LalkaStory

エリィス

 

久しぶりに、先進情報技術研究計画局分室の
自分の研究室に行くことにする。

「それでは、行ってみますか――…。
 ――アッパーネットの亡霊たちに
 とり憑つかれている屋敷へ!」
「……オレだって、薄々は気づいていたさ。
 あの物々しい警備体制が、ただものではないことぐらい――…。
 ――あの建物が、軍事施設であることぐらいは、ね。」

 

研究室に入る羽野。

「……いまとなっては、懐かしい場所だな――…。」
(調整中)
‘ここ’は、異なる企業同士のイントラネットを
インターネットで結んだ、エクストラネットを活用した
バーチャルコーポレーションみたいなもの。
アッパーネットとは、
エクストラネットをさらに統轄するシステムのこと。
そのアッパーネットに、ワームが入り込んでいた場合、
機能に障害を与えることがある。
それを‘アッパーネットの亡霊’と呼んでいる。
‘アッパーネットの亡霊’は
ADAの孵化にも悪影響を与えてしまうことがある。
だが、それを逆にカモフラージュにして、
恣意的に情報を検閲しているヤツがいるという噂がある。
ここが軍事施設なら、
エルフィリアのことを事前に察知した軍上層部が、
不正にアクセスをかけて、
エルフィリアを奪っていった、と考えられなくもない。
不正アクセスをした方法を詳しく解析すれば、
どこからアクセスしたかを特定できるかもしれない。
(調整中)
俺の考えが正しければ、
エルフィリアを取り戻す方法は、ある。
そのために、エルフィにがんばってもらわないといけない。
それと、もうひとつ。
エルフィリアを奪回できたときのためのADA素体を
別に確保しておかなくてはならない。
たしか、三門の研究室には
‘卵’がもうひとつあったはず。
それも高速化しておいてもらおう。

 

三門の研究室。
孵化室に入る羽野とエルフィ。

エルフィ
「わあ――…。」

「――あらっ?」
三門と、この間見かけたADAが孵化室でキスをしている。

「な。」

「まあ――…」
「あ。」

「あ――…。」

エルフィ
「わ。三門さんったら――…」

「――ごめん。後でまた来る。」

 

「……もう、大丈夫かな?」
三門の研究室。

「や、やあ――…。
 ……先程は、遺憾ながら誠に失礼して――。」

三門
「――おい。何おマヌケな挨拶をしているんだ?」
三門
「改めて、紹介するよ――…。
 ――‘ADA’エリィスだ。」

エリィス
「初めまして――…。
 おウワサは、三門先生から伺ってます。」
エリィス
「何でも――。
 ――ご自身がデザインしたパーソナリティを
 愛していたとか――…。

「……‘いた’じゃなくて‘いる’だけど、ね。」

エリィス
「あらあら、羨ましい――…。」

 

エリィス
「………………。」

エルフィ
「あの……あたしに、何か?」

エリィス
「あなたはキライ――…。」

エルフィ
「え。」

エリィス
「‘ADA’だからといって――。
 ――‘人’におもねる必要は、ないと思うけれど――…。

エルフィ
「あたしは、別に――…。」

エリィス
「――そこもキライ。」

エルフィ
「そんな――…。」

 

「この娘は、お前のプライベートの‘ADA’なのか?」

三門
「――いいや。‘ここ’の上からの預かりモノさ。
 エンジェリックメモリデバイスを渡されて――。
 ――‘孵化’を命ぜられたというワケ。」

「……ふぅん。」
「キミのマスターは、誰なんだ?」

エリィス
「――わたしには、マスターなんていません。
 だって、必要ないもの――…。」
「(独白)……‘ここ’が、後ろ盾になっているのか?
 ということは、あるいは……」
「キミは……サイバーアイドルではないんだね?」

エリィス
「……サイバーアイドル?
 わたしの知らないこと――…。」
エリィス
「――わたし、やってみたいわ。」

「キミだったら、すぐに人気が出ると思うよ。」

三門
「――エリィス!
 止めておいた方がいい――…。」

エリィス
「――あら、どうして?
 わたしは、常に新しい情報を求めているの。
 それが――‘わたし’なんだもの。
 それに――…。
 三門先生には、わたしの行動を抑制させる権限はないわ。
 ……そうでしょう?
 さっきのベーゼ・み・た・い・に――…。」

 

三門の研究室を後にする羽野とエルフィ。

エリィス
「うふふ……わたしたち、いつか きっとまた会えるわ。
 ネットワークの世界は、とても広大だけれど――。
 ――無限に広いワケではないんだもの。」

 

「エリィスが、‘ここ’の上からの預かり物ならば――。
 ――何か知っているかもしれないな。」
「あの娘がライブに顔を出すなら、いずれ遭遇する。
 その時は――頼んだぞ、エルフィ。」

エルフィ
「はい――…。」

「かならず――…。しっぽをつかんでやる。」

 

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