『禁断の堕天使』〜前編〜
フィオ「本当に良いのね。プル?」
フィオがプルの目を見つめながら尋ねる。
プル 「ああ、お願いだよ。姉さん」
決意に満ちた目でプルがフィオを見つめ返す。
フィオ「・・・・・・」
無言で頷くフィオ
フィオのPSIが一点に集中しプルを包み始める。
そして光がはじけた。
そこにはあるであろうはずのプルの顔は無く
光に包まれた優しげな笑顔が在るだけだった
そして、もう一度、光が瞬いた時にはその姿も消えうせていた。
フィオ「行ってらっしゃい。プル……いいえ、今はもう………」
―――――1999年8月11日−午後1時24分48秒
プル 『………何故だ……』
ゆっくりと、崩れ落ちる体を必死に支えながら思いが巡る。
プル 『………何処だ…私は何処で間違ったのだ……』
額から止め処無く流れる暖かな鮮血にドロリとした違和感を感じながら首を振る。
プル 『……違うな……!!
全てが……最初から間違っていたんだ……
何もかもが……』
そう、考えるプルの脳裏に全ての記憶が凝縮しそして走馬灯の様に膨れ上がる。
―――――1999年4月、高森尾大学の研究室
貴也 「あ、神谷くん。ここなんだけど?」
貴也が後輩の神谷に数枚のレポートを出しながら声をかける
神谷 「ああ、これですか?
ここは、ドームも設計を視野に入れて場所を広く取ってあるんですよ
後で、風見先輩の設計で埋めることになると思います」
聞かれた神谷はレポートを指差しながら的確に答える。
コンッコンッ
短く研究室のドアがノックされ返事を待たずにドアが開く
リア 「こんにちは、貴也いますか?」
挨拶をしながらドアを開けてリアが顔を覗かせる
貴也 「あ、リア」
神谷 「今日は、リアちゃん
今日も先輩に愛妻弁当を持ってきたのかい?」
神谷が笑いながらリアと貴也を見る
リア 「はい」
リアは少し照れくさそうにしながら素直に答える。
貴也 「おいおい、神谷君……」
貴也は思いっきり赤面しながら神谷に何か言おうとするが
この状況では何を言っても"愛妻弁当"の事実は何も言いようが無かった
神谷 「僕、お茶入れてきますねぇ〜」
こうして、三人は研究室のテーブルに各自お弁当を広げて食事にすることにした
神谷 「いいなぁ、先輩は
こんなに可愛い彼女が毎日、美味しいお弁当を持ってきてくれて」
そう言われ貴也は照れくさそうに赤面している。
リア 「でも、まだ神谷さんの様に手の込んだものは作れなくて」
リアは自分の作った弁当と神谷の弁当を見比べながら言う
貴也 「確かに……神谷君のお弁当って凝ってるよね?」
貴也もそう言いながら神谷のお弁当を見る。
神谷のお弁当は確かに凝っていた
今日も、ミネストローネスープにたった今すったパルメジャンチーズをかけたもの
それに、前日から用意していたと思われるサーモンのマリネ
更には粉から作ったと思われるピッツァ
とてもじゃないが一人暮らしの男のお弁当とは思えない。
神谷 「そうですか?どれもレシピさえあれば作れますよ?」
神谷は事も無げに言うがそれが出来ない人間も大勢居るのである
リア 「そういえば、神谷さんにこの間、貰ったレシピ。ありがとう御座います」
そういうとリアは神谷にお辞儀した。
貴也 「うん、フォルとはレパートリーの違う料理が多いから珍しいものが多かったよね?」
貴也も先日、レシピを元にリアが作った料理を思い出しながら頷いた。
神谷 「あんな物で良ければ幾らでも差し上げますよ」
そう言いながら神谷は照れくさそうに微笑む
貴也 「でも、神谷君はやっぱり凄いと思うよ」
貴也が素直に神谷を褒める。
神谷 「でも、フォル先輩のように美味しいお味噌汁って言うのは中々作れませんから」
以前、英荘にお邪魔したことのある神谷はフォルの料理に驚愕と感嘆を覚え
それ以来、料理に関しては敵わないというのである。
リア 「確かに、フォル姉様も料理が上手よね」
リアが溜息を付きながら呟く
貴也 「リアも練習していけばもっと上手になると思うよ」
貴也がリアにフォローを入れる。
神谷 「レシピ、もっと教えますよ」
神谷もリアに優しく微笑みかける。
程なくして三人の食事も終わり、リアは帰途に着くべく貴也と一緒に研究室を後にした。
貴也 「神谷君に教わったらまた、何か作ってね?」
貴也がお弁当箱をぶら下げながらリアを見る
リア 「うん。真っ先に貴也に味見してもらうからね」
そう言ってリアは貴也の横にピタリと寄り添い自然に貴也の手を握る。
貴也 「でも、神谷君には世話になってばかりだな」
そう言いながらバツの悪そうな顔をする貴也
リア 「確かに、良い人だものね」
相槌を打つリア
貴也 「神谷君は"素因"候補にはならないの?」
貴也がふと思った疑問をリアにぶつけてみる。
リア 『それが………良く分からないの』
リアは少し含みある顔をした後、直ぐに笑顔に戻り貴也を見る
リア 「うん、何かお礼をしなきゃいけないかな?」
答えをはぐらかした様にリアは話を戻した
貴也 「また、夕食に呼んで見ようか?」
貴也もリアが何も答えなかった事をさして気にせずに話を戻した
リア 「うん、フォル姉様も食べてくれる人が多い方が嬉しいって言っていたしね」
貴也 「食べてもらう喜びってものなのかな?」
料理をしない貴也にはいまいちピンと来ない感覚である。
リア 「うん、やっぱり誰かに食べてもらって美味しいって言ってもらうと嬉しいもの」
そう言ってリアはじ〜っと貴也の目を見つめる
貴也 「うん、今日のお弁当美味しかったよ」
あわてて、貴也はお弁当の感想を述べる
リア 「もうっ、貴也ッたら」
そう言いながらリアはクスッと笑う
リア 「じゃあ、先に英荘に帰ってるね」
そう言うとリアは貴也にしがみつき、頬に軽く口付けをして
頬を染め顔を背ける。
かなり恥ずかしかったのか直ぐに貴也の手を放し誰もいない廊下でPSIを発動させる
貴也 「あ、リアっ」
貴也があっけに取られている間にリアの姿は廊下から瞬く間に消えうせた。
そんな貴也を何者かの影がそっと後ろから見送りそのまま去っていった…………
???「見つけた……」
影はそう呟き影から闇へと解けて消えていった。
―――――1999年4月初春
クレア「はぁ〜、お茶が美味しい」
クレアがお茶を啜りながら一息入れる。
メル 「はい、クレアさん」
空になった湯飲みにメルがすかさず急須からお茶を入れる
クレア「天気も良いし、お茶も美味しいし
後は、桜でもあれば最高ね」
クレアが、遠い目で長閑に言う。
セフィ「それでしたら、皆でお花見に何てどうですかぁ?」
セフィもクレアに負けず劣らずいつもののんびりとした声で言う。
メル 「あ、それ良いわね」
メルも、この平和すぎる一時の憩いにのんびりと答えを返す。
クレア「でも、この時期だと何処もお花見客で一杯よ」
再度、メルが入れたお茶を口にしながらクレアが呟く。
セフィ「それなら大丈夫ですよぉ
保育園の裏の林にそれは見事な桜が咲いていますから」
セフィは嬉しそうに答え眠そうに目を細める。
フォル「クレア姉様、それでしたら私、お弁当を用意致しますね」
台所でお茶を煎れていたフォルが顔を出して話に加わる。
メル 「じゃあ、皆が帰ってきたら相談しましょ」
ちょうど、その時、ミリ、ジゼル、リリアナ、双子達の学生組が帰ってきた。
学生組「ただいまぁ〜×5」
こうして、英荘の面々は春先の桜を参る事となった。
―――――翌週、保育園裏林
ジゼル「うわぁ、綺麗……」
ジゼルが、喜びの余り舞い踊るように舞い散る花びらの中をクルクルと回る。
ラオール「おいおい、気をつけないと転ぶぞ」
そんなジゼルを嬉しそうにラオールが見つめる。
ジゼル「でも、奇麗なんだもの。
ねぇ、ミリちゃん?」
そう言って、ジゼルはミリの方を見る。
ミリ 「うん、でも何だか少しだけ儚げだよね」
そう言って、ミリは心持フォルの方に視線を向け
何処と無く感傷的な面持ちで桜を見上げるミリ
ラオール「ああ、良く分からないが不思議と奇麗だよな」
桜の魔力か、柄にも無くラオールも感傷的な言葉を出す
一同 「え!?」
ラオールの柄にも無い台詞に声を上げる一同
ミリ 「お弁当の方ばかり見てると思ってたのに」
メル 「花より団子ってタイプだと思ったわ……」
クレア「意外だわ……食欲より先に来る感性があるだなんて」
ベル 「………」
声も無く、食より花に興味を示したラオール感動しているベル
かなり失礼な、一同である。
ラオール「おいおい、俺だって奇麗なものを奇麗って言う事ぐらいあるぞ」
周囲の余りな反応に困り果てるラオール
ラム 『でも、意外だよ』
ジゼル「うん、ちょっと驚いた」
最愛の妹のジゼルとラムにまで打ちのめされるラオール
半ば落ち込み気味である。
フォル「ふふっ、お弁当食べますか?」
そんな一同を眺めながらフォルがほのぼのとした口調でお弁当を取り出す。
ラオール「待ってました」
やはり、ラオールはラオールである
お弁当と聞いたと単に眼の色が変わっている
メル 「やっぱり、お弁当の事を考えていたのね」
メルがクレアにお酌しながら絡む
クレア「当たり前じゃない。所詮、ラオールよ」
馨にお酒を飲ませながらクレアが更に追い込む
馨 「ラオール君……可愛そうに」
そう言いながら馨は情けない視線でラオールを見る
視線のあったラオールと声を合わせて溜息をつく
どうも、人数のせいか性格の為か英荘では男に立場は無いらしい
ラオール「そんな事より、貴也とリアはどうしたんだ?」
情けなさが込み上げて来そうなのでラオールは話を切り替えた。
ラム 『ラオールって野暮だよね』
しかし、折角、話を変えても貴也とリアが二人だけいないという話などしては
余計に墓穴を掘るだけであった。
リリアナ『貴也さんは研究室で用事を済ませてから来るそうですよ』
見かねたリリアナがラオールの言葉に返事を返す。
ラオール「じゃあ、リアはどうしたんだ?」
やはり、所詮ラオールはラオールである。
聞かなくても分かりそうなことをあえて聞く
ベル 「もぅ、ラオールさんって本当に……」
ベルが半ば呆れながら微笑む。
ミリ 「ラオールって本当に野暮だよね」
ミリも可笑しそうに笑いながらラオールを見る。
ラオール『何で俺ばかり……』
ちょっといじけそうなラオールである。
その傍ら年長組が既に出来上がり始めている
クレア「さぁ、グッといけ。」
そう言いながら、クレアは馨のグラスにお酒を注ぐ
馨 「ご相伴に上がらせて頂きます」
相変わらず名前と態度が腰の低い馨である
喉を鳴らし一気にグラスの中のお酒を煽る馨
その顔は既に上気して赤らんでいる。
メル 「クレアさんっ、あたしにもぉ」
そう言いながらクレアにしな垂れかかるメル
クレア「あ〜も、暑苦しい」
そう言ってもメルを跳ね除けない優しいクレアである。
馨 「どうぞ」
そう言って瓶を下げつつ左手を添えてメルのグラスに差し出す馨
メル 「ん、ありがと」
上機嫌のメルはそのお酒を軽く煽る
メル 「はい、ご返杯」
そう言って、メルは馨のグラスに待たしてもお酒を注ぐ
セフィ「あのぉ……」
流石に馨が心配になってきたのかセフィが声をかける。
馨 「セフィさん、自分は大丈夫ですので」
そう言って、馨が注がれたグラスを飲み干す
馨 「セフィさん、自分などの事を心配して下さって」
顔がお酒で赤いのかそうでないのか分からないが
馨は赤い顔でセフィの眼をじっと見つめている。
馨 「自分は……
自分はセフィさんの事が……」
お酒の勢いか馨が酔って何やらセフィに真剣な眼で言おうとしている
クレア〔これは……〕
メル 〔おおっ、言うの、言っちゃうの?〕
グラスを片手に眼を見張るクレアとメル
ミリ 〔わぁ!〕
ミュウにお弁当を分けていたミリも思わず馨の方を見る
ベル 〔馨さんが……〕
ラオールのお皿にお弁当のおかずを取っていたベルも馨の方を向く
心なしかラオールの方もちらちらと見ているが
馨 「自分は……セフィさんの事がぁ!」
そう叫んだと思ったら馨は全身の動きを止めてしまった
そして、そのまま
馨 「……ぐぅ……」
寝てしまっていた
ラム 「やっぱりね」
どこか、冷めたように笑うラム
ジゼル「でも、ドキドキしたぁ」
ジゼルは純粋にこの歳の女の子らしい事を言う。
ミリ 「うん、でも寝ちゃったけどね」
ジゼルに相槌を打つように笑うミリ
リリアナ『やはり、ここは'聖地'ですね
とても、穏やかに時間が過ぎていく』
―――――同時刻、貴也とリア
馨が見世物になっていた頃
貴也たちは紙袋に詰めた飲み物を持ちながらリアと並んで
春の桜舞う並木道を歩いていた。
貴也 「遅くなっちゃったね?」
貴也は荷物を抱え上げながら荷物越しにリアに声をかける
リア 「うん、姉様たち待っているかな?」
リアは貴也と二人っきりの状況の為か頬を桜色に染めながら貴也に答える
一陣の風が吹き薄紅が貴也たちを包む
貴也 「うわ、凄いな」
貴也が桜吹雪く道に感嘆の声を上げる
リア 「うん、雪みたい」
舞桜の中、リアも貴也と同じように微笑む
リアは桜の中を貴也と歩くのどかな時間にささやかな幸せを胸に感じていた。
???「桜の舞う光景は生き終るさまと始まりをしめす美しさがあるものですね。英先輩」
それまで誰もいなかったと思われる場所から突如、貴也たちに向かって声がかかる
貴也 「君は…」
貴也はその人物の顔に見覚えがあった
神谷 麗二、貴也の研究室の後輩でリアとも面識のある見知った人物である
貴也 「でも、どうしてここに?」
貴也が当然と思われる疑問を神谷にぶつける
神谷 「桜の舞い散るさまはまるでこの世の終わりを髣髴させる」
しかし、神谷は貴也の言葉を無視するように一人言葉を続ける。
貴也 「えっ……?」
リア 「………?!」
意味が分からずリアと貴也は目を丸くする。
神谷 「しかし、人は何故かその滅ぶさまにどこか哀愁を覚え懐かしむ。」
神谷は尚も続ける。
神谷 「その、どこか儚げな美しさはまるで………」
神谷はもはや、どこを見て言葉を発しているか分からない空ろな目で
桜の舞う様子を詩歌の如く歌う
貴也 「あ、あの………神谷君?」
流石の貴也もその意図が掴めずに戸惑いの声を上げる
リア 「あの……どうしたの……?」
リアたちが声をかけると神谷はそのまま徐に貴也たちとは反対の方向に歩き始めた
そして、ぼそりと一言、呟いた。
神谷 「それは、まるで………君たちのようだ」
そう言って神谷はリアたちのほうへ振り返る
その眼は先程までとは打って変って強く激しいものへと変貌していた
貴也 「神谷君……君は………」
貴也はリアと共に驚愕の表情で固まる。
神谷 「そう思わないか……マリア」
最後に呟いた神谷の声にリアは顔を凍らせた。
リア 「あなたは………一体」
呟くリアの声を掻き消すように風が舞う
神谷 「だが……大人しく散るには人の花びらは可憐すぎる!」
神谷が、貴也たちを無視し、叫び声を上げた
と、同時に力場が歪み陽炎の様に空気が揺れる
リア 「!!」
歪んだ空間が渦となりリアに迫った
直撃すれば当然、巻き込まれ命はないだろう
貴也 「危ないっ!!」
しかし、リアに直撃するすんでの所で貴也がリアを抱きしめ横に飛びのいた
リア 「貴也……無茶はしないで……」
抱きしめられ、ほんのりと頬を染めながらもリアは貴也の身を案じる
貴也 「大丈夫?リア」
貴也も、リアのほうを見ながらリアを案じている
肩からは僅かではあるが余波で血が滲んでいる
貴也 「神谷君、どうしてこんな事を!」
貴也は状況が分からずに思わず叫び声を上げる
神谷 「決まっているだろう?
邪魔をするな'素因'よ
光の子など生ませる訳にはいかないからな」
貴也の叫びに意も返さないように神谷は淡々と口を開いた
貴也 「まさか……」
貴也の声が上ずる
信じられないといった様子で神谷を見つめる
リア 「そんな…………ベスティアリーダーなの……?」
認めたくはない事実、それが目の前にあった
しかし、普通の人間にPSIなど使えようも無くその答えは明らかであった
神谷 「………」
暫しの無言
視線を鋭くし、声高に何かを詠唱する神谷
神谷の体を光が包みこみその光が徐々に胸元へと集中する
リア 「いけない………貴也、逃げて!」
リアの声が絶叫に変わる
しかし、何故かそこで神谷の詠唱を終えた
バシュ!!
桜の花びらを舞わせながら神谷の周囲に護符が取り囲む
神谷 「クッ!!」
ベル 「リア………大丈夫!?」
僅かの差で神谷のPSIよりも早くベルが護符を放ったのだ
リア 「ベル!?」
神谷 「第一天使か………」
神谷が苦虫を潰したような顔でベルを睨む
ベル 「貴也さん………」
貴也の怪我に気が付いたベルがキッと神谷を見る
しかし、直ぐにその顔が見覚えのあるものであると気が付き先程のリアたちと同様に愕然とする
ベル 「そんな………神谷さん……!?」
思わず、声に出し呟いてしまった言葉にベルは再度、自分の目の前にいる人物が誰かを認識する。
神谷 「第一天使、貴様とはまだ戦う時期ではない………邪魔をするな」
神谷はベルを睨みつけその眼光でベルの制す
そのまま、左手を挙げ振り下ろした
その、動作だけでベルが打ち出した護符を全て薙ぎ払う
ベル 「そ、そんな………」
あっさりと、護符を弾き飛ばした神谷に驚愕するベル
神谷 「神機に乗ってならまだしも、生身の貴様らに私がそうそうに敗れるものか
ましてや、素因に気を取られて集中力が落ちている」
神谷が、説明口調で淡々と言葉を紡ぐ
神谷 「下がっていてもらおうか………」
淡々と、しかし迫力のある声で神谷はベルに言い放った
ベル 「そうはいかないわ!」
そう言うと、ベルはうずくまる貴也とリアの前に立ち詠唱を始める
ベル 「きたれ!
われら御使いが主より賜りし鳳駕」
ベル 「われを守護する獅子座の神機」
ベル 「レオニス!!」
ベルが声高らかに叫ぶ
その刹那、ベルの声に呼応して神機レオニスが彼方より光臨する
神谷 「神機を呼んだか………
あくまで邪魔をすると言うのか第一天使?」
ベル 「当たり前よ!!
例え貴方が誰であっても……リアを護るのは私だもの」
ベルはねめつける様な神谷の視線を凛とした視線でかわし瞳を見開き神谷を見つめる
神谷 「時期ではない……しかし、邪魔するというのなら……」
そう言うと神谷は左手を掲げ詠唱を始める
神谷 「きたれ……われら御使いが主より賜りし鳳駕……」
ベル 「え……そんな………」
驚愕の表情を浮かべるベル。
同様にリアも貴也の横で信じられないと言う顔で神谷を見る
リア 「ありえないわ……人間が……ただの人間が獣機を呼べるなんて……」
最早、うわ言の様にリアが呟く
神谷 「信じられないといった顔だな……しかし、現実を見ろ」
神谷ははき捨てるように言う
しかし、神谷の詠唱はそこまでで続かなかった
ドゴォォォォォォォォォォン!!
盛大な破砕音と共に神谷が居た周辺の地形が消し飛んだからだ
ミリ 「三人とも、大丈夫!?」
そう叫びながら派手な砂煙の中からミリがエルメスフェネックと共に現れた
リア 「ミリ!!」
貴也 「ミリ……大丈夫だよ………でも神谷君が」
ミリ 「か、神谷兄ちゃん?何で神谷兄ちゃんがPSIなんて使ってるの?」
流石のミリも他多数と同様に驚きの表情である
一方、神谷はと言うと
神谷 「くっ、油断しました……次はこうは行きませんよ」
そう叫ぶ声が響くと、ようやく晴れた砂煙からは神谷の姿は消え去っていた。
貴也 「一体、何がどうなってるんだ?」
ベル 「わからないわ……」
ミリ 「あれ?本当に神谷兄ちゃん」
リア 「多分……でも……」
ミリ 「うん、ベスティアリーダーであんなの知らないよ……」
貴也 「じゃ、じゃあ……人間……なのか?」
そこで、全員が口をつぐみ黙り込んだ
と、丁度そこへミリの後を追ってクレアたちがやってきた
そして開口一番
クレア「遅い!!何してたの?!」
と、全員を睨みつける
クレア「全く、ベルに見に行かせて遅いものだからミリまで行かせたってのに
何してたのよ!!」
半ば出来上がっているクレアは状況などお構い無しに
一人で怒り始めた
ミリ 「はぁ〜」
貴也 「助かったぁ〜」
―――――閑話休題
クレア「で、何があったて言うのよ?」
お茶を啜りながらクレアが言った
貴也 「その前に聞きたいんだけれど」
貴也がおずおずと力なく片手を上げながら聞く
クレア「何?下らないことだったら怒るわよ」
クレアは冗談めいた声ながらも目は笑っていない
貴也 「その……フォルやリアの天使の力って人間にも使えるものなの?」
半信半疑で貴也が聞くと
メル 「ありえないわ!」
クレア「そうよ、私たちの力は生まれた時に主より賜ったものよ
人間如きが簡単に扱えるものじゃないわ」
ラム 〔僕は使えるけどね………〕
フォル「最も、例外で心の力ですから思いが強ければ稀に発動することは在るとは思います」
メル 「でも、それは本当に例外でしょう?
修行を積んで到達する悟りの境地でしかありえないわ」
リア 「でも……」
ベル 「……うん……使っていたよね……」
現場に居合わせた双子達は意気消沈している
些かショックが大きかったようである
貴也 「じゃあ、やっぱり別人かな?
もしくは操られているとか……」
貴也は一人、思案顔で呟く
セフィ「あのぉ〜、それで、何があったんですかぁ?」
珍しくセフィが状況についていこうと必死に話に入ってくる
そこで、初めて貴也たちは事のあらましを話した
フォル「神谷さんが………」
クレア「………信じがたいわね」
よく見知った人物でしかも、ベスティアとは程遠いと思われていた人物の
急変に誰もが声が出なかった。
ラオール「じゃあさ、誰かに操られているとか?」
ラオールが彼にしては珍しく妙案と思われる発想を持ち出したが
フォル「それもありえません」
ミリ 「そうよ!
幾ら私達ベスティアリーダーでも人の心その物に干渉は出来ないわ!
ラオールみたいにベスティアっぽかったら何とかなるかもしれないけどさ」
と、すかさずベスティアリーダー代表のミリが否定した
しかも、何やらラオールに酷い事を言っていたりする
ラオール「う……そりゃあ俺も以前は結構すさんでいたと思うけどさ」
ちょっといじけ気味である
リア 「………じゃあ、やっぱりベスティアリーダーって事?」
リアは顔を上げメルのほうに目をやりながら聞いた
メル 「う〜ん。神谷君でしょう?
少なくともベスティアリーダーで知っている顔じゃなかったわよ
知っていたらまず気が付くでしょう?」
セフィ「私も、知りませんねぇ」
セフィも知らないといった顔をしながら微笑んだまま視線をリリアナに映す
リリアナ『私も、神谷さんがベスティアリーダーだとは思えません……』
見事なまでに天界の住人達は全員一致で神谷を人間として判断しているようである
リア 「でも、神谷さんの心って……分からなかったわ……」
リアの一言で全員が愕然とする
クレア「そうね・・・・・・
言われてみれば確かにそうよ!!
でも、これで一つはっきりしたわ」
メル 「ええ、ほぼ間違いなくリアたちを襲った襲撃者は神谷 麗二だと言うとね」
ミリ 「ええぇ〜それじゃあ、人間の神谷さんがPSIを使ってたって事!!」
ベル 「そうよ、獣機まで呼ぼうとしてたのに!」
ミリとベルがほぼ同時に声を上げて叫んだ
クレア・メル「!!」
クレア「何ですって!」
メル 「ベルちゃん、今なんて?!」
クレアとメルもほぼ同時にベルに詰め寄った
何だかんだと息の合う二人である
ベル 「だから、獣機を………あっ!」
ベルもようやく自分の口にしたことの意味に至り声を上げる
フォル「クレア姉様、それは………」
クレア「ええ、ありえないわ」
メル 「そうよ、PSIは心の力だけれど、獣機ばかりはどうにもならないわ」
貴也 「じゃあ、やっぱり………神谷君はベスティアリーダー……?」
クレア「そうとしか考えられないわね
でも、私達が知らないベスティアリーダーなんて……」
クレア〔私達の知りえないところで何かあるというの………〕
ミリ 「とにかく、考えても埒があかないよ」
貴也 「うん、もし神谷君に会えたらきちんと聞いて・・・・・・」
リア 「だめぇ!」
クレア「そうよ、危険だわ」
フォル「貴也さん……御自分の身も案じて下さいね」
ベル 「そうよ、貴也さん。そんな事したら殺されちゃうかもしれないじゃない」
と、あっという間に貴也の声は美天使(?)4姉妹にかき消されてしまった
メル 「愛されてるわねぇ」
メルが流し目で貴也を見ながら冗談めいて呟く
リア 「あ……」
一人だけ冗談と取らなかったのかリアは顔を真っ赤にして俯いている
しかし、確りと席は貴也の隣である
クレア「とにかく、余り軽はずみなことはしないほうが良いわね」
そう言ってクレアは力強くテーブルに手を突いた
セフィ「あのぉ……クレアさん……熱くないんですか?」
セフィがそう呟き視線の先に叩かれたテーブルのショックで倒れたお茶が
クレアの右手にかかっていた
クレア「大したこと無いわ」
そう言いつつもクレアの顔には思いっきり熱いですと書いてあった
そんなクレアが顔を上げるとふとリアと眼があった。
クレア「なによ?」
リア 「…………」
クレアが不満気に問うがリアは黙ったままである
そのまま、リアは顔を挙げ貴也を見ると徐に貴也の方に倒れた
貴也 「ちょ、ちょっとリア……?!」
貴也はリアを見るとその息は荒くまるで洞窟を通り抜ける風音のようですらあった
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