そして数日が過ぎたある日の放課後。
ミリは突然の雨のため、とあるお店の前で雨宿りをしていた。
ミリ「あーあ、ついてないなぁ・・・。天気予報じゃ雨だなんて言ってなかったのに・・・」
しばらく待ってみたが雨は一向に止む気配を見せなかった。
ミリ「はー・・・。どうしよう・・・」
覚悟を決めて、走って帰ろうかと思っていると、
貴也「あれ、ミリ・・・。どうしたの?」
偶然、店の前を貴也が通りかかった。
貴也は何故かちゃんと傘を持っていた。
ミリ「た、貴也・・・」
ドキッ
この頃ミリは貴也の顔を見るだけでも胸が高鳴る様になっていた。
それをなんとか平静に押さえつつミリは話しだした。
ミリ「あれっ、何で貴也は傘持ってるの?」
貴也「ちょうどバイト先に前に持って帰り忘れた傘があったから・・・」
ミリ「ふーん・・・」
貴也「もう1人ぐらいなら入れるから一緒に帰ろう」
ミリ「えっ!」
ドキッ
ミリの胸はさらに高鳴った。
ミリ「イ、イヤよ。貴也と一緒の傘に入るなんて・・・」
貴也「え・・・、でも傘は1本しかないし・・・濡れるよりはマシだろ」
まさか断られるとは思っていなかったので貴也は面食らった。
ミリ(だって・・・今、貴也と2人っきりになったら・・・アタシどうなるか分からない・・・)
貴也「だから、ほらっ・・・」
貴也がミリに傘を寄せてくる。
ミリ「イヤッ!」
バシッ
ミリは反射的に貴也の傘をはね退けた。
貴也「あっ・・・」
驚愕の貴也。
ミリ「ア、アタシ・・・」
自分のした事に動揺するミリ。
そして、
ミリ「アタシ、今は貴也と一緒にいたくないの!いいからほっといてよ!」
思ってもいない言葉が口から出た。
ミリ(だってアタシ・・・貴也と一緒にいると、どんどん変になっていくんだもん・・・)
しばらく辺りは雨音だけが支配した。
貴也「分かったよ。ゴメンね、イヤな思いさせて・・・。でも」
貴也はミリの手を取り自分の傘を握らせた。
貴也「傘はミリが使ってよ」
ミリ「えっ!でも・・・貴也はどうするの?」
貴也「オレは走って帰るから大丈夫だよ」
そう言って貴也は雨の中を走りだした。
ミリ「ま・・・」
ミリは‘待って’と言おうとしたが声が出なかった。
ミリ(貴也・・・悲しそうな顔してた・・・)
ズキッ
そう思うと激しく胸が痛んだ。
ミリ(どうして・・・どうしてこんなに胸が痛いの・・・。それに・・・何故こんなに哀しい気持ちになるの・・・)
ミリは雨の中、ただ立ち尽くしていた。
もう見えなくなった貴也の後姿を見詰めたまま。
そしてしばらくした後ミリは英荘に帰ってきた。
カラカラ
そして出来るだけ玄関の音がしない様に開けると、こそこそと中に入る。
メル「あらミリ。お帰り」
しかし丁度通りかかったメルには見つかって声をかけられる。
ミリ「わっ!!メ、メル姉ちゃん!た、ただいま・・・」
思わず驚きの声をあげてしまったが、出来るだけ平静を装った。
メル「アンタは雨に濡れなかったの?貴也はずぶ濡れになって帰ってきたけど・・・」
ミリ「そ、そうなんだ・・・」
それを聞いてミリの気分はますます落ち込んできた。
そしてそれ以上は何も言わずに自分の部屋へと向かった。
メル「・・・!」
メルはそんなミリの様子に何かピンと来て貴也の元へ向かった。
ガチャ
メル「貴也。アナタ何かミリにしたの?」
そして貴也の部屋を開け、開口一番でそう聞いた。
貴也「えっ!。メルさんいきなり何ですか?」
メル「いや、ミリの様子が変だったから貴也に何かされたのかと思って・・・」
貴也「何でオレなんですか?」
メル「ただの勘だけど。で、どうなの?」
貴也「何もしていませんよ・・・。ただ・・・」
メル「ただ、何?」
貴也「ただ今日の帰りに傘を貸しただけです・・・」
メル「それでミリは濡れてなかったのね。でもなんで貴也だけ濡れて帰ってくるのよ。一緒に帰ってくればいいじゃない」
貴也「・・・オレ・・・ミリに嫌われたみたいなんです・・・」
メル「どういうこと。やっぱり何かしたの?」
貴也「いえ、心当たりはないんですけど・・・。オレとは一緒にいたくないらしいです・・・」
メル「ふーーん・・・。分かったわ。とりあえずこのことはアタシにまかせて頂戴。ミリにはそれとなく聞いてみるから」
貴也「ありがとうございますメルさん。それじゃあお願いします」
メル「これでもミリの姉なんだからまかせなさい。それと、疑って悪かったね。じゃ」
メルは貴也の部屋を後にした。
メル(しかしミリもとっくに貴也には慣れたもんだと思っていたのに・・・どうしたのかしら・・・)
そして今度はミリの部屋を訪れる。
コンコン
メル「ミリー、いる?」
貴也の時とは違い、ちゃんとノックをして声までかける。
・・・
しかしドアの向こうから返事は返ってこなかった。
メル「ミリー、いないのー?」
コンコン
もう1度ノックしたが今度も返事は返ってこない。
ためしにノブを回してみると鍵はかかっていなかったのでメルは入ってみることにした。
ガチャ
メルがドアを開けるとミリがベットにうつ伏せになっているのが見えた。
メル「ミリ・・・。アンタ何してるのよ?」
ミリ「・・・」
メルはミリの雰囲気にタダならぬモノを感じて問いかけたが返事は返ってこなかった。
メル「具合でも悪いの?」
ミリ「・・・」
やはり返事は返ってこない。
メルはミリの隣に腰をかけた。
ベットのスプリングが少しきしんだ音をたてる。
メル「何があったのか姉さんに話してくれない・・・」
メルはミリの頭に手を置き優しく話かけた。
それでもミリは何も言わなかったがメルは優しくミリの髪を撫でてあげた。
メル「それともこんな姉じゃ頼りなくって話せない?」
今度は首を振って否定してくれた。
メル「そう、よかった・・・」
ミリ「・・・アタシ・・・変なの・・・」
そしてしばらくするとようやくミリが語り始めた。
ミリ「最近貴也とまともに顔を合わせられないの・・・、それにそばにいると何故かドキドキして落ち着かないし・・・。
さっきも・・・貴也のこと嫌いなわけじゃないのに・・・、それなのに一緒にいたくないって言っちゃったの・・・。
そうしたら貴也、すごく悲しそうな顔したの・・・、その顔見たらアタシ胸が締めつけられる様に痛くなって・・・」
メル(ミリ・・・アナタ・・・)
メルはミリの告白を聞いて驚いた。
ミリが貴也にそういう感情を持つとは思っていなかったのだ。
ミリ「ねぇメル姉ちゃん!アタシどうなっちゃったの!?どうして貴也のことを考えるとこんなに苦しいの!?」
ミリは顔を上げてメルに問い掛けた。
その表情は苦悩に満ちていた。
メル「ミリ・・・」
メルは正直困っていた。
ホントのことを言ったところでミリは認めたりはしないだろう。
それにこれは他人から教えてもらう事ではなく自分自身で気づかなければ意味の無い事だ。
メル「貴也に‘一緒に居たくない’って言ったこと後悔してる?」
ミリ「・・・」
コクン
ミリはしばらく悩んだ後に頷いた。
メル「じゃ、まず今からそのことを貴也に謝ってきなさい」
ミリ「で、でも・・・」
ミリは困惑の表情をした。
メル「そして構えずに何も考えず素直に貴也と話してみなさい。そうすれば少しは気分も良くなるはずよ」
ミリ「そ、そうなの・・・で、でも・・・」
ミリは赤い顔をしてもじもじしている。
メル「それじゃあ行くわよ」
メルは強引にミリの手を取った。
ミリ「え、ちょっと待ってよ!。まだ心の準備が・・・」
メル「そんなのは貴也の部屋に着くまでにしちゃいなさい」
ミリ「そ、そんなぁ・・・」
ミリは抵抗したが無理矢理連れ出した。
コンコン
そして貴也の部屋に来てノックする。
ガチャ
メル「貴也。ミリが話したい事があるんだって」
そして返事も待たずにドアを開け、ミリを引っ張りこむ。
ミリ「メル姉ちゃん!!」
ミリは不満の声をあげたがメルは無視した。
メル「じゃね」
そしてミリを部屋に残して出て行く。
ミリ「・・・」
そして部屋に取り残された形になってしまったミリはコチコチになってしまっていた。
貴也「ミリ、話って何?」
ミリ「う、うん・・・。あ、あのね・・・」
そうは言ったもののミリの頭の中はパニック状態だった。
ミリ(言わなきゃ、言わなきゃ。でも何言うんだっけ・・・。謝りに来たんだった。けど先に傘のお礼言った方がいいかな・・・。
あ、でも今更な気もするし・・・。やっぱり先に謝ってからお礼を・・・。でもなんて言おう・・・。
単純にごめんなさいじゃ、何に対して謝ってるのか分からないし・・・。じゃ、貴也とは一緒にいたいよ・・・って違うじゃない!!)
貴也「ミリ」
固まったままなかなか話しださないミリに変わって貴也の方から話しかけた。
ミリ「な、なに!?」
貴也「オレもミリに話があるからオレの方から先に言ってもいいかな?」
ミリ「うん、いいよ。(バカバカ!アタシったら何やってるのよーー!!)」
貴也「・・・オレはたとえ生まれや育ちが違っても一緒に暮らしていれば、いつかはきっとホントの家族みたいになれるって信じてるんだ・・・。
でも、ミリがオレと一緒にいたくないって言うんなら、オレの方がここを出て行くからミリはここでみんなと住んでいてくれないか」
ミリ「えっ!!」
貴也の言葉はミリにとっては衝撃だった。
まさか貴也が英荘を出て行くと言い出すと思ってもいなかったのだ。
ミリ(そんな・・・貴也がいなくなっちゃうなんて・・・)
貴也「でもこれだけは知ってて欲しい。ミリはオレのこと嫌いかもしれないしれないけど。オレはミリのこと好きだよ。」
ミリ「あ・・・」
その言葉を聞き、ミリは身体に電撃が走った様な衝撃を受けた。
それから心臓は早鐘を打ち、顔が紅潮してくる。
そして思わず声が出た。
ミリ「勝手な事いわないでよ!!。アタシ貴也のこと嫌ってなんていないわよ!!」
貴也「えっ・・・そうなの。だって一緒にいたくないって・・・」
ミリ「あ、あれは・・・その・・・思わず口から出ただけなの、本心じゃないの。ごめんなさい!あんなこと言って・・・」
貴也「そ、そうだったんだ・・・よかったぁ・・・」
貴也の顔に安堵の笑みが浮かんだ。
ミリ「だから英荘を出て行くなんて言わないでよ!!アタシだって貴也のこと好きなんだから!!」
貴也「うん、分かったよ。ありがとうミリ」
ミリ「それから今日は傘貸してくれてありがとう。それが言いたかったの」
貴也「そう、ミリは濡れなかった?」
ミリ「うん、おかげさまでね。それじゃ」
そしてミリは貴也の部屋を出た。
気づいたのはこの時だった
貴也の前で口にすることで初めて自分の気持ちに気がついた
貴也のことが好きなんだって・・・
好きになったんだってことに・・・
貴也「ミリ、聞いてほしいことがあるんだ」
ミリ「なに貴也?」
貴也「オレ・・・ずっと隠してたけど・・・ミリの事が好きなんだ!」
ミリ「えっ!・・・でも、それって妹として?それとも・・・」
貴也「もちろん1人の女性としてだよ」
ミリ「でも・・・リア姉ちゃんが・・・」
貴也「オレ、気づいたんだ。本当に好きなのはミリだって」
ミリ「アタシも・・・貴也のことが好き・・・」
貴也「ミリ・・・」
ミリ「貴也・・・」
2人はまるで引き合う様に抱き合った。
そしてミリは目をつぶり、貴也はミリに顔を寄せていった。
ジリリリリリリリリリリリリリ
そして騒音がミリの耳を貫いた。
ミリ「えっ?」
ミリが目を開けるとそこには天井が見えた。
ミリ「・・・夢」
ミリは布団から起きあがり目覚ましを止めた。
ミリ(ア、アタシったら何て夢見てるのよ・・・)
夢の内容を思い出してミリは赤面した。
胸に手を当てると早鐘を打っている。
ミリ(昨日の今日とはいえ、あんな夢見るなんて・・・。アタシって重症だわ・・・)
とりあえず胸の鼓動を鎮めた後、ミリは着替えをすることにした。
ミリ(とにかく平常心よ。貴也に会っても怪しまれない様に平常心を心がけなくちゃ・・・)
着替えと終えたミリは覚悟を決めてから部屋を出た。
貴也「おはようミリ」
しかし今日の朝1番に会ったのはよりによって貴也だった。
ビクッ
そしてミリの中の平常心がいきなり何処かに飛んで行ってしまった。
ミリ「た、た、貴也!お、お、お、おはよう」
そして出来るだけ顔を合わさないようにして貴也の横を通り過ぎた。
ミリ(何してるのよーー!平常心じゃなかったのーー!!)
心の中で泣き声をあげながら。
そして朝食の席ではどうしても目で貴也の動きを追ってしまう。
しかし目線が合おうとすると慌てて避けてしまう。
ミリ(何してるのよーー。これじゃあ不自然でしょうが!自然体よ!自然体でいるのよ!!)
ミリは朝食を食べながら固く決意していた。
ラム『何が自然体なの?』
なのにラムにいきなり決意がばれた。
ミリ「な、な、何でそのことを・・・」
ラム『いや、あんまり強く想うから聞こえちゃったんだけど・・・』
リア「そういえば、今日のミリって変よね。どうかしたの?」
ミリ「ア、ア、アタシ・・・」
貴也「どこか具合でも悪いのかい?」
貴也が気遣わしげな瞳でこっちを見てきた。
ミリ「アタシ先に学校に行くね!」
ジゼル「えっ、ミリちゃん?」
ミリは自分のカバンを掴んで飛び出して行った。
フォル「本当にどうしたんでしょうか?」
クレア「ほっとけばいいじゃない。ミリだって調子の悪い時もあるって」
クレアはミリの残していった朝食をつまみながら言った。
メル(不憫な子ね・・・)
みんな困惑する中、メルだけが気遣わしげに空席になったミリの椅子を眺めて溜息をついた。
ミリは学校への道すがら、昨日のことを考えていた。
ミリ(昨日アタシは貴也に好きだと言った。
貴也もアタシのことを好きだと言ってくれていた。
でも貴也の言った好きは家族としての好きだ。
アタシの言った好きも家族としての好きだと思ってる。
でもそれでいい。
貴也にはリア姉ちゃんがいるんだもん。
だからアタシの想いは誰にも知られるわけにはいかない。
特にリア姉ちゃんには絶対に・・・)
そう決意しながらもミリの胸に締めつけられるような痛みが走るのだった。
しかしこの決意は放課後には崩れることになる。
ミリは放課後に帰り道で偶然、貴也とリアが一緒にいるところに出くわしてしまった。
そこは昨日ミリと立ち寄ったタイヤキ屋だった。
ミリ(貴也・・・リア姉ちゃん・・・)
見ると貴也はリアにタイヤキを買ってあげているようだ。
昨日の自分と同じように。
そんな2人を見ていると胸がズキズキと痛んだ。
そして2人が手をつないで歩きだしたところを見るともうダメだった。
ミリは2人に向かって走り出していた。
ミリ「やめて!!」
そして2人の手を無理矢理引き剥がしていた。
貴也「えっ!?」
リア「えっ、ミリ!?」
2人は驚愕の表情を浮かべた。
そして相手がミリだと分かると今度は困惑の表情を浮かべた。
ミリ「あっ・・・」
そこでミリは自分が何をしでかしたのかに気づいた。
貴也「どうしたんだいミリ。突然こんなことして?」
困惑の表情のまま貴也が聞いてくる。
ミリ「ア、アタシ・・・」
しかしミリは顔面蒼白になったまま何も言えない。
ミリ「ごめんなさい!!」
そして一言そう言ってから踵をかえして走り出した。
ミリ(アタシ、いったいなにしてるのよ!。こんなことするつもりなんてなかったのに・・・。アタシって最低だ!!)
胸に自分の行動に対する驚愕と後悔、
自分に対する嫌悪、
そしてリアに対する嫉妬の感情を抱いたまま。
そしてその場に残された2人の心境は対称的だった。
貴也「ミリ・・・どうしたんだろ・・・」
貴也は訳が分からず、そんなミリを呆然と見送ることしか出来なかった。
リア(ミリ・・・あなたやっぱり・・・)
一方リアの方は何かに気づいたような顔をしていた。
そして英荘に戻って来たミリは一直線に自分の部屋へと駆けこんだ。
そしてベットに倒れ伏すと涙があふれてきた。
ミリ(アタシ最低だ。リア姉ちゃんに嫉妬してあんなことするなんて・・・。
こんなんじゃ貴也と一緒に英荘で暮らしていくなんて出来ないよ・・・。
アタシ・・・どうしたらいいんだろ・・・)
コンコン
そこへノックの音が響いた。
リア「ミリ、いるんでしょ」
ビクッ
リアの声にミリの身体がベットの上で震えた。
リア「入るわよ」
ミリ「ダメ!!」
ミリは咄嗟に制止の声をあげた。
ガチャ
しかしリアは構わず部屋に入ってきた。
リア「・・・」
ミリ「・・・」
2人はしばし無言で見詰め合った。
リア「ミリ、アナタも貴也のことが好きになったのね」
先に口を開いたのはリアの方だった。
ミリ「ど、どどどどうして!?」
リアの一言にミリは激しく動揺した。
リア「分かるわよ。だって最近のミリの行動はなんだかおかしかったし。
それに・・・貴也を見る目がアタシとおんなじだったから・・・。
だからアナタがさっき何故あんなことをしたのかも分かるわ」
ミリ「・・・うん。ごめん、リア姉ちゃん・・・」
リア「どうして謝るの?」
ミリ「だってアタシ、聖母でもないのに・・・、貴也は素因なのに・・・、それなのに好きになって・・・」
リア「ミリ、人を好きになるのに聖母かどうかとか、素因かどうかなんて関係ないわ。
別にアタシも貴也が素因だから好きになったわけじゃないもの。ね、そうでしょ」
ミリ「でも、アタシ、リア姉ちゃんの気持ち知ってたのに・・・、それなのに・・・」
リア「人を好きになるってことは、理屈じゃないの。ある時、突然分かるものなのよ。この人のことが好きなんだって」
ミリ「うん・・・でも・・・」
リア「ミリ、人はどうして人を好きになるのか分かる?」
ミリ「ううん」
ミリは静かに首を振った。
リア「それは幸せになるためよ」
ミリ「?」
リア「ミリは貴也と一緒にいて、おしゃべりして、微笑みかけてもらって、それだけで十分楽しくなかった、幸せじゃなかった」
ミリ「・・・楽しかった、幸せだったよ」
リア「そうでしょ。そしてその人にも自分を好きになってもらいたいって思うのは、その人も自分と同じように幸せになってもらいたいから、
そしてその人の想いが自分の方に向いてくれたら今よりも何倍も幸せになれるから、しかも今度はその人と2人で、同じ想いで、
それってとってもステキなことだと思わない?」
ミリ「うん、思う」
リア「ミリはそんなステキな幸せの真っ最中なのよ。
だから自分のことをそんなに責めたりしないで。
それに貴也が最終的に誰を選ぶかなんて貴也にしか分からないんだもの。
今は貴也自身もまだ分かってないかもしれないし。
だからチャンスはみんなにあるの。
だからミリもアタシに遠慮なんてすることないわ」
ミリ「リア姉ちゃん!」
ミリは涙を流しながらリアに抱きついた。
ミリ「ありがとう、リア姉ちゃん」
リア「うん・・・。だからといって、貴也のこと譲ってあげるつもりなんかないわよ。そこんところは分かっててね」
そう言いながらもリアはミリを優しく抱きかえした。
ミリ「うん、分かってるよ」
こうしてアタシとリア姉ちゃんは恋のライバルとなった。