貴也とクレアのラブゲーム エピローグ
それから幾つかの季節が巡って、しばらくの時が経ったある日の事。
その日、しばらく英荘を離れていたクレアが久しぶりに英荘へ到る山道を歩いていた。
クレアの隣では大荷物を持った貴也が付き添っており、
そしてクレアの腕には毛布に包まれた一抱えの程の包みが抱かれていた。
そして、英荘にたどり着いた2人が玄関を開けると、
一同「おかえりなさ−い!!」
英荘の住人一同が玄関先に待ちうけており、笑顔で歓待の挨拶を受けた。
貴也「ただいま」
クレア「ただいま、みんな。変わりないようね」
クレアは微笑みを浮かべながら、懐かしそうに一同を見渡す。
リア「うん。みんな元気よ、クレア姉さん。それより、クレア姉さんたちの方こそ大丈夫なの?」
クレア「大丈夫。ワタシもこの子もすこぶる元気よ」
リア「ねー、それなら早く見せてー。アタシずーーっと待ってたんだから!」
クレア「はいはい。今見せてあげるわよ、お・ば・さん」
クレアは悪戯っぽい目をしながら一言一言区切るように言った。
リア「え?・・・お、おば、さん?」
ベル「あの・・・それって、もしかして・・・」
クレア「もちろん、アナタたちの事に決まってるじゃなーい!
この子にとってアナタたちは正真正銘、叔母さんなんだから」
クレアはそう言うと腕の中で抱いていた毛布を開いて中を見せた。
そこには、すやすやと眠る小さな赤子の姿があった。
そう、これこそがクレアが英荘をしばらく離れていた理由であり、
貴也とクレアとの間に出来た小さな命の結晶である。
クレア「おーーーほほほっ!!とうとう言ってやったわ!なーんて気持ちいいんでしょ。
この、叔母さん、おばさん!、オバサン!!」
リア「くーー、悔し〜〜!!」
ベル「う〜・・・。でも、本当の事だから言い返せない〜・・・」
せっかくの感動の対面であるはずなのに、ぶち壊しである。
ラム『ねぇ、フォル。クレアってホントに双子たちの事を愛してるの?』
ラムはまだ‘おばさん’を連呼しているクレアに呆れながらフォルに尋ねた。
フォル「うふふ、もちろんですよ。あれがクレア姉様の愛情表現なんです」
フォルはうれしそうにそう答えると、赤子の元へと近寄って行き
フォル「初めまして〜、叔母さんのフォルシーニアですよ〜」
そう自己紹介すると、赤子をクレアから受け取りあやしだす。
ラム『なんだかな〜・・・』
ラムは複雑そうな表情を浮かべて頭をかいた。
ラム『フォル。今度はボクに抱かせてよ』
しかし、すぐに表情を緩めると笑顔で赤子の顔を覗きこんだ。
リア「あ〜!ずるいわよ、ラム。アタシが先よー!」
ベル「ううん、フォル姉様。あたしを先に抱かせて〜」
赤ん坊「ん」
その時、フォルの腕の中にいた赤子がむずがって目を覚ました。
ミリ「あ、起きた」
そして、不思議そうに辺りを見た後、
赤ん坊「ふぇ、うぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん」
大絶叫で泣き始めた。
クレア「こらぁーーーーーーー!!泣かすんじゃないわよぉーーーーーーー!!!」
同時にクレアの大絶叫も木霊した。
メル「誰?誰が泣かせたの?」
ベル「あ、あたしじゃないわよ」
リア「ア、アタシでもないよ」
ラム『えっ、ボク?ボクじゃないよ。ミリの顔が怖かったんじゃない』
ミリ「もー、なに言ってるのよ!そんなわけないじゃない!」
そんな言い訳や責任転換が繰り広げられる中、
セフィ「あのー・・・、そんな事よりも早く泣き止ました方がいいんじゃないでしょうかぁ」
セフィの一言で、みんな‘あっ、確かに’と我に返る。
そして、問題の赤ん坊はというと、
フォル「あらあら、どうしましょ」
フォルが困り顔で腕の中の赤子をあやしていたが一向に泣き止む気配はなかった。
貴也「フォル、ちょっと貸してみて」
フォル「あ、はい。お願いします」
貴也「ほーら、よしよし」
貴也はフォルから赤ん坊を受け取ると優しく声をかけながらあやしだす。
すると、
赤ん坊「うぇぇ、うぅ・・・ぐず・・・うぅぅ・・・」
少しぐずりながらも泣き止んだのだった。
ミリ「うわ〜、すごーい!やっぱりお父さんだって分かるのかなぁ?」
ベル「うふふ、おててが小っちゃ〜い」
リア「ほっぺがすべすべ〜」
泣き止んだ事で安心したのか双子たちが壊れ物を扱うような慎重さで赤子に触れてくる。
そうして赤ん坊を中心として人垣を眺めているクレアの元にメルがつつつと近寄ってきた。
メル「ねぇ、クレアさん。今、幸せ?」
そしてメルはあえてクレアとは視線を合わせず人垣の方に目を向けたまま尋ねる。
クレア「ええ、幸せよ」
そんなメルにクレアは柔らかい微笑みを浮かべながら答えてきた。
その笑みはとても穏やかで、数億年共に連れ添ったメルですら見た事のない母親の顔になっていた。
メル「そう・・・・・・」
そんなクレアの表情を横目に見たメルは視線を落とし、少し寂しそう顔になる。
しかしそれはすぐに何処かふっきれたような笑みに変わった。
メル「あ〜あ。アタシも赤ちゃん産んでみたかったなぁー・・・」
誰の赤ちゃんが産みたかったのか。
クレアにはそれが誰なのか分かり過ぎるくらいに分かってしまう。
そのため今度はクレアが沈んだ表情になった。
クレア「・・・・・・ごめん、メル」
メル「ううん、いいの。ただ言ってみただけだから・・・。それに、アタシはクレアさんが幸せならそれでいいわ」
そう言うメルの表情はとても穏やかで、その言葉が本心からの言葉だとクレアの心に伝わってきた。
クレア「メル・・・・・・ありがとう」
だからクレアも心からの感謝をメルに返した。
メル「それに、あの子って男の子でしょ。それなら逆光源氏ってのも悪くないわ」
メルは表情を一変させ、悪戯っぽい顔で言ってくる。
クレア「なっ!!?メル!?ア、アナタいったい何を言って・・・」
さすがのクレアもこれには驚いたらしく、狼狽しながら口をパクパクとさせる。
メル「うふふ。さ〜て、未来のお婿さんの顔を見てきましょ〜♪」
クレア「ちょっと、メル!!アナタ本気なの!?そんなの許さないわよ!!」
こうして、赤ん坊を囲って談笑する声とメルの笑い声とクレアの怒声が響く中。
英荘に新たな住人が1人加わったのであった。
<おしまい>
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