フォル2:役のフォルシーニア
[註:以下、フォルの区別あり。
マスターフォルはそのまま「フォル」と表記。
それ以外はそれぞれフォル3〜フォル8と表記し、
フォル3〜8の6人を「フォルたち」と表記。
「フォルたち」にはマスターフォルを含まない。
話の後半で、フォル3が別の扱いになるので、
それ以降は「フォルたち」=「フォル4〜8」の5人になる。]
○貴也の部屋(続き)
うつむいているフォルと貴也。
クレア(モノ)「……そういうこと、なのね……」
クレア、溜め息を付き、つらそうに唇をかむ。
そして、本物ではないフォルたちに向かって、
クレア「じゃあ……偽物には消えてもらわなくちゃね。」
フォル3「え!」
フォル4「え!」
フォル5「え!」
フォル6「え!」
フォル7「え!」
フォル8「え!」
驚くフォルたち。
双子&人間「でも……」
クレア「本物のフォルが見つかったのよ? 当然でしょう?」
ベル「それはそうだけど……」
顔を見合わせる双子&人間。
クレア「本物以外には消えてもらうわよ。」
フォル3「そんな……」
フォル4「そんな……」
フォル5「そんな……」
フォル6「そんな……」
フォル7「そんな……」
フォル8「そんな……」
フォルたち、訴えかけるように貴也を見つめる。
フォル3「貴也さん!」
フォル4「貴也さん!」
フォル5「貴也さん!」
フォル6「貴也さん!」
フォル7「貴也さん!」
フォル8「貴也さん!」
貴也「う……」
見つめられて困ってしまう貴也。
貴也「どうすればいいのかな……」
クレア「消えるべきでしょう?」
貴也「でも……」
その様子を見て、メルが口をはさむ。
メル「でも、さ?」
一同「?」
メル「本当に、それが『本物のフォル』なの?」
一同「!……」
一同、フォルを見る。
フォル「あ……」
そして、他のフォルたちと見比べる。
フォル3「ん……」
フォル4「ん……」
フォル5「ん……」
フォル6「ん……」
フォル7「ん……」
フォル8「ん……」
悩む一同。
ベル「えっと……」
リア「うぅ……」
馨子「んー……」
ミリ「むむむ……」
やっぱり区別が付かないようだ。
メル「ほら。」
一同、貴也を見る。
ベル「大丈夫…なの?」
貴也、暗い顔をして。
貴也「うん……間違いないと思うよ……」
メル「確証はあるの?」
貴也「確証はないけど……」
メル「ふふん。」
疑い深く見つめるメル。
メル「ほんとに消しちゃって、大丈夫かしら?」
貴也「……」
はっきりしない貴也。
その様子に、一同不安になって、
ベル「貴也さん、本当にそのフォル姉様が本物なの?」
リア「間違ったりしてない?」
貴也「うん……」
双子「ほんとに?」
貴也「……うん。」
メル「理由は?」
貴也「え?……」
フォル「……」
暗い顔のフォル。
貴也、その様子を見つめる。
メル、貴也が何も言わないのを見て、
メル「ほら、言えないでしょう。」
貴也も暗い顔になって、
貴也「……言えないよ、そんなこと……」
メル「ほら、ごらんなさい。あてずっぽうなんでしょう?」
貴也、フォルの様子を見て、うつむく。
貴也「言えないけど……」
貴也、メルを見て、
貴也「でも、確かめる方法はあるよ……」
メル「え?」
貴也、フォルに振り向く。
貴也「フォル……そうだよね?……」
フォル「え?……」
貴也「答えて?フォル。 ……君が『ボクの復元したフォル』…だよね。」
フォル「!」
戸惑うフォル。
一同「……」
見守る一同。
フォル「あの…」
戸惑っているフォル。
貴也「君が、『本物』…だよね。」
フォル「……」
フォル、迷っていたが、ついに答えて、
フォル「…………はい……私です……」
貴也「うん……」
フォル、うなだれて、
フォル「……ごめんなさい。」
貴也「あ、あやまらなくても……」
フォル「だって……」
貴也とフォル、お互いに黙ってしまう。
一同「……」
二人の様子を見つめる一同。
一同、どうしてフォルが寂しそうなのか、よく分からない様子。
だか、クレアは、唇をかみ締めている。
クレア、溜め息をつき、そして本物ではないフォルたちを見て、
クレア「そういうことよ?」
フォル3「う……」
フォル4「う……」
フォル5「う……」
フォル6「う……」
フォル7「う……」
フォル8「う……」
クレア「あなたたちには消えてもらうわよ?」
フォル3「そんな……」
フォル4「そんな……」
フォル5「そんな……」
フォル6「そんな……」
フォル7「そんな……」
フォル8「そんな……」
貴也、反論しようとして、
貴也「あ、でも……」
クレア「いいから。」
それを遮るクレア。
だが、双子たち、貴也に代わって反論して、
ベル「でも、さっき、貴也さんが……」
クレア「?」
リア「うん、他のアネキたちが消えるってことは、本物のアネキも
消えてしまえることになるんだって。」
馨子「だから貴也くんも『一緒に住んでもいい』って言ったのよね?」
貴也「うん。」
クレア「……」
ベル「それに、フォル姉様も、他のフォル姉様たちに消えてほしくないって
思っているのよ?」
リア「だから、さっき答えなかったんだろ?」
クレア「……」
クレア、暗い顔で、
クレア「……分からないの?」
双子&人間「え?」
クレア「……」
クレア、沈痛の表情。
双子&人間「?」
クレア「……まあいいわ、その事は。」
双子&人間「?……」
クレア、論点をずらして、
クレア「‘それ’を無効にすればいいんでしょう?」
リア「え?」
ベル「どういうこと?」
クレア、それには答えず、フォルに向き直る。
フォル「……」
フォル、クレアの言葉を待っている。
まるでクレアの言おうとしていることが分かっているかのようだ。
クレア、フォルを見つめて、
クレア「フォル、いいわよね?」
一同「?」
フォル「……」
クレア「他のフォルを消してしまっても。」
ベル「あ……」
クレア「……いいわよね?」
フォル「……」
一同、フォルの答えを待つ。
フォル、ゆっくりと口を開いて、
フォル「……はい、クレア姉様。……お願いします。」
寂しそうに、そう告げるフォル。
クレア「……ん。」
クレアも寂しそうだが、それを見せまいとしている様子。
クレア、一同に振り向いて、
クレア「もう、いいでしょう? あなたたちも。」
双子&馨子「んー……」
クレア「そう。元に戻るのよ。『再生』と同じ。何も起こらなかった状態に戻ればいいこと。」
顔を見合わせる双子&馨子。
リア「仕方、ないのかな……」
ベル「うん……。悲しいけれど……」
馨子「本物のフォルさんが、そう言うんなら……」
仕方なくそれを受け入れる双子&馨子。
クレア、メルとミリの方を向いて、
クレア「アンタたちもね。」
メル「あ、アタシは別に……構わないけど?」
ミリ「そうそう。早く消えてよ!」
クレア「はいはい。」
クレア、フォルたちを見て、
クレア「じゃ、決まりね。」
動揺するフォルたち。
フォル3「そ、そんな……」
フォル4「そ、そんな……」
フォル5「そ、そんな……」
フォル6「そ、そんな……」
フォル7「そ、そんな……」
フォル8「そ、そんな……」
お互いを見合って、焦りの表情。
フォルたちのうちの一人(フォル3)がクレアに語りかけて、
フォル3「あ、あの……。クレア姉様?」
クレア「?」
フォル3「少しくらい、いいのではないですか?」
クレア「駄目よ、フォルは一人でいいの!」
フォル3「どうしても……だめですか?」
クレア「当たり前でしょう?」
フォル3「そんな……」
沈むフォル3。
貴也「クレアさん……」
貴也、フォル3に加勢しようとする。
だが、クレア、貴也の言いそうなことを察して、
クレア「……だめよ?」
貴也「でも。」
クレア「……貴也。いい?」
クレア、貴也に何かを説明しようとする。
貴也「え?」
だが、貴也、後ろの様子に変化があるのに気いて振り向く。
クレア、フォル、フォル3「?」
クレア、フォル、フォル3も同様に振り向く。
と、他のフォルたちが、それぞれのキャラに耳打ちしている。
ベルに語りかけるフォル4。
フォル4「私と相部屋、したくないですか?」
ベル「あ……うん、それは、そうなんだけど。」
フォル4「いつでも、いつまでも一緒にいられるんですよ?」
ベル「あ……」
動揺を隠し切れず、涙目になるベル。
リアに語りかけるフォル5。
フォル5「長い髪に似合う服を、選んであげようと思ったのに。」
リア「あ、でも、それは、その……」
フォル5「きっと、ステキな‘娘’になれますよ?」
リア「あ、あの……」
恥ずかしくなって、困ってしまうリア。
メルに語りかけるフォル6。
フォル6「お手伝い、いたしますよ? あなたの気持ち、分かっておりますもの。」
メル「え?」
フォル6「もう一人、『私』がいるのですから。」
メル「あ、あなた、まさか……」
驚きに目を見開いて、フォル6を見つめるメル。
ミリに語りかけるフォル7。
フォル7「もし私が本物でないなら……」
ミリ「ん? 本物でないなら?」
フォル7「もしかしたら私は、あなたの望んだ『私』かもしれませんね?」
ミリ「え、それって、もしかして?」
フォル「うふふ。」
ミリ「やったぁ!」
悪巧みに目を輝かせるミリ。
馨子に語りかけるフォル8。
フォル8「私が教えて差し上げますから。ケーキ作りのコツを。」
馨子「ほんと?」
フォル8「はい。一緒に作りましょうね。」
馨子「うん、作るわ、私!」
期待の表情の馨子。
それぞれのフォルを見つめる一同。
ベル「フォル姉様……」
リア「アネキ……」
メル「フォル……」
ミリ「第三天使……」
馨子「フォルさん……」
フォルが消えてしまうことを、惜しいと思い始める5人。
5人、クレアを振り向く。訴えるような表情で、
ベル「今すぐ消さなくても……」
リア「今すぐ消さなくても……」
メル「今すぐ消さなくても……」
ミリ「今すぐ消さなくても……」
馨子「今すぐ消さなくても……」
頭をかくクレア。あきれ顔で、
クレア「まったく、うまくやっているわねぇ、他の偽物たちは。」
フォル3、みんなを見て、同じように取り入ろうとする。
フォル3「あ、えっと、クレア姉様? 私……」
クレア「アンタはいいの!」
フォル3「そんなぁ…」
クレアに拒否されて、目をうるうるさせるフォル3。
その様子を見つめていた貴也、そしてフォル。
貴也、独り言を呟いて、
貴也「やっぱり、消えたくないんだよね、みんな……」
だがフォルは、そのセリフに余計に寂しい表情になる。
貴也「フォル……」
貴也、フォルの表情を見て、不思議に思う。
貴也(モノ)「どうして寂しそうなんだろう……。さっき名乗り出なかったのは
同じ『自分』に消えて欲しくなかったから…なんじゃないのかな?……」
フォルの気持ちを捕らえられないでいる貴也。
フォル4〜フォル8たちを制止するクレア。
クレア「はいはい、そこまでよ。」
フォル4「?」
フォル5「?」
フォル6「?」
フォル7「?」
フォル8「?」
クレア、ベルとリアに、
クレア「アンタたち、自分たちの努力を無にしてどうするの?」
双子「え?」
クレア「貴也よ、貴也。どうしてアンタ達が必死になって貴也を探していたのか、
思い出しなさい?」
ベル「……貴也さんが『ベスティアでない人』だから、よ?」
クレア「どうして必要だったの?」
リア「アネキを再生してもらうため…」
ベル「あ…」
クレア「そうでしょう? だから『貴也が再生したわけではないフォル』がいても、
意味ないでしょう? もし、そのフォルでいいんなら、あんなに苦労して
探さなくてよかったんだから。」
リア「あ、そうか……」
クレア「そう。フォルを再生できるのは『ベスティアではない人』だけよ。
分かっているでしょう?」
双子「うぅ……」
双子たち、反論できない様子。
クレア、メルとミリに、
クレア「フォルは少ない方が、アンタたちには好都合なんでしょう?」
メル「確かに、その通りなんだけど、ね……」
クレア「じゃあ、それで決まりよ!」
ミリ、口を挟んで、
ミリ「で、でも……」
クレア「?」
ミリ「本物とそっくりのようでそっくりじゃないって、この第三天使が……」
クレア「うるさいっ!」
ミリ「あう」
クレア「消すって言ったら消すのっ!」
ミリ「ううう……」
クレアの剣幕に押されてしまうミリ。
そして、クレア、馨子をじろりと見る。
馨子、おそるおそる尋ねて、
馨子「あ、あのー、私の場合は?」
クレア「当然、消去よ!」
馨子「そ、そんなぁ……」
クレア「『フォルをもう一人』なんて欲を出さないの!あんまり強欲だと、
ベスティアになるわよ?」
馨子「うう、ひどい……」
貴也、みんなを気遣って、
貴也「クレアさん、何もそこまで言わなくても……」
クレア、動じることなく、
クレア「どう言ったって同じよ。結局は消えてもらうんだもの。」
一同、クレアの剣幕にひるんでいる。
だが、それでもまだ納得していない様子。
顔を見合わせて、
ベル「どうする?」
リア「うーん……」
メル「そうねえ……」
ミリ「うむむ……」
馨子「んーと……」
クレア、あきれた様子で、
クレア「アンタたち、まだ納得してないの?」
ベル「だって……」
リア「だって……」
メル「だって……」
ミリ「だって……」
馨子「だって……」
5人、それぞれのフォルたちを見る。
フォル4「ベル……」
フォル5「リア……」
フォル6「メル……」
フォル7「ミリ……」
フォル8「馨子さん……」
フォルたちが訴えるようなまなざしで見つめている。
ベル「そ、そんな目で見つめないで……」
馨子「困ったわね……」
一同、フォルたちに見つめられて困っている。
クレア「ふう。まったく……」
あきれている様子のクレア。
その時、リア、ふと気づいて、
リア「あ、でも……」
一同「?」
リア「消えてもらうって言っても……どうするの?」
クレア「?」
リア「方法がないんだけど……」
一同「あ。」
はっとする一同。
クレア「方法、ね……」
一瞬言いよどむクレア。浮かない顔で、
クレア「……フォル2と同じじゃ、駄目なの?」
リア、反論して、
リア「でも、フォル2が消えたのは、ミリがデータを書き換えてたからだよ?」
ベル「そうよね?」
リア「今はデータの書き換えはしてないんだから、アネキと同じだろ?
確かに『不完全』なんだけど、『安定して存在すること』は出来るのに。」
ベル「うん。突然フリーズしたり、消滅したりはしないもの。」
クレア「そう、ね……」
浮かない顔のクレア。まるで、その答を予期していたかのようだ。
フォルの顔色をうかがうクレア。
フォル「……」
フォルの表情は硬いままだ。
クレア「……」
クレア、言おうかどうか迷っている。
一同「?」
クレアの意図が分からない一同。
クレア、フォルたちを見る。
クレア「……」
クレアの刺すような眼差し。
フォル3「あ……」
フォル4「あ……」
フォル5「あ……」
フォル6「あ……」
フォル7「あ……」
フォル8「あ……」
クレア、口を開いて、
クレア「……言わせる気?」
フォル3「!」
フォル4「!」
フォル5「!」
フォル6「!」
フォル7「!」
フォル8「!」
その言葉に、蒼くなるフォルたち。
どうやらフォルたちには、その『方法』が分かっているようだ。
フォル3「まさか……」
フォル4「まさか……」
フォル5「まさか……」
フォル6「まさか……」
フォル7「まさか……」
フォル8「まさか……」
クレア「知ってるに決まってるでしょう?」
フォルたち、クレアがその『方法』を知っているのに気づき、動揺する。
フォル3「イヤです!」
フォル4「イヤです!」
フォル5「イヤです!」
フォル6「イヤです!」
フォル7「イヤです!」
フォル8「イヤです!」
消えることを拒否するフォルたち。
フォルたち、貴也に哀願して、
フォル3「貴也さん、私、消えたくありません!」
フォル4「貴也さん、私、消えたくありません!」
フォル5「貴也さん、私、消えたくありません!」
フォル6「貴也さん、私、消えたくありません!」
フォル7「貴也さん、私、消えたくありません!」
フォル8「貴也さん、私、消えたくありません!」
貴也「フォル……」
フォルたち、それぞれ一人ずつ想いを口にして、
フォル3「私たち、消えなくてはいけないのですか?」
フォル4「フォル2のように消えてなくなるのですか?」
フォル5「せっかくここに生まれてきたのに……」
フォル6「貴也さん。私、まだここにいてもかまいませんよね?」
フォル7「私が生まれたのは、意味がないわけではありませんもの。」
フォル8「私はその『意味』を果たしたいんです。」
貴也「『意味』?……」
貴也、フォルたちの言葉の意味を取れないでいる。
フォル3「貴也さん!」
フォル4「貴也さん!」
フォル5「貴也さん!」
フォル6「貴也さん!」
フォル7「貴也さん!」
フォル8「貴也さん!」
貴也に哀願するフォルたち。
貴也「ボクは……」
クレア、貴也がフォルたちに引き込まれそうになるのを止めて、
クレア「駄目よ、貴也……」
貴也「クレアさん……」
クレア「……貴也、いい?」
クレア、貴也に言い聞かせるかように、
クレア「いつかは消えてもらうのよ? 仕方のないことじゃない。
後に延ばせば、余計につらくなるでしょう?」
貴也「あ……」
クレア「一緒に暮らせば、たとえ偽物でも情が移るのよ?
そっちの方が消えたくなくなるんじゃないの?」
貴也「そ、それはそうだけど……」
クレア「そうなる前に、消えてもらった方がいいんじゃないのかしら?」
貴也「う……」
クレアの言葉に苦悩する貴也。
クレア、最後の駄目押しをして、
クレア「余計に……寂しくなるのよ?」
貴也、フォルたちの表情を見る。
フォル3「貴也さん……」
フォル4「貴也さん……」
フォル5「貴也さん……」
フォル6「貴也さん……」
フォル7「貴也さん……」
フォル8「貴也さん……」
貴也「フォル……」
うろたえる貴也。
貴也「……」
苦悩する貴也。
クレア「ね?」
だが、貴也は大きく首を横に振る。
貴也「クレアさん。やっぱり……ボクには出来ないよ。」
クレア「た、貴也……」
貴也、フォルたちに向かって、
貴也「フォル、安心して?」
フォル3「!」
フォル4「!」
フォル5「!」
フォル6「!」
フォル7「!」
フォル8「!」
貴也「さっきも言ったけれど、本物とか偽物とかは、今はどうでもいいんだ。」
フォルたち、貴也の言わんとしていることを察して喜ぶ。
フォル3「貴也さん……」
フォル4「貴也さん……」
フォル5「貴也さん……」
フォル6「貴也さん……」
フォル7「貴也さん……」
フォル8「貴也さん……」
貴也「ずっといてくれても構わない! ボクはただ、フォルには消えて……」
貴也、「消えてほしくないんだ」と言葉を続けようとする。
その時、貴也の袖が引っ張られる。
貴也「?」
振り向く貴也。
フォルが貴也の袖を強く握り締めている。
フォル「貴也さん……」
貴也「フォル……」
フォル、蒼い顔をして、
フォル「少しだけ、お時間いただけますか?」
貴也「え?」
フォル、悲しい顔で貴也を見つめて、
フォル「お話があるんです……大切な、お話が……」
○英荘、廊下
貴也、廊下に出る。
貴也「フォル……」
先に廊下に出ていたフォル、廊下の奥で背を向けて立っている。
フォル、小声で何かをつぶやく。
フォル「……。」
だが、貴也には聞こえていない。
貴也「え?」
つぶやいたまま、じっとしているフォル。
貴也「フォル?」
フォル、ゆっくりと振り向いて、
フォル「貴也さん。」
貴也「ん?」
フォル「……お優しいんですね。」
貴也「え?」
フォル「『私たち』のことを大切にしてくださって、とても嬉しいです。」
貴也「あ……。うん。」
うなずく貴也。
貴也「……だって、『フォル』だもの。」
フォル、悲しく微笑んで、
フォル「……ありがとう、貴也さん。」
貴也「……うん。」
フォル「でも……」
貴也「?」
フォル、貴也を真剣な目で見つめて、
フォル「……お願いですから、6人を消してください。」
貴也「え?……」
フォル「他の『私』には、消えて欲しいんです。」
貴也「で、でも……」
貴也、フォルに訴えかけて、
貴也「だって同じディスクから復元されたから、同じフォルだろう?」
フォル「そうですよ? 同じです。」
貴也「だから……」
フォル「だから、一人いればいい。他は必要ないんです。」
貴也「でも、同じなんだから、6人を消せるということは……」
フォル「……」
貴也「……フォル自身も消せるということになってしまうのに……」
うつむくフォル。
フォル「そうですよ? 消せるのです。」
貴也、フォルの答えに驚いて、
貴也「『そうですよ』って……フォル?」
フォルの意図が分からない貴也。
フォル「……」
答えないフォル。
貴也「フォル……」
フォル、つぶやくように、
フォル「結局は、私も、フォル2も、他の『私たち』も、みんな同じ。
同じ体ですもの。……同じように消えることもできます。
そして、同じように……」
いっそう暗い顔になるフォル。
貴也「フォル?……」
フォル、顔を上げて、
フォル「だから、消してくださいな!」
貴也「!……」
フォル「だって、どの『私』がフォル2と同じ事をしでかすか、分かりませんもの。」
貴也「あ!……」
思い出す貴也。
貴也「やっぱり、あのこと……フォル2のこと、気にしているの?」
フォル「……」
答えないフォル。
貴也、必死に弁解して、
貴也「でもフォル2はデータの書き換えをされていたんだろう?
だからミリの命令に従ってしまっただけだよ?
あのフォルたちはデータの書き換えをされていないんだから、
あんなことはしないはずだよ?」
背中を向けてしまうフォル。
フォル「そうですけれど……そうでは、ないんです。」
貴也「?」
フォル「確かに、データの書き換えはしてあったかもしれません。
……ミリの命令だったかもしれません……でも。」
貴也「……でも?」
フォル「……でも、フォル2には確かに『お役目』を果たす力がありましたもの。」
貴也「!……」
はっとする貴也。
貴也「『お役目』……」
フォル「……『お役目』は、確かに同じでしたもの。」
肩を落すフォル。
フォル「あのフォル2でさえ、その『お役目』を果たせたのですから、
ましてや、あの6人は……」
一瞬、体が震える貴也。
貴也「全員が、同じ『役』を果たせる?……」
うなずくフォル。
フォル「ですから、あの『私たち』がいるということは、
お役目を果たす天使が7人もいる…ということになるのですもの。」
フォル、つらそうな顔。
フォル「悲しいお役目を果たす天使が……」
貴也、気づく。
貴也(モノ)「そうか……それが、フォルの笑わない理由。」
フォル2の件を思い出す貴也。
貴也(モノ)「あの時知った、フォルの……『お役目』……」
○高森尾高校、校庭(貴也の回想)
フォルとミリが対峙している。
ミリの近くにはフォル2、そして、アクエリュースがそびえ立っている。
ミリ「アンタには、いなくなってもらいたいの。人間のタメに……」
フォル「どうして――わたしたちがいなくならなければ、いけないのですか?」
ミリ「とぼけるつもりなの、アンタたちの……天使としての役目を?」
貴也、ちょうど校舎からフォルたちのところへ走ってくる。
ミリ「アンタたちの役目は、地球を破壊して……人間を滅ぼすことでしょう?」
貴也「――えっ!?」
フォル、振り返る。貴也と目が合ってしまう……
× × ×
貴也(N)「それが、フォルの役目……。そして、フォル2は……」
× × ×
アクエリュースに乗っているフォル2。
フォル、ミリに訴えて、
フォル「アクエリュースを使うのは、やめて――あの娘の力は、強すぎるもの」
メル「いったい、何をするつもりなの――ミリネール!?」
ミリ「フン……この国とアタシたちが滅んでも――
天使たちを全滅できれば、ベスティア・リーダーの勝ちなのさ!」
ミリ、フォル2に命令。
ミリ「やれ、フォル2――!」
アクエリュースを操るフォル2。そして……
× × ×
貴也(N)「フォル2は、その『お役目』を果たしたんだ……」
○回想終わり
悲しそうなフォルの背中。
貴也(モノ)「そうだ……そうなんだ……」
貴也、フォルの背中を見つめて、
貴也(モノ)「フォルのお役目は人類を滅ぼすこと……
それが、フォルが笑わない理由なんだ……」
貴也(モノ)「フォル……」
貴也、フォルに声をかけようとして、ためらってしまう。
貴也「……」
貴也、フォルの背中を見つめることしか出来ないでいる。
フォル、背中を向けたまま貴也に語りかけて、
フォル「それが私の『お役目』……」
貴也「フォル……」
フォル「そして、あの『私たち』も、同じ……」
貴也、反論して、
貴也「フォ、『フォル』はそんなことしないさ!」
フォル「でも……」
フォル、静かに首を振って、
フォル「でも、確かにフォル2はアクエリュースの力を解放しましたもの。
他の『私』が、いつそれをするとも限りません。」
貴也「他のフォルだって、きっとそんなことしないよ?」
フォル、その言葉に、余計に寂しそうになって、
フォル「どうして? どうしてそう言えるんですか?」
貴也「だって、そうだろう? みんな『フォル』だもの!」
もどかしく思うフォル。
フォル「どうして?……」
何度も何度も首を振るフォル。
フォル「どうして『私』を消してくれないんですか?」
貴也「フォル……」
気持ちが伝わらないのをじれったく感じる貴也。
貴也「それに!」
貴也、先ほどのことを思い出して、
貴也「さっきはフォルだって『自分が本物だ』って名乗り出なかったよね?
あれは、他のフォルを消さないためなんじゃないの?」
フォル「……」
貴也「消してほしくないから、自分が本物だと名乗り出なかったんじゃないの?」
フォル、寂しそうに肩を落して、
フォル「いいえ、違います……」
貴也「じゃあ、どうして?」
フォル「私が本物だと言わなかったら……」
貴也「言わなかったら?」
フォル、消え入るような声で、
フォル「間違えて……私を消してくれたかもしれませんから。」
貴也「な!……」
絶句する貴也。
うなだれるフォル。
貴也「……初めから、そのつもりだったの?」
フォル「私を消してくださっても、構わなかったのに……」
貴也「そんな……」
フォル「消えられるなら、消えてしまいたいのですから……」
貴也「どうして? どうしてそんな悲しいことを言うの?」
フォル「悲しくはありません。だって。」
フォル、つらそうにうなだれて、
フォル「だって、人類を滅ぼすお役目の方が、もっと悲しくて、もっとつらいことですもの……
貴也さんも、馨子さんも、学校のみなさんも、そして、まだ会ったことのない人間すべてを
生き終らせなくてはいけないのですから……」
貴也「あ……」
フォル、自分の手をきゅっと握りしめて、
フォル「だから、貴也さんに消されるのなら、私は……」
貴也「フォル!」
フォル「私は……」
貴也、必死に訴えて、
貴也「ボクはそんなことしない! フォルを消したりなんかしないよ!
どんなことがあっても、絶対に!」
フォル「貴也さん……」
フォル、貴也の言葉を心にかみしめている。
貴也「だからフォルも『消えたい』なんて、そんな悲しいこと言わないで!」
フォル、貴也に振り返る。
フォル「貴也さん……」
フォルを真剣な眼差しで見つめる貴也。
フォル「ん……」
フォル、貴也に向き直る。
フォル「……ありがとう、貴也さん。」
フォル、貴也をいとおしく見つめて、
フォル「貴也さんがそう望むなら……私は、消えません。」
少しだけ安心する貴也。
貴也「……うん。」
黙ったまま見詰め合う二人。
フォル「……」
貴也「……」
だが、ふっと目をそらすフォル。
貴也「?」
フォル、ゆっくりと歩き出し、貴也の部屋に戻ろうとする。
貴也「フォル?」
フォル、貴也とすれ違い、立ち止まって、
フォル「でも、それならば、他の6人は消してくださいな。」
貴也「えっ?」
フォル「6人の『私』を、消してください……」
貴也「フォル!」
フォル「だって!」
貴也「!……」
貴也の言葉をさえぎるフォル。
フォル「‘最後の審判’まで、このままでいるわけにはいきません。」
うつむくフォル。
フォル「……だって、お役目を7回も果たしたくない。
……人類を、7回も滅ぼしたくはありませんもの。」
貴也「!……」
フォル、そう言うと、再び歩き出す。
部屋の方へ歩いてゆくのを、ただ見送るしかない貴也。
貴也(モノ)「そう。そうなんだ……
フォルが笑わない理由……それは『お役目』があるから。
だから、ボクは誓ったんだ。
ボクはベスティアにはならないって。
人類をベスティアにはさせないって。
…人類を生き終らせたくないから。そして……」
貴也、その後ろ姿を見つめて
貴也(モノ)「フォルに……笑って欲しいから。」
フォルの後ろ姿。
そして、フォルは貴也の部屋に戻ってゆく。
それを見送る貴也。
貴也(モノ)「ボクはどうすればいいんだろう。
たくさんいても、フォルがそのお役目に苦しむだけ。7人いたら、7倍つらい。
でも……消せるということは、フォル自身をも消せるということになってしまう。」
貴也、フォルの消えたドアを見つめて、
貴也(モノ)「ボクは、どうすればいいんだ……」
× × ×
○貴也の部屋
うつむきながら、部屋に戻ってくる貴也。
貴也「?」
貴也、フォルが部屋の中に入ったところで立ち止まっている。
フォル「どうして?……」
フォル、部屋の中の様子を見て驚いている様子。
貴也「フォル……どうかしたの?」
フォル「あ、貴也さん……」
貴也も部屋の中を見る。
貴也「え?」
貴也も驚く。
一同、‘自分のフォル’たちと楽しく語らっている。
フォル4に抱き付いて、甘えているベル。
ベル「私が一人占めしていいかなぁ?」
フォル4「はい、ずっとそばにおりますから。」
ベルを優しく抱きしめてあげるフォル4。
フォル5のすそを持って、恥ずかしげなリア。
リア「アタイ……アネキみたいになれるかな……」
フォル5「ええ、もちろんですよ。」
リアの髪を優しくなでてあげるフォル5。
メルはフォル6と、何か隠している様子。
メル「へえ、話が合うじゃない? 驚いたわ。」
フォル6「だって、‘これ’を利用しない手はありませんもの。」
ゆっくりとうなずいてみせるフォル6。
ミリは、先ほど渡されたフォルの服を手に持って、
ミリ「じゃあ、アタシ、お風呂に入る! お楽しみはそれからよっ!」
フォル7「はい、私も‘楽しみ’にしていますから。」
目を怪しく輝かせるフォル7。
馨子、メモを取っている。
馨子「うーん。聞いただけじゃ、ちょっと不安かなぁ……」
フォル8「大丈夫ですよ。私も一緒に作りますから。」
馨子「ホント?」
フォル8「はい!」
馨子と意気投合して、浮かれている様子のフォル8。
それぞれのフォルたちと楽しそうにしている5人。
その様子に困惑する貴也とフォル。
貴也「ああっ、なんだかとっても仲良くなってる……」
フォル「いつのまに……」
と、横の机に座っているクレアが苦い顔をして、
クレア「しまった、うかつだったわ。」
フォル「どうして…こんなことに?」
クレア「うう……」
冷や汗のクレア。
と、貴也に気づくベル。
ベル「あ、貴也さん。」
すかさず貴也に哀願する一同。
ベル「アタシ、このお姉様と一緒にいたい!」
リア「まだ、消さなくてもいいって言ってくれたよね!」
貴也「え?」
メル「そうね、一人くらい残しておいてもいいんじゃない?」
ミリ「他の第三天使は消していいわよ? ‘この’第三天使さえいてくれれば。」
貴也「ええっ?」
馨子「もう少しだけ待ってくれると、うれしいんだけど……いいかしら?」
困惑する貴也。
貴也「ちょ、ちょっと待ってよ……」
それに構わず、訴える5人。
ベル「いいよね?」
リア「いいだろ?」
メル「いいでしょう?」
ミリ「いいよね?」
馨子「いいわよね?」
戸惑う貴也。
貴也「え、と……」
ひるむ貴也。
貴也「ボクは……」
フォル「貴也さん?」
声をかけるフォル、かすかに首を横に振る。
貴也「あ……」
さっきのフォルの訴えを思い出す貴也。
貴也「フォル……」
5人、貴也に答を迫って、
ベル「貴也さん!」
リア「貴也!」
メル「貴也?」
ミリ「貴也!」
馨子「貴也くん?」
貴也、とりあえず話をそらして、
貴也「で、でも、いきなりどうしたの? みんな……」
5人「え?」(語調それぞれ)
貴也「だって、さっきは……」
言いよどむ貴也。だが、フォルが言葉を続けて、
フォル「さっきは『消してもいい』って言ってらしたのに……」
5人「えっと……」(語調それぞれ)
そこに、クレアが口を挟んで、
クレア「私の隙を突いて、フォルたちがみんなに取り入ったのよ。」
貴也&フォル「え?」
驚く貴也とフォル。
貴也「『取り入った』って……」
クレア「自分が消えなくてもいいようにね。みんなを味方につけたってわけ。」
クレア、溜め息を付いて自嘲気味に、
クレア「ふう。もう少し気をつけるべきだったわ……」
貴也「でも……」
フォル「あの……」
貴也とフォル、クレアの様子を改めて確認し、呆れ顔になる。
貴也「……クレアさんこそ、思いっきり『取り入られて』いるじゃないですか。」
クレア「う」
机の上には、湯飲みがたくさん置いてある。
冷や汗のクレア。
クレア「うぅ…」
フォル「……お茶、お好きですね。」
クレア「フォルの入れてくれたのは、ね。」
貴也、湯飲みを中を覗く。どれも飲んだ形跡がある。
貴也「いったい何杯飲んだんです?」
眉間にしわを寄せるクレア。
クレア「……一杯も飲んでないわ。」
貴也「は?」
クレア「だから、飲んでないのよ〜〜」
フォル「え?」
貴也「だって……」
改めて、湯飲みを見渡す貴也。
貴也「じゃあ、これは?」
クレア「だって、あのフォルが〜〜」
と、突然、レビィ・アウトしてくるフォル3。
貴也「うわぁ!」
フワッと地面に降り立つフォル3。
フォル3「おまたせしました、クレア姉様。」
フォル3、手に湯飲みを持っている。
フォル3「ちゃあんと、待っていてくれました?」
クレア「『待ってた』わよ! ちゃんと!」
フォル3「それでは。」
フォル3、クレアに湯飲みを差し出す。
フォル3「富士山麓朝霧高原の湧き水で入れたお茶ですよ!」
驚く貴也とフォル。
貴也「富士山麓?」
フォル「そんな遠くまで?」
クレア、湯飲みを覗き込んで、困惑気味の顔。
クレア「今度こそ、ホントに大丈夫でしょうね?」
フォル3「さあ、どうでしょうか……」
クレア「『どうでしょうか』って、フォル?」
フォル3「……別に、おイヤなら飲まなくても。」
クレア「うぅ」
誘惑と戦うクレア。
クレア「うううううううう…」
我慢できないクレア。
クレア「えーい、もうこうなったら!」
一気飲みするクレア。
クレア「ブッ!」
吐き出すクレア。
クレア「ま〜ず〜い〜〜〜〜」
フォル3「あら、おかしいですね……どうしてでしょう。」
もだえているクレア。
クレア「信じるんじゃなかった〜〜〜〜」
フォル3「あら、ちゃんと朝霧高原に行って……」
クレア「じゃなくて、アンタの腕のことよ!」
フォル3「そ、そんなぁ…」
クレア「やっぱりアンタは偽物よ!」
その様子を見て、呆れ顔の貴也とフォル。
たくさんの湯飲みを見つめて、
貴也「何度信じたんですか?……」
クレア「う、うるさいわねぇ。」
フォル「お茶の誘惑には勝てないみたいですね。」
クレア「と、とにかくっ!」
クレア、フォル3をビシッと指差して、
クレア「アンタは偽物よ! 間違いなくね!」
フォル3「う……」
クレア、一同に向き直って、
クレア「他も同じ! 消えてもらうわよ!」
ベル「えー!」
リア「そんなぁ!」
メル「いいじゃない、別に。」
ミリ「クレアのケチ!」
馨子「あーあ……」
クレアの言葉に不満顔の5人。
クレア「?」
ところが5人のフォルたちは、クレアの言葉を無視して5人との話を続ける。
フォル4「では、お部屋のお引越しの準備をしましょう。」
フォル5「まず、その髪を整えましょうね。」
フォル6「それでは、打ち合わせをしておきましょうか。」
フォル7「さあ、お風呂までご案内しますね。」
フォル8「じゃあ、材料の用意をしましょうか。」
むっとするクレア。
クレア「いいかげんにしなさい? アンタたち!」
ところがフォルたちはクレアの方を見ようともせず、
それぞれのキャラの方を見たままだ。
クレア「ちょっと、アンタたち、聞いているの?」
それでも無視するフォルたち。
心配そうな5人。
ベル「……やっぱり、消えなくちゃいけないの?」
リア「一緒にはいられないのかナ……」
メル「クレアがうるさいしね……」
ミリ「怒らせちゃうと、面倒かな……」
馨子「でも、できればもう少し、いてほしいんだけど……」
心配そうな5人。
だが、フォルたち、それぞれのキャラをじっと見詰めて、
フォル4「大丈夫、私は消えたりしませんから。」
フォル5「大丈夫、私は消えたりしませんから。」
フォル6「大丈夫、私は消えたりしませんから。」
フォル7「大丈夫、私は消えたりしませんから。」
フォル8「大丈夫、私は消えたりしませんから。」
5人「え?」
フォル4「だって、『本物は消えなくてもよい』のですもの。」
フォル5「だって、『本物は消えなくてもよい』のですもの。」
フォル6「だって、『本物は消えなくてもよい』のですもの。」
フォル7「だって、『本物は消えなくてもよい』のですもの。」
フォル8「だって、『本物は消えなくてもよい』のですもの。」
驚く5人。
ベル「ま、まさか……」
リア「ホントに、こっちが本物だとか?」
にっこりと笑って見せるフォルたち。
フォル4「うふふ。」
フォル5「うふふ。」
フォル6「うふふ。」
フォル7「うふふ。」
フォル8「うふふ。」
喜ぶメルとミリ。わざとらしく納得した様子を振る舞って、
メル「そうそう。そんな気がしたのよね。」
ミリ「うんうん、こっちが本物よ。だから、そっちを消せば?」
戸惑う馨子。
馨子「そ、そうなのかしら……」
クレア、フォルたちの言葉に怒って、
クレア「何を言っているの? だって、さっき確かめたでしょう?
こっちのフォルが本物だって。」
だが、やはりクレアを無視してキャラたちに語りかけるフォルたち。
フォル4「あれは確かめたことになるのでしょうか?」
フォル5「あれは確かめたことになるのでしょうか?」
フォル6「あれは確かめたことになるのでしょうか?」
フォル7「あれは確かめたことになるのでしょうか?」
フォル8「あれは確かめたことになるのでしょうか?」
一同「え?」
フォル4「あれはただ、貴也さんの問い掛けに、私たちの中の‘一人’が答えただけでしょう?」
ベル「それはそうだけど……」
フォル5「同じ事が、私にも出来ますもの。」
リア「え?」
フォル6「同じ方法で、私が本物かどうかを確かめることが。」
メル「な?」
フォル7「あなたの問い掛けに、私が答えて差し上げます。」
ミリ「ホントに?」
フォル8「だから、私に尋ねてごらんなさい? 本物かどうかを。」
馨子「え、まさか……」
フォルたちをまじまじと見詰める5人。
貴也&フォル&クレア、フォルたちの言葉に驚いている。
貴也「まさか、そんな……」
クレア「出来るわけ、ないでしょう?」
フォル「い、言えるはず、ありません!」
まじまじと見詰める5人。
うなずいて見せるフォルたち。
5人、恐る恐る尋ねて、
ベル「本当に、本物なの?」
リア「本当に、本物なの?」
メル「本当に、本物なの?」
ミリ「本当に、本物なの?」
馨子「本当に、本物なの?」
にっこりと笑うフォルたち。
フォル4「ええ、本物ですよ。……あなたにとっては。」
フォル5「ええ、本物ですよ。……あなたにとっては。」
フォル6「ええ、本物ですよ。……あなたにとっては。」
フォル7「ええ、本物ですよ。……あなたにとっては。」
フォル8「ええ、本物ですよ。……あなたにとっては。」
顔を明るくする5人。
ベル「ホント?」
リア「ホント?」
メル「ホント?」
ミリ「ホント?」
馨子「ホント?」
驚きを隠せない貴也、フォル、クレア。
フォル「ど、どうして……」
クレア「そんな……」
貴也「そんなはず、ないのに……」
5人、それぞれのフォルに魅入ってしまっている。
貴也、焦って、
貴也「ちょ、ちょっと、みんな?」
5人、貴也に向かって訴えて、
ベル「やっぱりこっちが本物かも!」
リア「やっぱりこっちが本物かも!」
メル「やっぱりこっちが本物かも!」
ミリ「やっぱりこっちが本物かも!」
馨子「やっぱりこっちが本物かも!」
貴也「うぅ……」
みんなの勢いにひるむ貴也。
だか、クレアが代わりに反論して、
クレア「惑わされちゃ駄目よ! 今すぐ消えてもらうわ!」
5人、クレアに向かって一斉に、
ベル「こっちが本物だったらどうするのっ!」
リア「こっちが本物だったらどうするのっ!」
メル「こっちが本物だったらどうするのっ!」
ミリ「こっちが本物だったらどうするのっ!」
馨子「こっちが本物だったらどうするのっ!」
みんなの勢いに、クレアもひるんでしまう。
クレア「うう、同時に言わないでよ……」
フォルと貴也は、みんなの様子に困惑している。
フォル「いったいどうして……」
貴也「『本物だ』なんて言えるはずないのに。」
溜め息を付くクレア。
クレア「それは、『偽物だから』でしょう?」
クレア、フォルたちに向かって、
クレア「まったく……。正体あわらしたわね。嘘つきフォル!」
だが、フォルたち、動ずることなく、
フォル4「あら、嘘は言っておりませんよ?」
フォル5「同じデータですもの。嘘はつけませんよ。」
クレア「だ、だって、全員が本物なはず、ないでしょう?」
フォル6「あら、言いましたでしょう? 『あなたにとっては』、と。」
フォル7「そちらの私だって、『貴也さんにとって本物』でしょうけれど。」
フォル8「私だって、『あなたにとっては本物』なのですから。」(馨子を見ながら。なので『あなた=馨子』)
クレア「え?……」
フォルたちの言葉に、考え込むクレア。
クレア(モノ)「『あなたにとっては』?……どういうこと?」
考え込んでいるクレア。
一方、5人は、それぞれのフォルを消されたくない様子。
5人、改めて貴也に訴えて、
ベル「ねえ、貴也さん? ホントにこっちが本物かもしれないわよ?」
リア「もしこっちが本物だったら、消しちゃまずいよ……」
メル「とりあえず、消さずにそのままにしておいたら?」
ミリ「他のはともかく、この第三天使は消させてあげないんだから。」
馨子「とにかく、ちょっとだけでもいてくれたらいいな、なーんて。」
戸惑う貴也。
貴也「そ、そんな風に言われても……」
5人、貴也の様子にじれったく思って、
ベル「貴也さん!」
リア「貴也!」
メル「貴也?」
ミリ「貴也!」
馨子「貴也くん?」
貴也「うぅ……」
戸惑っている貴也。
フォル「いいえ、私が本物です。」
言い放つフォル。
はっと静止する一同。
ベル「……」
リア「……」
メル「……」
ミリ「……」
馨子「……」
フォルたちをにらむフォル。
フォル4「……」
フォル5「……」
フォル6「……」
フォル7「……」
フォル8「……」
フォル「あなたたちも、分かっているのでしょう? 私が本物だと。」
顔を背けたままのフォルたち。
フォル4「……そうでしょうか?」
フォル5「……そうでしょうか?」
フォル6「……そうでしょうか?」
フォル7「……そうでしょうか?」
フォル8「……そうでしょうか?」
フォル、動ずることなく、
フォル「あなたたちには消えてもらいます。」
すねるような表情のフォルたち。
フォル4「イヤです。私は消えません。」
フォル5「イヤです。私は消えません。」
フォル6「イヤです。私は消えません。」
フォル7「イヤです。私は消えません。」
フォル8「イヤです。私は消えません。」
フォルたち、それぞれ5人に向かって、
フォル4「だってそうでしょう? 私は確かに『本物』ですもの!」
フォル5「だってそうでしょう? 私は確かに『本物』ですもの!」
フォル6「だってそうでしょう? 私は確かに『本物』ですもの!」
フォル7「だってそうでしょう? 私は確かに『本物』ですもの!」
フォル8「だってそうでしょう? 私は確かに『本物』ですもの!」
ひるむ5人。
5人「あ……うん…」(語調それぞれ)
5人は戸惑っている様子で、あいまいな返事をする。
だが、つとめて冷静なフォル。冷ややかに、
フォル「そう言いたいのなら、それでも構いません。でも。」
フォル、貴也を見て、
フォル「でも、貴也さんはもうお分かりですもの。それで十分です。」
フォル、フォルたちに
フォル「あなたたちには……消えてもらいます。」
沈黙して、動かないフォルたち。
ベル「で、でも……」
ベル、リアを見る。リア、気づいて、
リア「さっきも言ったけど、消す方法が……」
一同、先ほどのことを思い出し、クレアを見る。
クレア「ほ、方法は……」
言いよどむクレア。
フォル、冷ややかに、
フォル「ありますよ? 消える方法は。」
一同「え!」
驚く一同。クレア、焦って、
クレア「フォ、フォル?」
フォル「いいのですよ? クレア姉様。」
クレア「フォル……」
うつむいて語り出すフォル。
フォル「私はまだ完全ではありません。読み込まれるはずのプログラムが
完全には組み込まれていない……本来あるべき部分が空白になっているんです。
ですから、その空白に制御を移せば……」
一同「えっ!」
驚く一同。
貴也「ま、まさか……」
フォル「はい。……存在ごと、消えてしまいます。」
驚いている貴也。
貴也「そ、それじゃ、フォルも消えられるってこと?」
フォル「そうですよ。フォル2が消えたように、私も消えてしまえるのです。」
貴也「そんな……」
驚愕の貴也。
貴也(モノ)「フォルは、本当に‘消えてしまうこと’ができる……そんな……」
フォル、貴也が蒼い顔になるのを見て、
フォル「貴也さん……心配しないで?」
貴也「え?」
フォル「大丈夫ですよ。……私は消えたりしませんから。」
貴也「ほ、本当?」
フォル「ええ、だって、先ほど言いましたでしょう? 私は消えたりしないって。」
貴也「あ……」
思い出す貴也。
フォル「貴也さんが、そう望まれるのですから。」
貴也「フォル……」
うなずくフォル。
フォル「だから、その部分に制御を移すようなことはしません。」
貴也「よかった……」
安堵する貴也。
フォル「ただ……」
フォル、フォルたちを見て、
フォル「他の私たちには、それをしてもらいますけれど。」
静止したままのフォルたち。
息を飲む一同。
フォルたち、ゆっくり振り向いて、
フォル4「私は、そんなことはしませんよ?」
フォル5「私は、そんなことはしませんよ?」
フォル6「私は、そんなことはしませんよ?」
フォル7「私は、そんなことはしませんよ?」
フォル8「私は、そんなことはしませんよ?」
にらみ合うフォルとフォルたち。
フォル「いいえ、消えてもらいます。」
にらみ合っているフォルとフォルたち。
心配する貴也。
貴也(モノ)「フォル……」
と、そこにメルが口を挟んで、
メル「でも、さ?」
一同「?」
メル「それだと、『消える方法』はあっても『消えてもらう』ことは出来ないんじゃないの?」
一同「え?」
メル「だって、それをするには、‘自分から’制御を空白部分に移さなくてはいけないのでしょう?」
貴也「あ、そうか……」
メル「自分で自分のプログラムを停止させる人はいないわ。だって、
誰も消えたがってはいないんだもの。」
貴也「そ、そうだよね……」
うなづくフォルたち。
フォル4「はい、その通りです。」
フォル5「はい、その通りです。」
フォル6「はい、その通りです。」
フォル7「はい、その通りです。」
フォル8「はい、その通りです。」
フォル、黙ったままフォルたちを見つめている。
フォル「……」
メル「それに、それどころか…。」
メル、フォル3を見て、
メル「明らかに偽物の、そのフォルだって、消すことは出来ないってことになるわよ?」
ぱっと顔を明るくするフォル3。
フォル3「はい、そうです!」
クレア「こら!」
フォル3「たとえ本物だって認めてもらえなくても、やっぱり消えたくありませんもの!」
フォル3もフォルたちに加わって、
フォル3「ですから私は消えませんよ。」
フォル4「ですから私は消えませんよ。」
フォル5「ですから私は消えませんよ。」
フォル6「ですから私は消えませんよ。」
フォル7「ですから私は消えませんよ。」
フォル8「ですから私は消えませんよ。」
強気のフォルたち。
ところが、フォルは動ずることなく
フォル「大丈夫……その方法もあります。」
一同「?」
ゆっくりと貴也に振り向くフォル。
フォル「よろしいですよね。貴也さん。」
貴也「?」
フォル「おっしゃってくださいな。『私たち』に。」
貴也「え?」
フォル「……『私に消えてほしい』って。」
貴也「な!」
フォル3「えっ……」
フォル4「えっ……」
フォル5「えっ……」
フォル6「えっ……」
フォル7「えっ……」
フォル8「えっ……」
驚くフォルたち。
フォル「『私』は私一人でいい。他はいらない…………そう言ってくださいな。」
うろたえる貴也。
貴也「そ、そんな!」
フォル、動揺するフォルたちを見ながら、
フォル「貴也さんの頼みを聞けないはずがありませんもの。ね? そうでしょう?」
フォル3「う…………」
フォル4「う…………」
フォル5「う…………」
フォル6「う…………」
フォル7「う…………」
フォル8「う…………」
焦るフォルたち。
フォル「貴也さんがそう望むのなら、あなたたちはもうここにはいられない……
貴也さんの望み通り、自分から空白部分に制御を移すしかないのです。」
フォル3「そんな……」
フォル4「そんな……」
フォル5「そんな……」
フォル6「そんな……」
フォル7「そんな……」
フォル8「そんな……」
蒼い顔のフォルたち。
そして、それ以上に蒼い顔の貴也。
貴也「ボクが……そんなことを……」
フォル「ね、貴也さん。先ほどお願いしたとおり、『私』を消してくださいな。」
貴也「そ、そんな……」
頭の中が真っ白になる貴也。
貴也(モノ)「僕がフォルを消す?……そんなこと、できないのに……」
貴也、フォルの横顔を見て、
貴也(モノ)「フォルには消えて欲しくないのに!」
貴也、どうすればいいか分からず、戸惑っている。
フォル、フォルたちを目で牽制している。
フォルたち、焦りの表情。
フォルたち、貴也に自分の想いを伝えようとして、
フォル3「た、貴也さん! お願い! 私、消えたくありません!」
フォル4「た、貴也さん! お願い! 私、消えたくありません!」
フォル5「た、貴也さん! お願い! 私、消えたくありません!」
フォル6「た、貴也さん! お願い! 私、消えたくありません!」
フォル7「た、貴也さん! お願い! 私、消えたくありません!」
フォル8「た、貴也さん! お願い! 私、消えたくありません!」
ところが、フォルが貴也の前に割って入って
フォル「だめですよ、貴也さんに取り入ろうとしても。」
フォル3「!……」
フォル4「!……」
フォル5「!……」
フォル6「!……」
フォル7「!……」
フォル8「!……」
フォル、貴也に寄り添いながら、
フォル「貴也さんには、もう先ほど伝えておりますもの。私が消えなくてはならないわけを。」
フォル、貴也を見て、
フォル「だから……貴也さん、お願い……」
貴也「で、でも……」
フォル「いいんです。」
フォル、貴也を安心させようと、笑って見せる。
フォル「私なら、大丈夫ですから……」
貴也(モノ)「あっ……」
貴也、フォルの笑顔を見て、声を詰まらせる。
貴也(モノ)「『悲しい…笑顔』……」
自分の不甲斐なさに歯ぎしりする貴也。
貴也(モノ)「ボクは、なんて情けないんだろう……フォルの力に
なってあげられないなんて……」
貴也はどうすることもできず、ただ立ち尽くしている。
貴也「……」
うつむいたまま、答えられない貴也。
貴也「ボクは……」
必死で訴えるフォルたち。
フォル3「貴也さん!」
フォル4「貴也さん!」
フォル5「貴也さん!」
フォル6「貴也さん!」
フォル7「貴也さん!」
フォル8「貴也さん!」
と、その訴えを妨げるかのように、
フォル「だめですよ。」
さらに貴也に身を寄せるフォル。
フォル、フォルたちをにらみつけて、冷ややかに、
フォル「‘私の貴也さん’を惑わすのはおやめなさいな。」
うろたえるフォルたち。
フォル「あ、あなたがそのつもりなら、私だって!」
フォル「あ、あなたがそのつもりなら、私だって!」
フォル「あ、あなたがそのつもりなら、私だって!」
フォル「あ、あなたがそのつもりなら、私だって!」
フォル「あ、あなたがそのつもりなら、私だって!」
フォル「あ、あなたがそのつもりなら、私だって!」
フォルたち、それぞれのキャラに身を寄せる。
5人&クレア「え?」(語調それぞれ)
身を寄せられて、少し動揺する5人&クレア。
フォル「!……」
フォルも顔を強張らせる。
ベル「あ、あのっ……」
リア「あ、アネキ?……」
身を寄せられて少し照れている双子たち。
メル「ふふん。」
ミリ「えへ。」
メルとミリは、したり顔だ。
馨子「な、なんだか照れちゃうわね。」
馨子は嬉しそう。
クレア「あんたは引っ付かなくてもいいの。」
クレアはフォル3に寄り添われて嫌がっている。
フォル、うろたえ気味に、
フォル「な、何をするおつもりですか?」
フォルたち、フォルに訴えて、
フォル3「私だって、クレア姉様の‘私’ですもの!」
フォル4「私だって、ベルの‘私’ですもの!」
フォル5「私だって、リアの‘私’ですもの!」
フォル6「私だって、メルの‘私’ですもの!」
フォル7「私だって、ミリの‘私’ですもの!」
フォル8「私だって、馨子さんの‘私’ですもの!」
フォルたち、それぞれの想いを順に口にして、
フォル3「貴也さんから見たら、偽物に見えるかもしれません。」
フォル4「でも、みなさんにとっては、確かに『私』は本物ですよ?」
フォル5「そう……私には生まれてきた意味があるのです。」
フォル6「だから、みなさんのお手伝いをしたい。」
フォル7「その『意味』を果たしたいんです。」
フォル8「そして、私自身のためにも……」
フォル「?……」
疑問に思うフォル。
フォル「意味?」
クレア(モノ)「『意味』……」
同様に疑問に思うクレア。
クレア(モノ)「さっきと同じ……。『意味』って一体?」
考え込むクレア。
フォルもその意図を取れないでいる様子。
フォル「……」
だが、その不安を振り払って、
フォル「い、意味があるのなら、その意味を消してあげます。」
フォル3「え?」
フォル4「え?」
フォル5「え?」
フォル6「え?」
フォル7「え?」
フォル8「え?」
フォルたちをにらんでいるフォル。
そしてゆっくりと、クレアの方を向いて、
フォル「クレア姉様?」
クレア「ん? なに?」
フォル「偽物はいりませんよね。私一人で十分ですもの。」
クレア「ええ、もちろんよ。」
当然のごとく、うなずくクレア。
フォル「はい。」
フォル、ベルの方を向いて、
フォル「ベル?」
ベル「はい?」
フォル「私がしばらく相部屋しますよ。」
ベル「え?」
フォル「それでいいですよね?」
ベル「は、はい……」
ベルは、思わず暗い顔になってしまう。
そしてリアの方を向いて、
フォル「リア?」
リア「え?」
フォル「私が服を選んであげます。それで構わないでしょう?」
リア「あ……」
フォル「それでいいですよね?」
リア「う……うん……」
リアも同様に、暗い顔になる。
フォル、メルの方を向いて、
フォル「メル?」
メル「なぁに?」
フォル「お手伝いできることでしたら、私がしますよ?」
メル「あ、あなたが?」
フォル「ええ。それとも、私に出来ないことを、その『私』にさせるおつもりなのですか?」
メル「くっ……」
メル、くぎを刺されたように感じて、悔しそうな表情。
フォル、ミリの方を向いて、
フォル「ミリ?」
ミリ「な、なによっ。」
フォル「いけませんよ? 書き換えなんて。私が許しません。」
ミリ「そんなぁ」
フォル「いけないことをしないと、約束したでしょう。」
ミリ「うぅ……」
ミリ、残念そうな表情。
フォル、馨子の方を向いて、
フォル「馨子さん?
馨子「は、はい!」
フォル「ケーキの作り方なら私が教えます。それでいいですよね?」
馨子「あ、うん……私は別に、どちらでも……」
馨子は、どちらでもよさそうだ。
馨子「私は構わないけれど……。でも、いいの?」
フォル「……はい。」
うなずくフォル。
フォル、再びフォルたちを見て、
フォル「あなたたちに出来る事は、すべて私がしますよ。
そして、私にできないことは、あなたたちにも出来はしない。
だから、あなたたちがここにいる意味など、何もないのです。」
フォル、フォルたちを見据えて、
フォル「だから、消えてしまいなさい。」
フォル3「……」
フォル4「……」
フォル5「……」
フォル6「……」
フォル7「……」
フォル8「……」
黙ったままのフォルたち。
しばらく沈黙している一同。
だが、フォル3がそれに答えて、
フォル3「本当に出来るとお思いですか? あなたに……」
フォル「?」
フォル3「あなたには……出来ない事がありますもの。」
フォル「え?」
フォル3「‘本物’だから出来ない事もあります。そして、‘偽物’にだけ出来る事もあるのですから……」
フォル「そ、そんなことありえませんよ?」
フォル3「……」
目をそらして、答えないフォル3。
フォルの言葉に、代わりにフォル4が答えて、
フォル4「いいえ、あなたには不可能ですよ。」
フォル「え?」
フォル4、ベルに抱き付きながら、
フォル4「ずっと一緒にいることなんて。」
フォル「?」
フォル4「……ね?そうでしょう。ベル?……」
ベル「あ……」
うろたえるベル、うつむいてしまう。
フォル4「ベル……」
優しく頭をなでてあげるフォル4。
フォル「ど、どういうことです?」
フォル4「……」
同様に目をそらして、答えないフォル4。
その質問に、代わりにフォル5が答えて、
フォル5「あなたでは、ダメだということでしょう?」
フォル5、リアに抱き付きながら、
フォル5「素敵な‘娘’になるためのお手伝いをすることなんて……」
リア「あ……」
うろたえるリア。焦っている様子。
リア「あ、あの……」
フォル5「うふふ……」
リアに抱きつくフォル5。
フォル「ど、どうしてそれが私ではだめなのですか?」
フォル5「……」
同様に目をそらして、答えないフォル5。
その質問に、代わりにフォル6が答えて、
フォル6「だって、あなたは一人ですもの。」
フォル「え?」
フォル6、メルと背中合わせになって、
フォル6「もう一人いて、初めて意味を持つことがありますから。」
メル「ふふ。」
その意味を知っているのか、不敵に笑うメル。
メル「そうね。」
フォル6「はい。」
フォルも不適に微笑む。
フォル「わ、私が二人分頑張ればよいことでしょう?」
フォル6「……」
同様に目をそらして、答えないフォル6。
その質問に、代わりにフォル7が答えて
フォル7「いいえ、出来ませんよ。きっと。」
フォル「え?」
フォル7、後からミリの肩を抱いて、
フォル7「出来ません……」
ミリを見つめるフォル7。
ミリ「?」
フォル7「……」
言いよどんでいるフォル7。
一同「?」
フォル7の発言を待つ一同。
フォル7「……」
フォル7、ゆっくりと口を開いて、
フォル7「ミリの望んだ‘私’になることなんて。」
一同「えっ?」
驚く一同。
喜ぶミリ。
ミリ「ほ、ほんとに?」
慌てるフォル。
フォル「お待ちなさい?」
フォル7「……」
フォル「ミリの望んだ‘私’になる、ですって?」
フォル7「……」
押し黙ったままのフォル7。
フォル、フォル7を鋭くにらんで、
フォル「あなたは本当の偽物のようですね。」
フォル7「……そんなこと、ありませんよ。」
フォル、フォル7の言葉を無視して、
フォル「あなたは危険だわ。まずはあなたに消えてもらう必要があるみたい。」
黙ったままのフォル7。
× × × (クレアの主観描写のインサートカット)
クレア(モノ)「……………………どういうこと?」
先ほどから考え込んでいたクレア、フォル7の発言を聞いて
さらに怪訝に思う。
クレア(モノ)「偽物……」
クレア、自分に寄り添っているフォル3を見る。
クレア(モノ)「このフォルも偽物……そしてミリのフォルも偽物っぽい……」
合点のいかないクレア。
クレア(モノ)「どうして?……。同じディスクから生まれたフォルなのに、
本物っぽいフォルがいて、そして偽物っぽいフォルがいる……。
どうしてこんなに違いが出るのかしら……」
クレア、再び考え込んで、
クレア(モノ)「そして、さっきの……」
クレア、さきほどのフォルたちの言葉を思い出す。
× × ×
フォル5「私には生まれてきた意味があるのです。」
× × ×
クレア「『意味』?……」
クレア、フォルたちを見回して、
クレア「6人のフォルが生まれた『意味』……」
クレア、自分に寄り添っているフォル3を見て、
クレア「偽物……」
クレア、ベルのフォル4を見て、
クレア「相部屋……」
クレア、リアのフォル5を見て、
クレア「服……」
クレア、メルのフォル6を見て、
クレア「替わり……」
クレア、ミリのフォル7を見て、
クレア「書き換え……」
クレア、馨子のフォル8を見て、
クレア「そしてケーキ。」
クレア、再び考え込む。
クレア「ん…………」
何か思いつきそうなクレア……
× × ×
黙ったままのフォル7。
フォル、構わず言葉を続けて、
フォル「あなたには、真っ先に消えてもらいますよ。」
フォル7「……」
やはり黙ったままのフォル7。
フォル「そして……」
フォル、馨子の方を見る。
馨子の陰に隠れているフォル8。
フォル8「……」
フォル、フォル8に声をかけて、
フォル「そして、あなたも。」
フォル8「う。」
見つけられて、焦り気味のフォル8。
フォル8「あ、あなたには……作れませんよ。きっと。」
フォル、動ずることなく、馨子に声をかけて、
フォル「馨子さん。私がお教えしますから。一緒に作りましょう?」
馨子「うん。」
馨子は、特にこだわってない様子。
馨子「よろしくね。」
フォル「はい。」
だが、フォル8はつらい顔になって、
フォル8「無理です、だって……」
言いよどんでいるフォル8。
フォル8「あなたがそれをしてはいけないのに……」
フォル「?」
× × ×
その様子を見ているクレア。
クレア(モノ)「ケーキ……」
はっと気づくクレア。
クレア(モノ)「ケーキ?」
はっと気づくクレア。
クレア「ま!……まさか……」
× × ×
フォル「どうして私がしてはいけないのです?」
フォル8「だって……」
フォル「無理なはず ありませんよ?」
フォル8「無理です!だって!」
フォル8がその理由を言おうとする。
クレア「待って!」
クレア、叫ぶ。
一同「?」
クレア「言ってはダメ!」
とりみだしているクレア。
一同「?」
青ざめているクレア。
フォル「クレア…姉様?」
クレア「だめなの!……」
意図の分からないフォル。
フォル「どうしてですか? クレア姉様。」
クレア、つらい顔。フォルを悲しそうに見つめて、
クレア「フォル……」
フォル「え?……」
クレアの眼差しに、ただならぬ様子を感じるフォル。
クレア「ダメなのよ、ここでは。」
フォル「ど、どうしてですか?」
クレア「だって……」
つぶやくクレア。
クレア「だって、分かってしまうもの……その『意味』が。」
フォル「え?……」
何とか自分を落ち着かせようとするクレア。
クレア「……」
フォル「クレア姉様?」
クレア「……」
独り言のように呟くクレア。
クレア「あの時新しく生まれたフォルは6人……‘1人’だけではなく‘6人’だった。
その『意味』に気づくべきだったわ。」
クレア、肩を落して、
クレア「そう考えれば全て説明が付く。『記憶を持っている理由』も、
『取り入る事が出来る理由』も、そして『本物である理由』も……」
クレア、横目でフォルたちを見て、
クレア「そう……本物なのよ。‘みんなにとっては’。」
つらい表情のクレア。
深刻な顔で考え込んでいるクレア。
貴也「クレアさん?」
クレア「……」
一同を見渡すクレア。
クレア「とにかく、ここではまずいわ。」
一同「?」
クレア(モノ)「何とか、みんなをこの場から……」
考えている様子のクレア。
クレア「…そうね」
クレア、5人を見て、
クレア「あなたたち、そのフォルたちが『本物かもしれない』と思っているのね?」
ベル「あ……うん。」
クレア「じゃあ、そのフォルとこちらのフォルを、ちゃんと『比較』してみて、
納得できたなら……消えてもらってもいいわよね。」
5人「え?」
クレア「納得できたら。」
リア「まあ……そうなるのかな?」
クレア「ん。」
クレア、今度は5人のフォルたちに向かって、
クレア「アンタは、みんなそれぞれにとっては『本物』、なのよね?」
フォル4「え、ええ……」
クレア「なら、それぞれがあなたを『偽物』だと見破ったら、消えてくれるわよね?」
フォル5「え?」
クレア「だって、もしそうなら……あなたのいる『意味』がなくなるもの。」
フォル6「あ……」
クレア「そうでしょう?」
フォル7「……はい……」
クレア「そうしたら、消えてくれるわよね?」
フォル8「は、はい……その時は、消えます…」
クレア「ん。」
クレア、みんなに提案して、
クレア「じゃあ、こうしましょう。」
一同「え?」
クレア「‘一人ずつ’比較するの。」
一同「一人ずつ?」
クレア「そうよ。」
クレア、一同を見回し、
クレア「みんな、今から自分の部屋に戻りなさい。それぞれのフォルを連れてね。
そしたら、貴也とフォルがそこへ出向くの。そして、本物のフォルと
みんなそれぞれのフォルとを比較するのよ。」
ベル「あ…」
クレア「そして、判断するの。どちらか本物かを。『偽物だ』と判断された方が消える。どう?」
リア「ふ〜む。なるほど。」
クレア「それでいいでしょう?」
顔を見合わせている5人。
ベル「まあ……そうかな?」
リア「比較できるなら。」
メル「ふうん。面白そうじゃない?」
ミリ「いいわよ、それでも。」
馨子「わ、私はどちらでも……」
一方、貴也は心配そうだ。
貴也「……大丈夫かな。」
クレア、貴也を諭すように、
クレア「何言ってるの? それはこっちのセリフでしょ?」
貴也「え?」
クレア「アンタが頑張るのよ?」
貴也「ぼ、ボクが?」
クレア、貴也をじっと見詰めて、
クレア「貴也? あんたなら、そのフォルが本物であることを
みんなに説得できるわよね。」
貴也「あ……」
貴也、クレアの真意に気づいて、
貴也「うん。」
クレア「……大丈夫?」
貴也「うん。なんとかしてみるよ。」
クレア「ん……。そうね。」
一方、フォルはその提案に不満そうだ。
フォル「……」
クレア、その様子に気づいて、
クレア「フォルもよ?」
フォル「ん……」
クレア「みんなを一度に説得するのは難しいわ? だから一人ずつ説得しなさい?」
フォル「で、でも!」
反論しようとするフォル。
じっと見詰めるクレア。
フォル「?……」
クレア、フォルに手を添えて、
クレア「一人ずつ、よ?」
フォル「え……」
クレア「ね?」
フォル「は、はい……」
フォル、まだ納得していない様子だが、それを受け入れる。
フォル「分かりました、クレア姉様……」
クレア「ん……」
ベル、ふと疑問に思って、
ベル「あ、でも、部屋に分かれるって……」
馨子「そうそう。メルさんとミリちゃんは?」
クレア「ん?」
ベル「まだ、部屋を決めてないのに。」
クレア「とりあえず適当に割り振ればいいでしょう? 部屋数は足りてるんだから。」
メル、それを断って、
メル「んー。やめとくわ。部屋にいるのは。」
クレア「?」
フォル6もメルに賛成して、
フォル6「部屋の方が、落ち着きませんから。」
メル「このフォルと一緒に、外で散歩でもしてるわ。」
クレア「んー。まあ、それでもいいんじゃない?」
いぶかる双子たち。
ベル「怪しいわね……」
リア「また、何か企んでるんじゃないの?」
メル「失礼ね、さっき‘企んでた’のは、ミリでしょう?」
ミリ「う。」
ミリ、冷や汗。
ミリ「あ、アタシは……」
フォル7、ミリに、
フォル7「ミリはまず、お風呂でしょう?」
ミリ「あ、そっか。 じゃあ、お風呂!」
クレア「そうね。なら、ミリはお風呂の後、私の部屋に行ってなさい?」
ミリ「え?」
驚くミリ。
ミリ「第四天使の部屋ぁ?」
クレア「嫌なの?」
ミリ「んぅ」
クレア、ミリを睨んで、
クレア「‘アタシの部屋’で何か企んだら、タダじゃ置かないわよ?」
ミリ「うぅ……」
クレアに睨まれて、たじたじのミリ。
貴也「え? でも、じゃあ、クレアさんは?」
クレア「ふふ。 ここから移動するまでもないでしょ?」
クレア、フォル3を見て
クレア「ここで、この『偽物』と決着をつけるわ。」
フォル3「うう……」
クレアに睨みつけられて、焦りの表情のフォル3。
クレア、フォル3を牽制しながら、
クレア「じゃあ、みんな、部屋に戻ってなさい。
このフォルを始末した後、フォルと貴也が順に部屋を回るから。」
5人「は、はい」(語調それぞれ)
フォルたち、それぞれのキャラによりそう。
フォル4「では。」
フォル5「行きましょう?」
5人、フォルたちに誘われて、少し嬉しそうに返事して、
5人「あ、うん。」(語調それぞれ)
素直にうなずく5人。
フォル「……」
それを見て少し気を悪くするフォル。
出て行こうとする一同。
フォル「ま、待ってください!」
フォルの方に振り返る一同。
思いつめている様子のフォル。
フォル「クレア姉様?」
クレア「なに?」
フォル「本当に一人ずつでないと、いけないのですか?」
クレア「そうよ、一人ずつよ。」
困ったような顔のフォル。
フォル「でも、このまま分かれてしまっては……」
クレア「?」
フォル、フォルたちを見回して、
フォル「だって、偽の私たちは、あまりにも私に似すぎていますもの。」
フォル、心配げに、
フォル「ですから、先ほどのように……」
一同「?」
貴也「あ……」
貴也、気づいて、
貴也「みんなが仲良くなりすぎる……」
はっとする一同。
一同「あ……」
うなずくフォル。
フォル「私ではない『私』とそんなに親しくされると……」
つらそうなフォル。
フォル「それは『私』ではないのに……」
貴也、フォルの気持ちを察して、
貴也(モノ)「そりゃそうだよね。自分よりも『偽物』と親しくされたら、心配になるよね……」
クレアもはっとして考え込む。
クレア「そうね。……『それぞれにとっては本物』だもの。
二人っきりになったら、本当に取り入られてしまって
別れられなくなるかもしれないわね……」
考えるクレア。
クレア「そうね…じゃあ、目印でもつけておきましょうか?」
一同「目印?」
クレア「本物のフォルと区別できるものを。」
フォル6「そんな……」
フォル7「それでは、私が偽物だと名乗っているようなものです。」
クレア「だから、そうしなさいって言ってるのよ。」
フォル8「そんなの、イヤです!」
クレア「『イヤ』って言われても……」
フォル3「イヤです!」
フォル4「イヤです!」
フォル5「イヤです!」
フォル6「イヤです!」
フォル7「イヤです!」
フォル8「イヤです!」
クレア「うう……」
フォルたちの勢いに押されてしまうクレア。
貴也、抵抗するフォルたちを見て、
貴也「うーん、どうしよう……」
貴也、フォルたちを見比べて、
貴也(モノ)「本当は偽物扱いしたくないんだけれど……でも……」
貴也、フォルの顔色を見る。
蒼い顔のフォル。
貴也(モノ)「フォル……」
貴也、廊下でのフォルとの会話を思い出す。
× × ×
フォル「間違えて……私を消してくれたかもしれませんから。」
× × ×
貴也(モノ)「あんなセリフ、もう言ってほしくない……」
貴也、フォルたちに声をかけて、
貴也「ねえ、みんな……」
フォル3「?」
フォル4「?」
フォル5「?」
フォル6「?」
フォル7「?」
フォル8「?」
貴也「今だけは、そうしてあげて?」
フォル3「え?……」
フォル4「え?……」
フォル5「え?……」
フォル6「え?……」
フォル7「え?……」
フォル8「え?……」
貴也「今だけは。」
その言葉に戸惑うフォルたち。
フォル3「……」
フォル4「……」
フォル5「……」
フォル6「……」
フォル7「……」
フォル8「……」
だが、貴也の真剣な表情に、ついに同意して、
フォル3「貴也さんが、そうおっしゃるのなら……」
フォル4「貴也さんが、そうおっしゃるのなら……」
フォル5「貴也さんが、そうおっしゃるのなら……」
フォル6「貴也さんが、そうおっしゃるのなら……」
フォル7「貴也さんが、そうおっしゃるのなら……」
フォル8「貴也さんが、そうおっしゃるのなら……」
貴也を見つめてうなずくフォルたち。
クレア「じゃあ、決まりね。」
一息つくクレア。
ベル「でも、どうするの?」
クレア「んー、そうね……」
メル、思い出して、
メル「あ、区別するなら……」
メル、ミリを見る。ミリ、気づいて、
ミリ「あ。フォル2を作った時は、目を赤くしておいたけど?」
フォルたち、その言葉を聞き、少し考えて、
フォル3「ん……それでは。」
フォル4「ん……それでは。」
フォル5「ん……それでは。」
フォル6「ん……それでは。」
フォル7「ん……それでは。」
フォル8「ん……それでは。」
目を閉じるフォルたち。
そして、ゆっくりと目を開ける。
一同「あ……」
フォルたち、目の色を変化させている。
順に、橙、黄、緑、青、藍、紫の色になっている。
貴也「虹だ……」
フォルたちに見とれている貴也。
フォル3「これでよろしいですか?」
フォル4「これでよろしいですか?」
フォル5「これでよろしいですか?」
フォル6「これでよろしいですか?」
フォル7「これでよろしいですか?」
フォル8「これでよろしいですか?」
貴也、我に帰って、
貴也「あ……う、うん。」
みんなもフォルたちを見つめている。
ベル「フォル姉様、きれい……」
クレア「文字通り、『目に印』ねっ。」
リア(小声)「つまんない……」
クレア「なに?」
リア「別に。」
にっこりと笑うフォルたち。
フォル4「うふふ。……それでは、参りましょうか。」
フォル5「うふふ。……それでは、参りましょうか。」
フォル6「うふふ。……それでは、参りましょうか。」
フォル7「うふふ。……それでは、参りましょうか。」
フォル8「うふふ。……それでは、参りましょうか。」
5人「あ、うん。」(語調それぞれ)
ベル、リア、メル、ミリ、馨子が、それぞれ
フォル4、フォル5、フォル6、フォル7、フォル8と一緒に
部屋から出てゆく。
貴也「……」
出てゆく一同の背中を見ている貴也。
貴也(モノ)「目の色……。確かに、フォル2は赤かったよね……」
フォルたちをじっと見詰めて、
貴也(モノ)「フォル2、か……」
先ほどのフォルの言葉を思い出す貴也。
× × ×
フォル「フォル2のように消えてしまえるのです。」
× × ×
貴也(モノ)「だめだよ!」
心の中で叫ぶ貴也。
貴也(モノ)「フォル2のように消してしまうわけにはいかない!」
貴也、フォルたちの後ろ姿を見て、
貴也(モノ)「6人にはいなくなってもらわないといけないけれど、
だからといって、消えてもらうわけにはいかない。
たくさんいたら、つらさは増えるけれど、
消してしまったら、それこそつらい思いをさせてしまうもの。」
だが、貴也、少し不安になり、
貴也(モノ)「でも、どうすればいいんだろう? ボクに何か出来るのかな……」
貴也、心細くなって、フォルの方を見る。
フォルが不安げに、フォルたちを見送っているのを見て、
貴也(モノ)「ううん、やるしかない!」
貴也、気を取り直して、
貴也(モノ)「他に方法がきっとあるはずだよ! だから、頑張らなきゃ!」
貴也、再びフォルの表情を見る。
悲しそうなフォルを見て、
貴也(モノ)「フォルに心から笑って欲しいから……」
フォル(モノ)「貴也さん……」
フォル、貴也を横目で見つめる。貴也の心を読んでいる様子。
フォル(モノ)「ありがとう、貴也さん……本当にお優しいんですね……」
嬉しそうなフォル。だが、その表情を曇らせて、
フォル(モノ)「本当は……ひとつだけ方法があります。
……『消えずに、一人になる方法』が。……でも。」
うつむくフォル。
フォル(モノ)「でも、それは言わない方がいい。だって、
『私』は消えてしまった方が良いのですから。……だから、
それを言う必要はない。」
貴也、フォルが寂しそうになるのに気づき、声をかけて、
貴也「フォル?」
フォル「……」
気づいていないフォル。
貴也「フォル?」
フォル「あ……」
やっと気づくフォル。
貴也、元気のないフォルを励まして、
貴也「大丈夫だよ、僕が何とかするから。」
フォル「え?」
貴也「消えなくてもいい方法を考えるから、きっと。」
フォル「貴也さん……」
目を潤ませるフォル。
だがうつむいて、かすかに首を振るフォル。
フォル(モノ)「だめ。言っては、だめ……」
貴也、フォルの手を取って、
貴也「きっと、何とかするから。」
フォル「……」
貴也「ね?」
微笑む貴也。
フォル「……はい。」
フォル、寂しそうに微笑み返す。
フォル(モノ)「優しい貴也さん……」
フォルの笑顔が、より寂しさを増して、
フォル(モノ)「その優しさに応えることの出来ない私を、どうか許してくださいね……」
「フォル3:偽のフォルシーニア」へ進む
目次へ戻る