いったい何時からだったのか・・・
何がキッカケだったのか・・・
それは分かんない・・・
最初は嫌いだったはずなのに・・・
でも・・・
何時の間にか好きになっていた・・・
好きになってはいけない人だったのに・・・
ミリと貴也は町まで買出しに出ていた。
英荘には12人と1匹が暮らしているため生活用品や食料の減りが早く、日々買出しに出なければならなかった。
買出しはある程度は当番制で決まっており、今日は貴也とミリが当番だった。
貴也「さてと・・・頼まれてたものは全部買ったかな?」
貴也は4つの買い物袋の前でメモとレシートを見ながらチェックしていた。
ミリ「ねー、貴也。これで全部?」
貴也「うん、大丈夫みたいだ。じゃ、帰ろうか」
ミリ「はぁ、ようやく帰れる・・・」
2人は並んで英荘への帰路についた。
2人の両手には1つづつ袋が下がっている。
ミリ「ねぇ貴也。荷物重くない?」
貴也「えっ?まあ重たいけど持てないほどじゃないよ。でも何で?」
ミリ「レヴィテイションで帰っちゃダメ?アタシ重くってもうダメ・・・」
しかし店を出てすぐにミリが弱音を吐き出した。
貴也「ダメだよ。こんな人通りの多いところじゃ誰に見られるか分からないだろ」
ミリ「ちゃんと隠れてから使うから大丈夫よ」
貴也「ダメ。非常の時以外に使うのは禁止だってみんなで決めただろ」
ミリ「アタシにとっては今が非常事態なのに・・・」
不満をたれながらもミリは再び歩き出した。
しかし今日は何故か人通りが多く、タダでさえ重い荷物を持って歩きにくいミリは貴也からどんどん遅れてしまう。
貴也「あれっ?ミリ」
ある程度歩いた辺りで貴也はミリが着いて来ていない事に気づき振りかえった。
ミリは貴也から少し離れた後ろを必死に歩いていた。
ミリ「待ってよ貴也ー」
店員「只今よりタイムサービスを開始いたします」
そこへタイムセールの声がかかった。
途端に商店街の雰囲気が変わり、人の流れが変わった。
そしてミリの前におばさんの大群が現れた。
どどどどどどどどどどど
そしてミリは人波にのまれ、みるみるうちに遥か後方へと流されて行った。
ミリ「きゃーーーー」
貴也「ミリー、何処に行くんだーー。そっちじゃないよー」
ミリ「行きたくて行ってるんじゃないわよーー」
しかしミリのその声も人波の雑踏にかき消され、姿も見えなくなった。
貴也「ミリーーー」
その後2人はなんとか人波の途絶えた一角で再会を果たした。
貴也「大丈夫、ミリ?」
ミリ「はー、はー。酷い目にあったわ・・・」
貴也「ミリ、歩けるかい?」
ミリ「歩けるけど、歩きたくない!」
貴也「うーーん、しょうがないなぁ・・・。ミリ、荷物を1つ貸して」
ミリ「えっ?はい・・・」
ミリから袋を受け取った貴也はそれらをまとめて片手に持ち、空いた手でミリの手を掴んだ。
ミリ「あっ!」
貴也「こうすればもうはぐれたりしないだろ」
ミリ「うん・・・」
貴也「じゃ、帰ろうか」
ミリ「うん」
再び2人は英荘への帰路についた。
今度は2人で手をつなぎながら。
ミリ「ねぇ、貴也。重くないの?」
貴也「(重い・・・)平気だよこのくらい・・・」
貴也はそう言ったが、ミリには貴也の強がりがつないだ手から伝わってきた。
ミリ(無理しちゃって・・・)
この時アタシは貴也が無理をしているのが分かっていても手をはなさなかった
手から伝わってくる暖かさが心地よくて・・・
その温もりが失われるのがなんだかイヤだったから・・・
だからアタシは英荘に帰るまでずっと手をつないでいた
そして次の日。
ミリ「きゃーーー!!」
ミリの朝は悲鳴から始まった。
どたどた
そして階段を駆け下りる音が響き、
ミリ「どうして誰も起こしてくれなかったの!遅刻しちゃうじゃない!」
ミリが台所に駆け込んで来る。
メル「起こしたわよ。でもアンタが2度寝するからほっといたのよ」
ミリ「なんでちゃんと起こしてくれないのよー」
フォル「すみません。何度も起こしに行こうと思ったんですけど・・・」
メル「いつも誰かに起こしてもらってちゃ、いつまで経っても自分1人で起きられないでしょ」
クレア「だから一回痛い目にあっていれば1人で起きられるようになるわよ」
ミリ「もう、余計な事考えないでよ!」
フォル「すみません、今急いでパンを焼きますから」
リリアナ『ミリネール。わたし達は先に行ってますよ』
ミリ「ええぇーー・・・」
ジゼル「ねぇ、待っててあげてもいいんじゃ・・・」
リリアナ『それではわたし達が遅刻しかねません。大丈夫ですよ。ミリネールは足が速いですから』
ジゼル「う、うん・・・」
リリアナ『では、行ってきますね』
ジゼル「行ってきます・・・」
ベル「ごめんねミリ」
リア「がんばってねー」
貴也「じゃ、行ってきます」
ラム『行ってきます』
ラオール「がんばれよ」
セフィ「じゃあミリちゃん。行ってきますね」
ミリを置いてそれぞれ出て行く面々。
ミリ「ああーん。もう、薄情者ー・・・。フォル姉ちゃんまだー」
フォル「もうちょっと待ってください」
メル「ミリ、もうご飯はあきらめたら」
ミリ「でも、なんだか今日はいつもよりお腹が減っているから・・・」
フォル「はい、ミリ。パンが焼けましたよ」
ミリ「ありがとう、フォル姉ちゃん」
ミリは大急ぎで朝食を食べだし、そして5分で食べ終えた。
ミリ「じゃ、行ってきます」
そしてミリは駆け出そうとした。
フォル「あ、ミリ!ちょっと待ってください」
キキキーー
しかしフォルに引き止められてしまい、慌てて急制動をかけるミリ。
ミリ「な、なにフォル姉ちゃん。アタシ急いでるんだけど」
フォル「すみません。どうやら貴也さんがお弁当を忘れてしまったみたいなんです」
ミリ「ええーー」
フォル「ですからお昼になる前までにで結構ですので、これを貴也さんのバイト先に届けてあげてくれませんか?
わたしは今日セフィのお手伝いで保育園に行かなければいけないので届けてはあげられないんです。
お願いできませんか?」
そう言ってフォルは弁当箱を差し出してきた。
ミリ「分かったわよ。届けてあげる」
ミリは悩んでいる時間も惜しいため安請け合いして弁当箱を受け取った。
ミリ「それじゃ、今度こそ行ってきます」
フォル「いってらっしゃい。頼みましたよー」
フォルの見送りを背に受けながらミリは全速力で山を駆け下りて行った。
その走りは弁当の中身のことなど少しも気にかけていない走りだった。
そしてお昼になり、ミリは約束どおり貴也にお弁当を届けるために貴也のバイト先の建設現場に来ていた。
ミリは現場の前を通ったことはあっても、中まで入るのは初めてだった。
そのためミリは入り口の所で躊躇していた。
ミリ(そもそも何でアタシが貴也なんかのためにわざわざお弁当持って来て上げなきゃいけないのよ・・・)
そんなミリの様子に気づいた人が話し掛けてきた。
現場監督「お嬢ちゃん。どうした?」
ミリ「えっ?」
突然声を掛けられてミリは少し驚いた。
ミリ「えっと・・・お弁当届けに来たの・・・」
そして戸惑いながらもそう答えた。
現場監督「ん・・・英の奴にか?」
監督は勘を働らかせて聞いてみた。
弁当を届けてもらえる様な人間はここでは数少ないからだ。
ミリ「うん」
案の定貴也であった。
現場監督「あの野郎、ベルちゃんやリアちゃんだけじゃなくて、こんな子にまで弁当持って来てもらえるのかよ」
ミリ「あのー、貴也はいるの?」
現場監督「ああ、いるぜ。今呼んで来てやるからちょっと待っててくれや」
ミリの頭を撫でながら監督は言った。
そして現場の中に入って行き、
現場監督「おーーい、英ーー。可愛い子が弁当を届けに来てくれたぞーー。早く取りに来ーーーい」
思いっきり怒鳴ってくれた。
そんなことをされてミリはとっても恥ずかしかったけれど。
そしてしばらくすると貴也が現場から走ってくる。
貴也「すみません監督」
現場監督「ほら、早く行ってやりな」
貴也「はい」
そしてこっちを見た貴也は少し驚いた顔をした。
貴也「あれ、ミリだったんだ・・・てっきり」
ミリ「てっきり、なに?リア姉ちゃんじゃなくて悪かったわね」
貴也の第一声にミリはちょっと不機嫌になった。
貴也「あ、ごめん。でもそういう意味で言ったんじゃないよ。でもめずらしいね、ミリが弁当を届けてくれるなんて」
ミリ「フォル姉ちゃんに頼まれたから仕方なくよ。そもそもお弁当を忘れた貴也が悪いんじゃない」
貴也「はは・・・、ごめん」
貴也は照れながら頭を掻いた。
ミリ「はい、これ」
仏頂面で弁当箱を手渡すミリ。
貴也「ありがとうミリ。ミリに持って来てもらえてるなんて、うれしいよ」
笑顔で貴也は受け取った。
ミリ「!」
その笑顔を見ると何故かミリは赤くなってしまった。
ミリ「じゃ、アタシもう行くから・・・」
慌てて貴也から顔を背けながらミリは言う。
貴也「うん、気をつけてね。それからお弁当ホントにありがとう」
ミリはその声には応えず、踵を返して走り出した。
ミリ(なんで赤くなるのよー。まるで照れてるみたいじゃない!。それにアタシってば何で逃げるように走ってるのよー・・・)
ミリは自問自答しながら建設現場を後にした。
そんなミリを見送った後、貴也が弁当箱を開けてみると、
貴也「・・・」
現場監督「おい、英。なんだそりゃ?」
中身はおかずが全てぐちゃぐちゃに混ざっていた。
そして放課後になりミリが帰宅途中に町中を歩いていると、
?「ミリ」
突然誰かから名前を呼ばれた。
振りかえって見ると、貴也が自分を呼び止めていた。
ミリ「貴也!」
貴也「ミリ、もう学校は終わったのかい?」
ミリ「終わったわよ。貴也は?バイトはもう終わったの?」
貴也「うん。それと今日はお弁当ありがとう。ホント助かったよ(中身はあれだったけど・・・)」
ミリ「べつにいいよお礼なんて・・・(アタシってばなんとも無いじゃない。お昼のはきっと気のせいだったのよ)」
貴也「せっかくだから一緒に帰ってもいいかい?」
ミリ「うーん。ま、いっか」
ミリは少し考えた後にそう答え、2人は連れだって帰る事となった。
そしてしばらく2人で歩いていると、ミリの目に一つの看板が止まった。
ミリ「ねぇ貴也。あのタイヤキって何のこと?焼き魚屋さんなの?」
貴也「ミリはタイヤキって見たことないの?」
ミリ「うん」
貴也「あれは焼き魚じゃなくて、魚の形をしたあんこの入ったお菓子だよ」
ミリ「ふーん。お菓子なんだ・・・」
ミリの目線はタイヤキ屋から離れない。
貴也「食べてみる?」
ミリ「おごってくれるの?」
その言葉にミリの目が輝いた。
貴也「今日のお礼代わりにおごってあげるよ。行こうか」
苦笑しながらも貴也は承諾した。
ミリ「うん」
こうして2人はタイヤキを買いにタイヤキ屋に寄った。
貴也「すみませーん。タイヤキ4つください」
親父「はいよ」
しばらく待つと袋に入ったタイヤキが差し出された。
貴也はお金を払って受け取った。
親父「まいどありっ!」
貴也「はい、ミリ。これがタイヤキだよ」
貴也はタイヤキの入った袋をミリに手渡した。
ミリが袋を覗いて見るとたしかに魚の形をしたものが入っている。
ミリ(ホントに魚の形してる・・・)
そして一つ取り出してみた。
貴也「食べてごらん」
そう言って貴也も袋から一つ掴み出した。
そしてそれにかぶりついた。
それを見てからミリも食べてみた。
サクッとした食感とあんこの甘い味が口に広がる。
ミリ「あ、おいしい・・・」
ミリは瞬く間に一つ目をを食べ終えて二つ目に手を出した。
そして貴也が一つ目を食べ終える間に二つ食べてしまった。
ミリ「・・・」
ミリは物欲しそうに貴也を見た。
貴也「ふふっ、食べてもいいよ」
その意味を汲み取った貴也はそう言った。
ミリ「うん。ありがとう」
うれしそうにミリは三つ目を取り出した。
そんなミリを見ていた貴也はあることに気づいた。
貴也「ミリ。口元にあんこが付いてるよ」
ミリ「え、嘘っ!ど、どこ?」
慌ててミリは口元に手をあてたが、反対側を押さえている。
貴也「ここだよ」
貴也はミリの口元のあんこを指で拭ってあげた。
そしてその指に付いたあんこをなめ取った。
ミリ「あっ!」
それを見たミリは1度だけ胸の鼓動を高鳴らせた。
そして少しだけ顔を赤くなる。
貴也「ん、どうしたの?」
そんなミリを見て貴也はいぶかしんだ。
ミリ「ううん。何でもない!」
そう言ってミリはタイヤキにかぶりついた。
ミリ(アタシったらこんなことぐらいで何ドキドキしてるのよ。こ、これくらい大した事じゃないじゃない・・・)
しかし三個目のタイヤキの味は良く分からなくなってしまった。
そしてその日の夕食では、ミリはあまり食が進まなかった。
自分ではタイヤキを食べ過ぎたためだろうと思っていた。
そして何故か貴也の姿を目で追っていた。
自分では気づいてはいなかったけれど。
今、貴也は隣のラムと話をしている。
どうしてか2人の事が気になった。
ベル「どうしたのミリ。今日はあんまり食べないのね?」
そんなミリの態度が気になったのかベルが声をかけてきた。
フォル「今日のお料理はおいしくないですか?」
フォルが悲しそうな顔をして聞いてきた。
ミリ「ううん、違うの。今日は学校の帰りにタイヤキ食べたから・・・それでかな・・・」
フォル「そうですか・・・」
それを聞いてフォルは安心した顔をする。
ジゼル「ミリちゃん。夕飯が食べられなくなるくらい食べたの?」
貴也「ごめん。オレが食べてもいいって言ったんだ」
ベル「貴也さんも一緒に食べたの?」
貴也「うん。ミリがタイヤキを見たことないって言うから買ってあげたんだ」
リア「あ、ミリおごってもらったの。いいなぁー」
貴也「今度マリアにも買ってあげるよ」
リア「ホント、ありがとう貴也」
ミリ「ごちそうさま」
ラム『あ、ホントにもう食べないんだ。いつもはボクの3倍は食べてるのに』
ベル「さすがにそこまで食べてなかったと思うけど・・・」
セフィ「でもラオールさんはそれぐらい食べてますよね」
ラオール「そうか?」
ミリ「ごめんね、フォル姉ちゃん」
フォル「いいえ、いいんですよ。でも今度から夕飯前におやつを食べ過ぎてはダメですよ」
ミリ「うん」
そしてミリは先に部屋に戻った。
ラオール「もらったぁ!」
クレア「なんの!」
メル「ああん、クレアさん。それはアタシが狙ってたのに・・・」
クレア「こういうのは早いもの勝ちよ」
そしてテーブルの上では残されたミリのおかずをめぐってクレアとメルとラオールのバトルが展開されていた。
ぼふっ
部屋に戻ったミリはあおむけにベットに倒れこんだ。
ミュウ「ニャ・・・」
その衝撃でベットの上で眠っていたミュウが目を覚ました。
ミリ(今日のアタシちょっと変・・・。いつもはあれくらいなら食べても平気なはずなのに・・・)
ミリはしばらく天井を見ながら考えていた。
ミュウ「ふぁー・・・」
そんなミリの隣でミュウが伸びをしながらアクビをした。
ミリ(それに何で貴也相手にあんなにドキドキしたんだろ・・・)
ミリはごろりとうつ伏せに転がった。
そんなミリの背中にミュウが乗ってくる。
ぺろぺろ
そして毛繕いまでし始めた。
ミリ「・・・」
ミリはだんだんミュウの重さに耐え切れなくなってきて、
ミリ「もう、ミュウ重いわよ!!」
ベットから身を起こした。
そしてミリの背中から振り落とされたミュウを抱き上げた。
ミリ「もう・・・満足に悩むことも出来ないじゃない・・・」
そしてミュウに向かって話かけた。
ミリ(悩む・・・。アタシ悩んでるの・・・?何に・・・?)
そしてミリの脳裏には貴也に口元のあんこを舐められるシーンが浮かぶ。
途端、ミリの顔が赤くなる。
ミリ(まさか・・・貴也のことで・・・!)
無意識にミリはミュウを抱きしめた。
ミュウ「フギャーー!!」
ミュウは悲鳴をあげたがミリは気づかない。
ミリ(そんな・・・そんなことあるわけないわよ・・・)
ミリは心の中で否定したが胸にはずっともやもやしたものが残る事となった。
この時のアタシは何を悩んでいたのか・・・
自分のこの気持ちがなんなのか・・・
それが分からなかった
だからずっと不安で・・・
いらいらして・・・
そして何故か寂しかった・・・