この日、馨は寝不足で目を覚まし、第一声は悲鳴で始まった。
 なぜなら昨日からセフィが自分の看病にやって来ていて、昨夜は自分の隣に布団を敷いて寝ていたのだ。
 純情で真面目な馨があこがれの人の隣で安眠などできるはずも無かった。
 しかもセフィは寝相が悪く、馨は何度も布団を掛け直してやったりもしていた。
 そして朝目覚めた時、セフィは何故か馨の布団で一緒に眠っていたのであった。
 これが‘馨の悲鳴’の理由である。

馨「セ、セ、セ、セフィさん・・・ど、ど、ど、どうして・・・」

 悲鳴をあげた後、慌てて布団から這い出した馨は心臓の鼓動を押さえ、動揺しつつも現状の把握につとめていた。

セフィ「ふぁ・・・あ・・・馨さん・・・おはようございます・・・。ふぅあぁぁーーー・・・」

 そして目覚めたセフィは寝ぼけ眼で布団の中からあいさつした後、豪快なあくびをした。

馨「お、おはようございますセフィさん・・・」

 心臓の鼓動はまだ早かったがどうにかあいさつだけは返す事が出来た。

園長「どうしたんだい馨。朝から大声あげて?」

 そこへ馨の悲鳴を聞きつけた馨の母親(園長先生)がやって来た。

セフィ「・・・あ、園長先生おはようございます」
園長「はい、おはようさん。セフィ先生」
馨「おはよう、かあちゃん」
園長「おはようさん。で、具合はどうだい?」
馨「ん・・・」

 昨日は全身が痛み、意識も朦朧としていたのだが、今日は少なくとも意識ははっきりとしていた。
 しかし、身体にはまだ痛みとだるさと寒気が残り、頭痛もまだある。
 さっきまでは驚きのあまり忘れていた感覚が身体に戻って来た。

馨「昨日よりはいいが、まだダメみたいだ・・・」
園長「そうかい。じゃ、今日1日はまだ寝てな」
馨「ごめん、かあちゃん・・・」
園長「そういうことは子供達とセフィさんに言いな。じゃ、セフィ先生。愚息のことは頼んだよ」
セフィ「はい。まかせてください、園長先生」

 そして園長先生は部屋を出て行った。

セフィ「さ、馨さん。まずは熱を計りましょうね。と、その前にちゃんと布団で寝てください」

 セフィは馨を無理矢理布団に寝かせつけ熱を計った。
 

3分後
 

セフィ「38度9分ですか・・・。あまり下がってませんね・・・」
馨「すみません・・・自分がこんなで迷惑ばかり・・・」

 布団の中で小さくなる馨。

セフィ「えっ!そんな、きっと昨日のアタシの看病が悪かったせいですよ・・・あやまるのはこっちのほうです・・・」

 そう言ってセフィは悲しそうにうつむいた。

馨「いいえ!セフィさんは十分やってくれていますよ!!自分が病弱なせいですよ、きっと」

 馨はすぐさま大声で否定した。
 本当のところ馨は病弱ではないし、昨日のセフィの看病もお世辞にも上手とは言えなかった。
 しかしセフィの悲しそうな顔を見ては言わずにはいられなかったのだ。

セフィ「そうですか。では今日もはりきって看病しますね」

 そして馨の言葉でセフィに笑顔が戻った。
 その笑顔だけで救われる様な気分になる馨。
 しかし‘はりきって看病’のセリフには一抹の不安を抱え、

馨「お手柔らかにお願いします・・・」

 と、言ってしまう馨だった。
 

教訓1: 看病をしたことがあることと、出来ることは同意語ではありません。
 
 

セフィ「はい。じゃ、まず着替えから始めましょうか」

 そう言ってセフィは馨の服に手をかけた。

馨「セ、セフィさん。今日は自分で出来ますから・・・」

 昨日は馨が寝ている間にやってくれたらしいのだが、さすがに起きている間にされるのは恥ずかしい。

セフィ「そうですか・・・。でもせっかく看病に来てるんですからさせてください」

 セフィはそのまま馨の服を脱がしだした。

馨「セ、セフィさん!や、止めてください・・・」

 セフィに服を脱がされながら後ずさる馨。

セフィ「ああん、動かないでください。うまく脱がせられません」

 そしてセフィは馨の服を脱がし、次は下着に手をかけた。

馨「こ、これはダメです!」

 慌てて下着を押さえる馨。

セフィ「ダメです。ちゃんと下着も替えないと・・・」
 

ラム『どうもー、お邪魔しまーす』

 そしてそんなところへラムがやって来た。

ラム『セフィ、馨さんの具合はど・・・』

 ラムは最後までセリフを言う事が出来なかった。
 ラムには今の状態はセフィが馨の下着を剥いで襲いかかろうとしてるようにしか見えなかったのだ。

ラム『はは・・・、ホントにお邪魔だったみたいだね・・・。それだけ元気なら平気そうだ・・・。じゃ、ボクはこれで・・・』

 回れ右して立ち去ろうとするラム。

馨「待ってください!!誤解なんです!!」

 慌ててラムに駆け寄り引き止める馨。

ラム『だって、2人の邪魔しちゃ悪いし・・・。それにしても何時の間にそんな関係に・・・』
馨「それは誤解なんです!!自分の話を聞いてください!!」

 大声をあげて否定する馨。

馨「う・・・」

 突然馨は猛烈なめまいに襲われた。
 そしてずるずると床へと倒れこむ。

ラム『お、おい。どうしたの?しっかりして!』
セフィ「馨さん!!」

 そして馨は2人の声を聞きながら意識を失った。
 

教訓2: 病人に無理強いをしてはいけません。
 
 
 
 

 そして次に目が覚めた時には布団の中だった。

セフィ「あ、目が覚めましたか」
馨「自分は・・・」
セフィ「もう、驚きましたよ。突然倒れるんですから・・・。お身体は大丈夫ですか?」
馨「そうか、自分はあの時気を失って・・・。あの・・・ラムさんは?」

 馨は誤解が解けたのか気になったのでラムのことを聞いてみた。

セフィ「ラムはバイトに行きましたけど・・・」
馨「いえ、そうではなく・・・。何か自分達の事を言ってませんでしたか?」
セフィ「うーーん・・・。別に何も言ってませんでしたけど・・・」
馨「そうですか・・・」

 気にはなるが今は考えてもしかたないのであきらめた。
 そして自分の身体を見てみると、しっかりと着替えさせられていた。おそらく下着もだろう。
 その事に少し顔を赤らめる馨。

セフィ「馨さん。実はもうお昼なんですけど・・・お腹は空いていますか?」
馨「・・・いえ、食欲はあまり・・・」
セフィ「そうですか・・・」

 またセフィが悲しそうな顔になった。

馨「いえ、空いてます。実はさっきからお腹がペコペコで・・・」

 再びセフィのための嘘をつく馨。

セフィ「そうなんですか。よかったぁ、ちょうどおかゆを作ったとこなんですよ。持ってきますから待っててくださいね」

 うれしそうな顔をしてセフィは部屋を出て行った。
 そんな笑顔を見れただけで幸せになれる馨だった。
 そしてセフィがおかゆを持って戻って来た。

セフィ「おまたせしましたー」

 馨はここで嫌な予感がした。

セフィ「あっ!」

 案の定、セフィが部屋と部屋の間の段差に足をとられた。
 バランスを崩すセフィ。
 宙を飛ぶおかゆ。
 おかゆが目指す先には馨の頭が。

パシッ

 しかしお約束は起こらなかった。
 なぜなら馨がしっかりとおかゆの入った鍋をキャッチしたからだ。
 何故こんなことが出来たかというと、昨日の時点ですでにおかゆを頭からかぶった経験があるからだった。
 しかしおかゆの入った鍋は熱かった。

馨「あっちっち!!」

 そして鍋を馨の手を放れ
 やはりおかゆをかぶるはめになった。
 そして馨は本日2度目の着替えをし、昨日から2度目の火傷の治療をしてもらった。
 
セフィ「ごめんなさい。ごめんなさい」

 その間、セフィはずっと泣きながら謝っていた。
 馨にとっては火傷よりもセフィに泣かれるほうがずっと痛かった。
 そして馨はどうにかセフィが泣きやませ、新しいおかゆを持ってきてもらうことにした。
 そして馨が布団でセフィを待っていると、

セフィ「きゃーー!!」

がっしゃーーん

 という悲鳴と音が響いてきた。

馨「セフィさん!」

 それを聞いた馨は布団を跳ね除けすぐさま台所へ駆け出した。

ダダダッ

 そして台所に着いた馨が見たものは床に倒れているセフィの姿だった。
 馨はすぐにセフィ抱き上げ問いただした。

馨「どうしたんですかセフィさん!大丈夫ですか?」 
セフィ「馨さん・・・あの・・・その・・・」

 しかしセフィは顔を赤らめるだけで何も答えてくれない。

馨「何があったんです?まさか自分の病気が移ったんじゃ・・・」

 セフィが何も言わないため勝手に想像を膨らませてゆく馨。

セフィ「違うんです・・・。実は・・・台所の床が濡れていたため滑って転んでしまったんです・・・」
馨「えっ・・・それだけ・・・なんですか・・・」
セフィ「はい・・・すみません・・・」

 ますます顔を赤らめて馨から目をそらすセフィ。

馨「はは・・・そうだったんですか・・・。いや、自分はてっきりセフィさんの身に何かあったんじゃないかと・・・」
セフィ「あのー。そろそろ放してくれませんか」
馨「え?」

 そう言われて馨はセフィを抱き上げてままの姿でいることに気がついた。

馨「あっ!!し、失礼しました!!」

 真っ赤になって慌ててセフィから離れる馨。

セフィ「いえ・・・。それよりすみません。鍋を落としてしまって・・・。割れてはいないようですけど・・・」

 セフィは落とした鍋を拾い上げながら謝った。

馨「いえいえ、大丈夫ですよ、それくらい・・・」

 ここで馨の視界が急にくらんできた。

馨「あれっ・・・?」

 そして身体が横に倒れてゆく。

セフィ「馨さん!!」

 慌ててセフィは馨を支えようとしたが間に合わなかった。

バタン

 そして床で頭を打った馨は急速に意識は失っていった。
 

教訓3: 病気で熱のある時は全力で走ったりする様な急激な運動をしてはいけません。
 
 
 
 

 そして再び目が覚めた時もやはり布団の中だった。

セフィ「馨さん。気づかれましたか」
馨「自分は・・・また倒れたんですか・・・?」
セフィ「はい・・・すみません・・・またアタシのせいで・・・」
 
 うなだれるセフィ。

馨「そんなことはありません!自分が勝手に勘違いをしただけです。ですのでセフィさんが気にすることなんてないですよ・・・」
セフィ「でも・・・アタシ・・・馨さんに迷惑ばかりかけていて・・・なんの役にもたってないような気がするんです・・・」

 セフィの目には涙が浮かぼうとしていた。

馨「そんなことはありません!!。病人にとっては誰かがそばにいてくれるだけで心強いものなんです!!」

 必死でフォローをいれる馨。

セフィ「そうなんですか?」
馨「そうなんです!!それに・・・自分は・・・セフィさんがいてくれるだけでも・・・その・・・十分・・・その・・・」

 だんだんと小声になってゆく馨。

セフィ「ありがとうございます馨さん」

 満面の笑みを浮かべるセフィ。

馨(そうです。その笑顔を浮かべてくれるだけで自分は十分なんです)

 その笑顔を見ながら馨は思った。

セフィ「じゃあ、すぐに新しいおかゆを持ってきますね」
馨「は、はい。お願いします」

 一抹の不安を抱えながらも馨はお願いした。
 そしてセフィがおかゆを持って戻って来た。

セフィ「おまたせしましたー」

 ここで馨はデジャヴを感じ、再び嫌な予感がした。
 しかし今度はセフィも部屋の段差はクリアーした。
 しかし、

馨「セフィさん!足元に新聞が!!」

 セフィの足元には新聞が落ちていた。

セフィ「えっ?」

 しかし馨の指摘は間に合わなかった。

セフィ「きゃ!」

 案の定セフィは新聞で足を滑らせた。
 再び宙を飛ぶおかゆ。
 しかも今度はセフィの真上に飛んだ。

馨「あぶないセフィさん!」

 身構えていた馨は咄嗟にセフィを突き飛ばした。
 その結果、おかゆは馨の背中に命中。

馨「うぎゃああーーー!!」
 

教訓4: 2度あることは3度ある。
 

セフィ「きゃあぁーー!!すみません馨さん!大丈夫ですか!?」

 慌てて馨の服を脱がせるセフィ。
 今回は服越しだったので火傷はそれほどひどくはない。

セフィ「すぐに治療しますね」

 セフィはすぐさまタンスの上に置いてある救急箱を取った。
 しかしセフィの足元には先ほどの新聞がまだあった。

セフィ「きゃ!」

 再び新聞を踏み、足を滑らせるセフィ。

馨「セフィさん!」

 慌ててセフィを抱き止める馨。
 しかし病気でしかも火傷を負っている馨にはセフィを受け止め続ける事が出来なかった。

ドタッ

 その結果、2人は折り重なって床に倒れた。
 そして運悪くそこに、

ラム『どうもー、またお邪魔しまーす』

 ラムが再び現れた。

ラム『セフィー。フォルからお見舞いもらっ・・・』

 今度もラムは最後までセリフを言う事が出来なかった。

ゴトッ

 そしてラムの手から果物の入った籠が落ちる。
 今回のラムにはセフィが上半身裸の馨と床で抱き合っている様にしか見えなかったのだ。

ラム『や、やっぱりそういう関係だったんだ・・・何度もゴメン・・・ボクってホントお邪魔だよね・・・。じゃ、ごゆっくり・・・』

 再び回れ右して部屋を出て行くラム。

馨「ま、待ってください!!誤解です!!誤解なんですーー!!」

 しかし今回はセフィが上に乗っているためすぐには追いかけられなかった。
 追いついたのはラムが玄関から出た直後あたりだった。

馨「ぜーぜー、ご、誤解・・・なんです・・・。わ、訳を・・・聞いて・・・ください・・・」

 息も絶え絶えに話す馨。

ラム『訳って言われてもあの状態はどう見たって・・・』
馨「そ、それは・・・ですね・・・」

 しかしここでまた馨の視界が歪んできた。

馨(いかん!今倒れるわけにはいかんのだ!せめて・・・せめて説明を終えるまでは!!)

 しかし馨の願いも虚しく、馨の意識は闇へと飲み込まれていった。
 そして馨は再びラムに前で崩れ落ちるのだった。

ラム『ええっ!!ちょ、ちょっと・・・ま、またなの・・・』
 

教訓5: 病気の時は上半身裸で外に出るのは止めましょう。
 
 

エピローグへ