『禁断の堕天使』〜中編〜
―――――数時間後、英荘・リアの部屋
貴也 「リア……」
寝息を立てているリアの傍らで貴也は静かにそっとその寝顔を見守っていた
リアも今は安静を取り戻し穏やかな吐息を立てている
コン、コン
ドアがノックされ僅かに開きそこからミリが顔を出す
ミリ 「リア姉ちゃん……大丈夫?」
ミリが心配そうな顔をしながら様子を伺っている
貴也 「うん、今は大分落ち着いたみたいだよ」
そう言うと、貴也は優しい眼差しでリアの寝顔を覗き込んだ。
ミリ 「でも、どうしたんだろう
私達が倒れるなんて事は滅多に無いんだけど……」
貴也 「うん、それなんだけど
やっぱり、今日の事で疲れたんじゃないかな?」
そう言いつつ貴也も心配そうにリアの顔を見つめる
ミリ 「ふぅ〜〜ん」
そんな貴也とリアを見ながらミリが意味深げに声を唸らせる。
その声に応えるように貴也が顔を上げた。
貴也 「え・・ミリどうしたんだい?」
貴也は少し照れくさそうに顔を上げミリの方に向き直った。
ミリ 「ううん、やっぱり貴也は素因なんだなって思ってさ」
そう言うとミリはクスリと笑いその場で所在無さげにくるりと弧を描くように一回転をした。
ミリ 『リア姉ちゃん……いいなぁ……』
貴也 「ん?どうしたんだい?」
貴也が優しい瞳でミリの顔を覗き込む
ミリ 「ん、なんでもない
それよりもクレアが話があるって言ってたよ」
覗きこまれたミリは少し頬を桜色に染めながら貴也を促した。
そう伝えると、ミリは立ち上がり勢い良く背伸びをしながら
あくびをしてそのまま部屋を後にした
貴也 〔ミリって何だか、猫みたいだな……〕
そう考えながら、貴也も立ち上がり一度振り返りリアを見つめた後に
部屋を後にした
―――――数分前、英荘・共同リビング
フォル「クレア姉様……マリアは……」
フォルは真剣な面持ちでクレアを見つめる
クレア「ええ、リア、いえマリアは多分……」
そう言いながらクレアは複雑な表情をフォルに向ける
メル 「そうみたいね。これで、未来は一定の方向へ動き始めたわ」
メルの何時に無く真剣な表情でクレアを見る
セフィ「後は最後の審判を待つのみになりましたねぇ〜」
セフィも……何時に無く……真剣(?)な声で話している
クレア「何にしても、ちょっと貴也と話がしたいわね」
メル 「そうね、ミリ呼んで来て」
そういって年長者二人はミリの方にキツイ視線を送る
ミリ 「えぇ〜、アタシぃ〜」
ミリとしては絶対に良い雰囲気であろう二人っきりのリアと貴也を
態々呼びに行くような事はしたくないところである
ミリ 「ベル姉ちゃんに……」
そう言ってベルに言ってもらおうとしたが周囲にベルの気配は無かった
クレア「良いから早く行ってきなさい!」
クレアが怖い顔をするのでミリはしぶしぶ居間を後にした
セフィ「あのぉ〜、貴也さんをお呼びしてどうなさるのですかぁ〜」
メル 「決まってるじゃない、酒の肴にからかうのよ」
メルが冗談なのか本気なのか分からない顔でとんでもないことを言い出す
クレア「違うでしょ!」
しかし、クレアがすかさず突っ込む
メル 「冗談よ、クレアさん怒っちゃ嫌よ」
そう言いながら、メルはクレアにしな垂れかかるも
クレアはあっさりとこれをかわしてソファに座りなおしていた
セフィ「そう言えば、ベルちゃんはどこへ行ったのですかぁ?」
確かにセフィネスの言うとおりである
半身たるリアが倒れたというのに双子のベルが見当たらない
メル 「そういえばそうね?
クレアさん、ベルちゃんは?」
メルが小首をかしげて顎に指を当てながらクレアに問う
フォル「あの子も………優しい子ですから………」
フォルが少し儚げな顔で哀しそうに呟く
クレア「そうね……」
クレアはフォルを見つめながら優しい笑顔でフォルの言葉に声を返した
一方、その頃ベルは………
ベル 〔待ってて、マリア……私が必ず守るから………
力を貸して……レオニス……〕
英荘より約20kmほど離れた上空でレオニスを飛行モードで神谷麗二を探していた。
ベル 〔でも……何で神谷さんが……〕
ベルがそう考えたその瞬間、レオニスの背後の陽の光が遮られた。
レオニスの背後から影が伸びると瞬時に相手の爪と思われる武器がベルに迫る!
ベル 〔!?〕
僅か無さでギリギリの所をベルは相手の攻撃をかわした。
???「ウフフッ教えてあげようか?、第一天使?」
レオニスを急襲してきた影は 地獄の猟犬の如く素早く立ち回りそして空中にピタリと静止した。
ベル 「貴女は……」
ベルが相手の獣機と思われる機体を見据えてレオニスを繰る。
フィオ「覚えてないかしら?
貴女の御姉様方なら存じていると思うのだけどねぇ
フィオラよ
フィオラ・エトワール・サブロマリン」
自分の名前を挑発的に言うとフィオはレオニスの中のベルをねめつける様にレオニスを見る。
ベル 「フィオ……貴女なの……神谷さんを操ってリアを……」
そういうベルの目にはリアを守るべく決意を固める守護天使の光が宿る
瞳が紅暁に染まり獅子の怒りを示すかの如く。
フィオ「クスッ、ちょぉっと違うけど
まぁ、概ねそういう事よ」
フィオは明らかにベルを挑発するかのようにからかうように話す。
ベル 「よくも……リアを……許さない!」
レオニスが咆哮を上げフィオの獣機カーナディスクスへと飛び掛る。
しかし、レオニスの一撃が届く直前
フィオ「いいのかしら?
約束の時にはまだ早いわよ」
フォルが意地の悪い微笑を浮かべながらベルの攻撃を言葉で牽制する。
その言葉に反応してベルの攻撃が僅かに鈍る。
フィオ「残念ね」
フィオがそういうとレオニスの背後よりもう一つの影が現れた
ベル 「!?」
ベルが気付いた時には既に相手の両腕はレオニスを捉えていた
フィオ「良くやったわ、プル」
フィオが、もう一機の獣機の乗り手プルの名前を呼ぶ
プル 「これで良いのだよね?フィオ姉さん?」
プルも淡々とそれに受け答える
ベル 「プル……フィオ?
まさか、対を成すもう一つの双子星……」
ベルがふと相手が何者かを思い出しかけたときには既にベルの意識は深く沈んで行っていた。
―――――英荘・共同リビング
貴也 「あ、あの〜」
共同リビングへ降りた貴也を出迎えたのは何とも表現しがたい笑顔と
その中に見え隠れする奇妙な緊張感だった。
クレア「貴也………来たわね」
貴也が少々、ビクつきながらリビングに入ると直ぐ様、クレアが声をかけてきた。
貴也 「は、はい」
笑顔の中にも緊迫した雰囲気に貴也は思わず上ずって答えてしまった。
クレア「ちょっと、そこに座って」
クレアはそう言いながら貴也を自分の正面へと促す。
クレア「リアの容態は?」
クレアはそう言いながら
貴也 「ええ、今は大分落ち着いてきました」
貴也は気持を落ち着かせながら緊張を解きほぐすように柔らかく答える。
クレア「そう……」
クレアは何かを考え込むように貴也を見つめる。
貴也 「クレアさん?」
見つめられた貴也は何と答えて良いか分からずにクレアの視線を受け止めるので精一杯である。
クレア「まず、一言言わせてもらうわね」
クレアは落ち着いた声でゆっくりと眼を閉じる。
クレア「おめでとう」
そう言って、クレアは先程までの緊張感が嘘の様に貴也に対して微笑んだ。
貴也 「え・・・?」
貴也は自体が飲み込めず貴也が呆ける。
セフィ「これで貴也さんも"ぱぱ"ですねぇ〜」
呆けている貴也に対してセフィがのんびりと言い放つ
貴也 「え・・・・・・・・・??」
貴也は更に事体が飲み込めずに呆ける
メル 「何、ボーっとしてんのよ。」
すかさずメルが貴也に活を入れるかの如く貴也の背中を叩く。
フォル「貴也さん、御目でとう御座います」
フォルも穏やかに御目でとうを言う
貴也 「え・・・?あの・・・?」
自体が飲み込めず目が点になる。
ラム 『だから、リアが妊娠しているから御目でとうなんでしょう?』
訳の分からない貴也を横目にラムがさらりと言ってのけた。
貴也 「え・・あ・・・」
更に声が上ずる貴也。
しかし、一瞬の間をおいて貴也が復活する。
貴也 「ええぇ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
復活した貴也の第一声はやはり、叫び声だった。
ラオール 「やったな!!貴也」
ラオールが事体の重さに気が付かずに気楽そうに言う。
ジゼル 「貴也さん、御目でとう御座います」
ジゼルもまた、心から謝辞を述べる。
しかし、男にとって愛するべき者の妊娠とは多かれ少なかれ動揺し慌てるものである。
当然、貴也その範疇に洩れず動揺と困惑と喜びの渦中の真っ只中なのだが・・・
リリアナ『これで、全てが動き始めましたね……』
リリアナの一言により一同に緊張感が走る。
メル 「ええ……」
苦々しく苦しそうに顔を歪めるメル。
セフィ「………」
ミリ 「………」
メルと同様に表情に陰りがさすベスティアリーダーたち。
クレア「ええ、これで全ての自称が一つの方向性へと動き出したわ
リガルード人たちの願いのままにね………」
クレア「フォルシーニア
エインデベル
メルキュール
ミリネール
セフィネス
そして、マリアローダ」
クレアリデルが天使・堕天使たちの名前を呼び上げていく。
フォル「はい」
メル 「ええ」
ミリ 「うん」
セフィ「はい」
それぞれが神妙な面持ちにて顔を上げ互いに複雑な表情をもって互いに見つめあう。
クレア「エインデベル?ベルは?」
クレアがそこで初めてベルが未だに不在な事に気が付く。
ミリ 「そう言えば、ベル姉ちゃんは?さっきから居ないけど?」
ミリもクレアの声に疑問の声を投げかける。
クレア『ベル……ベル……どうしたの?ベル……?』
クレアがPSIにてベルに呼びかけるが応答は無い。
フォル「まさか………」
メル 「まさか、独りで神谷君に会いに行ったんじゃ……!?」
瞬間、一同に緊張が走る。
クレア「あの、馬鹿………」
メル 「クレア、探すわよ!!」
メルが、意気込んで立ち上がる。
ミリ 「あ、ミリ姉ちゃん私も〜」
天使・堕天使「きたれ!
われら御使いが主より賜りし鳳駕
我を守護する神機(獣機)」
クレア「グラフィアス!!」
フォル「アクエリュース!!」
ミリ 「エルメスフェネェック!!」
メル 「ネガレイファントル!!」
セフィ「アンティータ〜〜」
それぞれが各々の神機・獣機を召喚する。
英荘の玄関先に五体の巨大な姿が雄々しくそびえる。
クレア「さぁ、行くわよ!!
ベル……待ってなさい」
フィオ「ふふふっ、見て御覧なさい。プル
あわてて、その子を探しに出て行ったわ」
フィオは小首をかしげプルの方をふりかえる。
プル 「………」
しかし、無言のプル。
フィオ「さぁ、行ってらっしゃい。
私の可愛いプル
聖母はもう目の前よ」
フィオは慈愛に満ちた優しげな眼差しをプルに向けながら囁く。
プル 「ああ、行ってくるよ、姉さん」
そう言うと、プルの身体がすっと浮かび上がりそして空へと霧散した。
――――英荘・リアの部屋
貴也 「リア………」
慈愛に満ちた表情でリアを見つめる貴也。
ゆっくりとほほを撫でながらリアの顔を見つめる。
自分の子を、そして光の子となるだろう子が息づくリアの胎動を感じながら
コンッ、コンッ
貴也 「はい、開いてるよ」
そう言うと貴也は静寂を浸食するように高く鳴るノックの音に顔を上げる。
ジゼル「あの・・・貴也さん・・・少し休まれた方が・・・」
ジゼルが心配そうに貴也を見つめる。
横に立つ、ラオールも同様である。
ラオール「そうだな、男として気持ちは分からなくは無いがお前が根をつめて倒れても
仕方が無いだろう?」
そう言うとラオールは男同士だけが通じる感慨のような物を感じさせながら貴也の肩を軽く叩いた。
ジゼル 「そうですよ。
後は私たちに任せて下さい。」
ジゼルが嬉しそうに微笑みながら貴也を労わる。
貴也 「でも、やっぱり気になるから・・・」
自分ではどうしようもないと分かりながらも離れたくない思いの強さを表すように
貴也が神妙に答える。
ラオール「いいから、休め!」
有無を言わせぬ強い口調でラオールが貴也を無理やり連れて行こうとする。
貴也 「ちょ、ちょっと、ラオール君」
リアの側を離れたくはないがラオールの優しさを感じ、貴也はラオールに何も言えなかった。
そうして、ジゼルのみを残しリアの部屋から会話が消えた数十分後
ジゼルが少し眠たげにアクビをしながらリアの容態を見守る。
ジゼル 「リアさん・・・・・・羨ましいな」
ジゼルが子が生まれると言う事に対してリアが心底、羨ましいのか声に出して呟く。
??? 「だが、その子は生まれてきてはいけない子だ・・・」
ジゼルの背後より、静かにそして重く暗い声が響く
ジゼル 「えっ!!」
ジゼルが振り返ろうとした直後、ジゼルは首筋に軽い殴打感を感じながら静かに意識を失った。
??? 「邪魔をされては困るのでね
少しだけ、寝てて頂きましょう」
声は、そう言うとゆっくりと寝ているリアに近づいた。
??? 「獅子の守護を持つ第2天使、マリアローダ・アルキオネ・ヒアデスよ・・・
貴女には恨みは無いが・・・生き終わって頂きます
光の子と共に・・・」
声はリアの目の前に牙を模したナイフを構え・・・そして振り下ろした。
――――同時刻・関東上空
セフィ 「ベルちゃ〜〜ん
どこですかぁ〜〜」
本人は真剣なのだろうが何処か気の抜けた声でセフィがベルに呼びかける。
PSIで探っても相変わらずベルの返事は返ってこない。
セフィ 『困りましねぇ・・・
どなたか迷子のベルちゃんを知っている方がいらっしゃれば良いのですけれど』
くどい様だが本人は真剣な面持ちをしながらセフィがお気楽な事を考える。
セフィ 『神谷さんでも良いですから居たら良いのですけれど・・・・』
本当に居たらそれがそれで困るだろうがこの際、手がかりが欲しい所である。
セフィ 「どなたでも良いから、出てきてくださ〜〜い」
その声に答えるかの如く、アンティータの目前を巨大な影が一陣の風となり通り抜ける。
セフィ 「!?」
影はアンティータの更に上空にピタリと停止しアンティータとセフィを見下ろす。
影 「ふふふっ、ご要望に答えて出てきてあげたわよ」
影は眩い太陽の中からゆっくりと、降りてくる。
セフィ 「カ、カーナディスクス・・・」
セフィが影となった獣機カーナディスクスの名を呟く。
セフィ 「カーナディスクスが居ると言う事は・・・・貴女はフィオラ・・・
フィオラ・ペルセフィーナ・サブロマリン!?」
フィオ 「ご名答、流石に最初のべスティアリーダーだけあって良く知っているわね」
まるで答えあわせをするかのようにフィオが皮肉めいた笑みを浮かべる。
フィオ 「でもね・・・」
クスクスと言う声を押し殺しながら、フィオがアンティータの方へ向きなおす。
同時にカーナディスクスの目が紅玉のように輝く。
フィオ 「私をペルセフィーナの名で呼ぶなぁ!!!」
そう言うとカーナディスクスは加速をつけ瞬時にアンティータの眼前まで間合いを詰めた。
振り上げた爪はPSIで真白く輝きアンティータの胴体へと伸びる。
セフィ 「負けません!!」
セフィは精一杯の声を上げながらカーナディスクスの爪を交わす。
アンティータは詰められた間合いを引き離し体勢を立て直した。
セフィ 「フィオ、どうして・・・」
セフィが真顔になりながらフィオを見つめる。
フィオ 「フンッ・・・」
そう、鼻をならすように笑うとカーナディスクスは一歩下がるように後退した。
セフィ 「フィオ、待ってくださ・・・うっ!!」
セフィが言い終わらぬうちに鋭い衝撃がアンティータとセフィを襲う。
セフィ 「ど、どうして・・・・交わしたはずなのに・・・」
セフィは何がおきたのか分からないと言う様に呟く
フィオ 「1番目の貴女が本気で私に敵うとでも思ったのかしら?」
クスクスと笑いながらフィオはゆっくりとカーナディスクスを操り
アンティータの周囲を旋回し始めた。
セフィ 「そ、そんな・・・」
セフィは苦痛に顔を歪めながら声を振り絞る。
フィオ 「生き終りなさい!!」
バシュ!!
そう宣告しながら、フィオのカーナディスクスはアンティータに向けて
360度の全周囲からPSIの光弾を放った。
セフィ 「いやぁぁぁぁ!!」
セフィの叫び声と共にアンティータが爆煙の中に包まれた・・・・・
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