LalkaStory

プロトタイプ

 

羽野宏也(はのひろや)は、ついに、
「自我を持ち、完全に自律的に動くことのできる
 スーパー・マルチ・エージェント・ソフトウェア」の
プロトタイプを完成させる。
「エージェント」とは、
利用者一人ひとりの嗜好までも把握して、
その人にあった情報を自動的に選択してくれる
つまり、利用者の目的に合わせて
ネットワークを自律的に動き回ることができ、
学習機能があり、柔軟に行動することもできる
ソフトウェアのこと。
そして、そのエージェントにパーソナリティを与えるべく
‘エルフィリア’を開発した。
「さぁ……目覚めてくれ。
 オレの天使――…。
 ……パーソナリティ‘エルフィリア’。」

 

‘エルフィリア’誕生。
モニターにエルフィリアが映し出される。
起動したエルフィリアは、誕生と同時に
ネットワークを通じて、分室の監視システムを掌握してみせ、
主人公を驚かせる。

エルフィリア
「‘ここ’には、外部をモニターしているカメラやセンサー類が――。
 ――92個もあるんですもの。」

だが、羽野はそんな風にはプログラムしていない。
羽野が‘ここ’にいることを心配するエルフィリア。

エルフィリア
「このようなところにいらっしゃって――。
 ――お寂しくはないのですか?」

「……‘なれ’ってヤツかな?
 もともと‘ここ’は、異なる企業同士のイントラネットを――。
 ――インターネットで結んだ、エクストラネットを活用した――。
 ――バーチャルコーポレーションみたいなものだから――。」
「実際――。
 ――‘ここ’の実態を把握している人なん
 て、ひとりもいないんじゃないのかな?」

 

エルフィリア
「……その方は、お強いですか?」

突然不思議な質問をするエルフィリア。

エルフィリア
「あなたは――わたしがお守りします。」

エルフィリアの言葉に戸惑う羽野。
もちろんそんなプログラムは組んでいない。
エルフィリア
「……わたし、あなたを愛しています。
 人がそうであるように――…。
 ……わたしが創造主を愛しても、
 いけなくはありませんよね?」

それを認める羽野。

エルフィリア
「わたし、うれしいです――…。」

 

羽野、エルフィリアを愛するようになる。
「アイツから、メールの返事が来たんだ。
 もうすぐアイツが、キミに‘ボディ’=‘ADA’素体をくれる。
 それがあれば、いつでも‘こちら’側にいられるようになるんだ。」
「でも、オレは……キミに恋をするなんて、思わなかったよ。」

エルフィリア
「――わたしも愛しています。
 うれしいです、わたし――…。
 ……愛せる人がいて。」

 

そのとき!

エルフィリア
「誰かが、‘ここ’へ入ってこようとしています!」
何者かの不正アクセス。

セキュリティの穏やかなサーバーをいくつも経由して
分室のコンピュータにアクセスしてくる。
エルフィリア
「インフォメーションシーカー――…。
 ……ポリィティカルアイドル。」
エルフィリア、謎の言葉を残して、何者かに奪われてしまう。

エルフィリア
「さようなら……。 愛して――。」

 

ようやくADA素体が送られてくる。

「――まだ、再生できるかも知れない――…。」
三門健介(みかどけんすけ)の研究室。

羽野と同じく‘ここ’=先進情報技術研究計画局の
本局で働いている、羽野の友人。

羽野は‘ハート’=パーソナリティを創り、
三門は‘ボディ’=ADAを造っている。
エルフィリアのバックアップデータから孵化させてみるが、
エルフィリアではないADAが孵化してしまう。
しかたなく、バックアップから‘エルフィ’を孵化させる。

 

‘ADA’素体の維持とメンテナンスには、かなりの資金が必要。
それを稼ぐために、エルフィにネット上でソロライブをさせることにする。
ソロライブとは、プロバイダが主催する、
サイバーアイドルのバーチャルライブのことで
そのアクセス数によって、出演料が振り込まれることになる。
まれに、ライブサイトで
他のサイバーアイドルのライブに出くわすことがある。
その際には、ライブサイトの使用権をかけて、
Webゴング方式で、アイドルとしての魅力を競うことになる。
それを、バトルライブという。
バトルライブに勝てば、
相手が途中まで行っていたバーチャルライブの出演料と
相手のパーソナリティデータを手に入れることができる。
だが、負けた場合は、パーソナリティデータを奪われてしまう。
資金を稼ぐため、
そしてエルフィがアイドルとしていられるために、
バトルライブに勝ち続けなくてはならない。

 

そして、その裏で、
エルフィに、ネットワーク内をくまなく探らせることで、
研究室に不正アクセスし、エルフィリアを盗んだ犯人を捜させる。
いま分かっているキーワードは、
‘インフォメーションシーカー’と‘ポリィティカルアイドル’、
この2つだけ。
「頼む、エルフィ――…。
 オレは、そのタメにエルフィリアのバックアップファイルから――。
 ――キミを、創りだしたんだ。」

 

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