきた貴也は何故か呆気に取られた表情で固まった。
そして視線を少しだけ下に下げ、
貴也「ぁ・・・・・・」
顔を赤くしながら視線を戻してくる。
クレア(ん?)
そんな貴也の反応を不審に思ったクレアは自分も視線を下げてみる。
すると、磁器のような白い肌とそれを覆うわずかな水色の布地が目に入った。
クレア「なっ!!」
そう、クレアはなんと下着だけを身に着けた半裸の状態で立っていたのである。
メルは自分と共にクレアの服までレヴィテイションさせていたのだ。
そんな自分の姿を確認したクレアがバッと視線を上げた瞬間、貴也とバッチリ目が合ってしまった。
クレア(っ!!)
そしてクレアは不覚にも顔を赤らめ、身体を隠すように少し身をよじったのである。
しかし、それがいけなかった。
そんな、まるで恥らうかのようなクレアの姿が貴也に
貴也(可愛い・・・)
と、思わせてしまったのである。
クレア(!!!)
しかも間が悪い事に、クレアはその貴也の思考を読んでしまった。
そのため、身体中の血液がクレアの顔へと一気に急上昇、ますます真っ赤になってしまう。
そして2人はお互いに赤ら顔で見詰め合う事になる。
しかし、血液の上昇は顔で止まらず頭まで上昇。
それに伴ってクレアの血圧まで上昇させてしまう。
その結果。
クレア「い、いつまで見てるのよぉーーーーーーー!!!!!」
ズガァァーーーーーーーン
クレアの叫びと同時にクレアの眼前で衝撃波が轟音を伴って発生。
その威力はドアを弾け飛ばし、その向こうの壁すら穴を空ける程だった。
下着姿を見られた事よりも‘可愛い’と思われた事の方がなにより恥ずかしいクレアなのであった。
そして、その衝撃波の直撃を受けたであろう貴也は、
ひゅるひゅるひゅる
ベル「ん?なにあれ?何か飛んでるけど」
リア「えっ、なに?あっ、ホントだ、何か飛んでる。なんだろ?」
ちょうど下校途中だったベルとリアに空中をキリモミ状態で飛ぶ未確認飛行物体として目撃される。
そして2人に見守られながら森の中へと降下。
そして(まさか、その未確認飛行物体が貴也だなどと夢にも思わない)双子たちは一旦英荘に帰った後、
おもしろ半分興味半分の野次馬根性で、その未確認飛行物体を見に行こうと森へ探検に出かけた。
そして、貴也は双子たちに全身擦り傷だらけになって木にぶら下がっている所を発見、保護されるのだった。
<つづく>