クレアとリリアナはタオルに体温計、薬とコップ、それに氷枕などを持ってジゼルの部屋を訪れた。
 
クレア「リリアナ、さっきのくじだけど何か細工をしていなかった?この配役は出来すぎの様な気がするんだけど・・・」
リリアナ『・・・・・・ただの偶然ですよ』
クレア「いまの間はなに?」
リリアナ 『ふふ、気のせいですよ・・・』
クレア「そうかしら・・・」
 
 依然疑いの目を向け続けるクレア。
 そんなクレアを無視してドアをノックするリリアナ。

コンコン

リリアナ『ジゼル、入ってもいいでしょうか?』

ジゼル「リリアナ?どうぞ」
 
 リリアナがドア越しに声をかけると向こうから返事が返ってきた。
 
ガチャ
 
リリアナ『お邪魔しますよ』
クレア「具合はどう?ジゼル」
ジゼル「リリアナ、それにクレアさんも・・・来てくれたんだ・・・」
 
 ジゼルはベットに横になっていたが2人の姿を見て身を起こそうとした。
 
リリアナ『あ、起きてはいけませんよ。そのまま寝ていてください』
 
 そんなジゼルをリリアナは布団へと戻した。
 
ジゼル「2人ともわざわざありがとう・・・」
クレア「いいのよ、そんなこと。それより具合はどう?」
ジゼル「うん、大丈夫よ。そんなにひどくはないから・・・」
 
 しかしそう言うジゼルの顔色はよさそうには見えなかった。
 
リリアナ『ジゼル、こういうときに嘘をついては余計に周りに迷惑がかかりますよ。本当のところはどうなのですか?』
 
 リリアナはジゼルの目をまっすぐ見ながら問いかけた。
 
ジゼル「・・・うん、本当は身体がだるくて・・・それに熱っぽくて頭痛もするの・・・」
 
 ジゼルはばつが悪そうにうつむいて答えた。
 
リリアナ『そうですか・・・』
ジゼル「ごめんなさい・・・」
リリアナ『かまいませんよ。でもこういうときはみんなに頼ってくれてもいいのですよ』
ジゼル「うん」
クレア「じゃ、とりあえずこれを頭に敷いて、それから熱を測ってみましょう」
 
 ジゼルは頭の下に氷枕を敷いてから腋に体温計(デジタル式)を挟んでしばらく待った。
 
ピピッ
 
クレア「38度8分ね。インフルエンザにしてはマシなほうかしらね・・・」
ジゼル「そうなの・・・?」
 
 ジゼルは自分で思っていたよりも高かった体温を聞いて不安そうにしていた。
 
クレア「そうよ、この分なら治りもきっと早いわ」
ジゼル「うん・・・」
リリアナ『ジゼル、もし汗をかいているなら拭いて着替えたほうがいいですよ』
ジゼル「うん、そうする・・・」
 
 ジゼルは自分の寝巻きが汗でずいぶん湿っているのを確認してから答えた。
 
クレア「・・・」
リリアナ『・・・』
ジゼル「・・・あの・・・見られてると着替えにくいんだけど・・・」
 
 じっと自分を見つめる2人の視線に顔を赤らめながらジゼルが言った。
 
リリアナ『あ・・・』
クレア「別に気にしなくてもいいわよ。なんなら着替えを手伝ってあげてもいいけど」
ジゼル「え!、ううん。それは自分で出来るから・・・」
クレア「そう、それじゃあ早く脱いで、そのままだとますます病気がひどくなるわよ」
ジゼル「う、うん・・・でも・・・」
 
 そう言われてもやはり気になってしまうジゼル。
 
リリアナ『クレアリデル、わたしたちは一旦外に出ていましょう』
クレア「ふふふ、そうね。恥らうジゼルをもう少し見ていたい気もするけどね」
ジゼル「もう、からかってたんですね!」
リリアナ『ではジゼル。わたし達は出ていますから、着替え終わったら呼んでください』
ジゼル「うん、ありがとうリリアナ」
 
 そして2人は部屋を出て行った。
 
ジゼル「ふぅ・・・」
 
 ジゼルは少し溜息をついてから着替えを始めた。
 そして2人が持って来てくれたタオルで身体を拭いてから寝巻きを換えてベットに身を横たえた。
 
ジゼル「もういいですよ。入ってください」
 
 そして外の2人に声をかける。
 
ガチャ
 
クレア「もう終わったの?」
ジゼル「はい」
リリアナ『ではとりあえずこの解熱剤を飲んでください』
ジゼル「うん」
 
 ジゼルはりリアナからコップと薬を受け取り飲み干した。
 
ジゼル「ねぇ、お兄ちゃんと貴也さんもインフルエンザにかかったんでしょ?」
リリアナ『そうです。今はラオールさんにはエインデベルとメルキュールが、貴也さんにはリアムローダとミリネールが付いていますよ』
ジゼル「・・・ねぇ。2人の病気ってあたしがうつしたんじゃないかな・・・」
クレア「どうしてそう思うの?」
ジゼル「だって2人はあたしよりずっと元気で健康だったじゃない。それに比べてあたしは身体が弱いから・・・だから・・・」
リリアナ『ジゼル、今となっては発生源がどこかなんて分かりませんよ。それよりも今は身体を治すことだけ考えましょう』
ジゼル「うん・・・。でもお願い2人の容態を見てきてほしいの・・・」
リリアナ『そうですね。(『クレアリデル、今リアムローダが服を脱ぎだしましたよ』)←指向性テレパス』
クレア(『なんですって!』)
リリアナ(『メルキュールに人肌で暖めるのがいいとそそのかされたようです。止めてきてくれますか』)
クレア「分かったわジゼル、見てきてあげる。けどその代わりジゼルはちゃんと寝ているのよ」
ジゼル「はい、すみませんけどお願いします・・・」
リリアナ『頼みましたよ』
クレア「任せなさい」

 クレアは急いで部屋を出て行った。

リリアナ『さあ、クレアリデルが言うとおりジゼルは少し眠っていて下さい』

ジゼル「うん、ごめんねリリアナ。わたしが身体が弱いばっかりに・・・あたし昔から周りに迷惑ばかりかけてて・・・」
リリアナ『そんなこと言うのはおよしなさい。英荘ではみんなが家族なのですから遠慮はなしですよ・・・』
ジゼル「うん・・・」
 
 ジゼルの目に涙が浮かんだ。
 
ジゼル「あたし英荘に来れて本当によかった・・・。だってこんなにたくさんの家族と友達ができたんだもの・・・」
リリアナ『わたしもジゼルに会えて本当によかったと思っていますよ』
ジゼル「ほんとう?」
リリアナ『ほんとうです。ジゼルはわたしの2人目の親友ですからね』
ジゼル「えへへ、うれしいな・・・。あたしにとってもリリアナはベルさんについで2人目の親友よ」
リリアナ『ありがとうジゼル・・・』
ジゼル「ふふふ・・・」
 
コンコン
 
フォル「入ってもよろしいでしょうか?」
 
 そこへフォルが訪ねてきた。
 
ジゼル「フォルさんですか?どうぞ」
 
ガチャ
 
フォル「ジゼル、お加減はいかがですか?」
ジゼル「うん。リリアナとクレアさんが看ていてくれているから大丈夫です」
リリアナ『熱も思ったほど高くはありませんでしたしね』
フォル「そうですか、それはよかった。ではおかゆを作ったのですが食べられますか?」
ジゼル「うーん・・・あまり食欲はないんですけど・・・」
リリアナ『ジゼル、少しでも食べておいた方がいいですよ』
ジゼル「うん。そうする」
フォル「ではすぐに持ってきますね」
 
 そしてフォルは部屋を出て行き、すぐに土鍋を持って戻って来た。
 
フォル「はいどうぞ。熱いから気をつけてくださいね」
ジゼル「ありがとうフォルさん」
 
 ジゼルはフォルから土鍋を受け取った。
 
フォル「どういたしまして。それとリリアナとクレア姉様の分のお昼も出来ていますから食べに来てくださいね」
リリアナ『ありがとうフォルシーニア。後で頂いておきますね』
ジゼル「あれ、リリアナはまだ食べないの?」
リリアナ『1人で食べるのは味気ないでしょう。ジゼルが食べ終わるまでここにいてあげますよ』
ジゼル「ありがとうリリアナ」
フォル「ふふふ・・・。どうせならここで一緒に召し上がってはどうですか。リリアナの分も持って来て上げますよ」
ジゼル「いいの?ありがとうフォルさん」
フォル「いいえ、これぐらいのことでしたらかまいませんよ」
 
 再びフォルは部屋を出て行き、今度はリリアナの分のお昼を持って戻って来た。
 
フォル「はいどうぞ」
リリアナ『ありがとうフォルシーニア』
 
 リリアナはフォルからお膳を受け取った。
 
フォル「ふふ、どういたしまして。それじゃあジゼル、お大事に・・・」
 
 そしてフォルは部屋を出て行った。
 
リリアナ『それではいただきましょうか』
ジゼル「うん、いただきます」
リリアナ『いただきます』
 
 こうして2人は一緒にお昼を食べ始めた。
 ジゼルはおかゆが熱くて食べるのに苦労していたけれど。
 
ガチャ
 
クレア「ただいま・・・」
 
 そこへクレアが戻って来た。
 
クレア「ああっ!、なんで先にお昼食べてるのよ」
 
 そして2人でお昼を食べている姿を見て憤慨するクレア。
 
リリアナ『アナタが帰ってくるのが遅いからですよ』
ジゼル「ごめんなさいクレアさん・・・。それでお兄ちゃんと貴也さんの様子はどうでした?」
クレア「2人ともさっき目を覚ましたわ。貴也は回復に向かってるみたいだったわよ」
リリアナ『そうですか』
ジゼル「で、お兄ちゃんは?」
クレア「うーーん・・・熱が41度もあるって言ってたけど・・・。ま、死にゃあしないでしょ」
ジゼル「そ、そうなの・・・」
 
 ジゼルの顔が不安で曇る。
 
リリアナ『メルキュールとエインデベルが付いているから大丈夫ですよ。2人を信用してあげなさい』
ジゼル「・・・うん、分かった・・・。メルさんとベルさんが付いていれば大丈夫よね・・・」
 
 ジゼルはそう言って微笑んで見せた。
 その笑顔は無理に出したものだということは2人には分かっていたが何も言わなかった。
 
リリアナ『クレアリデル。アナタの分のお昼も出来ているそうですから食べてきてはどうですか』
クレア「そうさせてもらうわ。じゃあジゼル、また後でね」
ジゼル「うん。ありがとうクレアさん。2人の様子を見てきてくれて・・・」
クレア「ふふ、これくらいお安いご用よ」
 
 そう言ってクレアは部屋を出て行った。
 
リリアナ『では食事を再開しましょう』
 
 そしてしばらくすると二人ともお昼を食べ終わった。
 
リリアナ『ではジゼル、少し眠ってくださいな。そして次に目覚めた時は今よりも体調は良くなっているはずですよ』
 
 リリアナはジゼルに布団をかけて上げながら言った。
 
ジゼル「うん。ありがとうリリアナ。おやすみなさい」
リリアナ『おやすみなさい、ジゼル』
 
 そしてジゼルはすぐに寝息をたて始めた。
 リリアナはジゼルが寝入ったのを確認すると土鍋とお膳を持って部屋を出て行った。
 そしてこの時ちょうどラムが部屋を訪れた。
 ラムは幸せそうに眠るジゼルの寝顔を確認した後、満足そうにして静かに部屋を後にした。
 
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