『禁断の堕天使』〜終末編〜序幕





 

――――超過去地球創生3億年後、〔天界〕号内

クレア 「メル、何であなたのお茶はこうも不味いのかしらね・・・」

    所在無く、クレアがつぶやく

メル  「・・・・クレアさんの意地悪」

    メルがちょっといじけるようにほほを膨らませながら首をぷいっと横に向ける

クレア 「もう、3億年はこんなことを繰り返しているって言うのに

これじゃ、先が思いやられるわ」

未だ、先カンブリア紀にあり、未だエディアカラの生物群が生まれてすら居ない赤く燃える地球を見下ろしながら、クレアが呟く

メル  「ふふ、そうね。あたしとクレアさんとの結婚生活ももう、随分になるものね」

    クレアが新婚のダンナのようなことを言うものだから膨れながらも嬉しそうに微笑むメル。

クレア 「何が新婚生活よ」

    一人浮かれているメルの頭をペシッと叩くクレア

メル  「いった〜〜い、クレアさんの意地悪・・・」

 

 

――――同刻、〔天界〕号内睡眠学習装置ルーム

??? 「いやだ・・・・・」

    幾重にも張り巡らされたコードが繋がる睡眠学習装置から苦しげなか細い声が

響き渡る

??? 「いやだ・・・・・」

    声は悲壮感を増し、段々と張りの強い少年のような声へと変わる

??? 「いやだ!!」

    ついには怒りをはらんだ絶叫へと変化する。

 

   パシュゥゥゥゥゥン

 

    そして、最後の叫びと同時に、空気が振るえ睡眠学習装置が内側より開放される。

    声の主は涙とも睡眠学習装置の羊水とも取れる筋をほほに残しながら

ゆっくりと瞼を開けまだ重い足を上げ歩み始める。

 

??? 「フィオ・・・・」

    彼がつい先ごろまで納まっていた睡眠学習装置の真横に位置するポッドの中の

女性を見つめながら彼はまた、ゆっくりと歩き始めた。

暫く歩き、広い聖堂のような空間が広がる

そこには四方に延びた通路があり、それぞれの入り口には

獅子を象ったレリーフに

1st Ange Eindebelle Denebola Regulus

雄牛を象るレリーフに

2nd Ange Mariaroda Alcyone Hyades

水瓶を象るレリーフに

3rd Ange Foltjunia Sadalsuud Ruchbah

鷲を象るレリーフに

4th Ange Crealidelle Vanant Shaula

と、刻印されていた。

彼は迷わず、床にが描かれているレリーフのある通路を選び

2nd Ange Mariaroda Alcyone Hyades」と掛かれた入り口を抜け歩き出した。

 

 

 

 

――――再び、〔天界〕号内テラス

クレア 「ん?今、何か・・・・」

    不意にクレアが顔を上げ、

メル  「どうしたの?クレアさん??」

    急にいぶかしげな顔をしたクレアに対してさらにいぶかしげな顔を向けるメル

 

 

 

 

――――同刻、睡眠学習装置―2nd Ange Mariaroda Alcyone Hyadesルーム

    彼はまっすぐな金属質の輝く廊下を

??? 「・・・・マリア・・・・」

    彼は真っ直ぐな瞳で横たわるリアを見下ろしながら呟く

??? 「また会えたね、マリア

     始まるをもたらす‘素因‘の母・・・・」

    そう言うと彼はそっと屈み込みリアの眠るポッドにガラス越しの口付けをする。

    そうして、彼、プリュトン・デュナミス・サブロマリンは数刻の間、リアに語りかけそして、去っていった。

 

 

 

 

――――199984日、高森尾某所

??? 「さぁ、起きて・・・・」

    何者かが安らぎの時間を妨げるように声をかける。

??? 「起きなさい、プル・・・・私の可愛い弟・・・・」

    声は穏やかに優しく響く。

??? 「さぁ・・・・起きて」

    促すように、木漏れ日の中の陽のように声は響く。

 

    パシュゥゥゥゥゥン

 

    金属質な音が響きシャンヌハーデスからプルが身を起こす

プル  「姉さん・・・」

    幸せそうなそれで居て悲しそうな眼をしながらプルが答えを返す。

    フォルが、サダルメルクとなりプル、フィオの襲撃をかわしてから既に4ヶ月の月日が流れていた。

 

フィオ 「この、4ヶ月、どうして何もしようとしないの・・・・」

    ただ、月日の流れるままに過ごすプルに対しフィオは苛立ちを募らせていた。

    1週間を過ぎればグランドクロスが訪れ、最後の審判が下される。

    そうなれば、どうなるかはプル、フィオともに判っているはずだからだ。

プル  「僕には・・・リアを・・・マリアを生き終わらせることは出来ない・・・・」

    俯き加減に呟くプル。

フィオ 「でも、それじゃあ・・・・それじゃあプル、貴方が・・・・」

    最後の審判が行われると言うことは、同時にプルがベスティアと判断される人間をすべて生き終わらせる事と同義である。

プル  「それでも・・・・僕には・・・」

    プルは眼を背け、フィオの視線から逃れるように首を振った。

フィオ 「プリュトン・・・・あなた・・・」

    寂しげにプルを見下ろすフィオ。

プル  「もう、争いたくは無い・・・・・」

    悲痛な嘆きを上げてプルが哀願を叫ぶ。

フィオ 「・・・・プル・・・あたしのプリュトン・・・・それが、あなたの46億年の‘答え’なのね・・・・」

    そういうと、フィオは優しくプルを抱きしめ、そしてそのままゆっくりとプルの目蓋を閉じた

フィオ 『プル・・・・しばらくお休みなさい・・・あなたが眼を覚ます頃には姉さんがすべて終わらせてあげるわ・・・・』

    フィオは横たわるプルに視線を流し、そしてそのまま、小さくつぶやいた

フィオ 「おいで、カーナ・・・私にもう少し力を貸して」

 

    グウゥゥォォォォォォォォォォン

 

    カーナディスクスはそんなフィオの想いに応えるかのごとく、ふわりと舞い上がり、名に相応しい雄々しさにて全てを震撼させる咆哮を上げ応える。

    肩に三つ首の番犬を象った漆黒の獣機が一瞬にして空気を裂き、次の刹那にはその姿は掻き消えていた。

 

 

 

 

――――同時刻、英荘内

フォル 「お早う御座います。貴也さん」

    いつもの様にフォルが起きて来た貴也に対して朝の挨拶を交わす。

    そしていつもの様に世界まで変えそうな優しげで少し悲しげな微笑みを向ける。

貴也  「あ、お早う。フォル」

    いつもの様に、フォルに挨拶を交わした貴也はそのまま、英荘の共同リビングに足を踏み入れた。

    しかし、そこには貴也が見慣れた‘いつもの’光景は広がっては居なかった。

    クレアを中心に、横にはリアとベルが控えている。

    クレアと正対する位置にメルが座り、メルもまた左右にミリとセフィを控えていた。

    それぞれに真剣な面持ちを浮かべており、その様を笑顔ともとれる表情でリリアナが見つめていた。

 

貴也  「あ、あの・・・・」

    余りのことに思わずたじろぐ貴也。

    良く見ると、端のほうに既に避難を済ませたと思われるラオールとジゼルが見える。

    横には様子を伺いながらしっかりとラムの姿も見えた。

貴也  『何だか・・・怖い・・・』

    食い入るほどの真剣な雰囲気に思わず正直な想いを感じる貴也。

 

リリアナ『貴也さん、宜しいですか?』

    不意にリリアナが語りかけてきた。

    こう言う時、大抵の場合はクレアが何か口を開くので驚きを隠せない貴也。

 

貴也  「あ、はい・・・」

    言われるがまま促され、席に着く貴也。

メル  「貴也、私にミリ、それにセフィはここを出るわよ」

    メルが静かに告げる

貴也  「え・・・・ど、どうして?!」

    突然の事に動揺する貴也

ジゼル 「メルさん・・・急に何を?!!」

    余りに突然の事態に隅に居たジゼルまでも身を乗り出す。

クレア    「分かっているはずよ。

     後、1週間後に最後の審判が行われるの・・・・」

貴也       「あ・・・・」

              クレアの一言で事態を飲み込めてしまった貴也は思わず言葉に詰まる。

ミリ       「ごめんね・・・ジゼル・・・」

              顔を合わせることが辛いのかジゼルの真っ直ぐな瞳から眼を背けるミリ。

ラオール「・・・・・・・・」

              無言のまま、腕を組みベルを見つめるラオール。

メル       「名残惜しいけれど、仕方ないわ・・・・もう、あと1週間後には・・・」

 

        ヴァシュゥゥゥゥゥゥゥゥゥン!!

 

              不意の刹那に、空気を切り裂き、押し退けられた空気が圧搾され一瞬にしてはじける巨大な轟音が響き渡る。

              押し退けた黒き影がゆっくりと上空より舞い降りる

 

 

 

 

――――英荘上空

強烈なPSIを迸りながらカーナディスクスがレヴィアウトしてくる。

 

フィオ 「クレアリデル・ヴァナント、メルキュール・ティラス!!

    出てきなさい!!」

    もはや、隠れる気など無いと言わんばかりに堂々と叫ぶフィオ。

フィオ    『プル・・・あなたは答えを出したのね・・・私も・・・』

              凄まじい決意を目に秘めて声高らかに、なおも叫ぶフィオ。

フィオ 「さぁ、どうしたの?

その、傾いた下宿館ごと踏み潰されたくなかったら、早くなさい!!!」

 

その声に応えるように英荘の玄関がゆったりと開く

しかし、予想に反して出てきたその陰はクレアでもメルでもなかった

リリアナ『フィオラ・ペルセフィーナ・サブロマリン・・・・これ以上、何をしようと言うのです・・・』

              優しげに、しかし、その圧倒的な存在感を示しながら大天使リリアナ・バーナード・アルガが燦然と光臨する。

フィオ 「クレアかメルをだしなさい!」

              なおも叫ぶフィオ

リリアナ『どうしたと言うのです・・・・』

              しかし、リリアナが一歩足を踏み出しただけで周囲の空気が変わる

フィオ 『リガルード‘神’にお目通りを願いたい』

              その神々しいまでのPSIを感じて、一瞬ひるむフィオ

リリアナ『これ以上、聖地での騒動は誰が許してもこの私が許しません。

 後は星の瞬きほどの刻を過ごしお役目を果たしなさい』

フィオの言葉を無視するかの如くリリアナが続ける。

クレア 「リリアナ・・・・何を・・・」

              沈黙を保っていたリリアナの突然の行動に驚きを隠せないクレア

フィオ 「そういう訳にはいかないのよ!!

クレア!!リガルードはどこ?」

              強い口調と意思の篭る目にてクレアに問いかけるフィオ

クレア 「会って、どうするというの?」

              クレアが呟く様に問いかける。

メル       「もう、やめて、フィオ

 もう・・・・」

クレアの横に立つメルも静かに言う

フィオ 「私たちの‘お役目’を知っているあなた達がそれを言えて!!」

              メルの悲しげな声にフィオが怒りをもって応える

 

ミリ       「フィオたちの・・・お役目?」

              何も知らないミリが後ろから不可思議に声を上げる。

貴也       「メルさん・・・・フィオのお役目って・・・?」

              不思議に想い、貴也が何気に疑問を呟く。

メル       「そ・・・・それは・・・・」

              一番聞かれたくない相手に一番聞かれたくないことを聞かれた瞬間

              メルは思わず身じろぎしてしまう。

ベル       「どういうことなの・・・・クレア姉さん」

              ベルもたまらずクレアに詰め寄る

 

              そこへ、ゆっくりと後ろからセフィが歩み寄る

セフィ    「もう一つの双子星・・・・

 そのお役目は・・・・・」

セフィがか細い声でしかし、凛として周囲を見据えながら声を発する

 

セフィ    「片割れの‘お役目‘は如何なる時もベスティアを生き終わらせること・・・

 添え星の‘お役目‘は・・・・・’お役目‘を終えた片割れを・・・・生き終わらせること・・・・」

セフィネスが儚げな表情で悲しげな言葉を紡ぐ

 

メル       「セフィネス・・・あなた・・・」

クレア 「知っていたのね・・・・」

              クレアとメルがセフィネスを見つめる

 

リア       「それって・・・・」

              身重のリアがリリアナの背後から出てくる

リア       「それって・・・・どういうこと?

               それじゃあ・・・・それじゃあ、まるで・・・・」

 

リリアナ『フィオ、‘お役目’を果たしなさい・・・・』

              リリアナが諭すように語り掛ける

              しかし、フィオの眼はなおも意志の強い輝きを宿していた

フィオ    「だまれ!!

 プルは・・・・プリュトンは・・・・・私が守る!!」

              悲しいまでの一途さで声を上げるフィオ

 

        ヴァシュゥゥゥゥゥゥゥゥゥン!!

 

              しかし、フィオの叫びをかき消すように何者かがレヴィアウトし

              他を圧倒する巨大さを誇る山羊を象った人型の獣機がその巨体をあらわす。

 

クレア 「あ、あれは・・・クラウナシーラ!!」

              突然、出てきた獣機にクレアがいかにもまずいと言わんばかりの表情をする。

ミリ       「ゲッ・・・・」

メル       「で、でた・・・・」

ベル       「な、何で・・・・」

フィオ 「ル、ルナリア!!」

セフィ 「ふぇ?ルナリアさん?」

              一同、各々がそれぞれの反応をする。

貴也       「ま、またぁ???!!」

 

              青銅色の獣機がゆっくりと開き中から、人影が飛び降りる。

ルナリア「はぁい、みんな元気?」

              場に不釣合いな底抜けに明るい声で少女と言うよりも女性と言う感じの人影が声をかける。

 

セフィ    「ルナリアさん、おひさしぶりですぅ〜」

フォル    「まぁ、ルナリア。お久しぶりですね」

              全ての状況を無視するかの如くセフィ・フォルがのんきにルナリアと挨拶をする

 

ルナリア「きゃ〜、セフィちゃん、フォルちゃん元気だった〜〜〜♪」

              光速を超えるかと思われる速度でフォル、セフィに駆け寄り、抱きしめるルナリア

メル       「ル、ルナリア・・・あんた・・・・」

 

メル・クレア  「何しにきたのよ!!」

 

              見事なほどに綺麗にはもるメルとクレア

ルナリア「決まってるじゃなぃ」

              ルナリアはどこか楽しそうにフォルとセフィを抱きしめたまま答える

              そう、いうとルナリアは今度は貴也のほうに向き直る

ルナリア「あなたが‘素因’ね」

              満面の微笑み(後のミリに言わせると悪魔の微笑み)を浮かべルナリアが貴也に抱きつく

ルナリア「う〜ん、可愛い」

貴也       「あ、あのぉ」

              どうして良いか分からず、周囲に助けを求める貴也

              しかし、貴也が視線を延ばした先には凍りつくほど恐ろしい形相をしたリアが居た

貴也       「リ、リア、これは、その・・・」

リア       「ル、ル、ルナリアぁぁぁぁぁ!!!」

              突如として出てきたルナリアを貴也から引き離そうと必死なリア

 

 

 

 

 

――――次回予告

プル       「明かされたフィオのお役目

               突如としてやってきた、謎のベスティアリーダー・ルナリア、その目的は

               最後の審判をあと、数日に控えた今、何が起こるのか

               次回、電脳天使SS外伝「禁断の堕天使」〜終末編・第二幕〜

               ―――――未来は、まだ決まっていないよ・・・・」

 

 

〜終末編・第二幕〜