クレアの独白
 

 フォルの身体を使って再生した地球は、
まるで以前の地球をなぞらえるかのような成長を続けている。
このままいけば、以前とまったく変わらぬ地球が再生するだろう。

 べつに意図してその様に作ったわけではなかったのだが、
やはり無意識の内にそのように作っていたのかもしれない・・・。
私の心の内にはあの英壮での日々が色濃く残り、
あの日々をもう一度取り戻したいという気持ちがあることは事実なのだから。

  でもそれは望んではいけなかったこと・・・。
  それは同じ歴史を繰り返すということ・・・。
  それは同じ過ちを繰り返すということ・・・。
  それは2度目の地球の破滅を意味すること・・・。

 フォルを犠牲にしてまで作ったこの地球は、
まったく無意味なものなのではないか、
また同じことを繰り返すだけではないのか。
そのような思いがつねに私の心を攻め立てていた。

 だがそんな時にはきまってメルが、
「そんなことない。クレアさんは間違ったことなんてしてないわ。
 私はどんなときだってクレアさんのことを信じてる。」
と、言ってくれる。
それがどれほど私の救いになっていることだろう。

 あまり言葉や態度には出したことはないのだが、メルには本当に感謝している。
きっと一人では今の地球を見守っていく事などできなかっただろう。
メルが居てくれるからこそ私は正気を失わずにいられるのだから。

 「とにかく今は地球を見守ることしか出来ないわ。ただ見守ることしか・・・。」
 

                ・
 

 いよいよ双子達を地球に送る日がやってきた。

 まずはフォルを復元させることのできる素因を探させなければならない。
今回、リアにはマリアとしての要素を心の奥に隠し、
リア自身がマリアになることを望んだときに表に出てくるようしておいた。
それと以前は3年も時を無駄使ってしまったこともあり、
時間は無駄にしないよう厳重注意をしておく。

 今度こそ人類をベスティアでなくし明るい未来へと導くため、
できうるかぎりの準備はしてきたのだが、
それでも私の内にある不安は無くなることはなく、
それはますます大きくなっていた。

 ともかく再びサイは投げられたのだ、いまは双子達にすべてを託すしかない。
 

                ・
 

 私の不安は的中することとなった。

 双子達がフォルのために見つけてきた最初の素因は
偶然か、それともやはり必然なのか、あの英貴也だった。

 実のところ、貴也の存在については双子達を送り出す以前から気がついていた。
でも意識的に避けていたのだ。
貴也に会いたいという気持ちはあったのだが
それは望んではいけないことなのだと、
同じ過ちを繰り返すわけにはいかないのだと、
自分に言い聞かせていた。

 だが双子達は出会ってしまったのだ。
やはり未来は変えることなどできはしないのだと、
私はそう痛感する思いで愕然とするしかなかった・・・。
 

                ・
 

 ところが歴史はいきなりその姿を変え始めた。

 リアが手抜きし、フォルのプラチナディスクを貴也に直接渡さずに偶然拾わさせ、
しかも貴也はフォルの復元中にリセットしたことにより、
フォルは不完全な形で復元してしまったのだ。

 しかしどうやら貴也はリアではなくフォルに惹かれはじめているようだ。
しかもフォルのほうもまんざらではなさそうだし、
これはチャンスかもしれない!。
 フォルにだって、つらいお役目だけではなく
聖母となって人を愛することだってできるのだから、
ここはマリアには悪いがフォルの応援をさせてもらおう。

 「こうしちゃぁ いられないわっ。」

残していくメルには悪いが、私もさっそく地球に向かわなければ。
 

                ・
 

 私の中の不安は消え去ったわけではなかったが、
新たな英壮であの日々をすごすことが出来るのだと思うと
私の心は弾んでくるのだった。






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