『禁断の堕天使』〜後編〜





フィオ 「これで、一人片付いたわね・・・」
    自嘲気味な笑みを浮かべながらフィオは爆炎を背に立ち去ろうとした。
 
??? 「何が片付いたのかしら?」
フィオ 「!?」
    薄っすらと消え行く爆炎の中から雄々しく出でたつ姿が見える
フィオ 「クッ・・・ネガレイファントル・・・メルキュールか!!」
    苦虫を噛んだような顔をしながらフィオが眼前に聳える最強の獣機を睨み付ける。
 
メル  「まさかとは思ったけど・・・フィオ、貴女だったとはね」
    メルが強い口調でフィオに牽制の声を飛ばす。
メル  「さぁ、言いなさい
     ベルちゃんはどこ?」
    声は優しげに言うがその眼と響きは長たる威厳に満ち溢れている。
フィオ 「・・・・クッ・・・後一歩のところを・・・」
    フィオが尚も押し黙る
メル  「言いなさい!!私はセフィネスのように優しくは無いわよ!!」
    そう言いながらネガレイファントルの眼光が鋭く光、右腕を優雅にだが素早く振り上げる。
フィオ 「フンッ、終末の鐘よりもその片割れの心配でもすることね」
    不意にメルの意識にリアの顔が浮かぶ。
メル  「まさか!?」
    不意に動揺したメルに僅かに隙が出来る。
フィオ 「でも、もう遅いわ」
    その刹那、カーナディスクスがPSIにて瞬時に掻き消えた。
    不敵な捨て台詞を残しながら・・・
 
メル  「まさか・・・リアちゃんの身に・・・
     セフィ!!起きなさい!!」
    不吉な予感に襲われながらメルはセフィを叩き起こした。
セフィ 「うぅ〜〜、もう朝ですかぁ?」
    寝ぼけるセフィを捨てメルは直ぐさま次の行動を起こした。
メル  「戻るわよ!!リアちゃん達が危ないわ!!」
    そう言った次の瞬間にはメルはPSIを発動させていた。
 
セフィ 「あぁ、待って下さいよぉ〜〜」
    慌ててセフィもその後を追う。
 
 
 
 
――――その頃、英荘では・・・
リア  「貴方は・・・・・・」
    眼前にナイフを突き付けられたまま、眼を覚ましたリアがナイフの持ち主に問い掛けていた。
??? 「・・・・・起きてしまわれましたか・・・」
    そう言うと相手は顔を隠しナイフを止めたままの姿勢で尚も丁寧に続ける。
??? 「苦しませたくは無かったので出来れば眠ったままで居て欲しかったですが・・」
リア  「神谷さん、どうして・・・?」
    顔を隠したまま暗殺者、神谷零二がゆっくりとナイフを下ろす。
神谷  「既に申し上げたはずです。
     貴女に聖母になられては困るのですよ・・・」
    優しげなだが、何処か儚げな口調で神谷は答える。
リア  「どうして・・・どうして神谷さんが困ると言うの・・」
    納得のいかないリアは尚も神谷に詰め寄る。
神谷  「確かに、貴女には知る権利・・いや、義務がありますね
     ・・・貴女が知らないという事はそれだけで罪悪ですから・・・」
    寂しげな口調でそう呟くと神谷はゆっくりと眼を閉じそして見開いた。
 
    バシュ!!!
 
神谷  「!?」
    それまで何一つ無かった空間に突如、空気を掻き分け巨大な姿が浮かぶ
    メルから知らせを受けたフォルが英荘上空へアクエリュースと共にレヴィアウトしてきたのだ。
 
リア  「フォル姉様・・・?!
     アクエリュース・・・どうして?」
 
神谷  「クッ・・・早すぎる・・・まだ、終わっていない・・・」
    苦しそうな顔をしながら神谷がアクエリュースを見つめる。
    ゆっくりと地表へと近づいてくるアクエリュース。
リア  「・・・・神谷さん」
    リアはそう言うと、神谷の手を取りそのままレヴィインした。
 
    ヴゥン
 
    微かな空気の乱れと共に神谷とリアの姿が室内より掻き消えた。
ラム  『今のは・・リアちゃん・・・・何を・・・
     それに・・・・神谷君・・・!?』
    丁度、リアの様子を見に来たラムがリアと神谷がレヴィインする瞬間を目撃したのだ。
ラム  『!?』
    しかし、それよりもまず倒れているジゼルに気がつき駆け寄る。
ラム  『ジゼル!?ジゼル・・どうしたのいったい何が!!』
ジゼル 「う、うん、ラムさん?ここは・・・」
    未だ昏倒から目覚めたばかりのジゼルには事態の把握など出来よう筈も無かった。
 
 
 
――――数瞬後、丘の上
 
    パシュン!!
 
    空気が弾ける音をさせながら、リアと神谷がレヴィアウトしてきた。
    俯き加減に眼を伏せつつも、リアを見つめる神谷。
神谷  「何故、助けたのです・・・・?」
    悔しそうなそれで居て何処か可笑しそうな声で神谷がリアに問う。
リア  「別に助けたわけじゃないわ
     ただ、話が聞きたかっただけよ・・・」
    そう言うと、リアは凛とした眼で神谷を見つめる。
リア  「さぁ、話して
     神谷さん、どうしてこんな事をしたの?
     それに・・・」
    リアがそこまで言うと神谷は意を決したようにゆったりと草の上に腰を下ろした。
神谷  「座ってください
     長い話になりますから。
     それでいて・・・・退屈な話ですけれど・・・」
    そう言いながら神谷はぽつぽつと話し始めた。
神谷  「僕は・・・僕の・・・・」
 
 
――――同時刻、英荘
クレア 「どういうことよ!!」
    いつに無く不機嫌なクレアがヒステリックに小姑宜しく喚き散らしていた。
 
(クレア 「そこ、何ですって?」)
(作者  「ごめんなさい・・・聡明で十全に最も近いお美しいクレアリデル様」
(クレア 「よろしい」)
 
ラム  「だ・か・ら、目の前で消えちゃったってさっきから言ってるじゃないか」
    先ほどから詰め寄られ何度も詰問されるラムとしてはそろそろウンザリして来たところである。
メル  『全く、何をしてたんだか・・・』
    フォルに煎れさせた御茶を優雅に飲んでいるリリアナを横目で見ながらメルが内心毒づく
リリアナ『あの子たちも私の子ですもの』
    メルにメルに指向性の'声'を送りながらリリアナが微笑む。
メル  「リリアナ!!知っていたの?」
    今度は声に出してリリアナに詰め寄るメル。
リリアナ『ええ、当然でしょう?』
ミリ  「なぁんですってぇぇ〜〜〜」
    微笑を浮かべるリリアナに今度はミリが食って掛かる。
クレア 「そもそも、リリアナに期待するのが間違いだわ」
    フンッと鼻を鳴らしクレアがリリアナから顔を背ける。
クレア 「で!メル、相手の正体は分かっているんでしょうね?」
    クレアがメルの耳を引っ張りながら問いただす。
メル  「ク、クレアさん。い、痛い〜〜〜」
    そう言いつつも少し嬉しそうなメル。
メル  「もちろんよ!!」
    少し、耳を押さえながらメルが胸をはり答える。
ミリ  「お姉ちゃん、もったいぶらずに早く言ってよぉ〜」
    ミリがじゃれている様にしか見えないメルを急かす。
メル  「分かってるわよ!!」
    襟をただしメルが真顔になって答える。
メル  「対を成すもう一つの双子星よ・・・」
    声を殺しつらそうにメルが答える。
クレア 「!?」
    その答えを聴きクレアが愕然とした表情になる。
クレア 「そう・・・・あの子達なのね・・・」
    クレアもメルと同様に陰鬱な表情で答える。
メル  「ええ・・・セフィを襲ったのは姉の方よ・・・」
    メルもクレアの沈痛な表情の意味を知ってか声を押し殺す。
クレア 「じゃあ、リアを連れ去った神谷零二は・・・・」
    沈んだ表情のままクレアが続ける。
メル  「ええ・・・」
 
ミリ  「何??何なの二人とも??」
    ミリがわけが分からないと言う表情で年長者二人に問う。
リリアナ『うふふ、ミリもそのうち分かりますよ』
    リリアナがふっと微笑みながらミリを嗜める。
クレア 『くっ・・・元はと言えば不条理な'お役目'を与えた――アナタ方のせいじゃない』
    クレアが内心、リリアナに毒づく。
リリアナ『十全には程遠く、それでもなお求めた結果です・・・』
    リリアナが何処か儚げな遥か未来を見つめるかの如く遠い視線で虚空に眼を落とす。
クレア 「何にしても、探すわよ!
     私の妹達に手を出しといてただで済ませるわけには行かないわ」
    そう言うとクレアが高々と拳を掲げる。
ラム  『貴也はどうなるのかな・・・』
    ぼそりと、ラムが怖いことを呟く。
クレア 「貴也は後よ!」
    クレアが少し微笑みながら答える。
メル  「そうよ、後から酒の肴にからかうんだから楽しみとして取っておくのよ」
    ようやく、らしくなってきた面々がそれぞれに気合を入れなおす。
ラム  『可愛そうな貴也・・・ラオールもそうなるのかな・・・?』
    意味深な事を呟きながらラムが肩を上げてあきれた様な表情を作る。
 
    丁度、そこへセフィの容態を見ていたフォルとジゼルが入ってくる。
 
ミリ  「セフィ姉ちゃん・・・もう、大丈夫なの?」
    ミリが心配気にセフィの顔を伺う。
セフィ 「はいぃ〜〜、もう大丈夫ですよぉ〜」
    のんきに答えてはいるが心なしか苦しげな声である。
フォル 「無理をなさってはいけませんよ」
    ゆったりと微笑みながらセフィを気遣うフォル。
    だが、その眼は真剣で何処か冷ややかとも感じ取れる冷たさを漂わせている。
クレア 「サダルスード・・・?」
    クレアが訝しげにフォルのセカンドネームを呟く。
フォル 「はい」
    微笑を浮かべてにこやかに微笑むフォル。
クレア 『まさか・・・ね』
    思い至るものがあるのかクレアが心声で呟く。
メル  「さぁ、クレアさん
     鬼退治に行きましょう!!」
    メルが気合を入れてとぼけた事を叫ぶ。
ミリ  「メル姉ちゃ〜〜ん、もう少し気の利いた事言ってよぉ」
    メルの表現が気に入らなかったのかミリがすかさず突っ込む。
    残念ながらミリの言うとおり鬼退治にはならない
    犬はお供ではなく牙を剥いて襲い掛かってくるのであるから
クレア 「メル、ミリ、ついてらっしゃい
     フォルはラムたちと一緒にセフィを診てて」
    クレアがそう言うとメルとミリがスッ立ち上がる。
フォル 「あの・・・クレア姉さま私は・・・」
    フォルがそう言うとクレアは鋭い視線を虚空に投げかけ黙り込む
メル  「フォル、皆を宜しくね」
    メルがフォルに声をかける間にクレアがグラフィアスに乗り込む
    続いて、ミリ、メルも各々の獣機に身を預けた。
 
 
――――神機、獣機の中
クレア 「メル、何か分かって?」
    クレアがメルに対して心声を飛ばす。
メル  「まって・・・これは・・・」
    メルがPSIを集中してフィオの意識を探る。
メル  「いた!?でも・・・・」
    メルが意識を集中させた瞬間、フィオの意識が流れ込んできた。
メル  「クッ・・・!!」
クレア 「メル!!」
ミリ  「メル姉ちゃん!!」
    メルの苦しげな声にクレアとミリが声を上げる。
メル  「大丈夫よ・・・ただ、フィオはどうやら私達を誘き寄せたいみたいね」
クレア 「全く、いい度胸ね。」
    そう言うと、クレアはグラフィアスを大きく躍動させた
    グラフィアスの周囲に風の渦が出来る。
    その風に乗るようにネガレイファントル、エルメスフェネックが浮かび上がる。
クレア 「行くわよ!!」
    クレアの声にあわせて三体の巨体がレヴィインする。
 
 
    ヴァシュゥゥゥゥゥ!!!
 
 
    辺りにレヴィテーションで激しく空気を震わせる振動音が響き渡る。
フィオ 「来たわね・・・」
    フィオがふっと面を上げる。
    フィオの前に三体の神機、獣機が光臨する。
    フィオは傍らにカーナディスクスを連れ降りてくる三人を見守る。
クレア 「フィオ・・・・・・
     フィオラ・エトワール・サブロマリン・・・・」
    クレアが悲しげにフィオの名前を呟く。
フィオ 「お久しぶりね、クレアリデル」
    フィオが微笑みながらクレアを見つめる。
クレア 「フィオ・・・あたしの妹たちは何処?!」
    クレアが複雑な表情をしながらフィオに問う。
フィオ 「この奥の・・・教会に居るわ・・・」
    フィオが素直に居所を教える
メル  「どうして・・・どうしてこんな馬鹿なことを」
    沈痛な空気に耐えかねたメルが声を荒げる。
フィオ 「馬鹿なこと・・・そうね・・・
     族長や・・・ましてや終末の天使達にたった一人で敵うはずないものね」
ミリ  「なら、どうして!!」
フィオ 「だって・・・・仕方がないじゃない
     こうでもしないと・・・・」
クレア 「こうでもしないと'片割れ'が苦しむから・・・?」
    クレアが何処か儚げに呟く。
フィオ 「ッ・・・」
    フィオが顔を伏せ、眼を逸らす。
フィオ 「そうよ、だから貴女達をプルの下へ行かせるわけにはいかないわ」
    そう言うとフィオがゆっくりと右手を上げてみせる。
フィオ 『そうよ、あの子の想いの・・・全てが終わるまでは・・・・』
フィオ 「カーナディスクス!!」
    フィオが自らの獣機の名を叫ぶ。
ミリ  「私達相手に戦うつもりなの!」
    ミリが身構える
メル  「やめて、フィオ!!」
    もはや、戻れないと知りつつもフィオを止める言葉を言わずにおれないメル
クレア 「やめなさい、フィオ
     貴女じゃ、私達には敵わないわ!!」
    だが、臨戦態勢を解こうとはしないフィオ
フィオ 『敵わないのは分かっている・・・・でも、せめて時間を・・・』
    フィオが獣機に乗り込みカーナディスクスを繰りはじめたその瞬間
 
 
    ヴァシュゥゥゥゥゥン!!!
 
 
    再び、激しい振動音が響き渡り何者かがレヴィアウトしてくる。
    人を模した顔、凶悪なまでのその巨体
    フォルシーニアの神機、アクエリュースである。
 
フィオ 「なっ!!」
    突然のアクエリュースの登場に驚愕するフィオ
クレア 「フォル!!」
ミリ  「アクエリュースぅぅぅ??どうしてここに??」
メル  「な、何でフォルが?!」
 
フォル 「フィオラ・エトワール・サブロマリン
     私の妹達は何処です?」
    穏やかだがどこか冷たい声でフォルが囁く。
クレア  「フォル、どうしてきたの?!」
    残してきたはずのフォルがここに居ることにクレアが問う。
フォル 「クレアリデル、我らがお役目を阻害するものを
     主の御心に沿わぬものを排除しなければなりません」
    フォルが淡々と囁く
クレア 『サダルメルク・・・・』
    クレアが今のフォルが何者であるか気が付く。
クレア 「よりによってこんな時に・・・」
    クレアが苦虫を潰した様に臍を噛む。
フィオ 「何人来ようが同じよ!!
     行かせはしないわ」
    フィオのカーナディスクスが光弾を巡らせる。
フォル 「無駄ですよ。フィオラ
     諦めて生き終わりなさい・・・」
    フォルが声と共に一閃を奔らせる。
    フィオの放った光弾は一瞬にして掻き消える。
フィオ 「クッ!!」
    フィオが続けざまに光弾を放ち続ける。
フォル 「無駄ですよ」
    フォルが軽く眼を瞑る。
    次の瞬間、フィオの光弾は全て相殺された。
フィオ 「そ、そんな・・・」
    フォルシーニアとアクエリュースの圧倒的な力に驚愕するフィオ
ミリ  「アクエリュース・・・こ、これ程だなんて」
    流石のミリも明らかに全力で戦っているフィオを軽くいなすアクエリュースに脅威を覚える。
フィオ 『ここまでか・・・
     だけど・・・・まだ、生き終るわけにはいかない』
    フィオが全力を込めて光弾をはなつ。
    アクエリュースを包むかと思われる程の巨大な光弾がアクエリュースを襲う。
    だが・・・
    アクエリュースが片手を軽く上げただけでその光弾は掻き消えてしまった。
    そのまま、アクエリュースがPSIの光に包まれ始める。
 
フィオ 「いやぁぁぁぁぁ!!!」
 
    もはや、体裁も何もなくなり恐怖から逃れようと身をよじらせるフィオ
 
クレア 「フォル、フォルシーニア!!止めなさい
     アクエリュースの力を使うのはまだ早いわ!!」
    事態の収拾の為にクレアがフォルを制す。
    一瞬、フォルが動きを止める。
    その瞬間。
 
    ヴィィィィン!!
 
    フィオがカーナディスクスごとレヴィインした。
ミリ  「あぁ〜〜〜、逃げたぁぁ!!!」
メル  「無理もないわ
     あれは、いくらなんでもねぇ」
    逃げ出したくなるフィオの気持ちが分かるのかメルが同意を示す。
 
フィル 「クレアリデル、追いますよ」
クレア 「待ちなさい、フォルシーニア!」
    フィオを追ってレヴィインしようとしたフォルをクレアが制す。
メル  「ミリ、教会の様子を見てきて!!」
    クレアの意を悟ったのかメルがミリに命じる。
ミリ  「うん、わかった」
    ミリが仔猫のように俊敏に駆け抜け、瞬時に教会までたどり着く。
ミリ  「ベル姉ちゃん!!」
    教会の聖堂の中にはハリストスに見守られるようにベルが横たわっていた。
ミリ  「メル姉ちゃ〜〜ん、ベル姉ちゃん見つけたよぉぉ〜〜〜」
    ミリがあらん限りの声で叫ぶ
クレア 「後は、リアね!!」
 
    ヴィィィィン!!
 
    クレアがそういうか否かのうちにフォルがレヴィインしてしまった。
クレア 「フォル!!」
メル  「クレアさん、追うわよ!!」
クレア 「わかってるわよ!!」
    クレアとメルが駆け出す。
クレア 「ミリ、ベルを連れて帰ってなさい!!」
    そう言うと、年長二人組みは瞬時にレヴィインして消え去った。
 
ミリ  「ちょ、ちょっと〜〜!!」
 
    
 
 
――――同・丘の上
神谷  「僕は・・・・僕の本当の名前は
     プリュトン・・・プリュトン・デュミナス・サブロマリン」
    苦しげに神谷ことプルが呟く。
リア  「サブロマリン・・・そ、それじゃあ・・・!?」
    リアがプルの苦しげな表情を見ながら
プル  「そう・・・僕は99人居るべスティアリーダーの一人
     お役目を授かりし'Lalka'だ・・・」
リア  「でも・・・・クレア姉さま達は貴方を知らないって・・・」
    クレアたちとの会話を思い出しリアがプルに詰め寄る。
プル  「それは・・・造り替えたからです・・・」
    淡々と・・・そして苦しげにプルが呟く。
リア  「そ、そんな、そんなこと出来る訳が・・・」
    しかし、プルが'Lalka'である以上嘘を付くことは出来ない。
プル  「僕の姉さんの能力は再生・・・滅びの後に全てを蘇らせる力・・・・」
    プルが事の真相を語り始める。
リア  「再生・・・それじゃあ」
    リアが驚愕をもってプルを見つめる。
プル  「僕は一度、自分自身の身体を滅ぼして再生したんだ
     神谷零二として・・・・」
    そう言うプルにリアも納得した感で話を促す。
リア  「でも・・・どうしてそこまでして・・・」
    リアがそこまで言うと言葉が続かなかった。
    プルが今までに無く真剣でそれでいて恐ろしいほど澄んだ眼でリアを見つめていたからだ。
プル  「君は・・・君達は自らのお役目をどう思っている?」
    切実なまでの必死さでプルがリアに問いかけてきた。
リア  「わ、私は・・・・」
    リアは自分のお役目が光の子を宿すこと、その子を守り育てることとしか知らない。
    だが、自分の姉達が辛いお役目であることは痛いほど知りすぎていた。
リア  「プル・・・貴方のお役目は・・・」
    震え気味にリアが問いかける。
    プルは不意に虚空の空を見つめはじめた。
    既に日は傾き始め陽光と夕闇の中、空が淡い紫色へと変わり始めている。
プル  「君は・・・最後の審判の本当の意味を知っているかい?」
    どれ程、時間が過ぎただろうか・・・不意に、プルが口を開いた
リア  「え・・?人類が宇宙を汚染する存在だからそれを導くって・・・」
    リアが不意に問われた質問に答える。
プル  「ああ、リガルードにそう教わったね・・・僕も姉さんもそうだった・・・」
    プルはそれが間違っているかのごとく悲しげに言葉を紡ぐ。
プル  「君のお姉さま、それに族長なら全てを知っているはずだ・・・
     僕はそれが知りたい・・・」
リア  「・・・それは・・・」
    リアにとってもそれは同じであった。
    自らのお役目の意味。
    滅ぼすべき者
    リア自身を守るために争うであろうベル
    お役目としてベルと戦うことになるだろうメル、ミリ、セフィ
プル  「僕が与えられたお役目は・・・・滅ぼすこと」
    プルが淡々と続ける。
    だが、その眼には既に冷静な先ほどまでのプルは居らず
    悲哀に満ち、乾きの中で涙を流しているようですらあった。
リア  「!?」
    リアが一瞬、声に詰まる。
リア  「それはフォル姉さまのお役目のはずでしょう?
     どうして貴方のお役目が!?」
    プルの答えに、青ざめた表情をしながらリアが感情を高ぶらせる。
プル  「君は、'素因'が生まれた後の人類を導くつもりだい?」
    回りくどくプルが問う
リア  「え・・・」
    リアは考えても見なかった問いに一瞬の戸惑いを覚える。
プル  「リガルードは人類が宇宙を汚染すると言っていた
     だから、その要因のべスティアとなりえるかを審判すると・・・」
    プルが声を震わせ言葉を続ける。
プル  「べスティアだったら第三天使が人類を滅ぼすと・・・」
    プルの眼に薄っすらと雫が浮かび虹色に光る。
プル  「だが、そうでなければ君が'素因'と結ばれ光の子が人類を導く・・・」
    か細い声になりながらもプルが尚も続ける。
プル  「だが、
     それで人類は導けるのか!?」
    プルの眼に溢れた雫はもはや留めようも無く激昂するプルの声にあわせ泡沫となり始める。
リア  「でも・・・それでも・・・」
    答えのないリドルを突きつけられたようにリアが答えに迷う。
プル  「リガルードもそこまで人類に希望は持っては居ない・・・・
     だから彼らは僕に一つの役目を与えたんだ・・・」
    語り続けるプルの声は既に嗚咽を交え始めている。
リア  「ま、まさか・・・」
    リアもその意味に気づき胸に苦しさを覚える。
プル  「最後の審判の後
     例え何があろうと・・・・べスティアの因子を持つものを全て滅ぼせと・・・」
    プルの瞳から流れる雫は既に涙となる拭う事もせずただ、嗚咽と共に
    泣き叫ぶのみである。
リア  「そ、そんなこと・・・・」
    信じられない・・・と続けたかったがリアは言葉が続かなかった。
プル  「皆、優しい人たちばかりだ・・・」
    不意にプルが顔を上げて呟く。
    その眼はリアなど見ていない。
プル  「どうして争わなければならないのだ・・・・」
    プルの慟哭は問いとなり言葉を紡ぎ果てしなく虚空を泳ぐ。
リア  「プ、プル・・・・」
    リアは震えながらもプルの儚げな瞳を見つめる。
プル  「セフィネス・プルドゥ
     メルキュール・ティラス
     ミリネール・ユラネス
     クレアリデル・ヴァナント
     フォルーシア・サダルスード
     エインデベル・デネボーラ
     そして
     ・・・マリアローダ・アルキオネ」
    プルがゆっくりと天使・堕天使の名を呟く。
プル  「僕は君達と争いたくはない・・・
     だが、人を滅ぼしたくなどない・・・」
    プルは涙を声にしたかのように深い悲哀と長い苦しみを呟く。
マリア 「ッ!?」
    マリアが声にならない声を出しプルを抱きしめる。
マリア 「もう、もう良いよ・・・もう良いから・・・」
    子供をあやす様に優しげに、傷口を抑えるように必死にマリアはプルを抱きしめた。
    それは聖母としての母性であったか、人としての優しさであったかはわからないが・・・
プル  「ああっ・・・・暖かい・・・
     こんなにも暖かいのに・・・どうして・・・・・」
    プルはそこまで言うと静かに目を閉じた。
 
 
    バシュン
 
    空気を切り裂く低い響きがあたりに響き渡る。
 
フィオ 「プル、いつまでじゃれてるの!!」
    その時、フィオがカーナディスクスを伴いレヴィアウトしてきた。
    同時に抱き合うプルとリアを引き離すべく光弾を叩き込む。
 
プル  「ありがとう・・・リアちゃん
     僕はもう行くとするよ・・・・」
    そう良いながらプルはリアから離れた。
プル  「シャンヌハーデス!!」
    プルが自らの獣機を呼び寄せる。
 
フィオ 「プル、早くなさい!!」
    フィオがプルを急かす。
 
フォル 「あら?そんなに急いでどこまで行くのですか?」
    静かにそして、凍えるほど冷たく。
    フォルシーニア・サダルメルク・ルクバァの声が響き渡った。
 
フィオ 「ひっ・・・・うぅぅ・・・・いやぁぁぁ!!!」
 
    フィオが恐怖のあまり恐慌の叫びを上げる
フォル 「ふふふっ、もう一人も居ましたね。
     さぁ、私の妹を返して頂きますよ」
    そう言うと、フォルがアクエリュースを躍動させる。
    眼に見えるほどにPSIが集中しているのがわかる。
クレア 「止めなさい、フォルシーニア!!」
    クレアが必死に叫ぶ。
    しかし、サダルメルクの動きはやむ気配はない。
メル  「クレアさん、下がって!!
     危ないわ」
    メルが必死になり、クレアを抑える。
フォル 「さぁ、生き終わりなさい!!
     主の御心に逆らいし愚かなる堕天使」
    集まっていたフォルのPSIが一気に開放されようとする。
    その刹那。
 
リア  「フォル姉さま!!
     駄目ぇぇぇぇぇ!!!!」
 
    リアが切実な思いを込めて張り裂けんばかりに叫んだ。
    そうして、ふっと壊れた人形の如く倒れる。
フォル 「リア・・・・?
     うっ・・うっああぁぁ・・・」
    フォルが突然、苦しみだす。
    そして
フォル 「私は・・・
     っ!!・・・リア」
    サダルスードとなったフォルが神機を飛び降り、リアに駆け寄る。
クレア 「フォル!!リア!!」
    クレアもすぐさま二人の下へかけていく。
 
プル  「リアちゃん!!
     リアちゃん!!!!」
    既にリアの傍らにはプルが駆け寄っており、必死に声をかけている。
クレア 「リア、大丈夫!?」
フォル 「リア・・・・」
    クレアとフォルが心配そうにリアの顔を覗き込む。
    再び倒れたリアは深く眠りに就いていた。
クレア 『良かった。無事のようね』
プル  「ごめんね、リアちゃん。
     僕のせいで・・・・」
    優しげな表情を浮かべプルがリアを見つめる。
 
    一方、側に寄らなかった残りの二人
    メルとフィオは
 
フィオ 「ひっ・・・・ひぃぃ!!」
    フィオは未だにアクエリュースとサダルメルクの恐怖から恐慌状態のままだった。
メル  「・・・・起きなさい!!」
    そう言って、メルがフィオを張り飛ばす。
フィオ 「うぅ・・・」
    フィオの震えていた身体はやがて平常に戻り眼の色も正気のものへと戻った。
メル  「さて、貴女はどうするのかしら?」
    メルが大きく胸をはり、見下ろすようにフィオを見る。
フィオ 「・・・・・・・」
    無言のままのフィオ
メル  「まぁ、良いわ
     双子たちも無事なことだしね」
    メルは片眼を軽く瞑りウィンクして見せた。
 
メル  「何れ何にしても・・・・私たちは」
    そう、沈痛な面持ちをしてメルはその場から立ち去った。
フィオ 「そうね・・・
     終末、約束の刻に・・・・また」
    そう、呟きフィオは立ち上がった。
フィオ 「いくわよ、プル」
    そう言うと、きつい視線をしてメルとクレアを見る。
プル  「姉さん!!」
    プルもフィオの隣へ駆け寄る。
    その様子を何も言わず見つめるクレアたち
フィオ 「この借りはいずれ、返すわ!!」
    鼻を鳴らし皮肉めいて唇の端で笑うフィオ
クレア 「ふん、最後の審判の時にでもね」
    クレアもこれを意に返さずに返す。
 
 
    そうして舞台は最後の審判へと続く・・・・
 
 
                                                            To Be Last Episode